地図上に描かれているのは…そう、ソフトバンクのCMでおなじみのあのキャラクター。一見すると、地図の上にお絵かきアプリで絵を描いたように見えますが、こちらは「GPSアート」と呼ばれる手法で描かれた作品。黄色の線は全て、人が移動した軌跡なんです!
国内外でじわじわと広まってきているGPSアートについて、世界的GPSアーティストのYassanさんにインタビュー。さらにYassanさん監修の下、GPSアートづくりを体験した様子もご紹介します。
プロフィール
Yassanさん
1977年埼玉県出身。2004年東京藝術大学先端芸術表現科卒業。プロポーズがきっかけでGPSアートを始め、ギネス世界記録を持つ。GPSアート界のパイオニアとして数々の世界初・世界最大の作品を生み出し続ける。その活動は、世界中3,000超のテレビ、雑誌、ニュース、Web等で扱われ、国内外の企業・自治体とのコラボレーション多数。最近は、現実とバーチャルを超越した次世代型ランドアートを開拓中。2022年8月、初の著書「地球に描こう! GPSアート」(技術評論社刊)が発売。
- Yassan's GPS Drawing Project https://gpsdrawing.info/
目次
地図に絵を描く!? 「GPSアート」とは一体…?
GPSアートとは、「GPSの軌跡を使った表現」の総称。軌跡を残すのに、徒歩、自転車、車など移動手段は問いません。日本では、「GPS地上絵」「GPSラン(ウォーク)」「お絵かきラン」「顔マラソン」「GPSドローイング」などと呼ばれることも。
こちらのGPSアートは、GPSアーティストのYassanさんにご協力いただき、Yassanさんのランナー仲間7名と初挑戦のソフトバンクニュース編集部メンバーで描き上げました。
「僕がコースを作り、誰がどのルートを担当するか割り振りました。Google マップ で作ったルートのURLをソフトバンクニュース編集部さんと仲間たちに送り、それぞれの空き時間に歩いたり走ったりしてもらったGPSの記録を集約。そのデータを僕がつなぎ合わせて1枚の絵に仕上げました」
どのようにして作ったのか、そのプロセスを見てみましょう!
Yassanさんに教わる、GPSアートの作り方
それでは、GPSアートの具体的な作り方を教えてもらいます。
STEP1 まずはコースを決める
初めに、実際に歩くコースを決めていきます。
「スマートフォンがなかった頃は、道路地図に蛍光ペンで線を引いてコースを決めていましたが、今は Google マップ 上でコースを決めています。『マイマップ』という、地図上に線を引ける機能が便利です。他にも、地図アプリの画面のスクショを撮ってお絵描きアプリで線を描くなど、やり方は人それぞれです」
今回はYassanさんにルートを作ってもらいましたが、初めて挑戦する人はWebで公開されている既成ルートをなぞるところから始めるのがおすすめだそう。
Yassanさんが一般公開しているルートを教えてもらいました。
初心者向けルート「ハート」(Google マイマップ )
- ※
お使いのPCのブラウザで閲覧できない場合は、スマートフォンでの閲覧をお試しください。
「挑戦しやすいのは、例えばハートのように、一筆書きで描けるモチーフですね。好きな場所から歩き始め、同じ場所に戻ってくる回遊型なので失敗も少ないはず。まずは合計2~3kmくらいの距離で、ご近所を一周するくらいのレベルから始めてみてください」
STEP2 出発前の準備
ルートが決まったら、移動手段と実施日を決めます。今回は徒歩で挑戦しますが、他にも自転車や自動車、公共交通機関など、あらゆる選択肢があるんです。それぞれの特徴は以下の通り。エリアや合計距離と照らし合わせながら、自分に合った手段を選びましょう。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
ラン・ウォーク | 小回りがきき、ルートの選択肢が多い | 制作に時間と体力がかかる |
自転車・車 | 広いエリアを使った大規模な作品を作れる | 交通ルールによってルートに制約を受ける場合がある |
電車やバスなど公共交通機関 | 移動が楽、かつ大規模な作品を作れる | 高額な交通費がかかる場合がある |
実施日は、天気予報とにらめっこして晴れ予報の日を選びました。あまりに暑い日や風が強い日は避けた方が無難です。
準備するものは以下の通り。
- スマートフォン、スマートウォッチ、GPSロガー※などのGPS端末
- モバイルバッテリー
- 歩きやすい靴、服装
- 飲み物
- ※
GPSロガー:GPSデータの記録に特化した小型機器。主に、登山の経路記録などで使われる。
「スマートフォンやスマートウォッチを使う場合、保存の失敗やエラーに備えて、GPSアプリを複数インストールしておきましょう。GPS機能が付いているランニングアプリや登山アプリを使う人もいますよ」
STEP3 実際に歩いてみる
いよいよ当日。Yassanさんが作ってくれたルートをスマートフォンで確認しながら、実際に移動していきます。
「歩きスマホは危ないので、ルートを確認するときは必ず立ち止まってくださいね。道の脇で落ち着いて地図を見ましょう」
スタート地点に着いたら、GPSアプリの記録モードをオンに。途中、コンビニに立ち寄ったりする際はGPSをオフにしましょう(アプリによってはオフにできないものもあるので要注意!)。
「もし道を間違えてしまった場合は、そこから線をつなげられるルートを探しましょう。難しければ、引き返しても大丈夫ですよ。ちょっと線がはみ出ちゃっても、それもGPSアートの味になるので!」
ひたすら歩きます。歩きやすいスニーカーがいいですね。
知っている道も、いつもとちょっと違って見えます。なんだか歩くのが楽しい!
GPSをオンにしているからか、いつもよりスマートフォンの電池の減りが早い気が…。少し立ち止まって、スマートフォンに充電ケーブルを挿します。モバイルバッテリーを準備してきてよかった~。
STEP4 完成図をチェック
そうこうしているうちに、編集部の担当ルートを歩き切りました! いい運動になって気持ちいい。
「アプリによっては歩いたログが自動で保存されないものもあります。せっかくのログが消えたら大変なので、ゴールに着いたら必ず保存ボタンを押すように!」
今回は複数名で手分けして1つのGPSアートを描きましたが、1人で作る場合はこの時点で作品が完成しています。こつこつと歩いてきたルートが、形になって残るのは面白いですね。
「人に見てもらったり、GPSアート仲間ができたりするともっと楽しくなりますよ。完成した作品はぜひ、#GPSアートや#gpsartなどのハッシュタグと一緒にSNSに投稿してみましょう!」
GPSアートは、土地の魅力を知るきっかけになる
最後に、YassanさんにGPSアートの面白さについてお話を聞きました。
そもそもYassanさんがGPSアートを始めたきっかけは?
「2008年のことです。当時お付き合いしていた彼女が驚くようなプロポーズをしたいと考える中で、ふと、世界一巨大なプロポーズって面白いかも、と(笑)。そこでいろいろと調べていくうちに、GPSアートの存在を知り、やってみることにしました。半年がかりのプロポーズは無事成功。この時の作品がきっかけで、世界中からGPSアートに関わるプロジェクトに声をかけていただくことが増えました」
今はどんな活動をされているのですか?
「今の目標は、GPSアートの文化をもっと広めることです。例えば、自分でコースを作るのが難しいという声を聞いて、GPSアート. Infoというサイトを作りました。ここでは全国のGPSアーティストたちと共同で、さまざまな街で作ったコースをほぼ毎日1つずつ公開していて、今は全部で1,700くらいあるかな?」
す、すごい数ですね! 海外ではすでに浸透しつつあるそうですが、日本のGPSアート人口も増えてきているのでしょうか?
「着実に増えていますよ! 特に、今まで市民ランナーとしてマラソンやランニングをやってきた人が、その次のステージとしてGPSアートを始めるケースが多いですね。自己ベストの壁にぶつかって、タイムを伸ばす以外のモチベーション維持のためにGPSアートを始めるとか。
また、コロナ禍以降は全国各地でGPSマラソンが開催されるようになりました。実際に人が集まって同じ場所を走るのではなく、おのおのが自由なルートで42.195kmを走ったタイムをランニングアプリで記録して大会に申請するんです。こういった背景もあり、GPS×ランニングの文化が認知されてきました」
これぞ新しいランニングの形、ですね。
「アプリやSNSを通して、同じ趣味を持つ仲間が増えていくのも醍醐味(だいごみ)です。今回のように複数のランナーが協力して1つの巨大な作品を作るなど、GPSアートそのものの楽しみ方の幅も広がってきています。最近では、15人のランナーによって写楽の浮世絵をモチーフにした大作も完成し、海外から注目を集めたんですよ」
こちらの作品も迫力満点…! 最後に、Yassanさんの思うGPSアートの魅力とは?
「GPSアートは、ウォーキングやランニングの一環として楽しむ以外に、僕は旅行の1ジャンルとしても面白いと思っています。なぜなら、大きな作品になればなるほど、旅をしながら描くことになるから。地元の人しか通らないような細い山道や、観光客が知らない地元の名所を通ることもあって、普通の旅行とは違う切り口でその土地を知ることができるんです。自分なりの面白さを見つけられるのが、GPSアートの魅力かもしれませんね」
GPSアートは、普段行かない場所に行くきっかけになる上、見慣れた街の魅力を再発見することもできます。皆さんもぜひ、GPSアートを体験してみてくださいね!
準備万端でGPSアート作りに臨みましょう!
スマートフォンだけでなく、スマートウォッチでもGPSの記録ができます。地図やランニングアプリなどと連携すると、曲がるべき地点を振動で通知してくれる機能があるものも。自分の用途に合ったスマートウォッチを探してみてくださいね。
(掲載日:2022年11月16日)
写真:山﨑悠次
文:吉玉サキ
編集:エクスライト
制作協力:korottama、あけぶぅ、あっきぃ、のっひぃ、太田勝也、大内規史、藤田拓史