和歌山県すさみ町の「未来の避難所」が実現する、平時も活用できる防災DXとは?

2021年12月23日掲載

2021年11月7日、ソフトバンクが幹事を務める和歌山県すさみ町の「すさみスマートシティ推進コンソーシアム」は、「道の駅すさみ」において防災ソリューションの展示イベントを開催しました。「未来の避難所」を想起させる最先端テクノロジーによる災害対策のソリューション群。同イベントの実施に至った背景と取り組みをご紹介します。

目次

限られた財源の中で、自治体は防災のために何ができる?

「消滅可能性都市」という言葉をご存知でしょうか。日本創生会議は2014年、人口減少によって2040年までに全国約1800市町村のうち約半数が消滅する可能性があると発表しました。

「消滅」とは過激な表現ですが、人口減少と高齢化によって、都市としての機能を維持することが難しくなる。そういった懸念は少なからぬ自治体にとって現実のものになろうとしています。

人々が安心して暮らすための都市の機能──、医療、教育、暮らし。それらに加えて、今、重要視されているのが「防災」です。

東日本大震災以降、日本人の防災への意識は大きく変わりました。災害とは起こり得るものであり、その前提で対策をしておくべきもの。

しかし一方で、都市の機能を維持することが困難になりつつある地域にとって、防災への十分な備えをすることは簡単なことではありません。

では、自治体が住民のためにできることは? 

そこで最先端ICTに活路を見出したのが、和歌山県すさみ町です。すさみ町は「道の駅すさみ」において、最先端のICTを活用した防災ソリューションの展示イベントを開催。なぜ、すさみ町はICTに防災の未来を託すことにしたのでしょうか。

すさみ町はなぜ防災DXを目指すのか

紀伊半島の南部に位置するすさみ町。この自然豊かな海沿いの町もまた、他の多くの自治体と同じく過疎化・高齢化が深刻化しています。

岩田省吾氏

すさみ町防災対策室長

「すさみ町の人口は、現在3700人程度。高齢化率は約50%近くになっており、地域の担い手となる年代の方々が少ないのが現状です。つまり、災害時に助ける側になるべき人が少ないのです。そのため、ICTの先端技術の活用による解決には大きな期待を寄せています」(防災対策室 岩田省吾氏)

今回の防災イベントを開催したすさみスマートシティ推進コンソーシアムが立ち上がったのは2021年8月。その背景にはすさみ町が内閣府「スーパーシティ構想」に申請した経緯があります。

スーパーシティ構想とは、民間事業者との共創でICTを活用した日本型スマートシティを目指す国家戦略特区制度。

顕在化しているすさみ町の地域課題をICTで解決できないかと考えたのです。

岩田勉氏

すさみ町長

「住みたい場所に自由に暮らせる。それを支えるのが行政の1番の使命です。それを可能にするのがスマートシティであり、スーパーシティです。医療、教育、暮らし、そしてこれからのすさみ町を支えていくアウトドドアなどの観光産業。これらをICTによって盛り上げていきたいと考えたのです」(岩田勉氏)

すさみ町がスーパーシティの公募へ申請する段階からサポートしていたソフトバンク。採択後もパートナー企業としてすさみ町のスマートシティ化を推進していくことになります。

ソフトバンクにおける中心人物として関わる戦略企画推進室 木村は、ほぼ毎週、東京からすさみ町まで出向き、役場や住民がどのような課題を感じているのか、ヒアリングを続けました。

さまざまな課題やアイデアがあがってきた中で、木村はすさみ町における防災に課題を感じます。

木村篤

ソフトバンク株式会社
戦略企画推進室
担当課長

「南海トラフ地震発生時のシミュレーションでは、人口の約50%の死亡者が出る可能性が試算されています。その内の85%は津波による被害。また、津波発生時にはすさみ町の国道が10ヵ所以上寸断されると予想されています。そうすると、避難が間に合ったとしても各避難所が孤立化してしまいます。

日本は地震大国です。災害のリスクがある中でも、自分の好きな町に住み続けられるようにすることは、日本全体に関わる大きなテーマだと感じました」(戦略推進企画室 木村)

浮き彫りになった「孤立避難所」という課題は、ソフトバンクの主導で立ち上がった「すさみスマートシティ推進コンソーシアム」の防災ワーキンググループにて具体的な取組へと移されていきます。

避難生活が長期化した場合、何が必要になるのか。どうすれば避難する住民に安心を提供できるのか。ソフトバンク及び関連各社のさまざまなソリューションと知見を結集し、「孤立避難所」を想定した対策が練られました。

そして、世界津波の日(11月5日)に合わせた、2021年11月7日。最先端ICTによる防災ソリューションの展示イベントが開催されたのです。

「未来の避難所」のソリューション

スマートシティにおける「未来の避難所」を垣間見ることのできる同イベント。通信事業者として通信インフラの確保はもちろんのこと、コロナ禍を想定した避難所での健康管理、支援物資の供給など、さまざまな観点からのソリューションが展示されました。

災害時の「つながる」を担保

移動基地局車

臨時の基地局として、災害により途絶えた通信エリアの4G LTE回線を復旧。固定の伝送路での通信が難しい場合は、人工衛星を利用して通信を担保します。ソフトバンクは大・中・小の3つの型の移動基地局車を計100台保有しており、これまでもさまざまな災害の現場で活躍しています。

携帯電話充電サービス

最大20台のスマートフォンの充電が可能な携帯充電サービス。さまざまな機種の電源ケーブルに対応が可能。避難所でもスマートフォンの充電を切らさず、家族や友人との連絡や外部の情報を得られる状態を保ちます。

避難生活に清潔と健康を

WOSH

WOSHは利用した水を循環させることで再利用が可能な手洗いスタンド。98%の再利用率で、飲料水として利用できるレベルまで浄化されます。水道のない場所にも設置できるため、コロナ禍での避難所内での感染症対策にもなります。

WOTABOX

避難所では水が不足するため、体を洗うことができないことも。循環型のWOTABOXであれば水を繰り返し利用できるため、避難中でも水の残量を気にすることなくシャワーを浴びることができます。

避難所を安全・快適に保つ

3密可視化システム

センサーデバイスが、二酸化炭素濃度、温度、湿度などを感知。4G LTE回線でデータを送信して、管理者の画面から常時避難所のコンディションを確認することができます。平時は店舗のコンディションを計測したり、観光業に活用することも。

検温・顔認証カメラシステム

体温検知による感染症対策のほか、顔を判別することで、避難所の人員整理にも活用可能。避難所の使用状況をリアルタイムで管理することができます。平時には企業やお店の勤怠管理のほか、観光データの取得にも。

災害情報を見える化

災害ポータル

ソフトバンクの充電サービスやWOTAの設置場所、避難所の状況など、これまでに紹介したさまざまな防災ソリューションのデータ、また通行止めや支援物資の配布の情報など、あらゆるデータをプラットフォーム上で集約し、ポータルサイトに表示します。

避難所の物資の報告・管理ソリューション

避難所では何が足りていて、何が不足しているのか。避難先からLINEで送信すると管理画面に情報が反映されます。情報がリアルタイムで更新されることで、支援物資を無駄なく迅速に避難所に送ることができます。

平時と災害時の両方で活用できるテクノロジーを

今回展示された防災ソリューションは、「ある基準」によって選定されています。それは災害時だけでなく、平時にも利用が可能であること。

例えばWOSHやWOTABOXは、水道のない場所でもキャンプ場の運営を可能にします。3密可視化システムと検温・顔認証カメラシステムはお店や企業で活用可能。災害ポータルは同じ仕組みを利用してあらゆる情報が集約された観光マップにも利用できるでしょう。

ソフトバンクの木村は「災害は、平時、発災、復旧、復興、それぞれの準備が大切だ」と語ります。一方で、各段階における十分な準備を行うことは、財源に限りがある中では現実的ではありません。

だからこそ、平時にはすさみ町を今よりももっと魅力的な町にするために、災害時には人々の安全と安心を守るために、両方に利用できるソリューションが求められます。

ひいてはそれらが「スマートシティすさみ町」を形成するICTインフラの一部になっていくのです。

「災害時だけにしか利用できない仕組みは、自治体にとって費用対効果が見えにくいものになってしまいます。目の前に課題がたくさんあるにも関わらず、活躍の場が訪れるかわからないものに予算をつけて良いのか、という話になってしまいがちです。

平時では街を活性化させ、災害時には緊急稼働できる。その2面性を両立させることが自治体の災害対策には必要なのだと考えています」(木村)

人命はかけがえのないもの。しかし、予測不能な災害に「万全な準備」というものは存在しません。

「南海トラフ地震発生時のシミュレーションでは約1800人の死者が想定されると言います。しかし、それが自治体と住民の努力やテクノロジーによって、1799人になるかもしれない。その1人の命の重さは計り知れないものです。

そして、1人の命を救おうと考えることが、2人、3人、4人と多くの人々の命を救うことにつながります。それが最終的に0人になるようにしていく。

その意志を示すことが、行政の役割なのだと思います。それを実現するためのテクノロジーは民間事業者の力を借りればいいんです」(岩田勉氏)

スマートシティ化の入り口として、防災領域のDXに着手したすさみ町。これからも、医療、教育、観光などあらゆる領域、平時と災害時などのあらゆるシーンを横断するスマートシティとしての姿を模索していく予定です。

「10年後にどんな社会になっているかは、わかりません。しかし今、スマートシティに手をあげることが、町民や役場職員の1人1人が街のことを考えるきっかけになるのではないかと思いました。

僕はラグビーをやっていたんですけどね。やっぱりパスは受け手が走りやすいパスの方がいいわけです。スマートシティの取り組みが次の世代の人たちへの良いパスになることを願っています」(岩田勉氏)

ソフトバンクとともにつくる災害対策
ICTとテクノロジーを活用した
災害に強いまちづくりをご紹介します!

おすすめの記事

条件に該当するページがございません