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光を駆使した未来の通信への第一歩。「トラッキング光無線通信技術」の実証実験成功で広がる通信の可能性

2021年3月18日、ソフトバンク株式会社と株式会社ニコンが光無線通信の新技術に関する記者説明会を開催。世界で初めて実証に成功した「トラッキング光無線通信技術」の合同実証の概要説明と、新技術のデモンストレーションを行いました。

新たな通信技術として着目したのは「光」

(左から)説明会に登壇したソフトバンク株式会社 IT-OTイノベーション本部 本部長 丹波 廣寅、株式会社ニコン 執行役員 次世代プロジェクト本部長 柴崎 祐一氏

(左から)説明会に登壇したソフトバンク株式会社 IT-OTイノベーション本部 本部長 丹波廣寅、株式会社ニコン 執行役員 次世代プロジェクト本部長 柴崎祐一氏

現在の無線通信は、各社に割り当てられた周波数帯の電波を利用して提供されています。しかし電波の帯域には限りがある一方、今後ますます多接続大容量の通信が求められています。

説明会に登壇したソフトバンクの丹波廣寅本部長は「6Gの時代を見据え、サブミリ波や赤外線を使った通信技術の研究開発が進んでいるが、さらに持続可能で、より高付加価値の通信を提供するために新たな領域を模索した結果、光に着目した。光が電波に置き換わるということではなく、光と電波がお互いを補完し合いながらさまざまなニーズに対応できる通信を実現する未来がくる」との考えを示しました。

新たな通信技術として着目したのは「光」

さらに「光無線通信の世界ではこれまで電波通信で行われてきた常識が覆され、全く新しい世界になる。」と光無線通信が秘めている可能性を強調。セキュアでレイテンシー(遅延)が低く、大容量の通信が見込めるため、実用化できれば、自動運転やドローン、宅配ロボットといった、安定した通信が求められるさまざまな用途で利用することが可能です。また、水中や地中で利用できる可能性も秘めています。

光無線通信の特徴

電波は他の周波数帯に干渉し、ノイズが発生する性質がありますが、それに対して光の性質は電波と異なるため、お互いに干渉することなく共存が可能です。しかし、“直進性”という光の持つもう1つの性質が、利用範囲を大幅に広げる障壁になっていました。

  • 光無線通信のメリット
    光による無線通信を追加しても、既存の電波による通信には影響が出ない。一方で、既存の電波が行き交うような場所で、光はそれら電波の影響を受けずに無線通信が可能。また、よりセキュアな通信が実現でき、セキュリティーが特に重視される部分を光が担う、といった棲み分けができる。

    光無線通信のメリット

  • 光無線通信の課題
    光は直進するため、自分や相手の位置や向きが少しでも動いてしまうと通信が途切れてしまい、動くモノ同士での通信への適用が難しい。
    そのため、光無線通信をより活用するためには、通信機がお互いを補足しあうようなトラッキング技術との併用が必要。

    光無線通信の課題

  • 光無線通信のメリット
    光による無線通信を追加しても、既存の電波による通信には影響が出ない。一方で、既存の電波が行き交うような場所で、光はそれら電波の影響を受けずに無線通信が可能。また、よりセキュアな通信が実現でき、セキュリティが特に重視される部分を光が担う、といったすみ分けができる。

    光無線通信のメリット

  • 光無線通信の課題
    光は直進するため、自分や相手の位置や向きが少しでも動いてしまうと通信が途切れてしまい、動くモノ同士での通信への適用が難しい。
    そのため、光無線通信をより活用するためには、通信機がお互いを補足しあうようなトラッキング技術との併用が必要。

    光無線通信の課題

光無線通信の実用化のために、優れたトラッキング技術を持つニコンと協業

「ポテンシャルがある光無線通信だが、“直進性”の課題をクリアするためにトラッキング技術で補完する必要があった。トラッキングのために我々が着目した要素技術が、『画像認識』と『ジンバル』の組み合わせ。2019年にはソフトバンクとして近距離トラッキング技術の原理実証を成功させ、特許を取得。この技術は通信以外にもさまざまなケースに応用できると考え、実用化に向けた動きを加速させるべく、光学系や画像認識技術に優れたニコンと合同実証を進めることになった」と、丹波本部長は今回の合同実証実験の経緯を説明しました。

トラッキング光無線通信技術に用いた2つの要素技術
  1. 画像認識
    人の目と同じように、視野が広く、モノを識別するなど、大量の情報を扱うことができる。そのため、通信相手の識別の他、ヒトや障害物の検知も可能。
  2. ジンバル
    1つの軸を中心に物体を回転させるため可動範囲が広く、搭載できるモノの大きさや種類を制限せず、光無線通信機器以外のものを搭載する場合に応用しやすい。

トラッキング技術はさまざまなケースでの応用が考えられます。例えば、無線中継を行う移動基地局車の回線準備にかかる時間を短縮する、移動中の基地局に対してバックホール(中継回線)を提供するなどが想定できます。スマートシティ実現に不可欠な無線給電においても、遠く離れたモノや動くモノに対してピンポイントで給電が可能に。さらに、スポーツ中継において、サッカー中継などでは、コート全体の映像を撮る固定カメラとジンバル搭載したカメラを組み合わせ、画像認識によって任意の選手をズームアップしながら追いかけることができるなど、多くの可能性を持っていることが分かります。

光無線通信の実用化のために、優れたトラッキング技術を持つニコンと協業

人が目で追うようにトラッキング。AI画像処理と精密トラッキングで実現

続いて、ニコンの柴崎祐一本部長より、トラッキング光無線通信機に関する説明が行われました。ニコンはカメラメーカーとしてなじみ深いですが、映像のほか、ヘルスケア、精機、産業機器・デジタルソリューションズといった事業を展開しています。いずれも「光利用技術」と「精密技術」をベースとしており、今回のトラッキング無線通信にもその技術が利用されています。

柴崎本部長は「デモンストレーション用のロボットは、まるで人の顔みたいな形をしていますよね。ちょうど額にあたる部分の真ん中に、ソフトバンクが提供する光無線通信のモジュールが搭載されています。その下に、1つだけですが目の役割になるカメラ。カメラで画像認識をして相手を追いかける、まさに視覚によって、ロボットの首から上を制御し、ロボット同士が正対しあうと通信が保たれる仕組みです。イメージとしては、額からビームを出してテレパシーで通じ合う感じですね。今回、ニコンがすでに持っている空間測距装置製品の「Laser Radar」を応用したため、迅速な開発ができました」と、仕組みについて説明しました。

人が目で追うようにトラッキング。AI画像処理と精密トラッキングで実現

この仕組みには大きく2つの技術が用いられています。1つ目は、ターゲットを背景と分離するAI画像処理によるターゲット認識技術。ターゲット以外に映り込む配線や構造物、周囲の明暗、距離の遠近、ピントなど、多くのパターンを学習させることで高い認識率を確保しています。また、試行錯誤の末にでき上がった特徴的な黄色いボードは、ユニークなターゲットデザインにより、認識率が向上しているそうです。

2つ目は、精密トラッキング技術です。単にカメラの軸を合わせただけでは、その上についている無線通信モジュール同士を正対させることができないため、お互いの姿勢を考慮してカメラ軸が制御されています。最後に、柴崎本部長は「通信機の仕様上、限界となる100mの距離でのターゲット認識に成功しました。これは、将来1(km)/1G(bps)の実現の礎になると確信しています」と今後の可能性について力強く語りました。

人が目で追うようにトラッキング。AI画像処理と精密トラッキングで実現

高度な要求にも応えられる技術開発のため、研究開発を継続

高度な要求にも応えられる技術開発のため、研究開発を継続

最後に両者は、これまでさまざまな困難に直面しながらも「光無線通信機を移動体に搭載できるか」というテーマについて効果的な技術検証を進めてきたことに触れ、「この技術は今スタートラインに立ったばかり。数年後の実用化を目指し、さまざまなユースケースを検討しながら事業化のターゲットを見極め、ニーズに合わせて高速化やコンパクト化、コストダウンなどを追求していきたい」と今後の意気込みを述べました。

(掲載日:2021年3月25日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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