働き方改革が進み、この数年でオンライン会議やコミュニケーションツールなどアプリやクラウドサービスが広く普及し、働く環境が大きく変化してきています。アプリやクラウドサービスの利用に不可欠なネットワークサービスもまた進化を遂げています。さまざまな企業へネットワークサービスを提供するソフトバンクの担当者に、これからの業務環境がどう変わっていくのか、またその環境に欠かせないネットワークや運用の考え方について聞きました。
目次
ソフトバンク株式会社 法人統括 コミュニケーションサービス第2統括部 統括部長
南雲 勉(なぐも・つとむ)
プロダクト開発部門で企業向けネットワークサービス開発を担当。 企業のデジタル化を支援するソリューション営業を経て、プロダクト開発部門を統括。
リモートワークを実現した企業ネットワークの進化。支えたのは通信事業者らの地道な取り組み
オフィスに出社してパソコンを起動し、取引先に出向いて打ち合わせ、連絡はメール、契約は書面…。かつて当たり前だった企業で働く人々の一般的な光景です。コロナ禍を経て、現在はオフィスに人が戻りつつありますが、リモート会議やコミュニケーション・コラボレーションツールによる共同作業やペーパーレス化などが一気に進み、数年前と比較しても、ネットワークやシステムの重要性がより増してきているのが感じられます。
コロナ禍の混乱の中、一気に多くの日本企業が環境を変化させられたのはどういう背景があったのでしょうか?
コロナ禍以前は、リモートワークに関連するアプリやクラウドサービスは、一部の企業で積極的に活用されている以外に、幅広く浸透していませんでした。ただ、コロナ禍で働く環境の変化が求められ、多くの企業が一気にかじを切りました。
コロナの前から、ZoomやTeamsなどのオンライン会議サービスや、Google Workspace をはじめとするリモートワークに必要なツールと、自社のネットワークを相互に接続できる環境を整えていた通信事業者もありました。ソフトバンクもその1社です。インターネットの進化やクラウド環境が整備されてきた時期と、リモートワークへのニーズの高まりが重なったことが、迅速に対応できた要因だと思います。通信事業者やISP(インターネットサービスプロバイダー)が一歩一歩積み重ねてきたものが実を結んだタイミングだったというか…。おそらく感染症の急拡大による大転換はなくても、リモートワークや関連サービスの導入による働き方改革は徐々に進んでいたのではないでしょうか。
知らない間にネットワークはどんどん進化していたんですね。
クラウドサービスが盛況になり企業でも導入が進み、それらのサービスと直接アクセスできる専用ネットワーク(閉域網)の重要性がより増しました。ネットワークというのは経路が複雑になるほど、どこかで処理が詰まり、遅延が起こりがちになるからです。ソフトバンクでは以前から閉域網を構築していたので、いつでもお客さまへ提供できる状態でした。
進化していたとはいえ、日本の企業の多くがリモートワークを開始したことで、ネットワークにはものすごい負荷がかかったのではないでしょうか?
そうですね。企業のネットワークは通常、セキュリティの観点から専用の閉じたネットワークで作られています。社外からリモートでその専用ネットワークに接続する際は、接続の入り口であるゲートウェイにアクセスが集中します。これまでリモートワークする社員は全体の数パーセントと想定していたのに、急にほぼ全員となると、当然従来の設備では対応しきれません。ソフトバンクのお客さまの例では、サービスのアップグレードや環境の刷新などで対応されていました。またクラウドサービスとして、ネットワークとセキュリティの機能を併せ持つ、Zscalerのようなサービスも登場し、このゲートウェイを通じて社内ネットワークやインターネットへの接続を簡単に振り分けられるようになりました。
新しいサービスの台頭や企業の業務環境の変化に対し、ソフトバンクの法人向けネットワークはどう対応してきましたか?
日に日に増加する通信量やお客さまの課題の変化を見据え、法人向けネットワークはクラウド化を進めてきました。これにより物理的な設備増強の必要がなく、急なリソース追加が容易になります。2014~2015年頃からソフトウェア定義ネットワーク(SDN)やネットワーク機能仮想化(NFV)の導入といった、物理的な機器に依存しない仕組みづくりを進め、10年弱でネットワークの柔軟性と適応力を大幅に向上させることができました。
パソコン一つでどこでも職場になる未来を。5GとNTNが次の働き方改革の鍵
日々進化するテクノロジーやサービスのうち、今後はどのようなものが私たちの働き方に影響を及ぼすと考えられますか?
やはり非地上系ネットワークと呼ばれる「NTN」がキーになるでしょうか。NTN(Non-Terrestrial Network)は、宇宙空間や成層圏から通信ネットワークを提供するシステムです。例えば、災害などが発生し、地上のネットワークがつながらなくなった際にどうリカバリーしていくかという観点で、能登半島地震をきっかけに数多くの企業から、NTNに関して相談が寄せられています。従来、災害時などの通信障害に備え、固定回線やモバイル回線を使ったバックアップサービスを提供してきましたが、これに加えて低軌道衛星通信サービスの「OneWeb」の導入を準備しています。災害時だけでなく普段のバックアップ回線としても使える、安価なサービスを実現していきたいですね。
災害時などにおける事業継続(BCP)の観点だけでなく、日常的に何かあっても通信が途切れない環境が実現しつつあるんですね。
社長の宮川も言っているように、目指すのはどこでもつながる「ユビキタスネットワーク」の整備で、まだまだ発展途中です。日本のネットワーク環境は充実しているように思われがちですが、実際には国土の6割程しかカバーされていていません。NTNソリューションを活用することで、残りの4割の地域へ通信環境を届けたいのです。
人が密集していないエリアにおけるネットワーク整備の観点では、どんな課題があるのでしょうか?
例えば、広大な土地に立つ大規模工場では、主要部分にはネットワークが整備されていても、隅から隅まで張り巡らせることはできていません。工場に限らず店舗などでも完全に無人で稼働させるには、現地でいま何が起きているのか、手に取るように把握できるよう、データをリアルタイムに収集する必要があります。現実世界と同じものをデジタル上に作り、シミュレーションができるような、デジタルツイン技術により管理する世界ですね。ですが膨大なデータ量が必要で、まだそれに耐えうるネットワークになっておらず、分析基盤も脆弱(ぜいじゃく)。どんなに早くても1時間の遅れが発生してしまうのが現状です。
工場ではロボットの導入や自動化がかなり進んできているように感じます。
隅々までネットワークを整備することで、工場内は無人にして、人はリモートでオペレーションする「スマートファクトリー」を実現していきたいですね。高速で低遅延の特長を持つ5Gの普及も、これを後押しするのに重要な要素です。
スマートファクトリー化が進むと、こうした場所で働く人の環境もまた大きく変わりそうです。
はい。工場で働いていたのが、オフィスや自宅から監視したり指示を出したりする仕事になる。そんな変化を後押ししていきたいです。
他に、職場のIT環境の管理者が抱える課題を解決する方法も模索しはじめています。例えばソフトバンクの本社は、非常に多くの人が働く大規模なネットワークで、管理が大変煩雑なんです。スマホと同じようにパソコンも5Gに接続できるようになれば、一元管理が可能に。働く側は、パソコンを起動するだけでオフィスでも社外でも、全く変わらない環境で仕事ができるようになります。
いいですね! 早くそんな将来がこないかなと、とてもワクワクします。
これには、盤石な5Gネットワークがあることが前提です。高速、大容量、低遅延だけでなく、セキュリティの観点も欠かせません。われわれ法人部門をはじめ、部門の垣根を越えて取り組んでいます。
総合キャリアだからこその法人向けネットワーク提供と、運用負荷削減への挑戦
先ほど挙げたような働き方を実現するための法人向けネットワークは、ソフトバンクのさまざまな部門も協力して作られていくんですね。
総合キャリアとして幅広く大規模なネットワークを構築しており、それをベースに法人向けにサービスを提供できるのは、やはり一つの特長ですね。総合キャリアは当社だけではないですから、そこへいかに付加価値をつけられるかだと考えています。
ソフトバンクの法人向けサービスの強みは何でしょうか?
お客さまをサポートする専任組織が、法人部門の中にある点が大きいと思っています。お客さまの声をダイレクトに受け取ることで、現場目線での品質改善につなげていきたいからです。こうした組織があるからこそ、日々のサポートだけでなく万一の事故発生の際にも、状況に応じた細やかな対応ができていると思います。
2023年度のJ.D. パワー顧客満足度調査の評価にこうした取り組みが影響しているのでしょうか?
大変ありがたいことに、「J.D. パワー2023年法人向けネットワークサービス顧客満足度調査℠<大企業市場部門>」で、前年に続き総合満足度第1位をいただきました。指標となる「サービス内容/品質」「営業・導入対応」「コスト」「障害・トラブル対応」の総合評価において大企業市場部門で最も高い評価をいただけましたので、まさにお客さまの生の声が生かされている結果です。この分野では当社は3年連続1位を成し遂げられていませんので、今年度も関係部門の総力を結集して取り組んで行きたいと思います。
- J.D. パワー 2023年法人向けネットワークサービス顧客満足度調査℠ 2年連続で大企業市場部門 総合満足度第1位を受賞(2023年10月18日 ソフトバンク株式会社)
今後、ソフトバンクの法人向けサービスにはどんなものが加わる予定でしょうか?
まず、お客さまが自社のネットワークを管理する際の運用負荷を下げるため、マネージドサービスとして提供する管理業務の範囲拡大を進めています。ソフトバンクの経験豊富なチームに任せていただくことで、高度な運用の立てつけが可能です。
また、データ分析機能やAIにより、ネットワーク運用自体の自動化も進めたいです。例えば、管理者がトラフィックが増えたことをレポートで確認してから増強の手続きを進めるのではなく、トラフィックを自動的に判断し、事前に合意した内容で即時に増強できれば日々の運用が楽になりますよね。他にも脆弱(ぜいじゃく)性のレポートを受け環境に応じて対策を講じ、お客さまはポータルなどで結果を確認するだけ、など。柔軟でダイナミックに変えられる仕組みを導入することで、現在運用に追われている貴重なIT人材が自社の事業に注力できるよう後押しできるのではと考えています。
こうした今できる改善の提案から進め、近い将来NTNによるユビキタスネットワークの構築を実現し、働く人がどこでもネットワークを快適に使える環境を提供していきたいと思います。
(掲載日:2024年6月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部
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