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移動に便利、だけじゃない。最近よく見るシェアサイクリングの意外な可能性

移動に便利、だけじゃない。最近よく見るシェアサイクリングの意外な可能性 移動に便利、だけじゃない。最近よく見るシェアサイクリングの意外な可能性

日ごろ、何気なく利用する自転車が、街や社会のいろんな問題を解決していることをご存じでしょうか? もともとはソフトバンクの社内新規事業提案制度から始まり、今や国内シェアでトップのシェアサイクルサービスにまで成長した「HELLO CYCLING」は、単なる移動手段にとどまらず、街の防災対策などにも取り組んでいます。
今回は、「HELLO CYCLING」が描く未来像と今後の可能性について宮田裕章さんが迫ります。

PROFILE

  • 宮田 裕章
    MIYATA HIROAKI

    慶應義塾大学医学部教授

    1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。「データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う」ことをテーマに幅広い活動を行っている。コメンテーターとしてさまざまなメディアにも出演。

OpenStreet株式会社 代表取締役 CEO

工藤 智彰(くどう ともあき)

使ったことはないけれど... シェアサイクルの意外な魅力

使ったことはないけれど... シェアサイクルの意外な魅力

宮田

今、ニューヨークやアムステルダムなどグリーンエコノミーを推進している世界の都市が移動手段としての自転車活用に力を入れています。東京でも最近、シェアサイクルのステーションをよく見かけるようになりました。

工藤

そうなんです。宮田さんは利用されたことはありますか?

宮田

私はまだ使ったことはないのですが、周りには日常的に使っている人が結構います。みんな、すごく便利だと言っていますね。シェアサイクルを活用すると行動範囲が一気に広がって、駅から徒歩だと行きづらいお店などにも気軽に足を運べるようになるのはいいですよね。

工藤

私たちが手がける「HELLO CYCLING」のユーザーからも「普段足を伸ばさないエリアに行くようになった」「地元にこんな場所があったんだ、と新しい魅力を知ることができた」といった声が寄せられています。特に都心部では、普段から自宅と最寄り駅を往復しているだけで、駅の周辺エリアにはほとんど行く機会がないという人も多いと思うんです。

宮田

シェアサイクルがさらに普及していくことで、今まで注目されていなかった知られざる場所が人気スポットとして注目を集め、街が活性化していくような可能性も考えられますね。
そういえば、私も豊島や直島に行ったときに、レンタサイクルをよく使っていたのを思い出しました。自転車のいいところは、季節の変化を五感で感じられるところ。自動車や電車に乗っているときより、見える景色が全然違ってくる。雨が降っているときは自転車の移動は大変ですけど、そんな雨の日すらも楽しめるような仕組みが「HELLO CYCLING」にもあると、おもしろいかもしれないですね。

工藤

宮田さんがおっしゃった季節を感じるような自転車の魅力に惹かれて、「HELLO CYCLING」を使ってくれているユーザーも増えている気がします。日光のような観光地では秋口にロングライドのユーザーが一気に増えて、いろは坂を登って中禅寺湖まで自転車で走破するような人もいますね。

最近は地域活性化のためにシェアサイクルで周遊をうながすキャンペーンを実施する自治体も増えていますし、シェアサイクルアプリの地図上に店舗情報やクーポンを掲載したピンを立てたり、位置情報を活用したスタンプラリーを実施したりと、いろいろなおもしろい取り組みも出てきていますよ。

地域とも連携し、さまざまなキャンペーンを実施

(地域とも連携し、さまざまなキャンペーンを実施)

データで可視化すると見えてくる、シェアサイクリングの使われ方

データで可視化すると見えてくる、シェアサイクリングの使われ方

宮田

世界の都市でシェアサイクルが普及している一つの背景として、世界的な脱炭素化の流れもあると思います。社会全体の二酸化炭素排出量を減らすには、自家用車の利用をできるだけ減らして、公共交通機関を活用する方がベターです。しかし、電車やバスといった公共交通機関は目的地や路線が決まっているので、どうしても行ける場所が限られてしまう。

交通インフラが発達している東京でも、駅と駅を結ぶ「横」の移動はできても、別の路線間をまたぐような「縦」の移動は難しかったりしますよね。そうした移動の “隙間” を補うひとつの手段として、シェアサイクルは非常に有効だと思いますし、私たちの移動の選択肢が増えることで、自家用車の利用もおのずと減っていくかもしれません。

工藤

特に地方では、都市部のように公共交通機関が張り巡らされている地域は少なく、多くの人が移動手段として自家用車を使わざるをえない現状があります。

宮田さんがおっしゃったような移動の “隙間” となっているところを「HELLO CYCLING」がカバーすることで、駅やバス停までの移動を補完することができますし、公共交通機関の利用をさらに促進するような相乗効果も期待できます。そのように車を使わずに移動できるエリアを拡大することこそが、「HELLO CYCLING」の大きな使命だと考えています。

利用シーンの様子

(利用シーンの様子)

HELLO CYCLINGでの移動軌跡

(HELLO CYCLINGでの移動軌跡)

宮田

バスを1本逃すと、次のバスまで何時間も待たなければいけない地域もたくさんありますからね。交通インフラが十分に整っていない地域の課題を解決する一手にもつながりそうです。

宮田

現在、「HELLO CYCLING」のステーションは全国にどれくらいあるんですか?

工藤

ここ5年で10倍ほど数が増え、2023年現在では全国に約7,100カ所のステーションが設置されています。先ほどお話した公共交通機関だけでは不便な場所をカバーするような使い方も、エリアによってはかなり定着してきている印象です。例えば、車社会と公共交通機関社会のちょうどはざまにある埼玉のようなエリアだとそうした傾向が顕著です。

大宮駅前のステーションの利用グラフ平日23時以降の利用が増えている。

(大宮駅前のステーションの利用グラフ平日23時以降の利用が増えている。)

工藤

上のグラフは大宮の少し先の郊外エリアにおける、駅前ステーションの利用状況を時間帯ごとに区切ったデータです。グラフの赤い箇所がステーションから出ていった人(自転車を借りていった人)、青い箇所がステーションに入ってきた人(自転車を返しに来た人)を表しています。

このエリアでは自宅からバスで駅まで移動し、電車で都心部へ通うようなライフスタイルの人が多いのですが、データを見ると平日の23時以降の利用が急増していることがわかります。最終バスが出てしまった後に、仕事帰りの人が公共交通機関の代替手段として「HELLO CYCLING」を活用してくれていることが、データから見えてきます。

宮田

こうやってデータを可視化すると、いろいろなことが見えてきそうですごくおもしろいですね。

災害時の移動手段や非常用電源としての活用も!?

宮田

その他に注力していることはありますか?

工藤

まちづくり文脈でもさまざまなことをやっています。例えば、SDGsの先進都市と言われている埼玉県さいたま市とは包括連携協定を結んでおり、実証実験に取り組んでいます。特に力を入れて進めているのが、防災対策へのシェアサイクルの活用です。

さいたま新都心バスターミナルのステーション

(さいたま新都心バスターミナルのステーション)

工藤

大きく2つあって、1つ目が災害時の非常用電源として「HELLO CYCLING」の電動アシスト自転車のバッテリーを活用する取り組み。緊急時にだけ使用する蓄電池を町中に配備することは現実的ではないので、日常的にさまざまな場所で使われているシェアサイクルのバッテリーを電力枯渇時や災害時の非常用電源として活用しようという取り組みです。

2つ目が災害時の移動手段としての活用。公共交通機関がストップした際に、自治体職員や医療関係者が避難所や病院にスムーズに駆けつけられるように、緊急時に「HELLO CYCLING」のスマートロックを解除できる防災カードを自治体職員や医療機関の方にお渡ししています。

宮田

日常的に使っている自転車を、そのまま災害時に役立つツールに転用するという発想がいいですね。

バッテリー駆動インバーター:災害時にシェアサイクルのバッテリーと組み合わせることで自立型電源として活用可能になる

(バッテリー駆動インバーター:災害時にシェアサイクルのバッテリーと組み合わせることで自立型電源として活用可能になる)

工藤

他にもさいたま市では、脱炭素化に向けた取り組みも進めています。シェアモビリティの利用データを活用して地域の移動傾向の変化を推計し、CO2削減量の変化を可視化するダッシュボードを開発中です。将来的には地域内での移動の選択が街の脱炭素化にどのように寄与しているかを、市民が確認できる仕組みの構築を目指しています。

宮田

シェアサイクルを導入することで移動手段としての脱炭素化を図ると同時に、そこから集めたデータを活用し、さらに効率的な脱炭素化の取り組みを目指していく。そんなポジティブな循環が生まれていきそうで、素晴らしいなと思います。

OpenStreet1が目指す取り組み あらゆる交通結節点に環境配慮型のマルチモビリティステーションを

工藤

先ほど、シェアサイクルのバッテリーを災害時に活用する取り組みについてお話しましたが、今後はあらゆる交通機関の結節点に環境配慮型のマルチモビリティステーションを設置していく予定です。将来的には自転車だけにとどまらないスローモビリティも含めた複数の電動モビリティを置き、移動ニーズに合わせて選択できるモビリティハブを目指していきます。

また、そこに置かれたモビリティはクリーンエネルギーで給電し、災害時には緊急用電源として使うことで、街の災害に対する強靭(きょうじん)化にも貢献していきたいと考えています。

静岡駅北口駅前広場ステーションを「災害レジリエンス強化型 再エネステーション」へリニューアル

(静岡駅北口駅前広場ステーションを「災害レジリエンス強化型 再エネステーション」へリニューアル)

宮田

たくさんの人が利用する交通機関のハブは、そのままコミュニティの中心的な存在になり得る可能性も大きいと思います。エネルギーの地産地消にも貢献できそうですね。

またシェアサイクルを通じて収集したユーザーの属性や利用時期、移動時間、行き先や利用頻度などのデータをマーケティングに活用することもできる。例えば、この時期のこの場所に人が集まると分かれば、そのタイミングに合わせてイベントを開催したり、移動屋台などを出したりもできる。そうやって新たな体験価値をつくることで、地域の魅力や可能性をさらに広げていくこともできるのではないでしょうか。

工藤

そうですね。シェアサイクルのステーションは設置して終わりではありません。そこを通じて集まってきたデータをもとに、新たな社会課題解決、地域活性化のための手が打てます。集めたデータをもとに、より有益な場所へステーションを設置することもできますし、そうやってステーションなどのインフラが整備されるとともに、さまざまな事業者に参加してもらって、新しい付加価値を持つサービスを実現することも期待しています。

宮田

運動量が足りていない日はシェアサイクルアプリが「いつもより3駅前で降りて、自転車で家へ帰ってみてはいかがですか?」などと提案してくれる。そんな健康向上やウェルビーイングに貢献するサービスも生まれそうですよね。

今日のお話をお聞きして、「HELLO CYCLING」が社会の課題を解決し、多様な未来のあり方にもつながっていくサービスであることがよくわかりました。「HELLO CYCLING」がさらに普及していけば、都会も地方も観光地もどんどん楽しく、快適なものになっていきそうですね。

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