皆さん、スマートフォンの中身をすべて人に見せられますか? 今やスマートフォンは生活に欠かせないもの。家族や友だちとのやりとりや写真だけでなく、仕事や資産、趣味に関することまで、あらゆるプライベートな情報が詰まっています。
では、もしも自分や家族に何かあったら、持ち主を失ったスマホはどうなるのでしょうか。今回は、スマホ時代に無視できない「デジタル終活」について、デジタル遺品を考える会代表の古田雄介さんに伺いました。
お話を聞いた人
古田 雄介(ふるた・ゆうすけ)さん
デジタル遺品を考える会代表。葬儀社スタッフを経て、2002年に編集プロダクション入社。2007年以降は主にフリーランスの記者&デジタル遺品専門家として、執筆・講演活動を中心に行う。著書に『デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史氏との共著/日本加除出版)、『スマホの中身も「遺品」です』(中央公論新社)など。
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目次
- メッセージアプリやSNSの投稿など、デジタルデータも遺品の一つ
- デジタル終活のポイントは「スマホのスペアキー」
- 残したい? 消したい? データの安心な保管方法
- まずはできることから。自分のデジタル遺品を把握しよう
メッセージアプリやSNSの投稿など、デジタルデータも遺品の一つ
ここ数年、「終活」や「エンディングノート」という言葉をよく聞くようになりました。2022年1月の調査によると、今後予定している/興味がある終活として、「家の中の荷物整理」(60.9%)に続き、「パソコンやスマートフォンなどのデータ整理」(39.8%)が上位に入りました。
また、自分の死後に「デジタル遺品」であるメッセージアプリやSNSの投稿を残したいか・削除したいかといった調査では、どのサービスにおいても「すべて削除したい」が約7割で断トツの結果に。
「終活に関する調査」(楽天インサイト株式会社)より引用
万が一自分が亡くなったとき、家族は、まず持ち物を確認しようとするはず。個人情報がたくさん詰まったスマホは、中身を見られる可能性がとても高いと言えます。不用なトラブルを招かないため、また他人に見られたくないデータを守るためにも、まずはデジタル終活を知ることから始めてみましょう!
デジタル終活のポイントは「スマホのスペアキー」
古田さんは、2010年からデジタル遺品や故人のサイトについて取材されているそうですね。その頃と比べて、デジタル終活に関する意識は変化してきたと感じますか?
「僕が活動を始めた当時は、デジタル遺品の話をしても『なぜそんな変なことを聞くの?』と、ピリッとした空気になることがありました。それが変わってきたのは、令和に入ってからでしょうか。『亡くなった家族のスマホが開けないんだけど、どうしよう』といった相談を受ける機会や、デジタル終活に関する講演会の依頼が増えましたね。
今や、身の回りの持ち物と同じように、デジタルのデータも大切な『遺品』の一部です。普段は気にする機会があまりないかもしれませんが、万一の備えは早めにしておいて損はないと思います」
では実際に、デジタル終活は何から始めたらいいのでしょうか?
「デジタルの持ち物は、大きく3つのタイプに分類できます。まずはどこに何があるか把握してから整理しましょう」
①デジタル機器
PCやスマホ、タブレット、外付けハードディスクやUSBメモリなど、データそのものが収納されている機器本体。
②オフラインデータ
デジタル機器の中に収納された、写真や資料、ダウンロードしたファイル、インストールしたアプリなど。
③オンラインデータ
デジタル機器の外側にあるもの。SNSにアップロードした書き込みや写真、オンラインストレージにアップロードしたファイル、ネット銀行やオンライン証券の口座のほか、これらを使うための権利(アカウント)も。
デジタルの持ち物についてわかったところで、その先の進め方も知りたいです。
「はい。デジタル機器、とりわけスマホは、個人の情報が詰まった『家』のようなもの。そのドアを開けられないと、故人と親交のあった人の連絡先にも、遺影に使いたい写真にもアクセスできません。ほかにも、キャッシュレス決済サービスの残高や、サブスクリプションの使用有無なども確かめるのに相当苦労します……。だからと言って、無理にスマホを開けようとしてパスコードを間違え続けると、設定によっては強制的に初期化されてしまうこともあるんです。
そのようなトラブルが起こらないように『スマホのスペアキー』を作っておくことが大切です」
「スマホのスペアキー」…ですか?
「僕が考案した、下の画像のようなカードです。表面に光沢のある名刺大の厚紙に、いま使っているスマホの機種と、そのパスワードを書く。その後、パスワードを書いた部分に修正テープを2、3回走らせてマスキングをすれば、簡易的なスクラッチカードが完成。それを、預金通帳や年金手帳などと併せて保管しておくと、いざというとき一緒に発見してもらえるんです」
万が一に備えてパスコードを控えておくのがポイントなのですね!
残したい? 消したい? データの安心な保管方法
スマホにはたくさん情報が詰まっているもの。ここからは、個人情報やネット上の資産、人に見られたくないデータなどの扱い方について古田さんに詳しくお伺いします。
例えば、「連絡先」などの個人情報は、どのように残しておくといいでしょうか?
「仕事の関係者やプライベートの関係者が、それぞれいらっしゃると思います。その中で、キーパーソンは誰なのか、連絡先とセットでわかるようにしておきましょう。何十人とリストアップせず、数人に絞っておくといいですね」
では、「サブスクリプション」など定額サービスの場合は?
「『デジタルの大掃除』を定期的に行い、何にいくら支払っているか把握しておくことが肝心です。サブスクリプションは、キャリアの月額料金に上乗せして支払ったり、Apple IDやGoogleアカウントにひもづけて支払ったりと、さまざまなタイプがありますよね。お金の流れをパッと見ただけでは把握できないものも多いので、備えは入念にしておきましょう」
「ネット銀行」や「電子マネー」の残高についてはいかがでしょうか?
「それなりの資産になるような預金が入っている銀行口座に関しては、『◯◯ネットバンクを使っている』とわかるように残しておくといいですね。私が聞いた話では、後から800万円ほどの預金が見つかって、遺品相続会議をやり直したケースもありました」
それは大変ですね……。このようなデジタルの持ち物を整理するのに、おすすめの方法はありますか?
「私が推奨しているのは、『デジタル資産メモ』を残すこと。スマホやPCのパスワード、金融資産の情報のほか、Twitterのアカウントは消してほしいといった希望もメモに残せます。あまり細かく書かなくても大丈夫。A4用紙1枚に書ききれない分は諦めるくらいの大ざっぱさでいいと思います」
1枚のメモに残しておけば、管理もしやすそうですね。一方で、「人に見られたくないデータ」を守る方法はあるのでしょうか?
「残された人たちが探すであろう持ち物…お金やサブスク契約などは、わかりやすい場所に置いた上で、それと動線が重ならない場所に保存するのが大原則です。オフラインデータなら、託すものは目立つ場所に置く。隠したいものは下層のフォルダやページに置きつつ、場合によっては鍵をかけておいたりするのが有効でしょう。
SNSのサブアカウント、クラウドサービス上のデータなどのオンラインデータに関しては、実名とひもづけないで設定したり、アクセスする端末を分けたりといった工夫が考えられます。いずれも習慣化できる範囲で、動線を整理することが大切です。無理な取り決めを自分に課しても長続きしませんからね」
なるほど。SNSの趣味アカウントやブログなど、半永久的に残しておきたいものはどうしたら?
「インターネット上のサービスって、割と簡単に消えてしまうんですよね。自分の死後に、使っていたSNSやブログが事業撤退することも考えられます。なので、半永久的に残すには、信頼できる人に引き継ぐのがベスト。家族でも友達でもいいので、『もしこのブログサービスが終わってしまったら、ほかの場所に移してね』と託すのがいいと思います」
追悼アカウントとは?
自分の死後、SNSへの書き込みや画像は、何もしなければそのまま放置されます。場合によっては第三者のなりすましにあい、他者への誹謗(ひぼう)中傷となる投稿に利用される恐れも……。そのようなトラブルを防ぐため、現在では利用者が亡くなった後のアカウント管理サービスを導入しているSNSが増えています。なお、遺族が「追悼アカウント」に移行したり、アカウントを削除したりするには死亡診断書などの書類が必要な場合があります。
SNS | サービス内容 |
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「追悼アカウントとして残す」「アカウントを完全に削除する」のどちらかを選択可能。 | |
「追悼アカウントとして残す」「アカウントを完全に削除する」のどちらかを選択可能。 | |
「追悼アカウント」サービスはなし。遺族または遺産管理人によるリクエストでアカウントの削除が可能。 | |
LINE | 「追悼アカウント」サービスはなし。遺族または遺産管理人によるリクエストでアカウントの削除が可能。アカウントが電話番号にひもづいているため、電話番号を手放した時点で利用ができなくなる。 |
まずはできることから。自分のデジタル遺品を把握しよう
年末年始や年度切り替えのタイミングで、一度、デジタルの持ち物を棚卸ししてみましょう。アナログもデジタルも、整理整頓された環境は気持ちがいいもの。必要のないサブスクを解約すれば、自由に使えるお金も増えるはずです。「終活」と難しく考えず、快適な暮らしのためにぜひ実践してみてくださいね。
(掲載日:2022年8月15日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
定期的にスマホ内のデータを整理しよう
デジタル終活の基本は定期的にスマホ内のデータを把握することです。パスワードの見直しやアプリ整理のコツを参考にしてみてくださいね。