オフィスビルや商業施設などで「現在の来場人数」や「飲食店の混雑度」などがデジタルサイネージに映し出されるのを見かけたことはありませんか?
いま、ビル自体がデータを活用して、利用者に最適な情報をリアルタイムで届ける「スマートビル化」が進んでいます。
ソフトバンク本社がある東京ポートシティ竹芝 オフィスタワーをはじめ、スマートビルを支える「データ連携基盤」作りに取り組んでいる、ソフトバンクの担当者に話を聞きました。
ソフトバンク株式会社 データ基盤戦略本部
妹尾 輝(せのお・ひかる)
2020年にソフトバンク株式会社に新卒入社。ビル内外のあらゆるデータを活用してスマートビル、スマートシティを支えるデータ連携基盤「Smart City Platform」の構築・運用に入社当初から携わる。
多様なデータを収集し「今、必要な情報」を提供
ソフトバンクの本社があるビルには、ソフトバンクが開発した「Smart City Platform」と呼ばれる仕組みが導入されています。どのようなものか教えてください。
「Smart City Platform」は、ビルや街のデータを活用し、人や街に、より快適な環境を提供することを目的としたデータ連携基盤です。ソフトバンクの竹芝本社のようなスマートビルにおいては、ビル内に設置されたカメラやセンサーが収集したさまざまなデータを、「Smart City Platform」に集約し、データドリブンで建物の運用管理を効率化、最適化するとともに、ビルの利用者に対してサイネージやウェブアプリケーションを通してスマホやパソコンにリアルタイムに情報提供する仕組みを備えています。多種多様かつ膨大なデータを収集し非同期で処理するのが特長で、さらに、収集したデータをイベント処理してリアルタイムで通知したり、APIを通じて情報提供したりすることが可能になっています。
仕組みをもう少し具体的に言うと、どういうことでしょうか?
例えば、ビル内に設置されたセンサーが、人の動きや混雑状況などのビルで起きたイベント(出来事)を把握し、情報を集めます。集めた情報は、決まった順番ではなく(非同期で)、それぞれ別々に「Smart City Platform」で処理されます。そして、あらかじめ決められた条件にその情報が当てはまったときに、「どんな出来事が起きたのか」を判定し、それに応じた情報、例えば「○○店が空いています」とか「天気が崩れてきました」などを、リアルタイムで端末に表示します。さらに、利用者から「今の状況を教えて」とリクエストがあったときは、集めた情報をもとに判定した最新の内容を返す機能も持っているということです。
5階のテラスの状況をセンサーが情報収集しサイネージに表示


トイレの空き状況(左)や、飲食店の混雑度(右)などもわかる
トイレの空き状況(上)や、飲食店の混雑度(下)などもわかる
そのような仕組みを「Smart City Platform」と呼んでいるのですね。
この仕組みの一番大きな特徴は、リアルタイムイベント制御をプラットフォーム側に実装しているという点です。「イベント制御」というのは、何か起きたとき(イベント)に、それに合わせて何かの動作をする仕組みのことです。たとえば、人がビルに入ったら自動ドアが開く、雨が降っているからサイネージに情報を表示するといった、「条件を満たしたときのアクション」を管理・実行するのがイベント制御です。
これまではスマホのアプリやサイネージ機器など、アプリケーション側で個別に行われていたイベント制御を、プラットフォーム側で一元的に処理することで、メッセージングアプリやサイネージなどに必要な情報を最適なタイミングと形で届けることができるようになりました。また、アプリ側は受け取ったイベントを表示するだけで良いため、新しいサービスを追加する場合もプラットフォームにつなげるだけというメリットが生まれます。
「Smart City Platform」
情報過多の時代に、人に寄り添いビルが提案
「Smart City Platform」は特許を取得※していますが、つまり、今までにない仕組みだったのですね。
そうですね、昔の「IoT」は、いろいろな場所から集めた情報をコンピューターに溜めておき、ある程度データが集まった段階で「どんな傾向があるかな?」と分析していました。そして、その分析結果をもとに、例えば建物の管理方法など、日々の運用をより良くしていく、という使われ方が一般的でした。
しかし、この方法だと分析までに時間がかかり、「今、この瞬間にどうするのが一番良いか」をすぐに判断するのは少し難しかったのです。もし、もっとリアルタイムに、つまり「今まさに起きていること」をすぐに把握できれば、次にどうすべきか迷うことなく、より的確に判断できるようになりますよね。
さらに、私たちは普段、天気や時間、周りの状況など、いろいろな情報をもとに「次はこうしよう」と判断することが多いと思います。これと同じように、建物自体が、センサーなどから集めたさまざまな情報、例えば、部屋の温度、人の数、外の天気などをリアルタイムで解析し、「今の状況なら、こうするのが一番快適ですよ」と、私たち利用者に提案してくれる。そんな仕組みがあったらどうでしょうか。
そのような仕組みがあれば、便利で助かりますね。
たくさんの情報に囲まれて少し疲れやすい現代だからこそ、建物を使う人々がいちいち考えたり悩んだりする負担を減らし、もっと快適に過ごせる空間を作りたい。そんな思いから、私たちは「Smart City Platform」の仕組みを考え、作り上げました。
- ※
特許第7465324号

在館者の属性や、帰宅時間帯には運行情報などがリアルタイムで表示
プライバシーに配慮したセンシングによる入館者情報の解析結果なども表示
AIと「Smart City Platform」で実現する、街やビルが自ら考える未来
具体的な活用例も教えていただけますか。
例えば、ソフトバンクの本社がある東京ポートシティ竹芝オフィスタワーの飲食店の混雑度と天気、時間帯を組み合わせ、サイネージのコンテンツを自動制御しています。飲食店の混雑度が低く、かつ退勤時間帯に雨が降っている場合、自動的にサイネージを制御して、店舗のクーポンを表示し、送客を促す仕組みを導入しています。

ビルで働いている人向けには、店舗やエレベーターの混雑度、トイレの空室、電車の遅延情報などを提供し、行動の判断をサポートすることが可能です。テナント向けには、来館者数を可視化して効率的なスタッフ配置や集客施策の検討に役立ててもらうことができます。
そのほか、立入禁止エリアへの侵入や不審者情報の検知などの警備向けの活用や、イベント開催予定にあわせた人員配置など、ビルマネジメント向けにも活用されています。データに基づいて人々の行動をアシストすることで、ビル内のさまざまなステークホルダーのニーズに応えることができるようになっているのです。
このシステムは、ビルの利用者だけでなく管理者にとっても利便性が高いということですね。
ビル管理上の大きな課題解決につながるものだと言えるでしょう。通常、ビルのデータは個別のソフトで管理されており、複数のソフトを使わないと情報が集約できない、とても不便な状態だったのです。ですが、この「Smart City Platform」によって、情報の一元管理、リアルタイムなイベント処理、そして機能提供が可能になり、ビルの利用者や管理者の利便性を大幅に向上させることができました。
ビルの利用者や管理者の利便性を向上させる3つのアプリ
①ワーカーアプリ

東京ポートシティ竹芝に勤務する人などがスマホやパソコンでビル情報や天気、運行情報をリアルタイムに知ることができる
②テナントアプリ

来館者数や男女比が表示された画面。日別推移やイベント情報、テナントごとの来店者数などを表示することもできる
③ビルマネジメントアプリ

館内のさまざまな場所の状況を把握できる。画面に表示されているのはゴミ箱の充満度
ほかにも「Smart City Platform」の活用事例はありますか?
はい、このプラットフォームをもとにスマートビルの進化が続いています。昨年10月に名古屋にオープンした「STATION Ai」は、リアルタイムデータに基づくビル設備のオートノマスシステム(自律制御システム)の導入を見据えたものとなっています。
また、昨年11月には「Smart City Platform」と生成AIを活用したソリューションの実証実験を行いました。
外国人観光客にもっと渋谷を楽しんでもらおうということで、渋谷の地元情報と生成AIを活用して作り上げたアバターを通して、地元の人からおススメスポットを聞いているような体験を再現しました。
このときはリアルタイムデータとして、天気やイベント開催情報を活用しましたが、今後、街のスマート化が広がり、さまざまな情報を取得できるようになれば、地元民がおすすめしかつ並ばずに入れるお店に案内するなどの仕組みも構築できるようになると思います。
最後に、今後のビジョンについて教えてください。
これからは街やビルの「提案」がもっと賢くなり、状況に合った的確なアドバイスをくれるようになると考えています。例えば、お店の集客支援では、周辺の潜在顧客データを分析し、その人たちに響くキャンペーンを考えたり、実行を手伝ったりできるようになるでしょう。また、人流やSNSの分析から面白そうなイベントを見つけ出し、AIが作った魅力的なコンテンツで興味のある人に自動で告知するなど、集客のお手伝いも可能になるかもしれません。
このように街やビル自体が、集めた情報をもとに、自らの魅力を最大限に引き出す方法を自分で考えて実行していく世界を実現したいと思っています。
最近急速に進化しているAIエージェントは、こうした未来の実現を大きく後押ししていると思います。データ分析だけでなく、計画から実行までこなすAIの登場で、このビジョンはすぐそこまで来ていると感じています。
私は、AIエージェントの力と「Smart City Platform」を組み合わせ、新しい価値を生み出していきたいです。街やビルが人に寄り添い、日々の選択や判断を賢くサポートすることで、もっと快適で便利な世の中を作る。その実現のために、これからも挑戦していきたいと思います。
(掲載日:2025年5月19日)
文:ソフトバンクニュース編集部

ソフトバンクは東京・竹芝本社を起点に、都市開発のイノベーションパートナーとして、テクノロジーやデータを最大限に活用したスマートシティを目指し、建物やまちの社会課題解決に取り組んでいます。