秋田県では、地域課題の解決や社会経済の変化に対応するため、デジタル技術を活用した社会変革と新たな価値創出を目指し、AI導入やシステム標準化などのDXを積極的に進めています。その取り組みの一つが決済窓口のキャッシュレス対応です。秋田県が管轄する66の施設にキャッシュレス決済サービス「PayCAS(ペイキャス)」を導入したことで、現金・証紙に加え、新たにキャッシュレス決済が可能となり、県民の利便性が大幅に向上しました。また、決済後の事務処理も減少し、職員の負担軽減にもつながっています。
「県民の利便性向上を目的として導入したキャッシュレス決済でしたが、結果的に事務作業量も減少し、業務効率化につながっています」
秋田県 出納局 会計課 副主幹 松橋 哲也 氏
秋田県では、令和4年3月に秋田県DX推進計画を策定し、「行政」「産業」「くらし」の3つの柱でさまざまなDXを行ってきました。中でも、県が所有する公共施設や美術館、体育館などの料金を支払う際にキャッシュレス決済ができるかどうかは県民の利便性向上に直結することから、積極的に推し進める必要がありました。
秋田県全体の決済窓口の中でも、圧倒的に決済件数の多い運転免許センターで手数料納付窓口を管轄する山内氏は、キャッシュレス決済導入前を次のように振り返ります。
「キャッシュレス決済ができると思って現金を一切持って来ない方もいらっしゃいました。その場合、『近くのコンビニなどで、現金を準備して再度来てください』と案内するしかありませんでした」(山内氏)
「今の時代、多くのスーパーやコンビニ、商店などでもキャッシュレス決済が当たり前になりました。県民の利便性を考えると、行政手続きにおいてもキャッシュレス決済を導入する必要性は高まっていると感じていました」(松橋氏)
その課題解決のために数社からの提案について、コスト面も含め検討した結果、要件に最も合致したのがソフトバンクから提案されたキャッシュレス決済サービス「PayCAS」だったと松橋氏は続けます。
「ソフトバンクのPOS一体型キャッシュレスサービスは、県で利用している財務会計システム内で使用する帳票作成に必要なデータを、POSシステムから連携することが可能でした。自治体は、収入金額を正確に確認、記録するための書類として調定票を作成する必要がありますが、これを作成するためのデータをPOSシステムと連携できる点は、非常に重要なポイントでした。
また、自治体における会計上、歳入と歳出の整合性をとる必要があります。それを実現するために、キャッシュレス決済のブランドごとに発生する決済手数料が収納金額から相殺されない仕組みを提供してくれたことも、大きな決め手となりました」(松橋氏)
秋田県が選んだ手数料精算を柔軟に選択できるサービス
キャッシュレス決済サービスの導入を決めた2024年6月から、本格運用が始まる10月までの4カ月間を松橋氏は次のように振り返ります。
「導入は決まったものの、本格運用までの時間が短かったため大急ぎで準備を進めました。中でも一番苦労した点は、キャッシュレス端末を扱う職員向けの『研修会や運用マニュアルの作成』です。秋田県には、県税事務所をはじめとした多くの県立の施設が存在します。それらの窓口職員全員がキャッシュレス端末を使いこなせるようにしておくためには、マニュアルの整備や研修の開催は急務でした。
研修方法についてはオンラインでの開催も検討しましたが、実際に実機や画面を触ってもらわないと身につかないと思い、設置予定の施設を周って手を動かしながら覚えてもらいました。研修会の回数は、県北・県南・県央の3区域に分けて午前と午後の1日2回実施し、運転免許センターは導入機器が違うので、別枠で1回、合計7回の研修会を開き、職員へのサポートは手厚く行いました」(松橋氏)
また、POSシステムの中で手数料ごとに科目を登録する、「科目登録の集計」にも苦労したと松橋氏は続けます。
「会計課だけで、県内すべての手数料を科目分けするのは不可能であったため、各所管課に科目の洗い出しを依頼しました。最終的にはキャッシュレス決済を導入する県内全ての機関の手数料科目を積み上げたところ、約6,000もの科目があることが分かり、それらを登録する作業は会計課で行いました。
また、決済ブランド別の利用申し込み手続きも、10月からの運用開始に間に合わせるため、急ぎで対応しなければなりませんでした。しかし、ソフトバンクの担当者ができるだけ工数がかからないようにとしっかりとサポートしてくださいました」(松橋氏)
2024年10月から県内施設の計66カ所で、キャッシュレス決済が可能になりました。導入が決まった後も、実際の運用や現場のニーズに合わせた独自の提案があったと松橋氏は話します。
「特に決済件数が多い運転免許センターでは、iPad のPOSレジを使用した方が事務作業の効率化につながると提案いただきました。ソフトバンクさんは運用に合わせた機種やサービスを提案してくれました。その結果、秋田県のニーズに合った最適なキャッシュレス決済システムを導入することができたと感じています」(松橋氏)
運転免許センターで使われるiPad 型POSシステム
キャッシュレス決済の導入により、窓口で支払いをする際の選択肢が増え、県民の皆さんの利便性は大幅に向上していると、今回の導入を進めた会計課の松橋氏は話します。
「実際にキャッシュレス決済をした県民に対して、2025年1月~2月の間アンケート調査を行ったところ、『非常に満足』または『満足』と答えた方が約9割を占める結果となりました」(松橋氏)
県民に、より快適なサービスを提供できるようになったことに加え、現金・証紙を取り扱う職員の負担も減少したと山内氏は続けます。
「キャッシュレス決済を導入したことで、私たち職員の業務効率も大きく向上したと感じています。現金・証紙のみの取り扱いであったときは、レジを締めた後に収納金額の確認、金庫や金融機関への入金作業に多くの時間が必要でした。しかしキャッシュレスでの取り扱いが増えた今は、これらの手間が減ったことで、バックヤードでの事務処理が大幅に減少しました。
さらに、現金・証紙での支払いが主流だった頃は、証紙の消印漏れやお釣りの渡し間違いといった人為的なミスが起こりやすく、ミスの事後処理対応にも時間を割かれていました。しかし、キャッシュレス決済では現金や証紙といった物理的なものを扱わないため、ミスが発生しにくい環境になったほか、『ミスをしてはいけない』という職員の精神的負担も軽減したと感じています」(山内氏)
このように、納付後の処理が効率化されたことにより、業務時間の削減につながり、職員一人一人の作業負担が軽減されています。
現在、運転免許センターでは、全体の約20%がキャッシュレスでの支払いを行うようになり、窓口に列ができることも増えてきているため、キャッシュレス対応の窓口を増設する予定とのこと。また、最終的には窓口に来られたお客さまがQRコードなどで更新区分や手数料を読み込み、支払いまで完結できるような仕組みを構築していきたいと展望を語ります。
県は引き続きキャッシュレス決済の利用率や利用額をモニタリングしつつ、利用者の増加が見込まれるようであれば、さらに多くの収納窓口でキャッシュレス決済を導入することを目指しています。こうした試みは、県民サービスの向上にとどまらず、会計業務の効率化や省人化といった部分にも大きく寄与し、秋田県のDXをさらに推し進めていくことでしょう。
お話を伺った方
秋田県 出納局 会計課 副主幹
松橋 哲也 氏
秋田県警察本部 交通部 運転免許センター 管理第一係 係長
山内 知明 氏
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