SNSボタン
記事分割(js記載用)

世界に向けて空飛ぶ基地局を日本から。次世代社会の基幹インフラ「HAPS」 | ソフトバンクが描くUTX #3

世界初の空飛ぶ基地局を日本から。次世代社会の基幹インフラ「HAPS」 | ソフトバンクが描くUTX #3

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、HAPSや静止衛星、低軌道衛星などの非地上系ネットワーク(NTN)を組み合わせることで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指し、災害時の分断や通信網の整備格差といった現在の通信インフラの壁を越えて、世界中の人やビジネスにイノベーションを起こす「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」(以下、UTX)を推進しています。

UTXについてシリーズでお伝えしていく本企画の第3回は、高度約20kmの成層圏から直径最大200kmの広範囲をカバー可能な「空飛ぶ基地局」である、成層圏通信プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)の取り組みについて紹介します。現状と商用化に向けた意気込みについて、担当者に話を聞きました。

住吉敏治(すみよし・としはる)

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 HAPS企画部 部長

住吉 敏治(すみよし・としはる)

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

ソフトバンクは2025年6月、米国ニューメキシコ州に本社を置くSceye(スカイ)が開発するLTA型※1のHAPSを活用し、2026年に日本国内でプレ商用サービスを開始することを発表しました。これまで開発を進めてきたHTA型※2のHAPSに加えて新たにLTA型を活用することで、早期の商用化を推進します。HAPSの商用化により、大規模災害時の通信サービスの提供に加え、6G(第6世代移動通信システム)時代を見据えて、ドローンやUAV(無人航空機)向けに安定した通信環境を提供する次世代の3次元通信ネットワークの構築を目指しています。

  • ※1
    LTA(Lighter Than Air)型とは、空気より軽く、浮力を利用して飛行を維持するHAPSのこと。
  • ※2
    HTA(Heavier Than Air)型とは、飛行機などのように揚力によって滞空するHAPSのこと。

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

今年6月26日に、日本国内でのプレ商用サービス開始と新機体となるSceyeのLTA型HAPSを発表しました。Sceyeをパートナーに選んだ背景やその技術的優位性などについて教えてください。

住吉 「ソフトバンクは、2026年に日本国内でHAPSのプレ商用サービスを開始することを発表しました。その一環として、浮力を利用して飛行を維持するLTA型HAPSを開発するSceyeに出資し、日本国内におけるHAPSサービス展開の独占権を取得する契約を、2025年6月20日に締結しています。

SceyeはHAPS業界をリードする航空宇宙企業で、ソフトバンクが主導するHAPSアライアンスにも参加しています。昨年度に同社が行った実証実験の結果が非常に良好だったこともあり、Sceyeの機体を活用してHAPSの早期商用化を進めることができると考えました。現在は、日本でのサービス展開と、次世代の3次元通信ネットワークの構築を目指して連携しているところです。

航空宇宙用の部品を製造している同社の技術的な特徴は、機体に使われている膜材にあります。銀色の部分がそれにあたりますが、この素材が非常に優れているのです。成層圏で飛行するためには、極度の寒さや気圧の低さ、強い紫外線といった過酷な環境に長期間耐えられる性能が求められます。Sceyeはそうした条件をクリアする膜材を独自に開発し、技術として確立しています。この強靱(きょうじん)な膜材によって、通信に必要な大型のペイロード(通信機器)を積載できるというのが大きな強みです」

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

HTA型とLTA型の機体の違いを教えていただけますか。

住吉 「大きな違いは、“空に浮かぶ仕組み”です。HTA型は Heavier Than Air(空気より重い)の略で、ソフトバンクが開発を進めるSunglider(サングライダー)のように翼を持つタイプです。電動モーターとソーラーパネル、バッテリーを搭載し、モーターの推力で滞空します。ジャンボジェットのように高速で飛ぶのではなく、軽量なグライダーのように風の力を活用しながら成層圏に浮かぶのが特徴です。

一方、LTA型は Lighter Than Air(空気より軽い)という意味で、例えばSceyeのHAPSはヘリウムの浮力で滞空します。地上から縦に上昇し、成層圏に到達すると機体を横向きにして滞空するという独特の仕組みを持っています。

その他の違いとしては、風への強さがあります。HTA型は風に対して安定しやすいのに対し、LTA型は機体が大きいため風の影響を受けやすい。そのため、楕円(だえん)形のラグビーボールのような形状にして、常に風上に機首を向けることで抵抗を抑え、流されにくくする工夫をしています」

Sceyeの機体が縦に上昇していく様子はこちらの動画でご覧いただけます。

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

Sceyeの機体を動画で見る

この2種類の機体の使い分けはどのように考えているのでしょうか?

住吉 「使い分けの大きなポイントは『緯度』です。日本のように比較的高緯度にある国では、現状ではLTA型のほうが有利と考えています。

HTA型は、機体に搭載したソーラーパネルで発電し、その電力でモーターを動かして推力を生み出します。LTA型も同様にソーラーパネル・モーター・バッテリーを備えていますが、ヘリウムの浮力を利用するため基本構造が異なります。動き方としては、日中はソーラーパネルで発電してモーターを動かし、余剰電力をバッテリーに蓄える。夜は、そのバッテリー電力を使って飛行を維持する──これを毎日繰り返しています。

高緯度地域では、地球の自転軸の傾きによって夏と冬で日照時間に大きな差が出ます。夏は昼が長く発電量も十分ですが、冬は夜が長いため、大きなバッテリーがないと飛行を維持できません。そのため日照に依存するHTA型は高緯度ではやや不利で、LTA型のほうが適しているケースが多いのです。

とはいえ、HTA型もソーラーパネルやバッテリー、モーターといった要素技術が進化すれば改善の余地があります。ソフトバンクとしても研究開発を継続しており、今後の性能向上に期待しています」

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

商用の時期と提供イメージについて教えてください。

住吉 「LTA型のSceyeについては、2026年にプレ商用サービスを開始し、2027年以降に本格的な商用化を目指しています。一方、HTA型は商用化に向けた開発や制度面の整備がまだ必要で、実用化にはもう少し時間がかかる見込みです。

プレ商用サービスでは、災害時の通信確保を想定した限定的な提供を計画しています。たとえば地震や津波が想定される地域において、通信の検証などを目的に、限られたユーザーへのサービス提供をイメージしています。2027年以降は、災害時の迅速な通信復旧に加え、山間部や離島など、既存のモバイルネットワークが届きにくい場所での定常的なサービス提供を予定しています」

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

成層圏からの通信提供の目的や特長、強みをあらためて教えてください。

住吉 「最近はLEO(低軌道衛星)と比較されることが多いのですが、それぞれに一長一短があります。LEOは仕組み上、地球全体を広くカバーできる一方で、HAPSにはカバーの自由度・通信容量・低遅延という大きな特長があります。

カバー範囲の広さでは、当然LEOが優れています。しかし、通信がなくて困っている場所にピンポイントで提供できるかという点では、HAPSの強みが発揮されます。HAPSのカバー範囲は直径最大約200kmと限定的ですが、必要な場所の上空に移動させて、集中的に通信を復旧・提供できるのです。

さらに、HAPSは高度20km前後に滞空するため、LEO(高度~2,000km)に比べて物理的距離が近く、通信容量や遅延面で優位に立ちます。自動運転や遠隔操作といった低遅延が求められる用途には、HAPSが適しています。

また、成層圏は民間航空機が飛ぶ高度(約10km)より上に位置しており、航空機の運航を妨げることなく長時間滞空や自由な移動が可能な空域です。つまり、必要な場所に必要な通信を届けるための“自由度の高い空域”であることが強みだと考えています」

「空飛ぶ基地局」のプレ商用サービス開始に向けて

日本中の上空にHAPSが滞空する未来へ

HAPSはUTXの中核と位置付けられ、6G時代に欠かせない通信基盤とも言われています。その基盤が確立したとき、私たちの生活にはどのような変化があるのでしょうか。

住吉 「まずHAPSは、災害時などで通信事業者が担うべき役割において大きな力を発揮します。大規模災害が起きても、空から継続的に通信を提供することで、地上からはアクセスが困難な場所や孤立した地域にも対応できます。長期滞空が可能なため、復旧に時間がかかる状況でも通信を維持できるのが強みです。

日常生活の変化という点では、将来的に自動運転や空飛ぶタクシー、ドローン物流といった新しい移動手段が普及すれば、生活は大きく変わっていくでしょう。こうしたユースケースを支えるには、安定した通信が欠かせません。特に空を移動するモビリティには、地上ネットワークに近い通信品質を空中で提供できるHAPSが適していると考えています。

低軌道衛星と比べても、HAPSは低遅延でリアルタイム通信に強いため、自動運転のように常時接続が求められる場面に有効です。通信に遅れが生じれば事故のリスクにつながる可能性もあります。今後、空飛ぶタクシーはより高高度を飛び、ドローンは大量に同時飛行することが想定されます。その未来を見据えると、空からの通信インフラの必要性はますます高まると考えています。

HAPSは個人が直接スマホなどで体感する存在というよりは、間接的に私たちの生活や社会を支える次世代の基幹インフラになっていくと思います」

日本中の上空にHAPSが滞空する未来へ

実用化に向けての今後のロードマップは?

住吉 「現在、私たちが最も注力しているのは、LTA型のプレ商用サービスの提供を来年度に実現することです。これは直近の大きなマイルストーンであり、確実に達成したいと考えています。一方で、HTA型の機体開発や制度整備にはもう少し時間がかかる見込みです。そのため、まずはLTA型での商用化を日本国内でしっかりと進め、HTA型についても並行して準備を進めていきます。

将来的には、LTA型とHTA型の両方を組み合わせて提供できる体制を整えたいと考えています。LTA型は2026年からプレ商用サービスを開始しますが、HTA型はその2〜3年後になる可能性が高く、2029年以降の展開が現実的です。実際の提供地域については、日本に限らず、赤道付近の低緯度地域が技術的にも適していると見ています。まだ技術の成熟を待つ必要はありますが、より高緯度の展開も視野に入れています。

LTA型とHTA型それぞれの特性を生かし、用途に応じて最適なHAPSを活用することで、最終的には日本だけでなく、海外も含めてサービスを展開していくことをゴールとして考えています。まずは日本中の上空にHAPSが滞空していて、いつ、どこで、何が起きてもしっかりと支えられる、そんな社会インフラを実現したいと考えています」

日本中の上空にHAPSが滞空する未来へ

ソフトバンクが描くUTX

ソフトバンクが推進する「ユビキタストランスフォーメーション(Ubiquitous Transformation)」についてシリーズでお伝えしていきます。過去の記事はこちらからご覧いただけます。

(掲載日:2025年9月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部

UTXでソフトバンクが目指す世界

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、人工衛星や成層圏通信プラットフォームを活用した非地上系ネットワークを融合することで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指します。