【検証】Geminiの「要約して」を10回繰り返したら?AI要約の落とし穴と正しい使い方

2025年7月11日掲載

キービジュアル

AI要約は魔法の杖?その便利さの裏に潜む「伝わらない」リスク

「この長い議事録、Geminiに要約してもらおう」「お客様からの長いメール、とりあえず要約して」

Google Workspaceに搭載された生成AI「Gemini」。その中でも「要約」機能は、日々の業務で多くの時間を節約してくれる、まさに魔法のようなツールですよね。報告資料の作成や情報収集の場面で、頻繁に「要約して」とお願いしている方も多いのではないでしょうか。

しかし、その便利さの裏で、こんなことをしていませんか?

  • 上司への報告のために、部下からの報告書を「要約して」とGeminiに投げる。
  • さらにその要約を、経営層への報告用に「もっと短く要約して」とお願いする。

もし、心当たりがあるなら少しだけ立ち止まってみてください。その「要約の要約」、本当に大切な情報を伝えきれているでしょうか?便利さのあまり、私たちは重要な「何か」を見失っているかもしれません。

この記事は、Geminiを始めたばかりの方や、Google Workspaceのようなツールで日々の業務を効率化したいと考えているすべての方に向けて書いています。

本記事では、Geminiの要約機能をあえて繰り返し使ってみることで、情報がどのように変化し、どのようなリスクが潜んでいるのかを検証します。この記事を読めば、AI要約機能の注意点を理解し、明日からの業務でより的確な情報伝達ができるようになります。

Business Teams

目次

  • AI要約を繰り返すと情報が劣化し、誤った判断を招くリスクを検証。AIはあくまでアシスタントであり、一次情報にあたり自身の言葉で報告することの重要性を解説。
  • Geminiを始めたばかりの方
  • 自身の言葉で報告することの重要性を学ぶ。

検証:Geminiに「要約して」を11回お願いしてみた

「要約を繰り返すと、情報が劣化する」と言葉で言うのは簡単です。しかし、実際にどうなるのかを体験してみないと、その本当の意味は分かりません。そこで、私たちはシンプルな実験を行いました。

検証の進め方

  1. 元となる会話データを作成 (#0): Aさん、Bさん、Cさんの3人が登場する、少し複雑なトラブルに関する会話をGoogle ドキュメントで作成しました。
  2. 「要約して」を10回繰り返す: Google ドキュメントのサイドパネルに表示されるGeminiに、この会話データ(#0)を「要約して」と依頼し、出力結果(#1)を得ます。次に、その結果(#1)をさらに「要約して」と依頼し(#2)、…という作業を10回繰り返し、最後の要約(#11)まで生成しました。
  3. 変化を観察する: #0から#11までの各要約を比較し、何が伝わり、何が失われたのかを分析しました。

何が起こった?要約で失われた「物語」の具体性

結果は驚くべきものでした。要約を繰り返すごとに、情報は少しずつ、しかし確実に削ぎ落とされていきました。

元となる会話データを作成 (#0)の要約

元となる会話のデータは6,000文字弱あります。ここでは全文記載せず、後述の内容の理解を深める為、要約情報を記載します。

  • 登場人物:
    • Aさん:デリカシーに欠ける人。
    • Bさん:繊細で、好きなものに強いこだわりを持つ人。
    • Cさん:冷静な仲裁役の人。
  • 物語の始まり:
    • レストランで、Bさんが楽しみにしていたイチゴのショートケーキの最後の一口(一番大きなイチゴと生クリーム)を、AさんがBさんの許可なく食べてしまう。
  • 口論の勃発:
    • Bさんは激怒し、「減るもんじゃない」と言うAさんに、「これは物質的な問題ではなく、心の問題だ」と訴える。Aさんのデリカシーのなさ、人の話を聞かない態度、大切なものを粗末に扱う行為が積み重なっているとBさんは主張し、過去の出来事(限定フィギュアの破損、アレルギーのあるエビ料理を無理やり頼んだこと、風邪で寝込んだ時のAさんの無関心など)を挙げ、Aさんの身勝手さを非難する。Aさんもこれに対し、「恩着せがましい」「ヒステリックだ」「被害者ぶるな」と反論し、喧嘩はエスカレートし、別れる話にまで発展する。
  • Cさんの仲裁:
    • 口論中にCさんが現れ、二人の仲裁に入る。CさんはBさんの気持ちに寄り添いつつ、AさんにはBさんの気持ちを理解しようとしない態度を指摘する。
  • 和解と教訓:
    • AさんはCさんの言葉を受け入れ、Bさんに心から謝罪する。Bさんも渋々ながらAさんの謝罪を受け入れ、今回のことはCさんのおかげだと感謝する。CさんはAさんに、Bさんの大切なものを今後傷つけないよう忠告し、それが「命取り」になる可能性があると警告する。Aさんは反省し、Bさんを二度と悲しませないと誓う。Bさんは「口だけ」と釘を刺しつつも、今回は許し、Aさんに甘いものを買って帰るよう要求するが、イチゴショートは禁止する。

「要約して」を繰り返したことでの変化のポイント:

  • 具体性から抽象性へ: 物語の具体的な描写(Aさんのデリカシーのなさ、Bさんの繊細さ)や喧嘩の原因の詳細(イチゴのショートケーキの最後の一口、過去の出来事の積み重ね)が省略され、「ショートケーキを巡る喧嘩」といった一般的な表現に置き換わっていきました。
  • 固有名詞の消失: 「Aさん、Bさん、Cさん」という名前は、途中から「A、B、C」という単なる記号に変わってしまいました。
  • プロセスから結果へ: Cさんがどのように二人を仲裁し、AさんとBさんがどうやって和解に至ったかというプロセスが消え、「Cの仲裁で和解した」という結果だけが残りました。
  • ニュアンスの喪失: Cさんからの「Bさんの大切なものを今後傷つけないよう」という深い忠告は、最終的に「Bの持ち物を尊重するよう」という、表層的で一般的な表現へと変化してしまいました。

「要約して」を繰り返したことで、伝わらなくなった内容:

元の会話データ(#0)には、登場人物の感情の機微や、トラブルの根深い原因が描かれていました。しかし、要約の最終形態(#11)では、それらはほぼ完全に失われていました。

  • 登場人物の性格と背景: なぜBさんがそこまで怒ったのか(過去のAさんの身勝手な行動の積み重ね)、Cさんがいかに冷静な仲裁役だったか、といった個々のパーソナリティが伝わりません。
  • 喧嘩の根本原因: トラブルの本質が、単なるケーキの問題ではなく、「Bさんの心を傷つけたこと」であったという最も重要な点が失われました。
  • 和解の深さ: Aさんの心からの反省や、Bさんの具体的な要求(もうイチゴショートは禁止!)、そしてCさんの「命取りになる」という警告に込められた関係性の深さが全く見えなくなりました。

なぜ危険?要約が生む「3つのミスリード」

もし、あなたがこのトラブルの最終報告として、要約#11だけを受け取ったとしたらどうでしょう?おそらく、以下のような誤った判断(ミスリード)をしてしまう可能性があります。

  1. トラブルの原因を矮小化してしまう:「なんだ、ショートケーキで喧嘩しただけか。大したことないな」と、問題の本質を見誤る可能性があります。実際には、過去からの不満の蓄積という根深い問題が隠れていました。
  2. 登場人物を誤解してしまう:
    • Bさんに対して: なぜ激怒したのかという背景が分からないため、「ケーキ一つでヒステリックに騒ぐ人だ」という不当なレッテルを貼ってしまうかもしれません。
    • Aさんに対して: デリカシーのなさという本質的な課題が見えず、「悪気はなかったんだろう」と問題を軽視するか、逆に「食べ物を奪うなんて」と単純な悪者として見てしまうかもしれません。
    • Cさんに対して: 「ただ仲裁した人」というだけで、その的確な仲裁能力や人間関係における重要な役割を過小評価してしまいます。
  3. 再発防止策を見誤る:表面的な原因しか見えないため、「今度からケーキは気をつけるように」といった的外れな対策指示を出してしまうかもしれません。根本的な解決策である「AさんがBさんの気持ちを尊重する行動を学ぶ」という点にはたどり着けないでしょう。

情報損失のリアル:データで見る劣化の過程

正確な数値化は困難ですが、感覚的に各ステップでどれくらいの情報が失われたかを概算してみました。

Graph
  • #0 → #1: 20-30%の損失。会話の細部や感情の機微が大きく失われる。
  • #1 → #4: 段階的に20-30%の損失。過去の経緯や人物の背景情報が薄れていく。
  • #4 → #10: 比較的なだらかな損失(各5-10%)。表現がより簡潔に、一般的になっていく。
  • #10 → #11: 10-15%の損失。忠告の内容が表層的なものに変わり、物語の教訓が失われる。

最終的に、#11の情報量は、元の#0と比較して10%にも満たないかもしれません。残っているのは骨子だけで、判断に必要な肉付けはほぼ全て失われている状態です。

結論:AI要約との賢い付き合い方 - あなたの報告が正しく伝わるために

今回の検証で私たちが学んだことは、非常にシンプルです。

「AIによる要約は、自分自身の理解を深めるために使うべきツールであり、他者への報告、特に判断を仰ぐための資料として安易に流用すべきではない」

ということです。

point

もし、組織の中で報告のたびに「要約して」が繰り返されていたら、どうなるでしょうか?現場のリアルな声や問題の背景、成功の微妙なニュアンスは全て削ぎ落とされ、経営トップに届く頃には、中身がスカスカで何の判断もできない、あるいは誤った判断を導くレポートが出来上がってしまいます。これは非常に危険なことです。

皆さんに伝えたいこと

AIは強力なアシスタントですが、思考を代替するものではありません。

  • 要約の要約はしない: 他者への報告で最も重要なのは、相手が判断を下すために必要な情報を過不足なく提供することです。要約の繰り返しは、その情報を意図せず歪め、失わせるリスクがあります。
  • 一次情報にあたる癖をつける: 人によって、重要だと感じるポイントは異なります。同僚や部下から要約された報告を受けたとしても、可能であれば元のデータ(一次情報)に目を通しましょう。そして、あなた自身の視点で、報告相手に必要な情報を再構成してください。
  • Geminiは壁打ち相手として使う: Geminiに要約をさせて、「なるほど、AIはこの部分を重要だと判断するのか」と客観的に分析し、自分の理解を深める。このような「壁打ち」相手として使うのが、最も賢い活用法の一つです。「ファクトチェック」も必ず行いましょう。

「やってみよう」から始まるInformation Technology。まずは、次回の報告書作成の際に、安易に「要約して」とお願いする前に一呼吸おいてみてください。そして、「報告相手が何を知りたいか?」という視点で、あなた自身の言葉で情報を整理してみることから始めてみませんか。その一手間が、組織の的確な意思決定と、あなた自身の信頼につながるはずです。 この件は、Google Geminiに限った話ではないこと覚えておいてください。

関連サービス

Google Workspace は、あらゆる業務に合わせて、すべてのビジネス機能をそろえた統合ワークスペースです。お客さまのご利用に合わせたサポートとオプションをご用意しています。あらゆる働き方に対応する業務効率化を実現します。

おすすめの記事

条件に該当するページがございません