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昨今のAIブームもあり、徐々にAI導入を検討する企業が増えつつある。しかしそうしたなかで「AIを導入すれば何でもできる」との誤解から、結果的に計画が頓挫してしまうケースが多い。なぜ企業のAI導入は失敗に終わるのか。いくつかのパターンからその要因を探るとともに、その解決策を考えてみたい。
とあるAIセミナーに参加した中小企業の経営者。AIにまつわるキーパーソンのセッションを聴講し、「AIを導入すれば、どんな業務課題も解決できる!」と期待を膨らませている。帰社後、経営者はさっそく自社のIT部門担当者を呼び出し、AI利活用による業務改善案策定の指示をした。
しかしIT部門担当者にそのための知見やノウハウはなく、どの業務改善から手をつければよいかわからないようだ。業務に課題を抱える各現場部門もまた、AIによる業務改善に興味はあるもののなかなか検討する時間を持てそうにない。
そこで経営者はAIベンダーに相談し、なかばトップダウン式にAI対応のパッケージソリューションを導入させようとする。しかし業務課題やAIの適用範囲が定められていないため、AIベンダーとの話は一向にかみ合わない。「結局、AIで何をしたいんだっけ?」——経営者は頭を抱えてしまった…。
これが「AIならば何でもできる」という勘違いから来る“とりあえずAI”の実態だ。
2018年3月に都内で開催された「今こそAIの力を見極める 現場から始めるボトムアップ業務改革セミナー」(主催:日経BP総研 イノベーションICT研究所、協賛:ソフトバンク)では、来場者アンケートで「何ができるのか把握できていない」「適用業務が未定」「費用対効果が説明できない」が約7割を占めた。
AIで何をして、どう評価するのか。具体的な方策がなくAI導入を検討している企業は意外に多い。
何をすればよいのかもわからないままAI導入を進めたとき、企業はどんな事態に陥るのか。いくつかのケースから見てみよう。
多くの営業部隊を抱えるA社は、自社の営業・接客支援に機械学習型のチャットボットシステム導入を進めている。例えばスマホアプリに営業担当者が話しかけると、AIが分析サマリーとともに課題解決に適した自社商材を提示してくれる、そんなソリューションを想定していた。
しかしチャットボットの回答精度を上げるためには「教師データ」(FAQデータ)が不可欠である。A社は開発当初の段階でスコープ(適用範囲)を拡げすぎてしまったため、運用にかかる手間やコストが増大。「これならばチャットボットシステムを導入するよりも人が問い合わせ対応をしたほうがよかった」と、AI導入に失敗という判断をくだした。
B社は社長の号令のもと、なんとかチャットボット導入に漕ぎ着くことができた。対象範囲はコールセンター業務だ。社長は「半年間でクレームの入電件数を3割減らすこと」をKPIとして設定し、IT部門にKPI達成を命じた。しかし半年が経ってもなかなか達成できそうにない。社長も「チャットボットなんてたいしたことないじゃないか」とおかんむりだ。
しかしKPI未達の裏では着実な効果が生まれていた。それは、コールセンターに多くの人員を配置していた当時からは考えられない“新たな層”が問い合わせをしてくるようになったこと。窓口が“人”から“機械”に替わったことで、それまでの相談内容にはない新たな声が寄せられるようになったようだ。もちろん機械化によって「24時間365日対応」も可能になった。こうした現場から見える効果と、社長から求められる数値的な効果。そのはざまでIT部門担当者は複雑な思いを抱えていた…。
C社のAI導入プロジェクト担当者は、自社工場の生産ラインに使う画像診断による検品自動化のAIシステム開発を検討している。あらかじめ学習させた検品対象品とラインに流れてくる商品の画像情報を照合し、不良品を瞬時に特定するというシステムである。AIベンダーの話によれば、システム導入でかなりの高精度で不良品を見分けることができそうだ。プロジェクト担当者はそのための予算を確保した。
しかし現場へ投入する想定までしてみると、新たな問題が生じる。あまりにも瞬時に、かつ高精度に検品作業ができるため、不良品を取り除くのに新たなリソースが必要となったのである。もはや人の手で取り除くことは難しい。産業用ロボット導入も追加検討しなければならず、最初の段階で「生産ラインの業務全般をきちんと把握しておけば」と後悔することとなった…。
これらはいずれも架空の失敗ケースだが、似たようなケースは多いという。共通するのは登場人物各々が、AIを「導入するだけで何でも叶えてくれる魔法の杖」のように考えていた点である。
しかし、彼らがAIを魔法の杖だと勘違いしてしまうのも無理はない。AIベンダーは自社のプロダクトを売り込むために、AIのメリットやプラスの側面だけしか話さない。彼らの口から出てくる事例は、成功したものだけだ。
また、新聞や雑誌、Webメディアで紹介されている事例も表面的なものが多い。業務上の具体的な課題や、導入にあたっての困難や失敗がメディアで語られることはない。
ソフトバンクは、自社内でAIを活用した改善のトライアルを行い、数々の失敗と成功を経験してきた。その経験を糧にして言うならば、AI導入を成功に導くには、以下の「3つの壁」を突破しなければならない。
その課題は本当にAIで解決すべきものなのか。利用する現場のニーズに基づいた「発想」で、AIに何ができるのかの「ノウハウ」を理解し、AIの摘要プロジェクトを検討していかなければならない。そして何より、そのプロジェクトを粘り強く推進していくためには「組織」の体制と協力が必要だ。
従来のIT開発とは違い、AI開発は何度も試行を繰り返しながら「育てる」ソリューションである。「AIは決して、最初から全知全能なのではない」。まずはその前提に立つことが第一歩となる。
ソフトバンクでは、AI導入を検討する企業が「3つの壁」を突破できるよう「AI Design Workshop」を提供している。
Day1:チームビルディングと顧客体験の重要性
Day2:ソフトバンク流 AI導入の成功と失敗
Day3:デザイン思考による現場視点の課題抽出
Day4:解決策の評価と導入計画
最長4日間のプログラムを通じて、AIプロジェクトに携わるメンバーが多くの研鑽を重ねる。次回の記事ではワークショップの全貌に迫りつつ、「3つの壁突破」のための成功メソッドを紹介したい。
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