なぜ今FinOpsが必要なのか?その背景とメリットを解説

2025年1月24日 掲載

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多くの企業でクラウドコンピューティングの採用が進む中、各社コスト管理の課題に直面しています。また、最近の調査によると、過半数以上の企業がクラウド利用費が当初の計画を超過していると報告しています。

情報システムが企業の基盤を構成している現在において、ITリソースのコストを適切に管理することは企業経営において大きな関心事となっています。

そのような背景の中、注目されているのが、FinOps(Financial Operations: フィナンシャル オペレーションズ)です。本記事では、FinOpsの基本概念について解説します。

目次

誕生の背景と目的

FinOpsを一言で説明すると、クラウドなどのコストを可視化し、部門間で協力しながら、ビジネス目標に合致するよう、財務を効率よく最適化するための管理手法(フレームワーク)です。

一見すると、どの企業でもやっている、あたりまえのコスト管理の手段に思えるかもしれません。従来の手法と同じに見えるのは、基本的なコスト管理の概念が残っているためです。

クラウドなどを組み合わせたIT技術が従来のアプローチと異なる点を生み出しています。クラウド時代に特有のリアルタイム性、分散管理、アジリティとの両立といった課題に対応する新しい手法として、FinOpsは生まれ、進化しています。

まとめるとこのあたりでしょう。

  1. クラウドの特性による複雑さ
    - クラウドはオンデマンドでリソースをスケーリング可能なため、コストがリアルタイムで変動する。
    - 開発者や運用担当者が直接リソースを購入・設定できるため、意図しないコスト増加(例: オーバープロビジョニング)が起こりやすい。
  2. 分散化された責任
    - 以前はIT部門が予算のすべてを一括管理していたが、クラウドでは各チームが独自にリソースを使うケースが増えてきている。
  3. クラウドの多様性と柔軟性
    - クラウドプロバイダー(AWS、Azure、Google Cloud、IBM Cloudなど)が提供するサービスの種類が膨大で、最適な選択をするのが難しい。
    - 割引プラン(リザーブドインスタンス、スポットインスタンスなど)の理解度が削減額を大きく左右する。
  4. アジリティとスピードの両立
    - ビジネスニーズに応じた迅速なリソース調整を維持しながら、無駄の排除が重要とされてきている。

DevOpsとの比較でとらえる

FinOpsの概要を解説しましたが、まだまだイメージがつきにくいかもしれません。

さて、DevOpsというワードについてはご存じでしょうか。この言葉は一般的に浸透し始めているため、馴染みがある方もいらっしゃると思います。

FinOpsとは関係ないのですが、DevOpsという概念が生まれた背景とその運用手法に、FinOpsとの類似点があるため、両者を比較することでFinOpsの理解を深めてみたいと思います。

Platform Engineering Concept - The Practice of Designing and Building Workflows and Toolchains that Enable Self-service Capabilities for Software Engineering Teams in the Digital Cloud Realm - 3D Illustration
  • DevOpsの概要
    DevOpsは、開発(Development)と運用(Operations)の間の壁を壊し、効率的かつスピーディなソフトウェア開発とデリバリーを目指します。
    目標: 開発速度の向上、リリースの頻度アップ、障害対応の迅速化
    方法論: 継続的インテグレーション(CI)や継続的デリバリー(CD)などの自動化
    チーム連携: 開発者と運用担当者が一体となって動く

 

  • FinOpsの概要
    FinOpsは、クラウド利用におけるコストの透明性と最適化を目的とし、財務(Finance)、技術(Engineering)、ビジネス(Business)の三者間が協力して推進します。
    目標: コストの見える化と最適化、クラウドリソースの効率的な活用
    方法論: リアルタイムのコスト把握と分析、利用料の予測、適切なリソースの選択
    チーム連携: 3部門が連携して動く

 

DevOpsとFinOpsの類似点

  • コラボレーションの重視
    DevOpsが開発者と運用担当者を繋ぐように、FinOpsは財務、技術、ビジネス部門が連携します。
  • リアルタイムデータ活用
    DevOpsがリアルタイムなログやパフォーマンスデータを活用するように、FinOpsはコストや利用データを基に意思決定します。
  • 自動化
    DevOpsがCI/CDの自動化を進めるのと同様に、FinOpsでは自動化されたコストレポートやアラートが活用されます。

FinOpsのライフサイクル

FinOpsの大きなサイクルは以下のようになります。

FinOps lifecycle diagram showing the phases of cloud consumption cost optimization. This is a continuous improvement process for the IT and finance team.
  1. Inform(情報の可視化と共有)
    - クラウド利用状況を可視化し、関係者全員が正確な情報を把握する。
    - 導入初期には、現状評価や成熟度モデルを活用して目標を設定する。
  2. Optimize(最適化)
    - 無駄なリソースの削減やコスト効率の向上を目指す。
    - ツール導入やプロセス整備、トレーニングを通じて具体的な施策を実施する。
  3. Operate(運用と改善)
    - 継続的な改善を目指し、データ分析や部門間のフィードバックを活用する。
    - 文化的な変革を進め、FinOpsを組織全体に浸透させる。

KPIの決め方

FinOpsのKPIは従来のITコスト管理指標とは異なる目的を持った指標値となります。どのような観点でKPIを決定するのがよいでしょうか。

  • リアルタイムのコスト管理を可能にする観点
    従来のITコスト管理が固定予算と事後分析に頼るのに対し、FinOpsではリアルタイムの可視化を前提とした指標が重要です。例えば、「コストアラートの応答時間」や「リアルタイムコスト可視化の割合」などもKPIに含まれます。
  • 部門間の連携を強化する観点
    FinOpsの成功には部門間での協力が不可欠です。そのため、「部門間のミーティング頻度」や「コスト削減施策の共同実施率」など、組織内のコラボレーションを測る指標が含まれることがあります。
  • リソース最適化と利用効率を重視する観点
    リソースを無駄なく効率的に活用するため、「リソース利用率」や「アイドル状態のリソース削減率」、「スケーリングの実施率」などもKPIに設定されます。
  • 継続的改善を促進する観点
    FinOpsは単発のコスト削減ではなく、継続的な最適化を目指します。そのため、「月次コスト最適化率」や「過去12ヶ月間のコスト削減トレンド」といった長期的な指標も重視されます。
  • ビジネス価値への貢献を評価する観点
    単にクラウド利用のコストを削減することが目的ではなく、クラウドリソースがビジネス目標に合致し、どれだけ価値を生み出しているかを重視します。そのため、「どのくらいのコストでどれだけの成果を上げているか」を測る「ユニットエコノミクス」や、「特定のサービスが生み出す収益性を評価するROI(投資利益率)」といった指標も含まれます。

FinOpsが掲載しているKPIを紹介します。すでに知っている、実践しているKPIもあると思いますが、意識していなかった項目もあるのではないでしょうか。

(参考)
FinOps KPIs ( FinOps Foundations )

FinOpsが提唱するKPIを活用するもう一つの重要なメリットは、「車輪の再発明を防ぐ」という点です。すでにクラウドコスト管理のベストプラクティスとして共有されているKPIを参考にすることで、ゼロから独自に指標を編み出す必要がなく、迅速に実践に移れます。フレームワークに従うことで下記のような利点が得られます。

  • 業界標準に基づく実績
    - FinOpsのKPIは、業界全体で採用され、多くの企業で成果を上げてきた実績があります。最初から効果的な方法論を活用可能になります。
  • 時間とコストの節約
    - 独自のKPIを設計するには、課題の特定、測定基準の検討、実験の繰り返しなどに多大な時間とコストがかかります。既存の指標を採用すれば、導入準備期間を大幅に短縮できます。
  • スムーズな実行と教育
    - 共通のKPIを使用することで、チーム内や組織全体での理解が得やすく、実行がスムーズになります。
  • ベストプラクティスの活用
    - KPIには、クラウド運用における成功事例が反映されています。
  • 比較と評価が容易
    - 業界標準のKPIを使用することで、他社や同業他社とパフォーマンスを比較しやすくなります。

まとめ

FinOpsは、単なるコスト削減にとどまらず、組織全体の運営を変革するための強力なフレームワークです。

クラウドリソースを適切に管理・最適化することにより、削減コストをビジネス成長のための戦略的資産に変えることが可能になります。日本ではまだ導入事例が少なく、かくいう私たちも試行錯誤しながらその第一歩を踏み出したばかりです。FinOpsを活用することで、クラウド利用を最適化し、より価値を生み出す組織へと進化させていく所存です。

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