SNSボタン
記事分割(js記載用)

渋滞はなぜ起きる? 専門家に聞く、発生のメカニズムと最新の渋滞対策

渋滞のメカニズム前編 渋滞はなぜ起きる? 専門家に聞く、発生のメカニズムと最新の渋滞対策

行楽や帰省シーズンになると、メディアでよく見る高速道路渋滞のニュース。工事渋滞や事故渋滞ではないのにどうして渋滞が起きてしまうのでしょうか。渋滞にはまって動けなくなると、せっかくの楽しい雰囲気も台無しになってしまいますよね。渋滞を回避し、快適に移動する方法はあるのでしょうか?

そこで、「渋滞学」の提唱者である東京大学 先端科学技術研究センターの西成活裕教授を取材。渋滞が発生するメカニズムや、道路に施されている渋滞対策、ドライバーの心掛けについてうかがいました。

お話を聞いた人

西成活裕(にしなり・かつひろ)教授

「渋滞学」提唱者 東京大学 先端科学技術研究センター
西成活裕(にしなり・かつひろ)教授

さまざまな渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、内閣府イノベーション国際共同研究座長、内閣府IT戦略本部ITSタスクフォース委員などを歴任。『渋滞学』(講談社科学出版賞受賞)など一般向けの著書やメディア出演も多く、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出、2021年イグ・ノーベル賞を受賞。また東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会アドバイザーに従事、国交省、経産省、文科省などの有識者委員も多数務めている。日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」に多数回出演するなど、多くのテレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍している。

Webサイト:東大西成総研

目次

なぜ起きる? 渋滞が発生する原因とメカニズム

なぜ起きる? 渋滞が発生する原因とメカニズム

週末や連休にはよく渋滞が起きているイメージがありますが、そもそも渋滞とはどのような状態のことを指すのでしょうか?

西成さん

「車の場合、交通量あるいは交通密度が一定以上増えた状態を『渋滞』といいます。データ上では、1kmに25台以上の車が走っているか、1時間に約2,000台以上の車が走っていると、渋滞が起こることがわかっています。言い換えれば、車間距離が40m以下になると渋滞が起こるのです。感覚的な話でいうと『なんとなく混みそうな予感がするけれど、まだ思うように走れていると感じるギリギリの状態』が、渋滞の始まりですね。そこで車間距離を詰めてしまうと、より深みにはまることに…。完全に動きがとれなくなってしまった状態は、渋滞の末期的症状といえます。
渋滞が起こりやすい3大スポットは、サグ部、トンネル、合流です。そのメカニズムについて、それぞれ詳しく見ていきましょう」

渋滞が起こりやすい3大スポット

  1. サグ部

    サグというのは「たわみ」という意味で、下り坂のあと上り坂になっている場所のことをサグ部といいます。下り坂でスピードが出て、上り坂で遅くなるため、上りの入り口が渋滞の起点になります。坂の傾斜も関係していて、急な上り坂の場合は、坂道と気づいてアクセルを踏み直すので逆に渋滞は起こりにくくなります。

    ところが、4%程度の上り坂(100mで4m上らないくらいのゆるやかな坂道)の場合、ほとんどの人はしばらく走らなければ坂道だと気づきません。そのため、アクセルを踏み直さずにクルーズするので、少しずつスピードが遅くなっていく。そうすると、前の車が遅いと感じて後ろの車がブレーキを踏み、その後ろの車もブレーキを踏みというように、それが連鎖して渋滞が起こります。車間距離が詰まってくるので、後ろにいくほどブレーキを強く踏むことになり、結果として先頭から10台目くらいの車が止まってしまいます。

    サグ部

  2. トンネル

    トンネルで渋滞が起こる原因の1つは、人の暗反応です。人は急に暗いところに行くと、周りが一瞬見えなくなって怖くなり、アクセルからちょっと足を外したり、ブレーキを踏んだりします。前の車が減速したりブレーキを踏んだりすることで、後ろの車にもそれが伝わり、結果としてトンネルの入り口から少し入ったところで渋滞が発生してしまいます。それなら意識してアクセルを踏めばいいと思うかもしれませんが、トンネル内は両脇に余裕がなく、急に狭いところに突入する感覚があるため、圧迫感を覚えて加速できなくなってしまいます。
    もう1つの原因は、トンネルの構造にあります。トンネルは、水はけを良くするために、中心を少し盛り上げて丘状に作られています。つまり、トンネルの入り口はゆるやかな上り坂になっていることが多いため、サグ部と同じ現象が起こってしまうのです。

  3. 合流

    複数車線が交わる箇所を合流といいますが、こういう場所では、流れに無理やり割り込もうとする車がいます。そうすると、急にブレーキを踏むことになり、後ろの車も同じように急ブレーキを踏むため、渋滞が起こりやすくなります。花園インターチェンジや海老名サービスエリアなどは、サグもありますが、合流で渋滞していることもあり、夕方になると必ず渋滞が起こる場所として有名です。

渋滞が発生しやすい時間や曜日はあるのでしょうか?

西成さん

「発生しやすいのは、多くの人の移動が重なる朝と夕方です。高速道路でいえば、日曜日の夕方の上りは、4〜5km程度の渋滞が頻繁に起こっています。週末どこかに遊びに出掛けて、夕飯前に都内に戻ろうとすると、16時頃に都内に入る高速道路を通過することになるからです。みんなが同じことを考えて移動するので、1時間に2,000台の交通量の車なんてすぐに集まってしまうんですね。ゴールデンウィークやお盆の時期になるともっとひどく、10〜20kmの長い渋滞が発生します。これは、国民が一斉に休みをとる日本の特徴ともいえるでしょう」

ここまで進んだ! 人間の心理を利用した渋滞対策

ここまで進んだ! 人間の心理を利用した渋滞対策

ETCの導入によって、料金所を起点とする渋滞はほぼなくなったと聞いています。現在、道路に施されている渋滞対策や、それによってどのような効果が出ているか教えてください。

西成さん

「渋滞というのは生もので、全く同じ状態で実験することは絶対にできません。そのため『渋滞が減った』ことを科学的に証明するのはかなり難しいですが、ハード的な対策によって一定の効果は出ているようです」

主な3つの渋滞対策

  1. プロビームLED照明

    プロビームLED照明は、トンネル内の安全対策のため用いられている照明です。10年以上前に行われた実験によると、トンネル内が暗い状態では平均速度が時速10〜15km程度落ちましたが、明るくすると時速5km程度しか落ちなかったとか。つまり、明るくするだけで、トンネルに入ったときの減速幅がそれほど大きくならずに済み、渋滞緩和にも貢献するんですね。

    プロビームLED照明

  2. ペースメーカーライト

    ペースメーカーライトとは、壁面に光の流れるサインを取り付けて、運転手に減速を知らせる渋滞対策です。サグ部や長い上り坂、下り坂となるトンネル区間に設置されていて、運転中に減速すると、光に置いていかれる感覚に陥ります。海ほたるで行った実験では、5%から10%速度が回復したというデータが出ています。

    ペースメーカーライト

  3. キープグリーンライン

    キープグリーンラインは、車線利用の偏りを減らすほか、インターチェンジからの逆走対策のためにNEXCO東日本が設けた緑色のラインのこと。高速道路が混んでくると、追い越し車線に移動する人が多くなりますが、キープグリーンラインがあることで車線をまたぎにくくなり渋滞が緩和されます。

    キープグリーンライン

    写真はイメージです

いろいろな対策が施されているんですね。渋滞を減らすために、私たちドライバーはどのようなことを心掛けたらいいですか?

西成さん

「渋滞に巻き込まれるのは仕方がないと思っている方が多いですが、決してそんなことはありません。まずは、スマホの地図アプリなどで渋滞情報を確認し、時間と場所を分散することが基本ですね。例えば、混むと言われている時間から1〜2時間ずらすだけでも、渋滞にはまりにくくなります。その上で、運転の仕方を意識することです。渋滞は、簡単に言えば『ブレーキのバトンを渡したら負け』というゲームです」

ブレーキのバトン

前の車がブレーキを踏み、後続の車も自分も踏まざるを得なくなり(ブレーキのバトンを渡す)、連鎖が起きて、やがて車の流れが止まります。

車間距離を詰めて減速を行う実験(上)と、車間距離を空けて減速し渋滞を吸収する実験(下)の比較動画。車間距離を空けていた(渋滞吸収運転していた)車の後続車は完全には停止しないことがわかります 。

西成さん

「バトンを断ち切るために大切なことが3つあり、1つ目は車間距離を空けておくことです。車間距離が詰まっていると、どんなに運転が上手い人でも、前の車がブレーキを踏むと自分も踏まざるを得なくなってしまいます。事実、車間を空けようという意識のあるドライバーが運転する車が100台に1台だけでもあると、全体の渋滞がかなり減らせるということが研究でもわかっています。2つ目は、2〜3台先を見て運転すること。3台くらい前を見て運転すると、その車が減速しているかどうかわかるので、対策が立てやすいんです。もしブレーキを踏むことになったとしても、強く踏まないで済むので、後ろの車にもバトンを渡しにくくなります。3つ目は、渋滞に巻き込まれてしまったときの行動で、『ファストアウト』といいます」

ファストアウトとは、どのような行動のことでしょうか?

西成さん

「完全に動きが止まってしまうような渋滞でも、いつかは解消して動き始める瞬間がありますよね。ところが、大体の人は渋滞に疲れ切っていて、目の前の車が動きはじめても、しばらくぼーっとした後にゆっくり自分の車を動かすんです。みんながそうすると、渋滞が余計に酷くなるので、なるべく早めにスタンバイして、車を動かすようにしましょう。連結列車のように皆がスッと動けると、より早く渋滞が解消しますね。最近では、アクセル操作とブレーキ操作の両方を自動的に行ない、運転を支援するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が搭載された車も増えてきました」

自動運転の時代になると、渋滞は緩和されると考えられますか?

西成さん

「現在、さまざまな企業が移動について研究を行っていますが、その1つが車車間と路車間の通信です。道路情報や車の加減速の情報がリアルタイムでつながると、渋滞はかなり減っていくと考えられています。例えば、車同士が通信できるようになると『10台先の車がブレーキ踏んだ』といった情報が社内のモニターに映し出されます。そうすると、ブレーキのバトンが渡りにくくなり、渋滞も起こりにくくなります。また、道路と車が通信できるようになると、交通量が1時間2,000台を超えそうになったときに、AIが『こっちの道を進んでください』と指示を出して、定量オーバーにならないようコントロールしてくれる可能性も。自動運転技術が発達するだけでなく、情報通信が進んでいくことで、渋滞は減っていくと思いますね」

これまで、渋滞が発生するのは仕方ないと思っていましたが、西成先生のお話から、私たちドライバーの心掛けひとつで緩和できるものであることがわかりました。

車で出発する前には交通情報を調べておこう

車で出発する前には交通情報を調べておこう

私たちドライバーが渋滞をなくすためにできることとして、渋滞しそうな時間帯やルートを避けるということがあります。

あらかじめ、利用する高速道路の渋滞情報や規制情報を調べてから出発しましょう。

渋滞情報が確認できるYahoo!カーナビのダウンロードはこちらから↓↓

App Store

Google Play

(掲載日:2022年8月5日)
文:佐藤由依
編集:エクスライト

渋滞予測の活用法や渋滞を回避するコツはこちらの記事でご紹介しています。