近年、広がりを見せている音声コンテンツ。ジャンルも多岐にわたり、トーク系だけでなくスキルアップのための学習講座や朗読などさまざまで、新規参入する企業や媒体も増加しています。技術の進化によりVRなどの映像コンテンツのリッチ化が進む中、「聴く」ことに特化した音声コンテンツが注目されるのはなぜでしょうか。そこには「聴く」ことの奥深さはもちろん、「聴く」だけではない魅力もあるようです。
そこで今回は、音声コンテンツのトレンドに詳しいサンキュータツオさんに、音声コンテンツが注目されている背景や奥深い魅力を紹介していただきます。
話を聞いた人
日本語学者 お笑い芸人 サンキュータツオさん
1976年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。文学修士。漫才コンビ「米粒写経」として活躍する一方、一橋大学・早稲田大学などで非常勤講師を務める、日本初の学者芸人。月例「渋谷らくご」キュレーター。雑誌連載も多い。『広辞苑第七版』(岩波書店)サブカルチャー分野担当。『東京ポッド許可局』(TBSラジオ)など多くのラジオ番組への出演や、ポッドキャスト『熱量と文字数』の自主制作など、さまざまな音声コンテンツに関わっている。
- Twitter:https://twitter.com/39tatsuo
- Blog:http://39tatsuo.jugem.jp
目次
- 音声コンテンツ人気の理由はデバイスの進化と変化したライフスタイルの影響?
- メリットしかない!? 音声コンテンツの「ながら聴き」と豊富なジャンル
- 楽しみ方は一方向か双方向か。参加や発信の目的ごとに使い分ける音声コンテンツ
- なんでもアリ! 豊富な音声コンテンツの種類と奥深い魅力
音声コンテンツ人気の理由はデバイスの進化と変化したライフスタイルの影響?
映像コンテンツが進化している中、なぜ今、音声コンテンツが注目されているのでしょうか。
「『ながら聴き』ができることが大きなポイントだと思います。映像コンテンツは視覚と聴覚を奪いますが、それに比べて音声コンテンツは聴覚だけで楽しめるので、移動しながら、あるいは作業しながら聴くことができます。YouTubeのような映像コンテンツであっても、映像を見ないでラジオのように聴く人や、音を消して字幕で楽しんでいる人もいます。視覚と聴覚の両方を奪うのではなく、どちらか1つに絞っているものが求められている気がしますね。
背景には、デバイスの進化と普及が関係していると思います。今はラジオや音楽再生を含め、あらゆる機能がスマートフォンに集約されているので、音声コンテンツに簡単に触れられる環境が整っているんですよね。また、Spotifyなどでポッドキャストが聴けるようになったことや、Amazonなど大手プラットフォームが音声コンテンツに力を入れ始めたことも関係していると思います」
海外でも音声コンテンツは注目されているのでしょうか?
「海外では日本よりも早くポッドキャストが注目されるようになり、定着しています。アメリカではニュースのソースになるくらい普及していますね。僕はバスケットボールが好きなんですが、NBAの選手や元選手は結構、ポッドキャストをやっていて、YouTubeよりも音声メディアを発信方法として選ぶ人は少なくないです」
ポッドキャストとは?
2004年に誕生した、インターネット上のサーバーにアップロードした音声ファイルを、更新情報を届ける「RSS」を通じて配信を行うサービス。審査はなく誰でも配信することが可能で、視聴できるアプリがあれば無料で聴くことができる。
現在の音声コンテンツの主なリスナーはどのような人たちでしょうか?
「コンテンツにもよりますが、30代以上が多いですね。ラジオ好きな10代や20代もたまにはいますが、割合としては少ないです。男女比は半々で、女性の方が少し多い気もします。僕がやっているオタク向けのポッドキャスト『熱量と文字数』はジェンダーレスな内容ですし、そのようなリスナー層です。『東京ポッド許可局』に関しては、僕ら出演者のような40〜50代ではない、若い世代や女性の方がたくさん聴いてくれています。意外と、僕らぐらいの世代が何に興味を持ち普段どんな話をしているのかということに、興味がある人が多いみたいなんです」
40〜50代の方の話に興味があるということは、「上司と何をしゃべったらいいか分からない」という人たちのニーズなのでしょうか。
「そういう声はたくさんあります。年上の方と話すきっかけになる話題が知りたいと。『東京ポッド許可局』を聴いて『なるほど、この世代はあの元プロ野球選手のドラフト話が好きなんだな』とか『某女性歌手はこの世代にとって特別なんだな』とか、『相撲といえばあの横綱なのか』と知るという(笑)」
教育コンテンツになっていると(笑)
「今は、発信側が狙っているお客さんにそのまま届く以外に、むしろ自分の方を向いていないコンテンツをこっそり聞きにいくことを、ユーザーが積極的に楽しんでいる。『東京ポッド許可局』は最初からそこを意識していて、絶対にリスナーに話しかけないスタイルにしました。隣のテーブルでお茶を飲んでいるおじさんたちの話に聞き耳立てているという演出をしていて。そういったやり方が好まれている気がしますね。
僕自身は全般的に、自分に語りかけてこないものが好きです。自分に向けては欲しくないんだけれども、人に触れたい気持ちもある。そういう思いを持った人が音声コンテンツを聴いている気がします。コロナ禍でリモートワークが増えたこともあり、仕事や移動など、ひとりで完結する時間が多くなったことが影響しているのではないでしょうか」
メリットしかない!? 音声コンテンツの「ながら聴き」と豊富なジャンル
音声コンテンツの「ながら聴き」は、聴く側にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
「やはり、視覚を奪われないことですね。何かを見ながらでも、あるいは移動しながらでも聴けます。そのため、運転中や通学通勤中に聴いている人が多いです。電車移動が多い僕も、移動中のお供に必ず音声コンテンツを聴いています。『この番組が終わるまで走る』と決めると楽しく走れるようで、ジョギング中にバックグラウンド再生で聴く人も多いですね」
確かにバックグラウンド再生なら、スリープ状態でも再生が継続されるのでスマホを触れない状況でもながら聴きできますね。ところで、ラジオも音声コンテンツですが、最近の音声配信コンテンツとの違いはあるのでしょうか?
「ラジオは、全般的に内容を薄める方向に行っていると思います。テレビの補完のような感じですね。内容の詰まった音声コンテンツを聴くことが負担だと感じる人もいるので、知名度のある人の普通のおしゃべりが増えています。
一方、ポッドキャストのような音声配信は、情報の嵩(かさ)がみっちり入っているものが好まれます。特定多数に向けたテーマを限定したものが人気で、ラジオだとニッチだと言われてしまうものがメインです」
ニッチというと、たとえばどんな内容ですか?
「学術系やグルメ系、あるいはもっとテーマを絞って宇宙の話や朗読だけしているものなど、切り口にエッジが効いているものが多いです。農業系ポッドキャストなんかもすごくリスナーが多いですね」
タツオさんがキュレーターを務めている「渋谷らくご」(落語会)でもポッドキャストを配信していますよね。
「『渋谷らくご』のポッドキャストのリスナーには、地方や海外在住の方が非常に多いんです。特に海外在住の方には、日本語に触れたくなる方が一定数いらっしゃるんですね。複数の人がわいわい話しているのを聴くと余計寂しくなったりするから、ひとりの人の日本語のしゃべり(落語)をじっくり聴きたい人が多いようです。
日々生活する中で、人の話を黙って30分間聴き続けることはなかなかないですよね。落語はそういう状況に半ば強制的に送り込まれる。そうして話を聴きながら想像することの心地よさを一度覚えると、抜け出せなくなるくらい面白いと思うんです。『想像する楽しさ』も音声コンテンツの魅力の1つだと思います」
楽しみ方は一方向か双方向か。参加や発信の目的ごとに使い分ける音声コンテンツ
近年は音声コンテンツのプラットフォームも多様化し、ClubhouseやTwitter Spacesのように参加できる音声配信SNSもできてきました。こうした音声配信SNSにはどんな楽しみ方があるのでしょうか?
「まずはオフ会的な楽しみ方ですよね。同じものを見たり経験したりした人たちがどう感じたか、どんな話をするのかを聴く楽しみです。それから、コロナ禍で直接集まることが難しくなり、専門や問題意識をある程度共有している人たちが議論し合える場所としても機能していると思います。また、リアルの場で行っていたちょっとした立ち話なんかも、音声配信SNSでできるようになりました」
ClubhouseやTwitter Spacesとは?
音声コンテンツを発信・聴取できる音声配信SNS。Twitter SpacesはTwitterの一機能。スピーカーとして発信したり、他のスピーカーが発信中にスピーカー(ゲスト)として参加したり、オーディエンス(リスナー)として参加できたりする。会話は録音(アーカイブ)することも可能。
「少し話はそれますが、大学の授業をZoomで行った際、学生たちにカメラオフの音声のみで参加してもらう形にしたら、普段よりも学生たちが積極的に発言し、いろんなアイディアが飛び出したんです。おそらく学生たちは、ある程度の匿名性がある中で自分の内面を吐露することの快感に気づいたんだと思うんです。
著名人ではない人の間でもClubhouseやTwitter Spacesが流行したのは、そういった半匿名性の中で自分の問題意識などを素直に吐露できる状況が整ったからだと思います。対面で会ってお話するよりも遥かに表現のハードルが低いですから。僕も時々、『やさしい医療』などのテーマで開かれているTwitter Spacesを聴くことがあります」
発信する側として、音声コンテンツを選ぶメリットはどんなものでしょうか?
「一番は編集が圧倒的にラクで、初期費用がほとんどかからないことですね。僕の場合はiPhoneで録音するだけですけど、機材にこだわれば、ラジオ局が制作する音声と遜色ないくらいクリアな音でコンテンツ制作ができます。
以前はサーバーなどの環境が整っていませんでしたが、現在は音声データの圧縮方法も増えましたし、配信できるプラットフォームも増えました。誰でも気軽に音声コンテンツが作れる環境が整いつつありますし、音声コンテンツ戦国時代だと言っていいでしょう。同じ音声コンテンツを複数のプラットフォームで配信することがありますが、同じ音声コンテンツでも各配信プラットフォームのユーザー層がまったく異なる、というのは面白い現象だと思っています」
なんでもアリ! 豊富な音声コンテンツの種類と奥深い魅力
現在、さまざまな音声コンテンツのプラットフォームがありますが、どんな特徴があるでしょうか。
「音声コンテンツの専門家ではないのでうかつなことは言えませんが、『完パケしているものと、そうでないもの』という分類ができると思います。つまり、ラジオ(インターネットラジオ)やオーディオブックとそれ以外という分け方ですね。それから、不特定多数に向けたものとしてのラジオと、属性や専門性、趣味などを限定した特定多数に向けたものとしてのポッドキャストや各音声配信プラットフォームがあり、さらにその下に普段のおしゃべりのような音声SNSがあるという感じでしょうか」
音声コンテンツの分類 | 主なプラットフォーム、 サービス |
備考 |
---|---|---|
ポッドキャスト | Google Podcast、Apple Podcast、Spotifyなど | ポッドキャストを配信するプラットフォーム |
音声配信プラットフォーム | Voicy、stand.fm、Radiotalkなど | 独自の音声コンテンツを配信するプラットフォーム |
音声配信SNS | Clubhouse、Twitter Spacesなど | スピーカーとして生配信したり、リスナーとして聴取参加できたりする |
インターネットラジオ | radiko、ラジオクラウドなど | ラジオ番組を聴取できる。放送局独自の専用サービスもある |
オーディオブック | Audible、audiobook.jpなど | 本を音声で楽しむことができる |
サンキュータツオさんはリスナーとして、普段どんな音声コンテンツを聴いていますか?
「科学や言語学などの学術系の音声コンテンツを聴くことが多いですね。他には、宇宙や食、仏教をテーマにしたもの、小説や随筆の朗読なども好きです。
高校生や大学生がただしゃべっているだけの、誰に聴かせたいのかもよく分からない番組も面白いです。いきなり配信が止まったりする生々しさもいい(笑)」
そのような番組をどうやって見つけているのでしょうか?
「配信の番組一覧でおすすめの上位に表示されるものではなく、下の方に表示されるものをサーフィンしていくと『なんだこれ?』というものに出会える可能性が高いです。そこにはネット上でしか生まれない、素人のむき出し感や初期衝動にあふれたものがあり、その中には本人たちが意図せずにバズってしまうものがある。これは面白いですよ」
そんな見つけ方があるんですね。
「今の若い人は検索上手です。まとめサイトで人気のある面白そうな音声コンテンツを探して、実際に聴いてみて、自分に合わなければまた他のものを探すということを自然にやっています。積極的に自分から情報にアクセスしている人が多いんですね。
でも、やっぱり若いうちは食べ物で言うとハンバーグや油っこくて刺激が強いものが好きな人が多いように、派手なものが好きじゃないですか。TikTokのように視覚と聴覚を同時に奪うものが浸透している現代において、脂身を抜いたお肉やすまし汁、お魚のおいしさなどのような、『聴くだけ』の魅力にたどりつくには、ある程度の時間が必要なのかなとも思います。音声コンテンツのような『聴くだけ』の魅力に気づくためには、いろんな形態のコンテンツに触れることが必要なのかもしれません」
(掲載日:2022年11月16日)
文:山田宗太朗
編集:エクスライト
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