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高齢者にこそデジタル防災が必要。宮田裕章が語るその真意とは

高齢者にこそデジタル防災が必要。宮田裕章が語るその真意とは 高齢者にこそデジタル防災が必要。宮田裕章が語るその真意とは

世界有数の高齢化社会である日本。特に地方に目を向けると、65歳以上の高齢者が全体の3割を超える地域もあります。このような地域高齢化に伴い、自然災害発生時の避難の問題など、地方自治体における災害対策がますます求められています。

このような中、地域課題解決のカギとして注目され、各地で取り組みが進められているのが自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

デジタル防災など、自治体のデジタル化の必要性と可能性について、データサイエンティストの宮田裕章さんとともに探っていきます。

PROFILE

  • 宮田 裕章
    MIYATA HIROAKI

    慶應義塾大学医学部教授

    1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。「データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う」ことをテーマに幅広い活動を行っている。コメンテーターとしてさまざまなメディアにも出演。

会津若松市のデジタル推進を担当

ソフトバンク株式会社 会津若松デジタルトランスフォーメーションセンター センター長

馬越 孝(うまこし たかし)

会津若松市で進むデジタル防災とは

まずはソフトバンクが2020年4月に設置した「会津若松デジタルトランスフォーメーションセンター」のセンター長の馬越孝を交えて、会津若松市での事例とともに、デジタル防災のあるべき姿を考えます。

なぜ会津若松市では地域のデジタル化の取り組みに注力しているのでしょうか?

馬越

会津若松市は、市長をはじめ市役所の方々や市議会、町内会などが広く連携し、デジタルの活用で地域の社会課題を解決しようとしています。全国の自治体の中でもその熱意、本気度がとても高い地域と言えます。

そんなデジタルを活用し社会課題を解決しようという思いが私たちと合致し、地元の方々と一体になり、ヘルスケア・防災など12の分野でデジタル化を進めています。

ソフトバンクが自治体と取り組む防災のデジタル化

大規模災害発生時の対応には、自治体と防災関連機関、医療、福祉、関連企業、そして住民同士が相互に連携した共助の仕組みが大切だと考え、誰もが利用しやすいデジタルインフラの構築を支援。 地域特有の課題や現場ニーズを理解し進めている。

宮田

私も会津若松市のDX推進のアドバイザーを務めたことがあるのでよく知っています。会津若松市は、地形的にも文化的にも独立心や一体感がある地域です。そのような場所で、全国に先駆けたデジタル化の取り組みが進められていることは非常に面白いと思っています。現在は、どのような取り組みに特に力を入れているのでしょうか?

馬越

会津若松市も全国の地方都市と同様に少子高齢化が進み、地域活力の低下や医療費の増大などが課題になっています。このような地域で先進的な事例をつくること、そして高齢者たちが安心して暮らせる街を目指すために、最も注目しているのが地域防災力の向上です。

防災は、高齢者がデジタル技術のメリットを実感しやすいですし、これからの日本でデジタル防災の進歩こそが必要不可欠だと考えているからです。

2023年3月に提供を開始したサービス「デジタル防災」は、普段から市民が危険箇所を投稿し、災害時には今いる場所から最適な避難場所へのルートが表示されるとともに、家族の安否状況を確認できます。

会津若松市で使える デジタル防災 デジタル防災は防災用品の設定や災害情報の通知、安否回答などの機能を提供し、平時から災害時まであなたの災害行動をサポートするサービスです。

馬越

高齢者の方は、デジタルツールやアプリをいきなり使いはじめることに抵抗感があると思うので、ひとりでも多くの方にご利用いただけるよう、日常的に集まっている町内会の会合に繰り返し参加して、ご家族の方と一緒に体験いただくようにしています。

また、災害発生時は適切な支援こそが重要です。そのため、医療や福祉、介護と連携し、要支援者のケアをスピーディに行えるような仕組みづくりも進めています。

例えば「その人が補聴器をつけているかどうか、身の回りの方は知っているけど、災害が起きたときに救護側も事前に把握できるよう、市民データとしてまとまっているといいね」というような話がありました。

高齢者の方が、普段どんなコミュニティーで暮らしていて、どんな困りごとがあるのか、細かい情報一つ一つについて、データを共有すること、活用することの意味を理解してもらう取り組みを地道に続けています。

その時どこにいるのか、どのような支援をすべきか知るために。デジタル化を進める必要性

宮田

医療、福祉、介護におけるデータの情報共有の話がありましたが、集めたデータはどのように活用するのでしょうか?

馬越

会津若松市では「介護や福祉などケアが必要な方」のサポートを重視しています。市の地域包括支援センターや医療従事者と連携し、日々の体調、飲んでいる薬や杖・補聴器の利用の有無など、市民の皆さまの情報を「つながるデータ」として登録しています。その際には、データの利用目的はもちろん、誰に共有してよいかなど個人の意思で選択し設定できるようにしています。

宮田

日常的に収集したデータをもとに市民をサポートする仕組みは素晴らしいですね。災害時にも、そのデータが生かされるということですよね?

馬越

はい、そのデータを生かすため、日頃から「山間部で自然災害が発生した場合」など具体的な災害状況を設定し、避難訓練や町内会の集まりで議論を行っています。
エネルギーの確保はできるのか、どんなサポートが必要か、などを明確にするとともに、防災・ヘルスケアなどのデータをひとつなぎにすることで適切な支援ができると考えています。

宮田

緊急時に寄り添ってくれるということは、自治体と市民の信頼関係を築いていく上でとても重要なことです。データの活用はさまざまなことができると思うのですが、優先順位などはあるのでしょうか。

馬越

現在最も優先度が高いものとしては、豊かな自然環境や温泉地、農地がある中山間地域での「つながるデータ」の登録と共有です。高齢者の割合が高く、災害が発生した場合、避難のサポートや医療の支援が必要だとわかっています。そのため、市や消防団が平時から状況を把握すること、実情に即した支援を行うことが重要だと考えています。

(会津若松市 総合防災訓練の災害対策本部の様子)

(会津若松市 総合防災訓練の災害対策本部の様子)

馬越

災害時、安否確認に応答できない状況も多くあります。今どこにいるのか、そこはハザードマップ上で危険なところではないか、緊急で支援を必要としているのかなど、一人一人の確かな情報をスピーディに集めるため、地域コミュニケーションやデータ収集は重要な取り組みと考えています。

宮田

東日本大震災の時、透析患者が、どこに、どれくらいいるのか把握できず、どう支援すればいいかわからない状況でした。サポートが一定期間途切れれば生存自体が厳しくなる中、どれくらいの緊急度でどうサポートに向かえばよいか、現地の実情はどうなっているのかを、連絡なしにすぐに把握できればいい、と痛感しました。

馬越

そうですね。大きな災害のときは、支える側である自治体・消防の方も被災者になります。本来助ける役割の人が被災しても、デジタル化しておくことで地域外から救助にきた人が状況をすぐに確認できる。そういった仕組みづくりも重要だと思っています。

宮田

確かに全ての人に限られたリソースを注ぐことは不可能ですよね。人員をどう振り分けたら、助けを必要としている人を取りこぼさないようにできるか。局面も違い判断基準もさまざまではありますが、前提としてデータがなくては判断ができないことも多いかと思います。

会津若松の人口規模だからこそ、この取り組みができたのかもしれません。ですが、取り組みが成功してモデルケースを確立すれば、もっと大きな都市圏、ほかの国やエリアにも提供できる可能性は大いにあるのではないでしょうか。

防災だけじゃない。自治体のデジタル化による地方創生の可能性

宮田

今後、防災以外にどのような取り組みに力を入れていくのですか?

馬越

他地域との連携ですね。会津若松市の取り組みは成果も含め全国に公開されています。そして日々、他地域の方と苦労したことや工夫したことなどの情報交換をしています。ほかの自治体でも、会津若松市のデジタル化を模範にして取り入れていくといった気運が高まっているように感じています。

今までは会津若松市という単位でしたが、自治体で区切るのではなく「生活圏・交流圏」で捉え、喜多方市などの隣接自治体、日光など会津と交流の深い地域とも連携していきたいと考えています。

宮田

会津若松市ではデータ収集の目的を明確化し、市民の同意を得たうえでデータを提供してもらう「オプトイン」方式を取り入れたことがポイントだと思っています。ほかの地域で展開する場合でも、やはりデータの収集、共有や活用が重要ですね。

馬越

そもそもオプトインという言葉が難しいので、 皆さんに意味を知ってもらうことから始まりました。防災アプリ同様、データを「何のためか」「誰に共有するか」「自分の意志は反映されるか」、そして「なぜ重要なのか」を町内会や地域の集まりで繰り返し伝えたんです。その結果、 市民の皆さまにデータを活用することについて納得いただき、地域のデジタル化が進んでいる状況です。

宮田

なるほど。日本人は理由がしっかりしていて信頼できるのであれば、データの提供も抵抗がなく、活用してほしいという人は多いと思います。

例えば、マイナンバーは国民に有効な活用が見えておらず信頼が得られないという現状があります。会津若松市のように顔が見える信頼関係の中で、何に使われるのかを伝え同意を得てデータ活用するということは良い取り組みですね。

馬越

逆に宮田さんにお伺いしたいのですが、防災面以外の分野でも、地方創生を目指す上でデジタル化は重要だと言われていますよね。そのあたりの進み具合や課題についてどのように考えていますか?

宮田

地方創生の重要性はずいぶん前から言われていますが、100年以上続く都市化のトレンドにあらがうのが難しいのも現実です。実際に今も世界中で都市化が進行し、日本でも東京への一極集中が続いています。

そのような状況だからこそ、地方のデジタル化は重要だと考えています。「一つの地域で閉じて先進的な事例をつくる」のではなく、デジタルであればいいものをほかの地域にも共有することでさらに良い取り組みにできる、もしくはデジタルで地域同士がつながり新しい価値が創造できると考えています。
そのような意味で、今回の会津若松市の「緊急事態で最善をつくせるように情報を同期していくこと」はすごく重要な考え方ですよね。ぜひ取り組みが広がっていくといいと感じています。