CIOブログ：AI時代に必要なのは「経験」と「美意識」 - 「AI時代を生きる武器」シリーズ第一回

すごく素直でストレートな問いでした。

その時、私の口から咄嗟に出たのは、こんな言葉でした。

後から考えると、まるで古い刑事ドラマに出てくる 「経験と勘」 みたいな話になって、AIの話をした直後にいうのはどうなんだ…と少し反省しました。

でも後で思い返すと、私が本当に伝えたかったのは「勘」というより 「感性」 に近いものだったのだと思います。

「感性」は経験だけで養えない

ここでいう「感性」は、物事の本質を見極める「センスや直感」のようなものです。

この「センスや直感」のようなものは、経験を積めば自然と身につくものではありません。そこに必要なのは美意識です。

山口周さんが書かれた『なぜ世界のエリートは「美意識」を鍛えるのか？』という本は、今となっては少し古いですが、今でも読み返す価値があります。AIが急速に進化し、合理性や効率性が自動化される時代だからこそ、「美しいかどうか」という基準が人間の本質的な価値判断になる、という視点が語られています。

長く残るものは美しいと感じることも、この視点の正しさを裏付けていると感じます。

同じように利益を生む事業でも、「このビジネスは社会にとって美しいか？」という問いを持てるかどうかが、人間ならではの軸であり、長く続くビジネスの秘訣とも言えると、私は信じています。

アーキテクチャにも「美」は宿る

私の仕事は、技術のど真ん中にあります。

システムアーキテクチャを考える時、単に「動けばいい」では済みません。持続可能で、メンテナンスしやすさを保てる構造ーーつまり「美しさ」が必要なんです。

ソフトウェアの世界でも「美しいコードは長く生き残る」とよく言われますよね。逆に場当たり的で汚い設計は、メンテナンス不能になって破綻してきます。

これは自然界と同じで、調和した美しさがあるからこそ、永続性が生まれるのだと思います。

バウハウスの思想にも「美と機能は分けられない(Form follows function)」という言葉があります。Appleの製品にも通じることですが、美しさと機能性が融合して初めて、人々に長く受け入れられて、愛されるんです。システムアーキテクチャも、まさに同じで、美意識がなければ持続可能にはならないのです。

「完璧」=「美しい」ではない

ただし、「完璧」なものが、「美しい」ということでは有りません。

むしろ、「少しの余白」や「未完成さ」の中にこそ「美」が宿ることもあります。日本の「侘び寂び」がまさにそうですね。欠けや歪みを含めて美しい、と感じる感性。

だから、「美意識を鍛える」とは、美しいものを「見る目」を養うことだけでは有りません。むしろ、矛盾や曖昧さを受け止めて、そこに意味や調和を見いだす力を養うこと。これが、AIでは代替できない、人間ならではの力ではないかと思っています。

次回に向けて

今回は、「経験」と「美意識」というテーマで、私の考えを紹介しました。

次回は、「美意識はなぜ持続に必要なのか」「なぜ不完全さの中に美があるのか」について、もうすこし掘り下げていきたいと思います。

「今」、AIが目覚ましいスピードで進化しています。

でも、だからこそ、「経験」と「美意識」という、一見アナログで古臭く見えることこそが、人間らしい要素であり、これからの時代を生き抜く鍵になる。自分はそう信じています。