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「地理情報システム(GIS)」で価値ある情報を提供する 株式会社Agoop

ソフトバンクグループで、地図データや位置情報などを使ってさまざまな情報を解析する「地理情報システム(GIS)」を手がけている株式会社Agoop(以下「Agoop」)は、ソフトバンクモバイル株式会社(以下「ソフトバンクモバイル」)の「スマホのつながりやすさNo.1へ。」を裏付ける根拠の一つとなった調査を行っていることで話題を呼んでいます。そこで今回は、同社代表取締役社長の柴山 和久に、主な事業内容や今後の国内外での事業展開などについてインタビューします。

柴山 和久

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「地理情報システム(GIS)」をビジネスとして展開

まず、会社設立の経緯を教えてください。

柴山:もともと私は、他のグループ会社の情報企画部門で、現在のAgoopの主要事業でもある「地理情報システム(GIS)」を使ったデータ解析などを行っていました。具体的には、基地局の位置やお客さまのクレーム情報、電波の強弱に関する情報などを地図上に落とし込んで、電波が悪いエリアを解析し、基地局の設計や予算策定に役立てるための仕組みを作っていました。この時に内製で開発したGISの技術が、他には例がない新しいものだったこともあり、GISの業界団体から頼まれて講演会やデモなどを行っていました。そんな中、あるシステムインテグレーターから、「防災用GISシステムを開発してほしい」という依頼を受けたのです。これをきっかけに、本格的にGISをビジネスとして展開していくことになり、2009年にAgoopを設立しました。

Agoopの主な事業内容を教えてください。

渋谷におけるソフトバンクモバイルのスマートフォン通信状況(青は通信可、赤は通信不可)

柴山:2009年の会社設立から2011年度までと、2012年度以降では、事業内容が大きく変わってきました。2011年度までメイン事業だったのは、ソフトバンクグループ内外へのGISシステムの販売です。具体的には、先ほど申し上げたような基地局の設計や予算策定に役立てるためのGISシステムを、ソフトバンクモバイル、株式会社ウィルコム、Wireless City Planning株式会社などのグループ会社に提供したり、別のGISシステムを大手住宅メーカーなどグループ外の企業に外販する事業です。また、こうした事業に付随して、GISシステムで活用するための地図データや、われわれが独自に開発した「流動人口データ」の販売なども行っています。「流動人口データ」とは、人々の生活行動に伴って変化する動的な人口を、時系列で推定した人口指標データです。例えば、真夜中の新宿にはあまり人がいませんが、朝8時から9時にかけての通勤ラッシュ時には人が溢れ返っている。また、箱根の山には平日はほとんど人がいないのに、休日になると急に観光客が増える。このように、時間帯別や曜日別などで変わる人口密度を把握できるのが「流動人口データ」です。こうしたデータは、電波改善の計画を立てる上でも大変重要なのですが、会社設立当時はそのようなデータがなかったため、われわれAgoopが独自に開発しました。現在は、災害対策用として研究機関や大学などにも販売しています。
2012年度以降は、ソフトバンクモバイルの「スマホのつながりやすさNo.1へ。」を裏づける根拠の一つともなっている、スマートフォンのパケット接続率のデータを取得・解析し、電波が悪い場所を特定して改善を促すという事業をメインに行っています。

声なき声を集める

パケット接続率の調査について詳しく教えてください。

柴山:われわれが提供している「ラーメンチェッカー」や、ヤフー株式会社(以下「ヤフー」)が提供している「防災速報」※などのアプリケーションを使い、お客さまの同意を得た上で、“お客さまが今いる場所”と“そこで通信ができたかどうか”という情報を、Android 端末は30分ごと、iPhoneは移動ごとに取得して地図上に落とし込みます。こうすることで、1日当たり約2,500万件、月当たり7億5,000万件の通信可否情報を可視化することができます。
従来ソフトバンクモバイルでは、エリアごとの電波の強さを調べるため、基地局の情報などを基にしたシミュレーションを行っていました。しかし、シミュレーションだけでは分からないこともあります。例えば、基地局のすぐそばであっても、大きなビルの陰や地下だったりすると、電波は弱くなるからです。ですから、重要なのはシミュレーションの結果よりも、お客さまの実際の体感ということになります。ところが、これまでこうした電波の状況に関する情報は、お客さまからのクレームでしか把握することができませんでした。ソフトバンクモバイルのお客さまからは、電波状況について月当たり約2万件のクレームをいただきますが、全てのお客さまが「ここがつながらないよ」と声に出してくださるわけではありません。しかし、大事にしなければならないのは、このような多くの「声なき声」です。そこで、ソフトバンクモバイルの経営会議で「どうやったら声なき声を集められるか」とかんかんがくがく議論した結果、AgoopのGISシステムを活用するのが良いのではないかとの結論に至りました。こうして2012年7月ごろからトライアルでソフトバンクモバイルのパケット接続率調査を開始しました。

お客さまの情報を取得する上で気をつけていることはありますか?

柴山:お客さまがアプリケーションをダウンロードする際に、大きく分かりやすい画面で「こういう情報を取得します」「こういう目的で使用します」ということを明示し、同意していただくようにしています。もちろん一度同意した後でも、位置情報を取得する機能をオフにすることも可能です。こうした情報の取り扱いについては、法的に妥当か、リスクがないかなどを慎重に検討しながら対応しています。最初に分かりやすく明記したことが功を奏しているようで、お客さまからのクレームやトラブルなどはありません。

今後の展望や目標をお聞かせください。

柴山:今後は、海外向けに既存のGISシステムを提供していくこと、そして国内で新たなビジネスモデルを展開していくことを目指します。
前者については、アプリケーションを通じて通信可否情報を取得・解析するという仕組みを、米国Sprint Nextel Corporationをはじめとして、ソフトバンクグループが今後パートナーシップを結んでいく世界中の通信キャリアに提供していきたいと考えています。
後者については、ビッグデータから本当に価値のある情報を生み出す「ビジネスインテリジェンスプロバイダー」になりたいと考えています。現在、国内の多くの企業がビッグデータを持っているにもかかわらず、実際にはうまく活用しきれていないように感じています。そこで、それぞれの企業が持っている情報と、われわれが持っている「流動人口データ」などの情報を組み合わせて、さまざまな角度から解析を行い、本当に価値のある情報を提供していきたいと思っています。

柴山 和久(しばやま かずひさ)

株式会社Agoop 代表取締役社長

略歴: 1966年神奈川県出身。2000年株式会社USENにてシステム開発部 次長に就任。国内初となるFTTHサービスやVODサービス、衛星放送システムの企画開発などを手がける。2003年ソフトバンクBB株式会社に入社。「地理情報システム(GIS)」を活用したデータ解析システムの企画開発に携わる。2009年4月、株式会社Agoopを設立して取締役を務め、2013年代表取締役に就任。

  • ※ 
    ヤフー提供の「防災速報」により取得されるデータは、ヤフーより通信環境の分析・改善のために通信事業者に提供されたものを、Agoopが通信事業者から受領し、分析を行っています。
  • Android はGoogle Inc.の商標または登録商標です。
  • Apple、Appleのロゴは、米国および他国のApple Inc.の登録商標です。iPhoneはApple Inc.の商標です。
  • iPhone商標はアイホン株式会社のライセンスに基づき使用されています。

(掲載日:2013年7月18日)