
ソフトバンクが推進している消費者参加型植樹プログラム「NatureBank」。その植林活動の際にデモンストレーションが行われた、植樹ポイントをナビゲーションするアプリ「植林ナビ」は、実はソフトバンクが開発したものでした。このアプリについて、仕組みや開発エピソードを担当者に聞きました。
目次
話を聞いた人
- ※
所属は全員、ソフトバンク株式会社 IoT&プラットフォーム本部 環境IoT事業推進室

室長
平安 俊紀
(ひらやす・としき)
プロジェクト立ち上げ、ビジネス全体企画・推進を担当

担当課長
倉島 将
(くらしま・まさる)
プロジェクト立ち上げ、ビジネス全体企画・推進を担当

井内 康裕
(いうち・やすひろ)
Forward Deployed Engineerとして、主にアプリの設計・開発を担当
アナログな植林現場をデジタル化。ソフトバンクの技術を結集した2つのアプリ
今回開発したソリューションは、林業現場のどのような場面で必要なものなのでしょうか?
井内 「従来の植林現場では、その後の管理作業をしやすくするために、木を等間隔で真っ直ぐに植える必要があります。その際、2人1組でロープを引っ張り植える場所に印をするというアナログな方法が一般的です。しかし、この方法では時間がかかり、労力も大きくなります。そこで、この『どこに、植えるか』という計画から現場での誘導までをデジタル化し、複数人で行っていた作業を1人でも行えるように省人化・効率化を目指したのが今回のソリューションです」
まずは「植林プランニング」と「植林ナビ」の概要について教えてください。
井内 「今回開発したソリューションは、大きく2つのアプリに分かれています。
- 植林プランニングアプリ
ドローンで空撮した現場の画像データをもとに、「どこに、何列、何本植えるか」を設計・計画するアプリです。自治体や森林組合の方はドローン撮影に慣れていることが多いため、その画像データを活用して事前に計画を立てます。

どこに何本植えられるか計画している様子
- 植林ナビアプリ
現場の作業員が使用するアプリです。プランニングアプリで作成した植樹データを読み込むと、現在地と植樹ポイントがレーダーのように表示されます。

実際の植林ポイント画面
作業員は画面を見ながらドリルを動かし、照準が合った場所を掘削するだけ。数センチメートル単位の高精度なナビゲーションにより、ロープを使った従来作業を大幅に省力化できます」
この2つのソリューションで、ソフトバンクのどのようなテクノロジーが活用されているのですか?
井内「植林のプラン設計やナビゲーションの精度を支えているのが、高精度測位サービス『ichimill(イチミル)』です。通常のGPSでは数メートルの誤差が生じる山間部でも、センチメートル級の位置測位を実現できます。
さらに、圏外エリアでも通信を利用できるよう、可搬型の衛星通信サービス『SatPack(サットパック)』を活用。山間部でも位置補正データを受信できるWi-Fi環境を構築しています。将来的には、植林プランを立てるための現場の空撮に『Sora Base(ソラベース)』のドローンも活用していきたいと思っています」

「植林プランニング」と「植林ナビ」の構成
倉島 「開発のコンセプトとして私たちが非常に大切にしたのは、『ソフトバンクの多様な事業をいかに掛け合わせるか』という点です。『ichimill』や『SatPack』だけでなく、ドローン総合サービスの『SoraBase』など、社内のさまざまなテクノロジーをうまく生かしながら、林業という新しい分野へのアプローチを組み立てていきました」

別プロジェクトでの壁となった日本の林業課題が、アプリ開発の出発点に
そもそも通信会社であるソフトバンクが、なぜ「林業」の課題解決に取り組むことになったのでしょうか?
倉島 「もともとは、ソフトバンクの社内起業制度『SBイノベンチャー』から立ち上がったプロジェクトでした。当初は、企業が排出するCO2などの温室効果ガスを相殺するために活用される『カーボンクレジット』の事業化を目指していましたが、日本の林業の現状を調査するうちに、生産コストという大きな壁にぶつかりました」

数ある林業課題の中でも、「植林」にフォーカスしたのはなぜですか?
平安 「日本の木材の生産コストは、海外に比べて約3倍も高いという現実に直面しました。日本の山は急斜面が多く、海外のような平地での大規模な機械化が困難なためです。そこで、林業の中でも特にコストと労力がかかる『植林・造林』に着目し、その工程を効率化するソリューション開発へと方針転換しました。日本の林業が抱える構造的課題の解決にもつながると考えたためです」
DXの知見と社内の技術を掛け合わせ、スマート林業への挑戦を開始

どのようなプロセスで開発を進めたのでしょうか?
倉島 「ソフトバンクが持つさまざまなテクノロジーを結集させるため、各事業の担当部署へ環境の貸し出しを相談に行きました。また、現場の知見を得るために『スマート林業』のパイオニアである北海道下川町に協力を仰ぎ、共同で実証や開発を進めました」
平安 「普段、私たちの部署では企業のDX支援や伴走コンサルティングを行っています。その知見を生かして、今回は『ソフトバンクのDXソリューションを、第一次産業である林業に持っていく』というこれまでにない座組みに挑戦しました」
現場検証とプロの声を徹底的に落とし込み追求した「使いやすさ」
実際に開発をスタートさせてから、林業というフィールドならではの難しさはありましたか?
井内 「植林ナビは位置情報を扱うため、オフィスで開発して終わりではなく、実際の山で何度も検証しました。『SatPack』を設置して電波状況を確認したり、木々に囲まれた環境で位置精度を測定したりと、現場でのテストを繰り返しました」

平安 「ビジネスサイドとしての難しさで言うと、林業という伝統的な産業に、最新のIT技術をどう受け入れてもらうかという点が挙げられます。最初は『今まで自分たちの勘と経験でやってきたんだから』と反発されることもありました。しかし、現場に何度も通って実際にアプリを使ってもらうことで、『これだけ正確に植えられるなら、後の管理がしやすい』とメリットを体感していただき、皆さんの理解と協力を得ることができました」
林業従事者の方にとっての「使いやすさ」をアプリにどのように落とし込んだのでしょうか? こだわったポイントを教えてください。
井内 「ソフト面で苦労したのは、現場に合った操作性の実現です。シニアの作業員でも扱いやすく、強い日差しの下でも使いやすい設計を目指し、ボタンサイズや配置や配色など操作性には特にこだわりました。また、一般的な地図のような見え方ではなく『レーダー型』のUIを採用し、直感的に植林ポイントへ合わせられるよう工夫しています。
ハード面では、現場では軍手を着けたまま作業するため、スマートフォンを頻繁に操作するのは現実的ではありませんでした。そこで、ドリルの持ち手に物理ボタンを追加。Bluetoothでスマートフォンと連携し、ボタンを押すだけで植樹位置を記録できるようにしました。
さらに、日差しの強い環境でも画面が見やすいよう、3Dプリンターで専用フードも自作しました。外部へ委託する時間がなかったため、スマホやGPSアンテナを取り付ける専用器具も含めてハードも内製することで、スピード感をもって開発を進めることができました」

赤枠左から、3Dプリンタで作成したフード、追加した物理ボタン
北海道や徳島で実証実験やデモをされたそうですね。現場ならではの気付きはありましたか?
井内 「最初の実証を行った北海道では、冬の期間は雪で閉ざされるため1年の中で植林ができる時期が非常に短いという、地域特有の課題を痛感しました。一方、徳島でのデモンストレーションでは、傾斜38度という想像以上の急斜面を体感しました。立っているだけでもやっとの過酷な環境で、アナログな作業がいかに負担であるかを身をもって知りました」

平安 「開発メンバーが実際に過酷な現場に足を運び、泥臭く検証を重ねている姿を見て、現地の林業従事者の方々からも『ソフトバンクはちゃんと現場のリアルな苦労を見てくれている』と、信頼のお声をいただくことができました」
50年後の未来のために。現場の課題解決から、社会を支える事業へ育てたい
現場の林業従事者の方々から実際にアプリを使ってみてもらい、どのようなフィードバックがありましたか?
井内 「幅広い世代の方に試していただいて『ゲーム感覚で直感的に操作できて楽しい』という好意的な評価を多くいただきました。一方で、印象的だったのは、精度に対する現場の反応です。
開発チームは『1cmの誤差』にこだわっていました。しかし林業従事者からは、『山では石や根を避けるため、5cmほど余裕があった方が使いやすい』という意見が寄せられました。また、高精度すぎるがゆえに、真面目な方だと1〜2cmの誤差まで正確に合わせようとしてかえって時間がかかるという想定外の課題もありました(笑)。そのため現在は、『設定した範囲内に入ったら植林OKの通知を出す』機能など、現場の声を反映した改善を進めています」
平安 「現在はプロトタイプの段階にもかかわらず、『これはいつから買えるの?』『いくらなの?』と次々に具体的な質問をいただき、現場がどれだけこのような技術を必要としているのか手応えを感じました」

今回の実証実験や現場の声を踏まえ、2つのアプリの今後の展望や、皆さんが目指す最終的な目標を教えてください。
井内 「まずは、植林プランニングアプリと植林ナビアプリのデータ連携を、手動でのインポート形式から、クラウド上で自動連携できるようにシームレス化したいです。
さらに、今後は植林作業の効率化だけでなく、森林組合や自治体の事務作業も支援していきたいと考えています。例えば、補助金申請に必要な『どこに何本植えたか』という報告書類を自動作成する機能の実装を進めています。『植える作業』だけでなく、『管理する業務』まで含めてデジタル化することが次の目標です」
平安 「私たちも、単にアプリを提供するだけでなく、現場のフィールドから自治体が必要とするデータまでのデジタル化に貢献したいです。40年後、50年後に使うかもしれない『森林データ』を集めて保管し、未来のために引き継いでいきたいです」
倉島 「現場の課題を解決し、経験に頼っていた作業を誰もが実施できる仕組みに変えていくことで、ソフトバンクが掲げる『社会課題に、アンサーを。』を体現するような取り組みを増やしていきたいです。そして将来的には、このデータ基盤を社会を支える事業に育てたいです」
現場のリアルな声に寄り添いながら、ソフトバンクのテクノロジーを結集して開発された「植林プランニング」と「植林ナビ」。日本の林業業界が抱える課題を解決し、豊かな森を未来へ引き継ぐために、今後もさらなる進化を続けていきます。
植林ソリューションを支えるソフトバンクのテクノロジー
(掲載日:2026年7月2日)
文:ソフトバンクニュース編集部









