お客さま
静岡県裾野市
従業員規模
101〜500人
業種
公共
導入サービス
・LTEモデル Chromebook
・ヘルプデスク
・ICT支援員
・現地保守サポート
・端末管理(MDM)
・フィルタリング設定
・Google for Education
・授業支援ツール「ミライシード」
GIGAスクール構想の推進で多くの自治体が悩む「ICT担当者不足」と「教職員の負担増」。裾野市では、構想の前倒しという緊急事態の中、校内Wi-Fiを経由したGIGA端末の利用ではなく、どこでもインターネットにつながるLTEモデル端末の利用へと大きく方針を転換しました。その背景には、「子どもたちがどこでも学べる環境」の実現と、長期的なコストメリットがありました。裾野市は端末導入から運用まで一貫したサポート体制も構築することで、子どもたちの学びの保障と、教員の働き方改革を両立させています。
「いかに職員の負担を減らせるか。専属の担当者を置けない状況で、学校現場から直接問い合わせできるヘルプデスクの存在は、我々にとって必須条件でした」
裾野市教育委員会 教育部 教育総務課 技師 杉橋 晃 氏
国によるGIGAスクール構想の前倒し方針が示された令和2年度。全国の自治体がそうであったように、裾野市もまた、詳細な計画も予算もない「ゼロ」の状態からのスタートを余儀なくされました。まさに青天の霹靂でした。
「私が教育総務課に来た令和2年4月の時点では、GIGA端末を整備するための予算は全くありませんでした。しかし年度が始まる直前に『令和2年度中に整備せよ』という話になり、『どうしようか』と頭を抱えたのが始まりです」(杉橋氏)
折しも、新型コロナウイルス感染症の影響で令和2年4月から5月にかけて学校は一斉休校になりました。「この状態がいつまで続くのか」「子どもたちの学びをどう保障すればいいのか」という、これまでにない強い危機感が現場を覆っていました。その不安が、端末導入の必要性を単なる「国の事業」から、「喫緊の課題」へと押し上げました。
「国に言われて始めた事業ではありますが、この端末があれば自宅でも学習を進められますし、オンラインで子どもたちとつながることができます。これは絶対に子どもたちのためになる、という強い思いがありました」(杉橋氏)
当初、裾野市では各学校に校内Wi-Fi環境を整備する方向で動き始めていました。すでに令和2年6月の議会で設計予算を確保し、7月には発注。夏休みを利用して設計事務所が各学校の調査を進めている段階だったと言います。しかし、その水面下で当時の担当者は「本当にWi-Fiで良いのか。LTEモデルの方が良いのではないか」と悩んでいたと言います。
「Wi-Fi環境を整備するには数億円という莫大な初期費用がかかり、将来的な機器更新や学校再編のたびに、継続して工事費が発生します。一方でLTEモデルであれば、月々の通信料を支払うだけで常に最新の通信環境が利用できる。その長期的なコストメリットは明らかでした。そしてもう一つ、議会にも強く訴えたのが『Wi-Fi環境のないご家庭でも、子どもたちがどこでも学習できる』という公平性の観点です。教室の中だけでなく、校外学習や自宅でも等しく使える利便性が、最終的な決め手となりました」(杉橋氏)
庁内で粘り強く説明を重ね、理解を得た結果、市はWi-Fi整備の設計を発注してからわずか2カ月後の9月議会で、LTEモデルへの方針転換という、大きなそして迅速な決断を下したのです。
前例のない規模とスピードで進むプロジェクトであるため、事業者選定のプロポーザルで、裾野市が最も重視したポイントは極めて明確でした。それは「いかに教職員の負担を増やさず、子どもたちの学びを止めないか」という、日々の運用を見据えた現実的な視点でした。
「教育委員会にICT専任の担当者を置けるわけではなく、皆がほかの業務と兼務している状態です。そんな中で、市内の全小中学校の児童生徒、教員、そして保護者から何か問い合わせがあった際に、その都度教育委員会がハブとなっていては業務が回りません。直接問い合わせができるヘルプデスクの存在は、我々にとって必須条件でした」(杉橋氏)
端末の性能や通信環境の質はもちろん重要ですが、それ以上に、導入後の運用を円滑に行うために学校から直接相談できる「トータルサポート」の体制を作ることが、子どもたちの学びを止めず、かつICTに不慣れな教職員が疲弊しないための生命線だと考えました。
令和3年から本格的に活用が始まったGIGA端末は、教育現場に大きな変化をもたらしました。当時小学校で勤務していた山本先生は、「子どもの学び」と「教員の働き方」の両面で効果を実感しています。
<子どもの学びに起きた変化>
「まず、不登校や病気で長期欠席を余儀なくされている子どもたちに、オンラインで授業をライブ配信したり、録画した動画を届けたりすることで、『学ぶ権利』を具体的に保障できるようになったことは非常に大きな変化です。また、これまでは大きな模造紙に数人がかりで書き込んでいたグループワークも、今は各自の端末から一つのデジタルシートに同時に意見を書き込めるので、友達の考えをリアルタイムで知り、自分の考えを深めることができます。テストが早く終わった子は各自デジタルドリルに取り組んだりもできるので、時間を持て余す子もいなくなりました」(山本先生)
<LTEモデルだから実現できたこと>
こうした学びの質の向上は、LTEモデルを選択したからこそ、教室の外へも大きく広がりました。
「体育の授業で運動場にいる生徒が、自分の身体のフォームを動画で撮影してすぐに確認し、改善につなげていました。また生活科の授業では、校庭の植物の写真を撮って観察記録としてオンラインで提出したり、社会科見学で訪れた施設で調べたことをその場でまとめたりもできます。学びの幅が物理的な制約を超えて、大きく広がりました。もしこれが校内でしか使えないWi-Fiモデルだったら、こうした活動はかなり制限されていただろうなと思います」(山本先生)
さらに、教育現場だけでなく、管理側の視点からもLTEモデルのメリットは大きいと杉橋氏は語ります。
「トラブルシューティングが非常に楽な点です。通信が不安定な場合、ソフトバンクさんに一本電話すれば解決に向けて動いてもらえます。これが校内Wi-Fiだと、原因がアクセスポイントなのか、ネットワーク機器なのか、私たち自身で原因の切り分けに当たらなければならず、大変な手間がかかります。その目に見えない運用負担がないのは、ICT担当者を置けない我々にとって非常に大きなメリットです。通信容量についても50GBの大容量プランで設定しているため、これまで大きな問題もなく、非常に安定して運用できています」(杉橋氏)
<教員の働き方の変化>
一方、教員の働き方も変わりました。特に小学校で日常的に行われていた、教材を拡大印刷し、切り貼りして黒板に掲示するといった地道な作業は、端末の画面をプロジェクターで投影すれば済むようになり、授業に向けた準備の時間とコストが大幅に削減されました。作成した教材データを学年内で簡単に共有できるため、教員間で協力し、教材研究の時間をより効率的に使えるようになりました。
こうした日々の変革を力強く支えているのが、導入時にこだわった手厚いサポート体制です。
「正直、私たち教員集団はICTが苦手な者も多いのが実情です。そんな中で、何かあればすぐに電話で丁寧に対応していただけるヘルプデスクと、定期的に学校を巡回して直接相談に乗ってくれるICT支援員さんの存在が本当にありがたいです。『こんな初歩的なことを聞いていいのだろうか』という不安を抱える先生も、安心して端末を使うことができています。このサポート体制がなければ、現場はもっと混乱していたと思います」(山本先生)
安定した通信・運用基盤が整った今、裾野市は次期端末更新、通称「NEXT GIGA」を見据え、教育のさらなる質の向上を目指しています。
施設・管理側の視点では、現在の安定した運用を継続していくことが最優先事項です。その上で、「子どもたちが多少乱暴に扱っても壊れにくい、より頑丈な端末が出てくるとうれしいですね」と、杉橋氏は次期端末への期待を語ります。日々の活用の中で避けられない故障リスクを低減し、子どもたちがより気兼ねなく使える環境を整えることも、次のステップの重要な課題です。
一方、教育内容の面では、まず教員のICTスキル平準化が大きな課題として挙げられます。
「端末を使うことへの『抵抗感』はなくなってきましたが、『使いこなせているか』というと、先生によってかなり差があるのが現状です。最先端の機能を活用している先生もいれば、最低限の使い方にとどまっている先生もいます。この差は、そのまま子どもたちが受ける教育の差につながってしまう可能性があるので、先生方のスキルの平準化は今後の大きな課題だと捉えています」(山本先生)
こうした教員全体のスキルアップを土台としながら、さらに「AIの活用」も大きなテーマとなっています。
「現在、裾野市では教員は研修などでAIを利用していますが、児童生徒にはまだ使わせていません。まずは教員がAIのメリット・デメリットをきちんと理解し、子どもたちを適切に指導できる体制が整ってから、段階的に導入を進めたいと考えています」(山本先生)
技術をただ与えるのではなく、その特性を理解し、倫理観を持って正しく活用できる力を育むことが必要で、情報モラル教育の強化は、これまで以上に教育の根幹に関わる重要な視点であると山本先生は強調しました。
裾野市の教育は、教員のICTスキル平準化、AIの適切な活用、そして情報モラル教育の強化といった、次のステージを見据えています。
最後に、他の自治体担当者へのメッセージを伺いました。
「私のようにICTが専門でない人間でも、問題なく運用ができているのは、端末の導入から通信、そして日々の運用サポートまで、全てをソフトバンクさんにお任せできる体制を最初に構築できたからだと思っています。『担当者が代わってもICT環境の質を維持できる』この仕組みを作ることが、結果的に一番効率的で、教育の質を担保することにつながるのではないでしょうか」(杉橋氏)
「もし、学校現場からの無数の問い合わせを全て教育委員会で受けていたら、間違いなくパンクしていたでしょう。子どもたちの学びを止めないためにも、私たち職員の負担を軽減するためにも、学校現場が直接相談できるサポート体制は不可欠だと改めて感じています」(山本先生)
子どもたちの未来のために。そして、その教育を支える先生たちのために。「担当者」ではなく「仕組み」で支える。裾野市の先見性のある選択は、同じ課題を抱える多くの自治体にとって、重要なヒントとなるでしょう。
お話をうかがった方
裾野市教育委員会
教育部 教育総務課 技師
杉橋 晃 氏
裾野市教育委員会
教育部 学校教育課 指導主事
山本 哲平 先生
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