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こんにちは。ネットワークエンジニアとしてソフトバンクに新卒入社し、もうすぐ1年が経とうとしている阿部です。
入社前の私は、Wi-Fiの設定やIPアドレス、ポート番号といった「ネットワークっぽい用語」にはある程度馴染みがありました。大学の講義などで学ぶ機会もあり、「ネットワークのことは、なんとなく分かっているつもり」だったんです。
ところが、配属後に初めて WDM(波長分割多重) という言葉を聞いたとき、完全に頭が真っ白になりました。
「光ファイバー? 波長? 同時に何本も通せる?? どういうこと???」
それまで触れてきた “ネットワーク” とは、体感としてまったく別の世界がそこに広がっていて、正直かなりの衝撃を受けました。
この記事では、新卒1年目の私が「WDM」に出会って驚いた体験をもとに、この技術のすごさや、そこから得られた学びを等身大の視点でお伝えします。
「物理層?ちょっとよく分からないな」という方にも、「へぇ〜、ネットワークの裏側ってこんな風になってるんだ」と感じてもらえたら嬉しいです。
私がWDMという装置を初めて知ったのは、法人向け国内専用線サービスのネットワークデザイン業務に携わったことがきっかけでした。
設備構成の検討から開通・提供(デリバリー)までを追う中で、ネットワーク構成図や提案資料に「WDM」という記載を見つけました。その時、私がまず思ったのはこれです。
「……これ、ルータでもスイッチでもない。じゃあ何?」
当時の私は、「ネットワーク=IPやルーティングといった論理の世界」というイメージが強く、物理層の構成にはほとんど触れてきませんでした。そもそも、サーバーラックすらまともに見たことがない状態です。
「通信って、どこかで “光” として運ばれているんだよな」と意識する機会すら少なく、先輩たちの会話からは「このシャーシにカードを挿して…」「こっちのSFPモジュールが…」と未知の単語が飛び交いますが、頭の中は「???」。WDMがどんな役割を持つのか、どんな見た目なのか、まったくイメージが湧きません。
まるで、インターネットの“裏側の裏側”を初めて覗き込んでしまったような感覚。
ここから私は、WDMという技術の沼に足を踏み入れることになりました。
WDMは Wavelength Division Multiplexing(波長分割多重) の略で、1本の光ファイバーに異なる波長の光を同時に通すことで、複数の通信をまとめて運べる技術です。
最初は抽象的すぎてピンときませんでしたが、調べたり先輩に教わったりするうちに、頭の中でこんな風に変換できるようになりました。
光ファイバー = 1本の大きな道路
波長 = 道路に引かれたレーン(車線)
通信データ = レーンを走る車
「同じ物理的な線を共有しながら、波長という“色の違い(軸)”で分けて、お互いに干渉しないように運ぶ」
この発想に慣れた瞬間、「なるほど!VLANみたいな論理的な多重化とは違う、“物理的な多重化”なんだ」と一気に腹落ちしました。
ざっくりとしたデータの流れを1行で表すと、こんなイメージです。
[ルータ/スイッチ] → [トラポン] → [MUX] → (光ファイバー) → [DEMUX] → [対向トラポン] → [対向装置]
ここまで見えた段階で、私にとってWDMは「光を混ぜる不思議な魔法」から、「波長を使って超高速な交通整理をする仕組み」へと変わっていきました。
WDMの理解をもう一段深めてくれたのが、MUX/DEMUX という考え方と、トランスポンダ(通称:トラポン)の存在です。
MUX(Multiplexer):複数の波長を“束ねる”
DEMUX(Demultiplexer):束ねた波長を“ほどく”
「同じファイバーを共有しているのに、データが混ざらないのはなぜ?」という疑問は、これで解決しました。波長ごとに“出入口”が分かれていて、それぞれが別の通り道として扱われるから干渉しないんですね。
そして、WDMを調べるとでてくるものがトランスポンダ(トラポン)です。
トラポンの役割を私なりに噛み砕くと、こうなります。
「いつもの通信(Ethernetなど)を、長距離用の丈夫なカプセル(OTN)に詰め替えて、特定の波長(λ)に乗せて発射する装置」
ここで感動したのは、わざわざOTNという形式に変換する理由です。
単に形を変えているわけではなく、長距離伝送に欠かせない「誤り訂正(FEC)」や「監視(OAM)」といった仕組みを付加するためだったんです。これによって、長距離区間でデータが欠損するのを防ぎ、安定した通信を実現しています。
トラポンは単なる「電気を光にする箱」ではなく、いつものネットワーク(Ethernet)と、長距離伝送の世界(OTN)をつなぎ、波長へ乗せる架け橋のような存在だったのです。
さらに世界が広がったのは、WDMにも「CWDM」と「DWDM」という種類があることを知った時です。
ざっくり言うと、以下のようになります。
CWDM:波長の間隔が広め(ざっくり分ける)
DWDM:波長の間隔が狭め(超高密度で分ける)
同じ“波長で多重化する”技術でも、どれくらい細かく波長を使うか(=どれくらいレーンを細かく引くか)で、世界観がまったく変わります。
最初は「WDM=ひとつの装置」くらいの認識でしたが、実際には「波長をどう扱うか」という大きな設計思想の中に、方式や機器の役割が整理されている。
そう捉えられた瞬間、私の中でWDMが単なる「用語」から、立体的な「システム構造」へと進化した感覚がありました。
引用:JANOG54 「AIを支えるAll optical network」https://www.janog.gr.jp/meeting/janog54/wp-content/uploads/2024/05/JANOG54-allopt.pdf
※光伝送装置にWDMの技術が含まれている
こうして日々悪戦苦闘しながら仕組みを学んでいく中で、WDMに対する見方が大きく変わる出来事がありました。自社が掲げている「次世代社会インフラ」の構想(オール光ネットワーク)に触れたことです。
現在、ソフトバンクでは生成AIの爆発的な普及に伴う電力・計算資源の課題を解決するため、再生可能エネルギーが豊富な地方にデータセンターを分散配置し、需要の多い都市部と結ぶネットワークの構築を進めています。
この「地方と都市部を結ぶ大動脈」の中核を担うのが、WDMをはじめとする光ネットワーク技術です。
これまでの通信は、長距離を運ぶ途中のルータ等で「光から電気、電気から光」への変換を繰り返す必要がありました。しかし、WDMを駆使してネットワーク全体を光のまま(オール光ネットワーク)で繋ぎきることで、圧倒的な「低消費電力・大容量・低遅延」を実現しようとしています。
今目の前でウンウン唸りながら設計図と睨めっこしているこの技術が、ゆくゆくはAI社会の土台となり、日本のインフラそのものを支えていくのだと気づいたとき、一気に視界が開けたような気がしました。
こうして仕組みが少しずつ見えていく中で、一番印象に残ったのは、「WDMは表には出ないけれど、通信インフラの根っこを強烈に支えている」という事実です。
最近は5Gや衛星通信など“無線”の進化に注目が集まりがちですが、その裏で全国をつなぐ大容量データ通信を支えているのは、有線の光ファイバーと、それを限界まで活用するWDMのような技術です。
ラックに収まるシンプルな見た目でありながら、その役割は計り知れません。
入社前、私にとってネットワークは「設定やプロトコル」という論理の世界でした。
しかしWDMに出会って、「その論理の世界は、光や波長という屈強な物理の基盤の上に成り立っている」という当たり前の事実に、ようやく実感として辿り着くことができました。
20代半ばで社会人になった今、「未知の技術に飛び込んで、打ちのめされて、少しずつ理解していくこと」の楽しさを知れたのは大きな収穫です。
特に昨今は生成AIの爆発的な普及により、データセンターの重要性が増しています。その巨大なデータセンター同士を繋ぎ、膨大なトラフィックを捌いているのは、無線ではなく光ファイバーを用いた物理的な通信です。今回、WDMを通じてその物理層の仕組みに詳しくなれたことは、今後のエンジニア人生において強力な武器になると確信しています。
今後は、“AI時代のインフラ”を支えるエンジニアを目指していきたいという思いが芽生えています。
社会や未来を根底から支える、そんな「縁の下の力持ち」の技術に、これからも一つひとつ向き合っていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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