クマが人を襲ったり、イノシシが住宅街に出没侵入したり…。近年、全国で野生動物による人的被害が増え、ニュースをにぎわせています。中山間部に生息している野生動物が、都市部でも目撃されるようになり遭遇率が高まっています。
もし、日常生活の中で野生動物に遭遇してしまったら、どのような行動を取れば良いのでしょうか? 正しい知識と行動が防災意識を高め、あなたとあなたの大切な人を救います。
今回は、目撃情報や被害が増えているクマやイノシシのほか、サルやシカに遭遇してしまったときの適切な行動を紹介します。
この災害テーマのポイント

- 近年、野生動物の出没が増加。都市部でも遭遇の可能性が
- 野生動物と出合ったらまずは落ち着いて距離を取ろう
- 遭遇しないのが一番。出没要因をできるだけ排除しよう
この災害テーマのポイント
- 近年、野生動物の出没が増加。都市部でも遭遇の可能性が
- 野生動物と出会ったらまずは落ち着いて距離を取ろう
- 遭遇しないのが一番。出没要因をできるだけ排除しよう
目次
近年増加する「アーバンベア」など人里に次々現れる野生動物
クマやイノシシ、サル、シカなどの野生動物の目撃情報をニュースで見かけることや被害が増えています。特にクマによる人身被害は、2023年に218件発生しており、これは環境省が統計を取り始めて以降、過去最悪の件数とも言われています。
「クマの人身被害件数」(環境省) を加工して作成
市街地周辺や都市部に生息し、人への警戒心が比較的薄いクマのことを「アーバンベア(都市型クマ)」とも呼びますが、なぜ増加傾向にあるのでしょうか。
主な要因としては次の3つが考えられます。
- クマの個体数増加
狩猟者の減少や、自治体が野生動物保護の傾向を強めていることなどから、駆除数が減り、個体数が増えたとみられます。
- 過疎化による里山の荒廃
人口が減り、もともと人が住んだり、農林業で利用したりしていたエリアに草木が茂るようになり、クマをはじめとする野生動物が生息できる環境が拡大傾向に。
- ドングリの不作
天候不良などでドングリが不作となると、食料を求めてクマが人里へ降りてくることがあります。
クマ以外の野生動物はどうでしょうか。環境省の調査によると、1978年から2018年までの40年間で、ニホンジカの分布域は約2.7倍に拡大、イノシシの分布域は約1.9倍にも拡大しているのだとか。これも、過疎化によってかつて人が住んでいたエリアが野生動物の暮らしやすい環境へと変化したことが大きな要因と考えられます。
シカとイノシシによる主な被害は、田畑を荒らされることによる農作物への被害で、2019年の農作物被害総額は、ニホンジカが約53億円、イノシシが約46億円にものぼります。
サルについては、これまで本州で唯一、サルの群れが生息していないとされていた茨城県で、近年目撃情報が相次いでおり、生息域が拡大しています。全国で人身被害や農作物への被害も報告されています。
対処法① 野生動物を刺激せずに距離を取るための正しい行動とは?
では、実際に野生動物と遭遇してしまったら、どのような行動を取ることで危険を回避できるのでしょうか。今回は、クマやイノシシ、シカ、サルそれぞれの動物の特徴を理解しながら、身を守るための行動を確認していきましょう。
クマ

もしクマに遭遇してしまったら…
- 遠くにいる場合
落ち着いて静かにその場から立ち去りましょう。もしクマがこちらに気付かずに近づいてくる場合は、物音を立てたり、手を大きく振ったりして人間の存在を知らせましょう。その後、様子を見ながら退避してください。急に大声をあげたり、急な動きをしたりするとクマが興奮してしまう可能性があるため、そのような行動を取るのは避けましょう。
- 近くで遭遇した場合
クマも人間に驚いてパニック状態になる可能性が高いです。人間がパニックになると、助長されてクマが暴れる可能性があるため、まずは落ち着くことが大切です。慌てて走ることはしてはいけません。クマは逃走する対象物を追いかける傾向があるので、クマを見ながらゆっくり後退し、徐々に距離を取りましょう。
イノシシ

もしイノシシに遭遇してしまったら…
人の様子をうかがうような行動がみられる場合は、焦らず、静かにゆっくりと後退し、安全な距離を取ります。イノシシは急な坂道や木を登ることが苦手なので、高い場所が周りにある場合は上がって逃げましょう。基本的には臆病な性格のため、脅かしてパニックにさせないように注意が必要です。
シカ

もしシカに遭遇してしまったら…
シカはとても臆病で、人間が近づくと驚いてどんな行動をするか分かりません。そのため、シカには近づかず、静かに後退して離れます。シカの出産時期(6月~7月ごろ)は、生まれたばかりの子ジカを見かけることもありますが、親ジカの姿が見当たらなくとも、必ず近くで見守っているので決して近づいたり、触ったりしないようにしましょう。
サル

もしサルに遭遇してしまったら…
大声を出したり、物を投げたりすると興奮して襲ってくることがあるので、刺激せずに落ち着いて静かにその場から離れましょう。サルと目を合わせてしまうと、威嚇されていると勘違いし、目をそらした瞬間に襲いかかってくる可能性があるため、目を合わせないようにしましょう。
また野生動物以外に気を付けたいのが、ヘビやハチ。日本で野生生物による死亡事故が多いのはクマやヘビではなく、スズメバチとも言われています。ヘビもかまれたりすると命にも関わる有毒生物です。身近な場所にも生息しているため、登山時などは特に注意が必要です。例えば、スズメバチは黒色に反応するため、山林に入るときは頭髪が隠れるよう帽子や手ぬぐいなど、白色系の明るい色のものを着用すると良いでしょう。
野生動物 | 特徴 |
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クマ(ツキノワグマ) |
活動時間 性格・身体的特徴
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イノシシ |
活動時間 性格・身体的特徴
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シカ |
活動時間 性格・身体的特徴
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サル |
活動時間 性格・身体的特徴
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ヘビ(マムシ) |
活動時間 性格・身体的特徴
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スズメバチ(オオスズメバチ) |
活動時間 性格・身体的特徴
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対処法② 絶体絶命、野生動物に襲われた場合はどうする?
十分に気を付けて興奮させずに逃げようとしても、野生動物の行動は読めません。もし至近距離で突発的に遭遇して、襲われてしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。
- 致命傷を負わないようにする
クマは顔面や頭部を攻撃してくることが多いため、両腕で顔面や頭部をガードしたり、うつ伏せの状態を取り両手で頭部や首部を守ることで、重大な傷害や致命的ダメージを最小限にとどめることにもつながります。リュックサックや帽子を身に付けている場合は、プロテクター代わりにもなります。
イノシシは低い位置から、太い血管のある太ももを犬歯で攻撃してくることがあるため、体を丸め、内股(うちもも)や腹部を隠し、頭部や頸部(けいぶ)をかまれないように腕や荷物などでカバーします。
- 撃退スプレーを使う
クマが突進してきたり、至近距離にいる場合は、霧状の催涙液を消火器のように大量に噴射するものや、カプサイシンを配合したクマ撃退スプレーが販売されているので、森に入る際などには持参するのが良いでしょう。クマが3~5メートルの位置くらいまで接近してきた場合、クマ撃退用スプレーをクマの顔に全量を一気に噴射してください。クマだけでなく、イノシシやシカ、サルにも効果的です。緊急事態に備えて、とっさに使えるように取り出しやすいところに入れて所持するようにしましょう。
クマやイノシシに遭遇しないための事前の備え
野生動物に襲われないためには、遭遇しないようにするのが一番です。野生動物との遭遇を回避するために、日頃からできることとは何でしょうか。
- 野生動物の出没情報をチェックする
日頃からテレビやラジオ、インターネットのニュースのほか、自治体のホームページなどを確認しましょう。
- 出没しやすい要因を排除する
柿やリンゴなど、野生動物のエサになるような実のなる木は不要であれば伐採しましょう。生ごみやコンポスト、ペットフードなどの屋外への放置もNG。コンポストやゴミ置き場にはふたをつけて鍵をかけるのがおススメです。
- 音が鳴るものを持ち歩く
クマよけの鈴、ラジオなどで音を出して人の存在をアピールすると、野生動物は近づいてきません。熊鈴を持っていなくても、音を鳴らし続けることができるスマホアプリを使用するのも有効。クマよけ用の鈴の音を鳴らすアプリがあるので、特に山などに行くときはスマホに入れておくのがおススメです。複数人でいるときは、大きな声で話してにぎやかにして人間の存在を知らせることで、野生動物を避けることにつながります。
野生動物に遭遇しないために役立つサービス・ウェブサイト
- Yahoo!防災速報
さまざまな防災情報を迅速にプッシュ通知する防災アプリ。地震や自然災害以外にも、自治体によっては野生動物の出没情報も配信しています。
- 自治体のウェブサイト
自治体やビジターセンターのウェブサイトでは、野生動物の出没情報を配信しているのでこまめにチェックしましょう。自治体によっては、スマホアプリで情報を発信しているところもあります。
監修者プロフィール
防災講師・防災コンサルタント 高橋洋(たかはし・ひろし)
1953年、新潟県長岡市生まれ。1976年、練馬区に就職し、図書館、文化財、建築、福祉、防災、都市整備等に従事。1997年より防災課係長として、地域防災計画、大規模訓練、協定等に携わる。現在は、防災講師・コンサルタントとして、自治体等で講演、ワークショップ指導などを行う傍ら、復興ボランティア、終活ガイド・エンディングノート認定講師としても幅広く活動。防災関係著書・論文、防災関係パンフレット類監修多数。
(掲載日:2024年2月29日)
文:佐藤葉月
編集:エクスライト
イラスト:高山千草