CIOブログ:「用・強・美」― 建築が教える普遍の三原則 - 「AI時代を生きる武器」シリーズ第2回

2025年10月7日掲載

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こんにちは、ソフトバンクのCIOを務めている牧園です。

現在、私は専務執行役員 兼 CIOとして、IT・AI・セキュリティ・インフラ、データガバナンス、そしてプロダクト技術の責任を担っています。また、技術部門におけるDE&I(Diversity and Inclusion: 多様性のある働き方の推進)の推進責任者としても取り組んでいます。

2025年9月からCIOブログを開始して、2回目の記事になります。前回は「美意識こそがAIでは代替できない、人間ならではの力ではないか」という私の考えについて語りました。

今回は、建築の三原則「用・強・美」の原則を紹介し、その原則はITアーキテクチャーの美しさを実現するのに大切であることを紹介します。

目次

  • 本記事はすべてのエンジニアに読んでもらいたい記事です。
  • ソフトバンクのCIOの視点で、建築の三原則「用・強・美」の原則を紹介し、ITアーキテクチャーに通じる“美しさ”の本質についてお伝えします。

建築への原体験から

実は私、大学進学や就職を考えていた頃は、建築の世界に進むつもりでした。構造物がとにかく好きだったんです。

学生時代、私はリュックひとつで世界を巡り歩きました。ヨーロッパの街々から中東やアフリカの遺跡まで。石造りの大聖堂、幾何学模様をまとったモスク、未完成のまま建ち続ける教会、砂漠にそびえる古代遺跡……。

それぞれ文化も素材もまったく違うのに、そこには共通して「秩序と美しさ」が流れていました。リュックを背負い、ただひたすらに建築や構造物を見上げる日々。その体験が、私に「構造物には美が宿る」という感覚を深く刻み込みました

結果としてキャリアとしては建築ではなく 「ITの世界」 を選びましたが、今もアーキテクチャーにこだわるのは、そこに多くの共通点を見いだしているからです。

「用・強・美」という建築の三原則

建築は、ただモノを建てる行為ではありません。人間の営みや社会、自然との関係性までを含んだ、思考の産物です。

歴史を振り返ると、建築家たちは単に建物を設計するだけでなく、独自の思想や哲学を形にしてきました。こういった思想の源流をたどると、古代ローマにもその原型が存在します。

古代ローマの建築家ウィトルウィウスは、建築に欠かせない要素として「用・強・美」( Utilitas、 Firmitas、 Venustas )を挙げました。

  • 用(使えること):快適で便利であること。
  • 強(強いこと):安全で頑丈であること。
  • 美(美しいこと):人の心を動かす意匠であること。

この三つのバランスが取れてはじめて、建築は時代を超えて存在し続けます。どれか一つが欠けても、建物は人々から愛されず、いずれは壊されてしまう。

現在、ウィトルウィウスの建築作品自体は残っていませんが、彼の名が今も語られるのは全10巻の著作『建築十書』のおかげです。

そしておそらく多くの人が「ウィトルウィウス」と聞いて最初に思い浮かべるのは、彼の建物ではなく、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『ウィトルウィウス的人体図』でしょう。

人体の比率と建築的調和を重ねたあの図は、建築理論が芸術や科学へも波及した象徴的な証です。

構造の合理性が生む美

私が惹かれた数々の構造物は、この「用・強・美」を体現していました。

  • 高くそびえる塔は、構造的な合理性が、美を生んでいました。

  • 石を積み上げた大聖堂は、強度を追求した結果、崇高な垂直性を得ていました。

  • 何千年もの時を超える遺跡は、シンプルな形であるがゆえに、今も力強い存在感を放っています。

つまり、美とは、装飾から生まれるのではなく、「構造の合理性」から生まれるのです。

ITにも通じる三原則「用・強・美」

この「用・強・美」の三原則は、システムやITアーキテクチャーにもそのまま当てはまります。

  • 用(使えること):ユーザーにとって直感的であり、変化に合わせた新しい取り組みが可能であること

  • 強(強いこと):セキュアで、可用性が高いこと

  • 美(美しいこと):設計がシンプルで、メンテナンス性が高く、持続可能であること

短期的に動くだけのシステムは「用」しか満たしておらず、継続できません。セキュリティや可用性だけを高めても「使いにくければ無用」。そして「美」──すなわち保守性や設計の整合性──を欠いた設計は、メンテナンス不能な技術的負債となり、長続きしません。

三原則「用・強・美」をバランスよくアーキテクチャーに盛り込むことで、多くの人に愛される「美しい」システムになるのです。

CIOとしての思い

私が基盤設計やAI活用について議論する時にも、常に「用・強・美」のバランスを意識しています。

建築もITも、人が長く使い続けるものは必ず「美しい」

私が「美しさ」を大切にするのは、それが見た目や感情の問題ではなく、合理性と持続性の指標だからです。もはや必然性と呼ぶべきかもしれません。

整った構造には、誰が見ても理解できるロジックがあります。属人性を排除し、変更に強く、将来の成長を妨げない──そうしたアーキテクチャーこそが、構造的な必然から生まれる 「美しい設計」 です。

この考え方は、技術選定や設計レビューの場面だけでなく、チーム運営やプロジェクトの進め方にも活かせると感じています。「今さえよければいい」ではなく、「数年後にも耐えうる構造か?」を常に問い続ける。その視点こそが、CIOとしての私の行動指針になっています。

次回に向けて

次回は、この「美」と「持続性」の関係をもう少し掘り下げたいと思います。

なぜ「美しい」と感じられるものは長持ちするのか。なぜ「汚い」設計はすぐ破綻するのか。建築とITを重ねて考えていきます。

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