クラウド移行とは?オンプレミスからクラウドへの移行手順、メリット、よくある失敗事例を解説

2023年3月24日掲載

クラウド移行とは?オンプレミスからクラウドへの移行手順、メリット、よくある失敗事例を解説

運用・管理の負荷やコストが高いオンプレミスのシステム環境からクラウドに移行したいという企業が増加しています。しかし、本当にクラウドに移行すべきか判断がつかない、どのように移行すればよいか手順がわからない、失敗したくないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

本記事では、初心者にも分かるように移行のメリット、手順、注意点を解説していきます。まだ具体的に考えていない人はブログの最初から、具体的な進め方を知りたい人は「クラウド移行の手順、ステップ」から読むのがおススメです。

目次

クラウドとオンプレミスの定義

クラウド移行_クラウドとオンプレミスの定義

まずはじめに、クラウド(※本記事ではパブリッククラウドのことを指します)とオンプレミスの定義、その違いをおさらいします。

クラウドとは

クラウドとは、インターネットを介してリモートサーバ上にデータやソフトウェアを保存・処理する方法です。自社でサーバやネットワーク機器を用意せず、クラウド事業者が提供するサービスを利用することで、必要なときに必要な分だけリソースを使用できるため、コスト面やスケーラビリティに優れています。また、クラウド事業者がセキュリティやバックアップなどの面倒を見てくれるため、セキュリティ管理の手間を省くことができます。

オンプレミスとは

一方、オンプレミスとは、「オンプレ」とも呼ばれシステム開発に必要なサーバやストレージ、ソフトウェアを自社で構築・運用することを指します。データやソフトウェアは自社内で保管されているため、セキュリティやプライバシーを管理しやすいものの、サーバ設置やメンテナンスなどのコストや負荷がかかります。自社でサーバやストレージなどを保有しない「クラウド」と対比されることが多いです。

クラウドの導入にはさまざまなメリットがありますが、「オンプレミスはもう古い」「いますぐクラウドに移行すべき」とは言い切れず、業務システムの目的や業務の特性にあわせて、オンプレミスかクラウドかを選ぶ必要があります。

クラウドとオンプレミスの違い

クラウドとオンプレミスの違いをサーバの拡張性、コスト、セキュリティなどの項目で比較したものが下記です。

クラウドとオンプレミスの比較表

 クラウドオンプレミス

サーバの拡張性


簡単


費用、時間がかかる

カスタマイズ性


サービスの提供範囲内


無制限

コスト


ハードの購入不要。
利用量に応じて従量課金


初期費用が高額に
なりやすい

セキュリティ


クラウド事業者との
責任共有モデル


自社専用として管理

障害対応


ベンダで対応


自社で対応

既存システムとの連携


制限あり


行いやすい

導入スピード


即日で開始できる


数ヵ月かかる

クラウドは自前でハードウェアやソフトウェアを調達する必要がなく、インターネットに接続できる環境とデバイスがあれば、どこからでもアクセスができます。「手軽に使えて、管理者の運用負荷を減らしたい」「早く利用したい」「コストを抑えたい」といったユーザにとっては、クラウドの方が利便性が高いと言えるでしょう。

一方で、オンプレミスはカスタマイズ性が高く、あらゆる業務システムとの連携が柔軟にできます。インターネットを経由せず自社の専用ネットワークを使うため、セキュリティ面を担保しやすいという利点もあります。

クラウド移行の6つのメリット

クラウド移行の6つのメリット

つづけてクラウド移行の6つのメリットを確認していきます。

① コストを削減できる

メリットの1つがコストを抑えられる点です。オンプレミスで必要となるハードウェア・設備投資の初期費用が、クラウドでは不要になります。運用においても、サーバ維持費、運用・監視の人件費も削減できるため、目に見えづらいコストが下がります。クラウドは従量課金制が一般的で利用量に応じて費用が発生するため、ランニングコストを調整しやすいという点もあります。

② 導入にかかる労力と時間を削減できる

オンプレミスのシステム構築は、全て自前で対応するため労力が多くかかります。一方、クラウドではサービス事業者側が提供しているシステムを利用するため、導入リードタイムの短縮と利用者の負荷削減ができます。専任担当者がいない中小企業や部門にとっても、大きなメリットと言えるでしょう。

③ 運用・保守の負荷を軽減できる

クラウドは、サービスによっては物理サーバの管理だけでなくソフトウェアやアプリケーションの更新、データ管理やバックアップ作業もユーザ側では必要がないため、システム担当の負担軽減につながります。また、クラウドは社外からアクセスできるので、サーバメンテナンスのために出社する必要性がなくリモートワークにも適しています。

④ サーバ増強やシステム変更、負荷分散が柔軟にできる

クラウドでは契約内容を変更するだけで容量の拡張や負荷分散が柔軟に対応できます。オンプレミスで容量を拡張する場合は、ハードディスクの増設やサーバの移設など多くのコストと手間が発生してしまいます。

⑤ 物理的な障害対応をクラウド事業者に任せられる

オンプレミスのシステム環境では、担当者が24時間365日障害対応のリスクに直面しており、コア業務に専念できずパフォーマンスが低下することもあるでしょう。クラウドでは、物理的な障害対応をクラウド事業者に任せることができるため、IT管理者の負担を大幅に軽減できます。障害の発生防止と復旧作業も含めクラウド事業者側に委ねることもできます。

⑥ BCP、セキュリティ対策を委託できる

クラウド事業者は、複数の拠点にデータセンターを保有しデータの分散保管をしています。災害などで利用者のオフィスや設備に被害があった場合でも、クラウドにあるデータは保護されています。同時に、データセンターはオンプレミス環境よりも堅ろう性の高いセキュリティで運用されています。オンプレミスで同様の環境を構築するには莫大なコストがかかってしまうため、BCPとセキュリティ対策はクラウドのメリットと言えます。

クラウド移行の種類

クラウド移行の種類

次に、クラウド移行にはどのような方法があるのか確認していきます。

米ガードナー社の定義によると、オンプレミス環境のシステムをクラウドに移行するには7つのパターンがあると言われています。

「Revise(リバイス)」「Rebuild(リビルド)」「Replace(リプレイス)」「Rehost(リホスト)」「Refactor(リファクタ)」がクラウド移行を行う際のモダニゼーションの「5R」と呼ばれます。一方で、クラウドに移行しない方式の「Retire(リタイヤ)」「Retain(リテイン)」の2Rも存在します。

ここではクラウド移行モダナイゼーションの「5R」を簡単に解説していきます。

Revise(リバイズ)

Replatform(リプラットフォーム)と呼ばれることもあり、既存システムのアーキテクチャを維持しながら、ソースコードの一部改修を行う方式です。コードや構成にエラーが発生するなどのリスクを見込んだ上でですが、移行の手間を削減しクラウドネイティブのメリットを得ることができます。

Rebuild(リビルド)

既存のアプリケーションをクラウドネイティブなアーキテクチャに最初から作り変える方式です。サポートの期限切れなどで新しくアプリケーションやサービスの開発を迅速に行う必要がある場合などに有効です。

Replace(リプレイス)

Repurchasing(再購入)と呼ばれることもあり、古くなった既存アプリケーションを破棄し、SaaSやDaaSに置き換える方式です。古くなったオンプレミスのSFAソフトウェアをSalesforceやkintoneなどに置き換えるようなイメージです。移行のスピードやコストを抑えることができますが、ユーザがインターフェースや操作性に慣れるまで教育コストがかかります。

Rehost(リホスト)

「リフトアンドシフト」と呼ばれ、既存のアプリケーションを変更せずにクラウドへ移行したい場合に採用されるパターンです。移行作業に必要な時間やコストも少なく済み、専門知識が不要です。一方で、クラウドのメリットを生かしきれないというデメリットもあります。

Refactor(リファクタ)

既存システムのアーキテクチャやアプリケーションの仕様に変更を加えず、インフラ構成を修正します。リファクタリングによって、ロードバランサやサーバレスなどクラウドネイティブな機能を利用できるようになります。最も難易度が高い移行で、コストや時間がかかりますが、長期的に見ると費用対効果が高く、クラウド特有のメリットを最大限に得ることができるといえます。

クラウド移行の手順、ステップ

クラウド移行の手順、ステップ

ここからは具体的な手順や失敗しない進め方が知りたいという方向けに、押さえておきたい6つのステップを紹介していきます。

Step1. 課題の把握、移行の目的・予算・スケジュールの検討

まずはじめに、課題の把握と移行の目的・予算・スケジュールを検討します。

  •  現在のシステム課題の解決につながるか
  •  事業戦略に合致しているか
  •  オンプレミスのままではなぜダメなのか
  •  予算はどのくらい使えるのか
  •  セキュリティリスクは問題ないか
  •  ポリシーやコンプライアンスへの適合性は高いか

といった観点で吟味が必要です。
また、クラウドだけでなくオンプレミスも含めたインフラ全体を考慮せねばなりません。

  •  どのシステムをいつまでにどの範囲でクラウド移行するか
  •  サーバやデータの公開設定
  •  ログデータの管理方法
  •  セキュリティ対策

などの検討が必要です。

Step2.情報資産の整理と棚卸し

Step1と同時並行で、移行させたいハードウェア、ソフトウェアの稼働状況を把握します。サーバのログイン情報や利用ユーザのリストアップなどを実施し、情報の棚卸を行います。現状確認がおろそかになると、移行コストが想定以上にかかってしまうことがあるため注意が必要です。

Step3.移行対象システムの選定

次に、クラウドへ移行するシステムは一部かまたは全部か、複数ある場合は移行の順序を検討します。業務課題の緊急度や影響度などを吟味し移行の優先順位付けを行います。

Step4.アーキテクチャの検討とクラウドの選定

移行対象とするシステムや移行時期が決まったら、本記事内「クラウド移行の種類」で前述した移行方法の5パターンのどれで行うかを検討します。

  • アプリケーションはそのままで、クラウド上に移行する(リホスト)
  • アプリケーションはそのままで、内部のソースコードを改修してクラウドに最適化させる(リファクタ)
  • アプリケーション機能をクラウドサービスに置き換える(リプレイス)

などです。

また、要件定義が終わったら、ビジネス要件とシステム要件を満たし必要な機能を兼ね備えたクラウドサービスを選定し、アーキテクチャの設計を行います。多くの企業はパートナー会社と契約し、要件定義・設計から移行・運用までを支援してもらうことが多いでしょう。スムーズに進めるために、ITリテラシーがない社内関係者にもわかりやすいシステム設計・構成とその説明ができるかが重要になってきます。

Step5.移行計画&移行リハーサル

次に、どのシステムやデータから移行していくか計画を立てます。移行手順が決まったら、ベンダとともに移行リハーサルを行いましょう。実際のオペレーションが見積りの範囲内で収まるか、抜け漏れがないかなどの検証を行います。リハーサル時に見えた課題の対策を立てることは、移行作業本番のスムーズなオペレーションや甚大なインシデントの防止につながります。

Step6.移行本番の切り替え

システム切り替え当日の作業手順と関係者の連絡方法をまとめておきましょう。パートナー会社に作業委託する場合は、役割分担を明確にしておくことが重要です。移行作業の進捗共有などクイックなコミュニケーションができないと、サービス停止時間に大きな影響が出る可能性があるため注意が必要です。移行完了後は各種システムの動作確認を行い、不具合や障害が無いかをチェックします。

移行の手順については、「すぐ分かる!オンプレミスからのクラウド移行」でも詳しく紹介していますので、参考にしてください。

よくある失敗例と注意点

クラウド移行のよくある失敗例と注意点

前章まででクラウド移行について解説しました。

「メリットや進め方はわかったので早速移行を進めよう」と思っている方に、事前によくある失敗例と注意点をお伝えします。クラウドは完璧ではありません。 特性を理解した上で導入を進めていきましょう。

クラウドはオンプレミスよりもコストが安いと思い込んでいる

「クラウドのコストは初期費用がかからないので安い」と思われていますが、従量課金で発生するランニングコストを計算すると、クラウドのほうがオンプレミスよりも高くなることがあります。一方で、オンプレミスでは、障害対応、サーバ維持・管理・保守、運用管理者の教育などの見えづらいコストが発生します。こうした総合的なコストを加味して、オンプレミスとクラウドにかかるコストを比較しなければいけません。

クラウドはセキュリティ対策が不要と思っている

パブリッククラウドは事業者側でセキュリティ対策を入念に行っていますが、ユーザ側の設定不備などの問題で情報漏えいやインシデントが発生するケースがあります。データの出し入れをネットワークで行うクラウドは、常に情報漏えいリスクにさらされており、近年では、システム改修や仕様変更のタイミングでセキュリティ設定を誤り、機密情報が漏えいする事故が急増しています。このようなリスクを減らすために、総務省は「クラウドサービス提供におけるセキュリティ対策ガイドライン(第3版)」を公表しています。安全にサービスを利用するために、利用者とサービス提供者側が注意すべきことや責任範囲などが記載されていますので参考にしてください。

移行後の運用を十分に考えていない

大手企業でありがちなのが、部門単位でクラウドを契約し社内に複数のクラウドが乱立してしまい、無駄なコストの発生やセキュリティリスクの増加につながってしまうことです。また、中小企業はクラウド移行後にサービスアップデートやメンテナンス・障害の対応にリソースが割けないケースもあるでしょう。移行後の運用体制を事前に想定し業務の外注や自動化ツールの導入も検討しましょう。

よくある失敗に対する解決策は?どのようなケースがクラウド移行に向いているのか?

クラウド移行の失敗に対する解決策とは?

最後に、よくある失敗を回避するための解決策について考えていきます。

1つ目は、移行しようとしてる既存システムが「そもそもクラウドにマッチしているか」を熟考することです。短期的なコスト・リソース削減を実現するだけでなく、長期的にコストとパフォーマンスの両面でメリットが大きくなるかを社内のステークホルダーと検討しましょう。

クラウド移行が向いている企業(システム)とは

クラウド移行が向いている企業

オンプレミスが向いている企業

大幅なカスタマイズは不要

自由にカスタマイズしたい

とにかくコストを抑えたい

自社でセキュリティを担保したい

運用・保守のリソースがない

システム運用・保守の専任担当がいる

リモートワーク(社外からのアクセス)が多い

社内からのアクセスが多い

クラウドが提供する機能(サービス)で
システム構築したい

OSやミドルウェアが
クラウドに対応していない

2つ目が「システム全体をオンプレミスからクラウドへ移行するのが最善なのか?」を突き詰めて検討することです。業務要件やほかの社内システムとの兼ね合いにより、システム全てをクラウドへ移行することが難しい場合もあります。オンプレミス環境に一部を残しクラウドとオンプレミスのハイブリッド環境を目指したり、インターネットを経由しないプライベートクラウドを構築することも一つの選択肢になります。

上記の通り、クラウドを使う場合は、移行前に設計や運用設計をきちんと実施することが失敗しないための大前提となります。しかし「どの位の帯域が必要なのか?」「同時アクセス人数は?」などの試算が難しく、この設計に一番手間と時間がかかってしまいます。その場合は、ぜひソフトバンクにご相談ください。知見のあるクラウドエンジニアがお客さまの設計をサポートいたします。

既存システム全体の最適化を図るには膨大な時間とコストがかかります。オンプレミスの運用や管理負担が大きいものから移行し、IT管理者やエンジニアが本来注力したい業務にリソースをシフトできるようにするのがクラウド移行の第一歩です。

はじめてのクラウド移行でお悩みの方へ

本記事では、初心者にも分かるように移行のメリット、手順、注意点を解説してきました。クラウドへ移行する際には、こういった落とし穴もあるので、クラウドに詳しい人にアドバイスを受けるのが安心です。ソフトバンクではクラウド移行を支援しています。お困りの際は一度ご相談ください。

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