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2021年1月06日掲載
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
アリババグループの技術研究開発機構である「アリババDAMOアカデミー(達摩院)」(Alibaba DAMO Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook)は、2020年12月28日に、2021年度の「達摩院によるテクノロジーの発展10大トレンド予想(Top Ten Tech Trends of DAMO Academy)」を発表しました。本稿は、この内容について解説します。
アリババDAMOアカデミー(Alibaba DAMO Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook)は、2017年10月11日のAlibaba Cloudの年次イベン ト「2017年杭州・雲棲大会(The Computing Conference 2017)」でその誕生がアナウンスされました。3年間で1000億人⺠元の資金を投入し、科学技術の未 知の世界を探索し、基礎科学と創新的技術の研究開発を進めるといったミッションを掲げています。
アリババは、今後20年で、世界に約1億人の雇用を創出し、約20億人にサービスを提供し、約1000万社の企業にビジネスフプラットフォームを提供することで、世界5番目の企業体を目指しています。この目標を達成するには、数多くの問題を解決しなければなりません。そのため「利益を生み出し、かつ楽しい問題解決のための研究(Research for solving problems with profit and fun)」という趣旨で、達摩院を設立したのです。
アリババDAMOアカデミーは「アリババがなくなってもアリババDAMOアカデミーは生き残ること」「少なくとも世界の20億人にサービスを提供すること」「常に未来に向けて科学技術の力で、未来の問題を解決すること」の3つをミッションとし、現在は中国、アメリカ、シンガポール、イスラエルなどに拠点を設けて活動しています。
2021年のテクノロジーの発展10大トレンドは、量子コンピューティング・新材料などのブレークスルーにより基礎科学技術レベルの「原子の力」、データコンピューティングの進化やクラウド・ネイティブ・アーキテクチャなどによりIT技術体系を再構築する「ビットの躍進」、各産業の利活用シーンに科学技術を合わせた「利用シナリオの変革」といった3つの視点から捉えられます。
2021年のテクノロジーの発展10大トレンド(筆者作成)
アリババDAMOアカデミーは、2019年から毎年「テクノロジーの発展10大トレンド予想」を発表しており、今までの3年間の内容とそれぞれの領域を以下のマトリクスをご参照ください。全体的には、人工知能や半導体・チップなどの領域がよく取り上げられています。
過去のテクノロジートレンド(筆者作成)
続きまして、2021年度のテクノロジートレンドを見てみましょう。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
窒化ガリウム(GaN)や炭化珪素(SiC)に代表される第3世代半導体は、高周波・高出力、耐高温、耐高圧、耐放射線性などの特性を有していますが、製造エンジニアリング、製造コスト等により制約があるため、長年にわたりその利活用は小規模にとどまっています。近年、製造装置や製造プロセスなどのブレークスルーに伴い、第3世代半導体のコストパフォーマンスの利点が徐々に現れ、その利活用が拡大しています。SiC部品は自動車インバータに使用され、GaN急速充電器は大量に市場に出回っています。今後5年間で、第3世代半導体材料をベースにした電子デバイスは、5G基地局、新エネルギー車、超高圧、データセンターなどに広く応用されるようになります。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
2020年は「量子覇権」の年であり、量子コンピューティングへの世界の投資は増加の一途を辿っています。この傾向は、2021年になっても社会の関心と期待が高め続けられる中で、量子コンピューティングの研究は、その実用的な価値を証明し、「ポスト量子覇権」時代の使命に焦点を当てる必要があります。協調型イノベーションを通じて、多くの科学的・工学的課題を解決することにより、量子誤り訂正と実用的な利点といった2つのマイルストーンの早期到達に向けた道が開かれます。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
フレキシブルエレクトロニクスとは、ねじれ、折り畳み、ストレッチなどの形状変化により、元の特性を維持する電子デバイスであり、ウェアラブルデバイス、電子皮膚、フレキシブルディスプレイなどとして使用できます。
フレキシブルエレクトロニクス開発における主なボトルネックは材料にあり、フレキシビリティの欠如で故障しやすかったり、電気特性がシリコンベースのエレクトロニクスよりも劣っていたりします。近年、カーボンベース(炭素系)材料の技術的ブレークスルーとして、フレキシブルエレクトロニクスにより良い材料オプションを提供できるようになります。
カーボンナノチューブは、大規模な集積回路の製造要件を満たしており、この材料でできた回路の特性は、同じサイズのシリコンベースの回路より優れていると認識されています。 また、もう一つの炭素系フレキシブル材料であるグラフェンも広く利用されるようになります。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
AIは、医療画像、カルテ管理などの診断補助に広く利用されていますが、ワクチン開発や医薬品臨床研究での応用は、まだ探索段階にあります。アルゴリズムのイテレーションや計算力のブレークスルーにより、AIは、化合物スクリーニングの改善、疾患モデルの確立、薬物標的の発見、パイロット化合物の発見、パイロット医薬品の最適化などの効率を向上させることで、ワクチン・医薬品の開発サイクルの短縮やコストの低減などに貢献できます。
AIとワクチン・医薬品の臨床研究の組み合わせは、重複的な労働と時間を削減し、研究開発の効率を向上させ、医療サービスと医薬品の普及・互恵に大いに役立ちます。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
ブレイン・マシン・インターフェース(BMI, Brain-Machine Interfaces)は、次世代の人間とマシンの相互作用、及び人間とマシンのハイブリッド型インテリジェンスを実現する極めて重要な中核技術です。
BMIは、神経工学の発展に重要な支援役と推進力を与え、人間の脳の働きを高次元空間からのさらなる分析に役立ちます。BMIは、脳と外部マシンとの通信を実現することにより、脳がマシンを制御することができるようになります。
たとえばロボットアーム制御の分野では、動作の精度を向上させることにより、口も手も障害がある患者に正確なリハビリテーションサービスを提供することができます。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
クラウドコンピューティングの発展とデータ規模の指数関係的な継続増加に伴い、従来のデータ処理は、ストレージコストの高騰、クラスター管理の複雑さ、コンピューティングタスクの多様性などの大きな課題に直面しています。
爆発的なデータと複雑多岐にわたる利活用シナリオに対して、手動的なマネジメントとシステム調整がなかなか追いつきません。インテリジェントな方法によるデータ管理システムの自動最適化は、データ処理の将来の必然的な選択となります。
人工知能と機械学習は、データ階層化、異常検出、モデリング、リソーススケジューリング、パラメータチューニング、ストレステスト生成、インデックス推薦などのインテリジェンス化に広く使用され、データのコンピューティング、処理、ストレージ、運用管理のコストを効果的に削減し、データ管理システムの「自律化と自己進化」を実現します。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
製品開発のサイクルが長く、研究開発の効率が低いなど従来のIT開発に対して、クラウド・ネイティブ・アーキテクチャは、クラウドコンピューティングの分散化、スケーラビリティ、フレキシビリティなどの利点を活用し、異機種ハードウェア・環境のクラウド・コンピューティング・リソースをより効率的に利用・管理することができます。
開発者は、メソドロジーツールセット、ベストプラクティス、および製品テクノロジーを通じて、アプリケーション開発自体に集中することができます。将来的には、チップ、開発プラットフォーム、アプリケーションソフトウェア、及びコンピューターなどはクラウドから獲得することにより、ネットワーク、サーバー、オペレーティングシステムなどのインフラ層の高度な抽象化を実現し、コンピューティングコストの削減や開発イテレーション効率の向上をはかるとともに、クラウドコンピューティング利用のハードルを下げ、テクノロジーの利用境界を広げることにもつながります。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
従来の農業には、土地資源の利用率が低く、生産から小売りへの産業チェーンにボトルネックがあります。モノのインターネット(IoT)、人工知能、クラウドコンピューティングなどに代表される科学技術は、農業と深く融合することにより、農業全体のフルプロセスを貫きます。
次世代のセンサー技術と組み合わせることで、農地データをリアルタイムに取得・認識し、ビッグデータ分析と人工知能技術により、大規模な農業データを迅速に処理し、農作物モニタリング、微細育種、環境資源のオンデマンド配分を実現できるようになります。
同時に、5G、モノのインターネット、ブロックチェーンなどの技術を利用することにより、農産物の物流輸送におけるコントロールとトレーサビリティを確保し、農産物のサプライチェーン全体の安全と信頼性を確保することができます。農業は、「天に頼る」時代と別れ、スマート農業時代に入ります。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
現在のインダストリアルインテリジェンスは、その実装コスト及び複雑度が高いほか、供給側のデータがアクセスしにくく、全体的なエコシステムが不十分であるなどの要因により、ほとんど断片化のニーズ対応に集中しています。
新型コロナウイルス感染症に対応する中で、デジタル経済が示したレジリエンスは、企業がインダストリアルインテリジェンスの価値をより重視することになってきています。デジタル技術の普及と新しいインフラ投資の牽引と合わせて、インダストリアルインテリジェンスをシングル・ポイント・インテリジェンスからグローバルインテリジェンスへと進化しつつあります。
自動車、家電、ブランドアパレル、鉄鋼、セメント、化学など良好な情報化基盤を持つ製造業においては、サプライチェーン、生産、資産、物流、販売などを含めた企業の生産・意思決定にわたり、グローバル・インテリジェンス・アプリケーションが大規模に出回ってくるでしょう。
(出典:アリババDAMOアカデミーWebサイト)
過去10年間、スマートシティはデジタル技術を生かして都市ガバナンスのレベルを高めてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の防疫においては、「建設が重視されるが、運営が軽視されている」傾向から、都市業務運営能力が不足している課題が浮き彫りになりました。
このような背景から、都市管理者は、シティ・オペレーション・センターを通じてデータ・リソースを活用し、ガバナンスとサービスの全体化、精細化、リアルタイム化を実現することになります。IoT技術の進化と普及、及びスペースコンピューティング技術の進歩により、シティ・オペレーション・センターは、インテリジェンスレベルがより一層向上するとともに、デジタルツインに基づき、都市全体を統一システムとして利用し、トータル・インテリジェント・ガバナンス能力を提供し、将来のシティ・デジタル・インフラとして成長していきます。
今回は、2021年度の「アリババDAMOアカデミーによるテクノロジーの発展10大トレンド予想」を解説しました。今後も引き続き注視していきたいと思います。
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