近年、デジタル化が加速する社会の中でも注目されている概念「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。さまざまな業界でデジタル技術が活用され、新しいサービスが生まれています。
そんな中、ソフトバンクの人事は、2020年4月から新卒/中途採用の人材配置の意思決定のサポートを行う仕組みとして「PA(ピープルアナリティクス)」の検討/検証をスタートすることに。新しい物に興味津々の編集部メンバーが、本取組の担当者にその仕組みやちょっとした裏事情を聞いてきました。
ソフトバンク 人事本部 People Analytics担当 後藤 渉(ごとう・わたる)さん
2015年より人事本部で新卒採用の業務に携わり、ヤフーへの出向を経て現在、配置施策やPA(ピープルアナリティクス)などの業務を担当
ソフトバンク 人事本部 People Analytics担当 御園生 銀平(みそのう・ぎんぺい)さん
2017年、新卒でソフトバンク株式会社に入社。入社後は人事制度の企画・運用に携わり、現在はR/Pythonなどを用いてピープルアナリティクスに取り組む。
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取材はオンラインで実施しました
配属に関する意思決定をサポート。「PA(ピープルアナリティクス)」の取り組みでできること
今日は新たに検討/検証段階として取り組んでいる仕組みについて徹底的に教えてもらいたいと思います。できれば詳しい仕組みなどの裏側も。
はい! 可能な範囲でお答えしますね!
ちなみに、「PA」って、パーキングエリアの略……?
全然違いますね。
そうですか…… どんなことができるんですか?
PA=ピープルアナリティクスの略で、人材マネジメントの意思決定の精度向上などを実現する手法です。従来は、選考での面接官から見た適性や本人希望などの情報を加味して総合的に配属を決定していましたが、配属の意思決定をサポートする形でピープルアナリティクスを活用した今回の事例では、「性格フィットスコア」というものを取り入れることで、定性情報のみではなく、定量情報も加味したより精度の高い人材配置を実現できるんです。ただし、あくまで検討/検証段階ではあるので、最終的には従来通り人による意思決定を行っています。
私から少し補足させていただくとPA(ピープルアナリティクス)を推進する上で特に意識している点が3点あります。1つ目はPA(ピープルアナリティクス)は事業を成功させるための適材適所の実現と社員にとってより良いキャリアを歩んでいただくために導入していくことです。2つ目は配属の検討時は個人のキャリアの志向やモチベーションを重要視しており、PA(ピープルアナリティクス)は最後のサポートツールと位置付けていること。そして最後の3つ目としてPA(ピープルアナリティクス)に利用するデータの取り扱いは十分に注意しており、個人の不利益になるような活用は行わないこと。これらのことを大事にしています。
人事内で注意して取り組みを行っているのですね。ちなみに性格フィットスコアというのは、どういったものなのでしょうか?
配属候補先への本人の性格的なマッチ率を数値で表したものです。具体的には、本人の希望配属先などの情報をメインに、性格フィットスコアを参考として、総合的に配属先を決定する形ですね。
なるほど! 客観的指標を組み合わせることでさらに質を担保しているのですね。
その通りですね。あくまでも、通常の人材配置フローの間にピープルアナリティクスを用いた定量情報が入ってくるだけで、最終的な判断は人の手で行っていることもポイントです。
デジタルに定量的な情報だけで判断をするような事はせず、慎重な活用をされているということですね。
人の判断をサポートしてくれるイメージです!
どんな仕組みで性格フィットスコアを算出しているか教えてください。
そこは私から。今回の件は機械学習手法を活用していて、まず、過去の配属実績から分析対象にするデータを選択し、パフォーマンスなどを元に基準値を定義していきます。その後、分類モデルから決定木や、○▲X○▲Xなどの分析手法を用いて精度や適合率などを確認し、うんたらかんたら……(とても複雑なので詳細は割愛)。
……。
要は、数百人以上の参考データを元に、さまざまな分析手法を比較検討しながら性格フィットスコア化してる、ということです。
中々複雑ですね……。
うん……。
この中で、素人でも聞いたことがあるような分析手法ってあるんですか?
うーん。有名なものだと、ロジスティック回帰や決定木ですかね。
ロジスティック回帰分析
複数の変数から分析を行う多変量解析の一種であり、質的確率を予測するもの。マーケティング施策でも活用されることがある。
決定木分析
決定木は学習データを条件分岐によって分割していくことで分類問題を解く手法。分割する際には不純度という乱雑さ(または不均衡さ)を数値化したものを利用します。
どうやってそんな複雑なものベースに性格フィットスコアを作れたんですか?
既存の採用支援ツールをベースに、分析結果の定量指標をデータサイエンティスト、定性指標を人事のベテラン担当者に確認しながら取り組んで、関係者の方に協力をいただけたからですかね。定性指標は各部署の性格特性を言語化しているのですが、当初は中々苦労しました。
営業の性格特性例
- 競争意欲が高い
- 挑戦志向が強い
- etc...
確かに、人の性格って言葉にしづらそうですね。
進化に必要なのは、アナログ ✕ デジタルのハイブリッド。プロジェクトの裏側と目指すべきもの
配属におけるピープルアナリティクスに取り組んでいる経緯やプロジェクト期間を教えてください。
ソフトバンクの「Beyond Carrier」戦略の加速を目的に、人材戦略として要員・スキル・マインドの新規事業へのシフトに取り組んでおり、ピープルアナリティクスも人材戦略推進の1つの手段としてどういったことができるかを検討したことがきっかけです。社内のデータサイエンティスト、人事など、部署横断型でチームを作り、約半年ほどかかりました(大変だった……)。
Beyond Carrier戦略
ソフトバンク株式会社の成長戦略。 通信事業基盤をより強固にすると同時に、ソフトバンクのグループ企業群が提供するさまざまな最先端テクノロジーやサービスの活用や、パートナー企業との共創によるDXの取り組みにより、従来の通信事業者の枠を超えてさらなる成長を目指すもの。
うわあ、取りまとめが大変そうですね……。どのようなスケジュール感で進めたんですか?
要件定義に2カ月、分析・検証に2カ月、運用設計に2カ月ほどかかりました。初めての取り組みだったので、何度も立ち止まって方向修正をしたりで、本当バタバタでしたよ。
本当お疲れさまでした。プロジェクトの中で気を付けた点があれば教えてください。
まず前提として、「応募者や社員が不安に感じたり、不利益になるような取り組みはしない」というポリシーを持って実施しました。そのうえで、データを収集する際に、応募者や社員の理解と齟齬(そご)が発生しないように気をつけて、会社全体を良くするためのアセスメントだと納得してもらえるようなメッセージになるように心がけています。
後藤さんと御園生さんが本プロジェクトで学んだことや今後の展望はありますか?
今回の取り組みでは、性格特性データや統計知識、プログラミング知識など、複数の専門知識を必要とします。そのため、分析結果に基づいて最終的にプロジェクトの意思決定をする相手に合わせて、身近な言葉に翻訳するという作業が大変でした。そういった経験を踏まえて相手に合わせて情報の伝え方や粒度を変えることを意識できるようになった気がします。今後の展望ですが、ピープルアナリティクスは社員の協力が不可欠です。今後はさらに、社員に価値を感じてもらえるような仕組みづくりを行っていきたいですね。
今後も情報の取り扱いには十分注意しながら、事業を成功させるための適材適所の実現と社員にとってより良いキャリアを歩んで頂くためにPA(ピープルアナリティクス)を推進していきたいと考えています。
ありがとうございました!
Smart & Fun!な働き方に興味のある方はを少しのぞいてみてください。
ソフトバンクでは、働き方に関するスローガン「Smart & Fun!」の下、テクノロジーを活用した業務効率化やメリハリのある働き方により、よりクリエイティブでイノベーティブな仕事に時間を当てる取り組みを推進しています。
(掲載日:2021年6月30日)
文:ソフトバンクニュース編集部