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生成AIと上手に付き合うために。AI時代の必須スキル「AIリテラシー」

生成AIと上手に付き合うための必須スキル。「AIリテラシー」の重要性と習得術

生成AIが急速に進化と普及を遂げる今、AIを正しく理解し活用できる「AIリテラシー」を備えている人とそうでない人の間に、生活のさまざまなシーンで現実的な差が生まれ始めているそうです。では、具体的にどんな知識が必要で、何から始めれば良いのでしょうか? 今回は、ソフトバンクグループのGen-AX株式会社に所属し、社内外でAIのセミナー・研修登壇も行う鈴木祥太さんに、現代人に必要不可欠なAIリテラシーについて、その本質から今すぐできる実践方法まで詳しく伺いました。

鈴木 祥太(すずき・しょうた)さん

教えてくれた人

Gen-AX株式会社 営業統括本部

エバンジェリスト

鈴木 祥太(すずき・しょうた)さん

名古屋工業大学大学院修了後、2021年ソフトバンク株式会社に入社。業務に生かせるAI/DX人材育成・定着化支援サービス「Axross Recipe」の新規事業立ち上げに従事し、導入企業を200社以上に拡大。ソフトバンクアカデミアに所属して次世代リーダーとしての研さんを積む一方、トレンド技術の業務活用をテーマにAIエバンジェリストとして活躍。2024年10月、さらなるAIの社会実装とビジネス革新を目指し、Gen-AX株式会社に参画。

AI時代を生き抜くために。高まるAIリテラシーの必要性

AIの普及とともに注目を集めている「AIリテラシー」。まずは、そもそもの意味や必要性を鈴木さんに聞きました。

実践の場でアドバンテージになるのがAIリテラシー

「リテラシー(literacy)」は、もともとは読み書きができることを指す言葉でしたが、時代とともに意味が広がり、今では「特定の分野に関する正しい知識と理解、活用する力」として使われています。

たとえば「メディアリテラシー」ならメディア、「金融リテラシー」なら金融、「ITリテラシー」なら情報技術に関する正しい知識を持ち活用できる力を表します。つまり「AIリテラシー」とは、AIに関して必要となる知識を身につけるとともに活用方法を理解し、AIを適切に活用できる能力のことを指します。

鈴木さん

「『リテラシー』という言葉から生じるのは、“知っていることで他の人より一歩リードできるかどうか”なんじゃないかと思うんです。答えが一つの問題とは異なり、知識の有無によって差が生まれやすく、それがそのまま実践の場でのアドバンテージになる。そういった領域こそが、『リテラシー』と呼ばれているのではないでしょうか」

つまり、「AIを理解し活用できる人とできない人の間に、差が生まれ始めている」という現状が、AIリテラシーが注目される背景にはありそうです。

社会全体で加速する制度や仕組み作り

実際にAIリテラシーはビジネスにおいて不可欠な競争力となっており、習得しているかどうかで企業間の生産性に大きな差が生まれます。

鈴木さん

「AIを使いこなせれば、何かを調べる、情報を整理する、文章を書くといった時間や労力を使う作業の負担を軽減でき、余白が生まれます。その結果、もっと集中すべきことや、大切にしたいことに使う『時間』を手に入れられるようになるのです」

一方、リテラシーが不足していると、情報漏えいや誤情報、著作権侵害など、以下のような重大なトラブルにつながるリスクもあるのです。

  • 情報が外部に流出してしまう
    2023年、韓国のテクノロジー企業の技術者が業務効率化のためChatGPTに機密情報を入力し、外部流出リスクが発生。これを受け、同社は生成AIの社内利用を全面禁止したと報じられた。
  • 間違った情報をもとに判断を下してしまう
    カナダの大手航空会社のAIチャットボットが「忌引割引」があると誤情報を顧客に案内し、割引が適用されなかったため訴訟に発展。裁判所は企業に損害賠償を命じた。
  • 生成したコンテンツが既存の著作物を侵害してしまう
    中国のAIサービス企業が、日本の特撮作品の画像を無断で学習・生成・配信。裁判所は著作権侵害を認定し、損害賠償と配信停止を命じた。

このように日に日に重要性が高まるAIリテラシーを高めるため、社会全体でさまざまな動きが見られます。国がAI戦略を策定したり、教育現場でも来たるAI時代の人材育成のための仕組みづくりが始まったりしているのです。

情報流出や権利侵害…トラブル回避のために身につけておきたいAIリテラシー

情報流出や権利侵害…トラブル回避のために身につけておきたいAIリテラシー

前述したようなトラブルを回避するためにも、AIを使用する際には、具体的にどのようなポイントに気をつけると良いのでしょうか。

ポイント① AIは万能ではないことを理解する

鈴木さんはAIリテラシーの本質について「AIを使いこなすうえで大事なのは、便利だからと頼りすぎるのではなく、“AIを使うべき場面” と “そうでない場面” を見極めること」と語ります。

たとえば、AIが苦手な分野には以下のようなものがあります。

  • 最新情報の把握(リアルタイム性)
    AIは訓練された時点までのデータに基づいて回答する仕組みのため、「今日の天気」や「最新の値上げニュース」など、リアルタイムの情報に基づく判断は苦手です(ただし一部のAIはウェブ検索機能で対応できることもあります)。
  • ゼロから何かを創造すること
    AIは、過去のデータやパターンをもとに新しいものを作ることは得意ですが、「まったく新しいアイデアや概念を生み出すこと」は苦手です。
  • 倫理的な判断
    AIは、明文化されたルールには強い反面、グレーゾーンには弱いという特徴があります。たとえば「この表現は差別にならない?」といった、文脈や社会背景をふまえた微妙な倫理判断も現状は難しいです。

また、AIには「ハルシネーション」という誤情報を出す現象があることを知っておきましょう。AIは、実際には根拠がない情報でも、それらしく出力してしまうことがあります。

今すぐできるハルシネーション対策

現時点でハルシネーションの完全な解決は難しいものの、以下のような対策でリスクを抑えることができます。

  1. 最新情報に基づいて回答するAIを選ぶ
    Perplexityのようなウェブ検索を行い、リアルタイムの情報を反映するAIを使うことで、古い情報による誤りを防ぎやすくなります。
  2. 高度な調査支援ツールの活用
    各AIのDeepResearch機能など信頼性の高い情報源に絞って検索・要約してくれる設定を使えば、誤情報を減らす助けになります。
  3. 複数のAIによるクロスチェック
    異なるAIで同じ質問をして答えを比較したり、ファクトチェックを依頼したりすることで、一方の誤情報に気づける可能性が高まります。
  4. 出典が明示されるツールを選び、自分自身で裏付けをとる
    AIの中には、情報の出どころが明示されるものもあります。そうしたAIで調べ、出典元を自分の目で確認することで、内容の正確性を自ら判断できます。

ポイント② 権利侵害に気を付ける

生成AIを活用するうえで、避けて通れないのが著作権や商標といった「権利の問題」です。特に、画像生成AIを個人で使う場合のマナーやリスクについては、近年たびたび話題になっています。

鈴木さん

「私が実際にやっているのは、生成AIで作成した画像を一度 Google の画像検索にかけてみることです。生成した画像と酷似したものがないか、自分の目で確認しています。

あとは、たとえ法的には問題がなくても、多くの方がどう受け取るかという“世間の評価”が炎上につながることもあります。だからこそ、重要な案件に関しては、法的な基準だけでなく、社会的な受容性にも目を向けながら進めていくべきだと感じます」

特に、企業活動で使用する画像や商用利用を前提とする場合は、事前に法務部や知的財産部、弁護士や弁理士に相談するのが賢明です。

ポイント③ 禁止事項をルール化する

AIを仕事や家庭で使うときには、安心して活用できるようにルール(ガイドライン)を決めておくことが大切です。ここでは、企業と家庭の両方で意識しておきたいポイントをご紹介します。

企業でのガイドライン策定

  1. 機密情報の扱いに注意する
    AIに、まだ公表していないプロジェクトの内容や社内文書、取引先の大事な情報などを入力するのは避けましょう。最近では、社内情報を安全に扱うため、プライベートクラウド環境※1やオンプレミス環境※2でAIを運用する企業も増えています。
    • ※1
      企業が自社専用で構築し運用するクラウド環境
    • ※2
      サーバーやソフトウェアなどの情報システムを自社で保有・運用するシステムの利用形態
  2. 法律や業界ルールを守る
    法律や各業界のガイドライン、ルールに違反するような使い方は避けましょう。AIを導入する前に、自社に関係する規制を確認しておくことが大切です。
  3. AIのアウトプットは、必ず人がチェックするフローを作る
    AIが作った内容はそのまま使わずに、人がチェックする運用ルールを作っておきましょう。責任者を明確にしておくことで、トラブルを防げます。
  4. セキュリティ対策も忘れずに
    どのAIツールを使うのか、どういうセキュリティ条件を満たしているのかをあらかじめ決めておきましょう。ツールを導入するときの確認・承認フローを整えておくと安心です。

ガイドライン策定で参考となる公的・民間資料

ゼロからオリジナルで作るよりも、既存のガイドラインを参考にしながら作成した方が効率的で安心です。

  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン
    AIを事業に活用する企業向けに、法的・倫理的な注意点や導入時のチェックポイントをまとめた政府の資料です。
  • ソフトバンク株式会社「AI倫理ポリシー
    AI活用に関するリスクを未然に防ぎ、人間中心・公平性・透明性・プライバシー保護などの原則を定めた民間企業のAI利活用指針です。

家庭でのルール作り

  1. 個人情報を守る
    氏名や住所、学校名など、プライバシーに関わる情報はAIに入力しないように教えましょう。
  2. 「なんでも信じる」はNG
    AIの答えは、いつも正しいとは限りません。「本当にそうかな?」と、自分の頭で考える習慣を育てることが大切です。
  3. 使う時間を決める
    便利だからといってAIに頼りすぎないように、使う時間にルールを設けましょう。
  4. 自分で考える力を大切にする
    AIはあくまで「サポート役」です。何でも任せっきりにせず、自分の頭で考えること、工夫することを忘れずに使っていきましょう。

鈴木さん

「生成AIへの関心が子どもたちの間でも高まる中、『いつから・どのように使わせるか』は悩みますよね。むやみに使用を制限するのではなく、子どもがAIに興味を持った段階で親がルールを整え、一緒に使いながら少しずつ慣れさせていくことが重要です」

AIによっては年齢制限があるので、使う前に確認してみましょう。たとえばGeminiやChatGPTなどの汎用AIは、基本的に13歳未満は利用できず、13~17歳の利用には保護者の同意が必要です。ただしGeminiは「 Google ファミリーリンク」を通じて13歳未満の子どもでも利用可能です。

まずは使って、特徴を知ることから。AIリテラシーを高める実践方法

まずは使って、特徴を知ることから。AIリテラシーを高める実践方法

では、ここまで紹介してきたようなAIリテラシーを高めていくためには、具体的にどのような行動を取れば良いのでしょうか。

鈴木さんは、AIリテラシーを身につけるためには「とにかく使ってみる」ことが基本だと説きます。

実践方法① 普段の情報収集をAIに置き換えてみる

まずは「普段の情報収集を少しだけAIに置き換える」ことから始めるのがおススメです。

鈴木さん

「たとえば、日常的に検索エンジンで調べているようなことを試しにPerplexityで検索してみる。ここでのポイントは、『キーワード検索』ではなく、『自分の考えや疑問をそのまま文章で入力する』こと。たとえば『〇〇について詳しく知りたい』『初心者でも分かるように教えて』といった自然な聞き方をするだけで、返ってくる内容や検索体験がぐっと変わってきます」

質問の例:

  • 「パソコンで、Wi-Fiは接続済みの表示になるのにインターネットにつながらないときはどうすれば良い? ちなみにiPhoneで接続してみたらつながりました」
  • 「モダンアプリケーションとは何か、小学生にも分かるように説明してください」

実践方法② 複数のAIを使ってみる

複数のAIを使うことでそれぞれの特徴が分かり、使い分けしやすくなります。まずはChatGPTを使ってみたことがあるという人は多いかもしれませんが、鈴木さんおススメの “セカンド生成AI” は、PerplexityとGeminiだそう。

鈴木さん

「リアルタイムの情報リサーチや出典元の明示に強みを持つPerplexityはおススメです。もうひとつおススメするなら、 Google のGeminiですね。Geminiは、アプリ版(Android/iOS)で『Gemini Live』などの音声対話機能を無料で提供している点がお気に入り。ランニング中にアイデアの壁打ちをするなど、日常生活で気軽に使えます」

実践方法③ 最新動向に注目する

実践方法③ 最新動向に注目する

AIの最新動向を知るのも大切。情報源としては、X(旧Twitter)などのSNSもありますが正確さなど玉石混交なので、まずは専門のメディアから情報を得ると良いでしょう。

鈴木さん

「一度に全てを学ぼうとするとつらくなってしまうので、少しずつ学ぶスタイルがおすすめです。たとえば、ソフトバンクが提供するAI・DX人材を育てる教育サービス『Axross Recipe』でも、AIに関する最新情報を発信しているので、こうした情報を日々チェックすると良いかもしれません」

AIを「時間をつくる道具」としてうまく取り入れられれば、人との時間や、自分のやりたいことにもっと集中できるようになります。AIリテラシーとは、そんな「選び方」や「使い方」の感覚を育てていくこと。今の時代を生きる私たちにとってなくてはならないスキルを養うべく、ぜひこの記事を参考にしてみてくださいね。

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(掲載日:2025年7月25日)
文:坂口ナオ
編集:エクスライト