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AIが大学研究をサポートして、この世の真理を明らかに!? 「Beyond AI」とは

AIが大学研究をサポートして、この世の真理を明らかに!? 「Beyond AI」とは

日進月歩で進化するAIの技術。私たちの身の回りにもAIを活用したサービスが広まり、今後AIによって社会がどう変わっていくのか、期待を膨らませている人も多いのではないでしょうか。

こうした中、日本で最先端のAI研究を進める機関として2020年に誕生したのが「Beyond AI 研究推進機構」です。東京大学とソフトバンクグループが共同で設立し、次世代AIの中長期的な基礎研究と事業化を目指したハイサイクル研究(応用研究)に取り組んでいます。

なぜ、東大とソフトバンクがタッグを組んだのでしょうか。そして、AI研究を進めることでどんな未来がやってくるのでしょうか。「Beyond AI 研究推進機構」機構長 萩谷昌己教授とソフトバンク AI戦略室 室長 松田慎一に話を聞きました。

お話を聞いた人

萩谷 昌己さん

東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
「Beyond AI 研究推進機構」特命教授 機構長
萩谷 昌己(はぎや まさみ)

東京大学理学部情報科学科修士課程、京都大学数理解析研究所を経て、2001年より東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻教授。プログラミング言語の理論、ソフトウェアテスト、形式的検証などソフトウェア科学・工学に加えて、DNAコンピューティングを中心に自然計算の研究を行う。2021年4月よりBeyond AI 研究推進機構 機構長。

松田 慎一さん

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット
AI戦略室 室長
松田 慎一(まつだ しんいち)

早稲田大学大学院 理工学研究科 情報科学専攻修了。2013年ソフトバンク入社後はAI技術を用いたソリューション開発に従事し、IoT&AI技術本部副本部長を経て2020年4月から現職。
東京大学とソフトバンクの産学連携事業であるBeyond AI 研究推進機構を推進。

宇宙や自然現象の法則をAIで明らかに。「Beyond AI 研究推進機構」とは?

まず、「Beyond AI 研究推進機構」の取り組みについて教えてください。

萩谷先生

「Beyond AI 研究推進機構」では大きく2つの研究を進めています。1つは基礎研究(中長期研究)。生物学、物理学などさまざまな学術分野とAIを融合して、新しい学術を生み出していくための研究です。もう1つは比較的近い未来での事業化を目指した応用研究。実際の社会で起きている課題をAIで解決していくための研究です。

『Beyond AI 研究推進機構』が目指すエコシステム

宇宙や自然現象の法則をAIで明らかに。「Beyond AI研究推進機構」とは?

既存の学術分野とAIを融合するというのは、どんなイメージでしょうか?

萩谷先生

先日開催されたBeyond AI 研究推進機構の国際シンポジウムで、物理の研究者たちがパネルディスカッションを行いました。そこでは、惑星の軌道をAIに見せ、万有引力の法則を発見させる研究が紹介されました。つまり、ニュートンが木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したのと同じことを、AIにさせるんです。

宇宙や自然現象の法則をAIで明らかに。「Beyond AI研究推進機構」とは?

では、これは何を意味するのか。AIと既存の学問を掛け合わせることで、まだ人間が見つけていない物理現象の法則を発見できる可能性があります。例えば、宇宙の始まりを解明するには膨大な観測データの分析が必要です。これまでは人間が試行錯誤を繰り返しながら解明を試みていたわけですが、AIの力を借りることで解明により早く近づくことができるでしょう。

「Beyond AI 研究推進機構」では、このようにAIと人間が協力することで新たな学術分野をつくることを目指しています。

AIを使うと、人間が考えられなかった答えを導けるのでしょうか?

萩谷先生

そうですね。イメージは、AI自身が圧倒的なスピードで膨大な数の仮説を立てて検証し、現象にもっとも合う答えを選び出す、という感じです。人間が1つひとつ検証するには時間がかかりすぎてたどり着けないところに、AIは瞬時に到達できます。将来的には、仮説を記述するための言語をAI自身が生み出すところまでいくだろう、と考える人もいます。

研究のプロセスがAIによって一変しそうですね。

萩谷先生

これからの研究者にとって、AIやデータサイエンスの知識は必須になります。大規模データの分析にAIは欠かせないですし、AIの専門家と共同で研究することも広がっていくでしょう。
AI研究はアメリカや中国などが先行しており、実は日本はAIやデータサイエンスの研究者がまだ少ないんです。一方で、日本はノーベル賞を多く受賞してきたことからも分かるように、生物学、物理学、医学などの分野は強い。こうした分野とAIを融合させていくことが今後は必要だと思います。

宇宙や自然現象の法則をAIで明らかに。「Beyond AI研究推進機構」とは?

「Beyond AI 研究推進機構」では各分野の最先端の研究者がAIと協力する体制ができています。世界をリードする研究を生み出していきたいです。

東大とソフトバンクの産学連携研究で社会課題を解決する

中長期で基礎研究を進める一方で、社会実装を目指した応用研究に取り組んでいる理由はなんでしょうか?

萩谷先生

大学発の研究はどうしても技術が先行してしまいがちです。大学発ベンチャーも増えていますが、研究成果を本格的に事業展開して社会に還元するまでには時間がかかってしまいます。

やはり、実際に社会のニーズに応えてビジネスをけん引している企業と協力することが大事だと考えています。「Beyond AI 研究推進機構」では、ソフトバンクさんに社会のニーズをくみあげていただき、東大の持つシード技術と組み合わせていくことを目指しています。

ソフトバンクとしては「Beyond AI 研究推進機構」に参加することにどんな意義があるのでしょうか?

松田

日本の大学は海外の研究機関と比べて研究予算が少なく、またAIと既存の研究分野の結びつきが弱いという課題があります。そこで、東京大学とソフトバンクが組むことで、AI研究を推進する環境を整えて、成果につなげていこうという目的で「Beyond AI 研究推進機構」ができました。

萩谷先生がおっしゃったような中長期的な研究に腰をすえて取り組んでいく一方で、ソフトバンクでも協力して進めているのが、事業に直結する研究課題に取り組み、比較的短期間で事業化を目指す応用研究です。最先端の研究を進めるためには、資金や人材育成が不可欠。社会課題をAIで解決するとともに、事業化によって得られる収益を研究資金に還元し、ノウハウを人材育成にいかしていく。これによって、AI研究を加速させることが狙いです。

ソフトバンクは通信事業者であり、AIを活用したさまざまなサービスを開発・提供しています。「Beyond AI 研究推進機構」の研究成果を事業に応用しながら、新しいユーザー体験を生み出すサービス開発につなげていきたいと考えています。現在は、10年で3件の新学術分野の創出と10件の事業化を目標に掲げて取り組んでいます。

中長期の研究テーマおよび研究者一覧

中長期の研究テーマおよび研究者一覧

事業化や研究環境を整える部分で、ソフトバンクの役割は大きそうですね。

松田

研究環境の点だと、「Beyond AI 研究推進機構」ではNVIDIAの最新AIプラットフォームを導入しています。高性能な計算能力を、より効率的に研究者が利用できる環境を整えるため、ソフトバンクが提供しました。

NVIDIAの最新AIプラットフォーム

  • 表中の「BAI」は「Beyond AI 研究推進機構」の略です。
NVIDIAの最新AIプラットフォーム
NVIDIAの最新AIプラットフォーム

萩谷先生

これは、研究者としては本当にありがたいです。機械学習は大量のGPUリソースを消費するため、常に足りない状況だったんです。存分に使える計算機があるのはとてもうれしいですね。

人材育成という点ではどんな取り組みが?

松田

共同研究を通して、学生や若い研究者の育成だけでなく、ソフトバンク側のAIエンジニアの育成にもつながっています。

また、Beyond AI 研究推進機構の連携事業の一環として、ソフトバンクを受け入れ先とした東京大学グローバル・インターンシップ・プログラム(UGIP)も実施しています。2021年は約200名の学生に参加いただき、ヤフーの人流データ・検索データを活用したAIデータ分析のコンペティションを開催し、学生の皆さんにも「良いきっかけになった」「刺激になった」など、好評をいただいています。

萩谷先生

東大でもさまざまな分野の学生や研究者がAIの領域に入ってきています。AIの授業に力を入れていますし、彼らは割と短期間でディープラーニングなどの基本的な技術も習得しているようです。

一方で、それらの成果をビジネスに生かしていくとなると一朝一夕にはいきません。実践の環境を学生に提供するという意味でも、ぜひソフトバンクさんにお力を借りたいと思っています。

事業化はもうすぐ。「Beyond AI 研究推進機構」の研究最前線

「Beyond AI 研究推進機構」で現在どんな研究が進んでいるんですか?

萩谷先生

基礎研究の分野だと、量子現象をAIで解析する研究や、AIで宇宙の暗黒物質(ダークマター)を分析する研究などが進んでいます。脳科学の分野だと、脳の活動をAIで再現したり、脳とAIをつなげたりする研究もあります。

未知の領域がAIで解明されていくなんて、楽しみですね。応用研究ではどんな取り組みが?

松田

研究成果をスムーズに事業へとつなげるため、大学と企業のジョイントベンチャーを迅速に立ち上げる「CIP制度(Collaborative Innovation Partnership)」をつくりました。順調に行けば、今後年間1〜2つほどのCIPを立ち上げ、事業化を進めていく予定です。

事業化の一例として、医療データの活用に関する研究テーマを進めています。医療データの連係は社会課題の1つ。将来的には、日常の健康データと各医療機関のデータをかけ合わせた、人々の健康に貢献できるようなデジタルヘルスサービスをソフトバンクとして提供していくことを目指しています。

事業化はもうすぐ。「Beyond AI研究推進機構」の研究最前線

また、AIを活用したデジタルツイン上で都市の人流などをシミュレーションし、街づくりに生かしていく研究も進めています。これらは、そう遠くないうちに事業化する予定です。

AIが進化する中で、人間に何ができるかを考えていく

AI研究が進み、社会実装されることで、社会はどう変わっていくのでしょうか?

萩谷先生

AIによって人間に求められる役割が変わってきますよね。AIが単純計算のみならず、未知の法則を見つけることができるようになると、人間の役割はもっと高度になっていくはずです。しかし、これで人間の仕事がなくなるわけではありません。

AIによって人間の役割が変わっていく中で、人間にできることは何か、社会を豊かにするために何が必要かを考えることが必要だと思います。AIと人が協力することでこれまでできなかったことが可能になります。研究を進めて可能性を広げていくとともに、社会にいかに役立てていくかを考えていくことが大切だと思います。

(掲載日:2022年3月25日)
文:野垣映二
編集:アクアリング

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