2024年問題とは? 物流・運送業界が直面する課題とその解決策を分かりやすく解説

2023年12月6日掲載

2024年問題とは? 物流・運送業界が直面する課題とその解決策を分かりやすく解説

2024年問題とは、時間外労働の上限規制や割増賃金率の引き上げなど2024年4月から適用される働き方改革関連法によって生じる諸問題の総称を指します。この労務改正が物流・運送業界に大きな影響を与える中、労務管理の見直しと業務の効率化が急務となっています。本記事では、2024年問題がもたらす影響とその対応策について辻・本郷 ITコンサルティング株式会社の菊池氏に解説いただきました。

目次

辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 取締役 菊池 典明 氏

辻・本郷 ITコンサルティング株式会社
取締役
菊池 典明 氏

税理士。2012年辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。
株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングも担当。
2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入やDXの推進などに携わる。2021年よりDX事業推進室担当。
同年12月辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 取締役就任。多くのセミナー講師も務める。

2024年問題とは

2024年問題とは、2024年4月から適用される働き方改革関連法によって生じる諸問題の総称です。とりわけ、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることにより、物流・運送業界に大きな影響を及ぼすことが危惧されています。

物流・運送業界は、物を運べば運ぶほど、言い換えれば、走れば走るほど売り上げが増加すると言えます。その一方で、物流・運送業界の労働環境は、長時間労働の常態化という課題を抱えていました。若手不足とトラックドライバーの高齢化による労働力不足の中、EC市場の急成長による宅配便の取り扱い個数の増加により長時間労働が常態化していたのです。自動車運転業務の年間時間外労働時間を制限することによって物流・運送業界の労働環境を良くしようという狙いがあります。

一見すると物流・運送業界の労働環境を改善するきっかけになるように思われますが、年間時間外労働時間が制限されることにより、1日に運べる荷物の量が減少するため、運賃を上げなければ売上も減少してしまいます。しかし、運賃を上げることは容易ではありません。全国6万社を超える物流・運送業者の過当競争の中、荷主はより運賃の安い物流・運送業者へ依頼することができるため、物流・運送業者が荷主と価格交渉しづらいという現状があります。

また、トラックドライバーの収入減少も大きな問題です。トラックドライバーは走行距離に応じて運行手当が支給されることが一般的であるため、これまでは走れば走るほど収入が増えましたが、労働時間の規制により走れる距離が短くなればそれに応じて収入も減少することになります。収入が低くなるとなれば離職にもつながりかねず、これまで以上に労働力不足に拍車がかかる可能性もあります。

さらに、この上限規制に違反した運送業者に対しては、一定の罰則が科されることになっており、物流・運送業界にとっては非常に頭の痛い問題となっているのです。

物流・運送業界の2024年問題を取り巻く現実

物流・運送業界が時間外労働に頼らざるを得ない背景には、人口減少による労働力不足とEC市場の急成長の2つがあげられます。

まず、人口減少による労働力不足については、少子高齢化の進行により、我が国の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小などさまざまな社会的・経済的課題の深刻化が懸念されており、物流・運送業界にとっても、避けては通れない課題となっています。

生産年齢人口の減少(出典:内閣府2022「令和4年版高齢社会白書」)

生産年齢人口の減少
出典:内閣府2022「令和4年版高齢社会白書

 

また、トラックドライバーの高齢化も深刻な課題となっています。トラックドライバーについては、過酷な労働環境(労働時間、業務負荷等)から人材確保が容易ではなく、全産業に比して、平均年齢が3〜6歳程度高いと推計されています。これらの影響から、2030年には2015年と比較してトラックドライバーが24.8万人減少するという試算もあります。

道路貨物運送業の運転従事者数の推移
トラックドライバーの平均年齢の推移

出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省2022「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況

 

物流業界の労働力が不足している一方、宅配便の取扱個数は年々増加しています。2021年までの5年間で23.1%増、数にして約10.8億個増加したとされています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請などからECサイトを利用した宅配便が増加したためです。旅行やチケット販売等サービス分野、食品や生活家電、PC周辺機器など物販系分野のいずれも増加傾向にあり、EC市場のさらなる拡大が見込まれています。今後も宅配需要が高まる中で、トラックドライバーの確保や再配達を削減するなどの業務効率化が喫緊の課題と言えるでしょう。

働き方改革関連法の改正で変わること

それでは、あらためて働き方改革関連法の改正で変わることを確認していきましょう。

時間外労働の上限規制

まずは、時間外労働の上限規制です。働き方改革関連法により、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働への上限規制が設けられました。労働基準法第 32条では、労働時間を「原則1日8時間、1週に40時間まで」と定めています(法定労働時間)。なお、労使が労働基準法第36条に基づく協定を結んでも、法定労働時間を超えて残業が認められるのは、原則月45時間、年360時間であり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下を遵守しなければなりません。

  • 年720時間以内(休日労働を含まない)
  • 単月100時間未満(休日労働を含む)
  • 2~6ヵ月平均で80時間以内(休日労働を含む)

なお、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6ヵ月までとなっています。物流・運送業界においても、トラックドライバー以外の事務職、運行管理者、整備・技能職、倉庫作業職等に対しては、この一般則が適用されるので注意が必要です。

時間外労働の上限規制

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」をもとに作成

 

トラックドライバーを含む自動車運転業務は、上記の一般則とは別の取り扱いとなり、2024年4月から年960時間(休日労働を含まない)の時間外労働の上限規制が適用されます。また、一般則とは異なり、「2~6ヵ月平均」や「単月」などの1ヵ月の上限規制はなく、たとえ1ヵ月に120時間の時間外労働が発生しても、年間トータルが960時間未満であれば問題ありません。なお、将来的には自動車運転業務についても、一般則の適用を目指すこととされています。

割増賃金率の引き上げ

次に、月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げです。月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げとは、2010年4月に施行された改正労働基準法のひとつで、月60時間を超える時間外労働に対する法定割増賃金を25%以上から50%以上に引き上げるというものです。中小企業には法定割増賃金の引上げ適用が猶予されていましたが、2023年4月から中小企業であっても月60時間の時間外労働が発生した場合には、月60時間超の時間外労働への割増賃金率が25%から50%へ引き上げられます。当然のことながら、トラックドライバーを含む自動車運転業務も対象となり、トラックドライバーの人件費が増加し、運送業者の利益の減少が懸念されています。

連動して改正される改善基準告示

改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことを言い、自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることから、トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため拘束時間の上限、休息期間について基準が設けられています。
しかしながら、脳・心臓疾患による労災支給決定件数において、運輸業・郵便業が全業種において最も支給決定件数の多い業種となるなど、依然として長時間・過重労働が課題となっています。

改善基準告示は、法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて見直しが行われた平成9年以降、改正は行われていませんでしたが、令和4年12月に自動車運転者の健康確保等の観点により見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間などが改正されました(2024年4月1日施行)。以下で詳しく改正の内容を見ていきましょう。

拘束時間の上限短縮

始業から終業までの休憩時間などを含めた時間が拘束時間です。今回の改正により、トラックドライバーの拘束時間の上限が短縮されることになります。トラックドライバーは、1日の拘束時間が13時間以内(上限15時間、ただし14時間を超えるのは週2回までが目安)とされました。例外として、宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間まで延長が可能とされています(週2回まで)。また、1ヵ月の拘束時間目安として、従来は原則293時間、最大320時間だったのに対し、改正後は原則284時間、最大310時間に短縮されます。

運転時間の制限

今回の改正により運転時間も制限されます。運転時間とは、実際に自動車を運転している時間です。運転時間が長時間に及ぶと、心身の疲労から注意力が散漫になったり、眠気に襲われたりと事故の危険性が高まります。そうしたリスクを起こさないために、運転時間にも制限が設けられることになりました。

トラックドライバーの運転時間は、2日間で平均1日9時間以内、2週間で平均1週44時間以内に定められます。連続して運転できる時間は4時間以内とされ、運転の中断時には、原則として休憩を与える(1回約連続10分以上、合計30分以上)必要があります。例外として、サービスエリア・パーキングエリアなどに駐車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合には4時間30分まで延長することが可能となっています。

休息時間の確保

今回の改正で、トラックドライバーの休息期間の基準が設けられました。休息期間とは、業務が終了してから次の業務開始までの時間、いわゆる勤務間インターバルを指します。いずれも、1日の休憩期間は継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、原則的に9時間を下回らないことと定められています。

ただし、長距離運行を余儀なくされるトラックドライバーには例外もあります。宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、継続8時間以上(週2回まで)、また休息時間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息時間を与えるよう努めなければなりません。

休日労働の制限

やむを得ず休日に労働させなければならない場合の基準も設けられました。これは、休日の労働は2週間に1回を超えないこと、また休日労働によってそれぞれの拘束時間の上限を超えてはならないこととされています。

法改正がもたらす物流・運送業界への影響

ここでは、法改正がもたらす物流・運送業界への影響について、「物流・運送業者」「荷主」「消費者」の観点から整理してみましょう。

物流・運送業者への影響

まずは、今回の法改正によりトラックドライバーの労働時間が減少することから運べる荷物量も減少します。当然、運べる荷物が減ると、物流・運送業者の売り上げが減少するなどの影響が出ることが想定されます。

また、2023年4月からは中小企業でも、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金の支払いが必要となります。これまでトラックドライバーに60時間を超える時間外労働をさせていた物流・運送業者は、時間外労働時間を削減しなければ人件費が増加し、2023年3月以前より利益が減少する恐れがあります。しかし、その対策として、物流・運送料金の値上げを実施すれば、顧客の確保が難しくなり売り上げの減少につながることが懸念されます。

さらに、時間外労働の規制や割増賃金の適用は、トラックドライバーの労働環境の改善になりますが、収入の減少につながる可能性があります。トラックドライバーは走行距離に応じて運行手当が支給されることが一般的であるため、これまでは走れば走るほど収入が増えましたが、労働時間の規制により走れる距離が短くなればそれに応じて収入も減少することになります。収入が下がるとなればトラックドライバーのなり手が減少し、離職にもつながりかねず、これまで以上に労働力不足に拍車がかかる可能性もあります。そして、物流・運送業者が必要な人員を確保できなければ、請け負う仕事も減らさざるを得なくなります。

荷主への影響

今回の法改正は荷主にとっても大きな影響があります。2024年問題によってトラックドライバーの不足に陥った場合、物流・運送業者が給料を上げて人材確保に対応すれば、物流・運送業界では人件費が今まで以上にかかります。人件費などのコストが上がれば、物流・運送業者が運送料金を値上げする可能性があり、物流・運送コストの増大という形で荷主に影響が生じます。荷主にとって物流コストの増大は、利益や売り上げの減少につながり、経営に直接的に影響する問題となり得ます。物流・運送コストが増えた分、ほかの費用を削減する必要に迫られれば、これまで提供していた送料無料のサービスなどが継続できなくなることも考えられます。

また、必要なときに必要なものが届かない、あるいは、そもそも輸送を断られてしまうリスクも生じます。例えば、長距離の輸送やタイトなスケジュールでの輸送は、働き方改革関連法が適用される2024年4月以降は物流・運送業者に引き受けてもらえなくなるかもしれません。2024年問題によって輸送にかかる日数や輸送できる量が変わった場合、仕入れや商品の発送など、会社全体で業務スケジュールや体制の見直しが必要になるでしょう。

消費者への影響

今回の法改正は、消費者が享受していた物流・運送サービスの低下につながる可能性もあります。2024年問題によって物流・運送業者の人件費が上がれば、配送料の値上げにつながるでしょう。実際にトラックドライバーの不足を理由として、配送料の改定を行った物流・運送業者も出てきました。今までは無料だった配送サービスでも送料がかかるようになることが考えられ、家計の負担増につながります。配送料が高くなれば購入を躊躇しやすくなり、経済社会にも悪影響が出かねません。

また、これまでは当たり前になっていた当日・翌日配送や時間指定配送が難しくなるかもしれません。実際に、配送にかかる日数や指定できる時間帯の改定を行った物流・運送業者もあります。配送の日数や時間指定など、従来のサービスを維持できず変更を余儀なくされる物流・運送業者が、今後さらに増えることが想定されます。

違反した場合の罰則

これまで見てきた時間外労働の上限規制、割増賃金率の引き上げといった法改正に違反した物流・運送業者に対しては、労働基準法違反として、6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金という罰則が科せられることになります。最も、上限を超えたら直ちに罰則が科せられるというものではなく、労基署の指導に従わないなど、行政から悪質と判断された場合に罰則が科せられる可能性が高いと考えられますが、物流・運送業者はこれらの法改正にしっかり対応できる体制を構築しつつ、事業を維持するための施策を検討する必要に迫られているのです。

2024年に向けて業務効率化が必要不可欠

2024年問題によって、多くの物流・運送業者では労務管理の見直しや業務の効率化を迫られています。時間外労働の上限規制、割増賃金率の引き上げといった法改正に違反した事業者に対しては、罰則を受ける可能性があるため、今から自社の労務管理を徹底することが重要です。具体的には、トラックドライバーの安全管理の徹底と適正な運行計画の実施がポイントです。また、トラックドライバーへの給与について、割増賃金が適正に支払われているか、そして、支払うための勤怠管理体制のチェックも怠ってはなりません。これらは今後の人材確保の観点からも非常に有効です。勤怠管理システムの導入を含め検討しましょう。

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また、業務の効率化も忘れてはなりません。物流・運送業界では、荷待ち時間や待機時間の長さも問題となっており、荷待ち時間や待機時間を削減することができれば、トラックドライバーの時間外労働時間や休日労働が制限されても、運べる荷物量を維持できる可能性があります。例えば、AIを活用した予約システムを導入することによって荷主どうしをマッチングさせ、共同輸送することで業務の効率化を図った事例も存在します。他社の成功事例を参考にしながら、業務の効率化を進めることも有効です。また、パレット化による手荷役作業の削減やデジタル化による情報の共有も作業工数を削減することができ、労働環境の改善にもつながると考えられます。

2024年問題は物流・運送業界にとって非常に頭の痛い問題ですが、これを乗り越えられる可能性は大いにあります。まずはその課題や背景、物流・運送業者が負う義務を理解し、労働環境の改善に着手する必要があります。労働管理を徹底するとともに、時間外労働ありきの労働環境も見直すことから取り組んでみてはいかがでしょうか。

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