「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトを掲げ、SDGsに取り組んでいるソフトバンク。「SoftBank SDGs Actions」では、いま実際に行われている取り組みを、担当社員が自らの言葉で紹介します。18回目は、農業AIブレーン「e-kakashi(イーカカシ)」を活用して二酸化炭素排出量の削減を目指す取り組みです。
今回、話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 e-kakashi課
山本 恭輔(やまもと・きょうすけ)
ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 e-kakashi課
山本 恭輔(やまもと・きょうすけ)
三重大学大学院、東京大学大学院にて、画像解析と機械学習を使った植物の高速フェノタイピングに関する研究に携わる。2015年、東京大学大学院にて農学博士号を取得。同年より、「e-kakashi」の研究開発を担当。
植物を育てる際の指針として活躍する「e-kakashi」
「e-kakashi」は、農作物や植物の近くにセンサーを置くことで周囲の環境状態を計測してデータとして見える化し、植物科学に基づいた分析結果をフィードバックして、今何をするべきか栽培の判断をアシストするサービスです。遠隔温度計のような環境データを数値化するサービスは世の中にたくさんありますが、「e-kakashi」は取得したデータを分析し、それに基づく植物の状態や、農家さんが何をすべきか栽培に関するナビゲーションを理解しやすい形で伝えるのが特徴です。
データはただの数字で、それだけでは何の意味も示しません。データに「解釈」を加えて、誰でも分かるような情報にすることが私たちの仕事です。実際に「e-kakashi」を活用して水やりを最適化したところ、収穫量が最大で1.6倍になった事例も出ています。
CO2の吸収やメタン発生抑制を通して、環境負荷の低減に貢献
地球環境への負荷や汚染問題に対して行動を取ることの重要性が増してきている今、農業などの一次産業以外で「e-kakashi」の活用が進むのではないかと期待しています。「e-kakashi」は気象データに加え、センサーから取得する温度・日射量・飽差の3つの指標の環境データと独自のアルゴリズムを組み合わせることで、二酸化炭素の吸収量を推定することができます。この二酸化炭素吸収量推定システムは特許の取得も完了しています。
植物などの有機体はカーボン(炭素)から構成されているため、空気中に存在する炭素を光合成によって吸収し、体内にとどめることができます。「e-kakashi」によって芝生や森林などの緑地が空気中の二酸化炭素をどれほど吸収しているかリアルタイムに把握することで、事業者が二酸化炭素の削減にどれほど貢献しているか評価の指標にできると考えています。
さらに、メタン発生の抑制を目指した新しい研究も始めています。温室効果ガスの大きな比率を占めるメタンガスは、水田に生息する嫌気性の微生物によって生成されますが、定期的に土壌に酸素を与える、つまり良いタイミングで水田の水抜きをすることでメタン産生を抑制できるとされています。これらも「e-kakashi」を使って最適なタイミングで行うことができると、メタン発生抑制に貢献することが可能です。
このほか、植物を元気にするために与える窒素肥料は利用効率が悪く、場合によっては20%ほどしか吸収されないまま地下水に流れ込み、環境に有害な亜酸化窒素の発生につながる場合があります。施肥(肥料を与えること)も植物科学やデータに基づいて最適化できれば、環境にやさしい農業の実現に貢献できるのではと考えています。
現場の声に耳を傾け、その先の未来を想像することが自分の役目
「e-kakashi」の導入サポートとして、取引先である地域の農家さんを1軒1軒回る中で明らかな課題が浮上し、サービスを改善したいとずっと思っていました。そこで、お客さまのニーズを把握した上で2021年にリニューアルを行い、アプリが1つだったところを用途別に4つに分けて使いやすい仕様にしました。また、農業や栽培を指導する立場にある方にとって分析したい観点はそれぞれ異なるため、高度な分析が簡単にできるアプリも追加し、ハードウェアのユーザビリティも向上させました。
一般的に農業現場には電源がありません。しかし、当時の技術的に旧モデルは電源が必要な設計になっており、本来測りたい場所に置けないといった問題が発生していました。新しいモデルでは、ソフトバンクが提供する携帯電話の通信網に直結してつながる仕様を継承しつつ、ソーラーパネルとニッケル水素電池を搭載して発電と充電をしながら駆動できるようにし、設置したい場所に設置できるようにしました。
現場で作業に取り組む農家さんの声を吸収して、どうしたらもっと農家さんの役に立てるのか、その先の未来を想像して作ったのが現在のアプリです。私は「こんな機能があったらいいな」をアイデアにして、メンバーが実際に機能するシステムに落とし込んでくれたので、チームとしてもうまく機能したと思っています。
地球環境に対する負荷を少しでも減らしていく
多くの国がSDGsに合意したことは素晴らしいことだと思っています。分かりやすく明文化された目標が国際社会で共通認識として理解され、自分の仕事がお金という対価以外に社会課題の改善につながっていると実感することは、個人のモチベーションにつながりますよね。
個人としては、ソフトバンクがSDGs達成に向けて掲げるマテリアリティに「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」という項目があるように、「e-kakashi」を活用してカーボンニュートラルやカーボンオフセットをはじめとする環境経営の推進に取り組む企業や団体の活動に貢献していきたいです。二酸化炭素の排出量削減だけではなく、肥料のあげすぎによる環境負荷や、水不足による作物の不作といった課題にも着目し、「e-kakashi」で地球環境にやさしい農業や企業活動が行える世界の実現を目指して頑張っていきたいと思います。
(掲載日:2023年6月28日)
文:ソフトバンクニュース編集部
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した内容は、「DXによる社会・産業の構築」に貢献することで、SDGsの目標「1、2、3、8、9、11、17」の達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。