全国トップクラスの人口減少という課題に直面する秋田県では、持続可能な行政サービスを提供するため、「行政事務の効率化と働き方改革」を掲げています。そこで、庁舎内での作業が前提となっていたために硬直化した働き方や非効率な情報共有を打破すべく、同県はコラボレーションツールの導入を決断。実証実験の末、「Google Workspace 」を採用し、全庁に5,000IDを展開という、広域自治体としては過去に類を見ないプロジェクトを推進しました。導入後は、場所や時間に縛られない働き方が可能になり、職員間のコミュニケーションも活性化。組織全体の生産性向上と一体感の醸成に大きく貢献しています。
「『Google Workspace 』は、非効率な業務をそのまま移行するのではなく、より良い働き方への『行動変容』を促すような設計になっていると感じました」
秋田県企画振興部 デジタル政策推進課 調整・DX推進チーム 主査 佐藤 大輔 氏
全国でもトップクラスの人口減少という課題に直面する秋田県では、持続可能な行政運営を継続するため、組織全体の生産性向上が重要課題となっています。この難題に立ち向かうため、秋田県は具体的な行動指針として「秋田県DX推進計画」を策定し、計画の一環としてデジタル技術を活用した業務効率化と働き方改革を推進してきました。特に、多様な働き方を可能にし、職員一人一人の生産性を高めることは、持続可能な行政運営の要と位置付けられています。
しかし、当時の働き方には大きな制約があったと秋田県DX推進計画を担当する企画振興部デジタル政策推進課の佐藤氏は語ります。
「コミュニケーションツールであるグループウェアが、庁舎の中にあるPCからしかアクセスできない状況でした。誰かと連絡を取ったり業務データにアクセスするためには、出勤して自分の席でPCを開かないといけないという非常に固定的な職場環境が、生産性を上げる阻害要因になっていました」(佐藤氏)
この「場所の制約」に加え、具体的な業務の進め方にも課題がありました。特に顕著だったのは「紙文化」と「データの分散」という課題です。
「打ち合わせは、関係する人数分の書類を紙で大量に印刷して、対面で行うというのが当然のスタイルでした。案件によっては千ページを超える書類を印刷することもありました。そのため『打ち合わせがある日は在宅勤務はできない』という状況にもなっていました。
また、職員や部門によってメインで利用しているファイルサーバーやツールが異なるため、データが各所に分散していて『どれが最新で正式なものなのかが分からない』ことが多くありました。職員は常に最新情報を探す手間を強いられて、部署を横断した円滑な情報共有も困難な状態でした」(伊藤氏)
この状況を打破するきっかけとなったのは、若手職員からの提言でした。
「職員提案のような形で若手ワーキンググループを結成し、そのグループ内で生産性向上の観点で議論した中で、『多様な働き方を可能にするコラボレーションツールを入れたらどうか』という提言がありました。
具体的には、特定通信を利用した『α’(ダッシュ)モデル※1』でのコラボレーションツールの活用を検討することになり、『α’モデル』を採用したほかの自治体の事例を参考にしながら、本格的に実証実験を進めることにしました」(佐藤氏)
※1 α’(ダッシュ)モデル:地方公共団体のネットワークを「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の三層に分離する「三層分離」を維持しつつ、LGWAN接続系の端末から特定のクラウドサービスへ安全に直接アクセスすることを可能にするネットワークモデル。
候補に挙がったコラボレーションツールを比較検討するため、2024年7月から3カ月間にわたり、全庁の複数部門から職員約1,200人を対象とした実証実験を実施しました。特定の部門でのスモールスタートとするのではなく、最初から全庁を巻き込むことにも本格導入に向けた狙いがありました。
「各部門が独立した会社のように組織文化が違います。一部署でスモールスタートして結果を出しても、それを全庁展開するためのデータにはなりがたい。だからこそ、各部門ごとで一斉に試してもらうことで、多様な業務や組織文化におけるツールの有効性を検証したいと考えました」(佐藤氏)
実証上では、時間外勤務の削減や作業時間の短縮効果、またペーパーレス化などのデータを収集し、全職員に展開した場合の理論値を推計して整理していきました。その結果を受けて2024年10月に次年度予算に正式に全庁導入できるよう要求を進めていきました。
大規模な実証実験や他自治体へのヒアリングを含む情報収集を経て、秋田県が選んだのは、「Google Workspace 」でした。
その決め手について、佐藤氏はまず機能面の優位性を挙げます。
「決め手は複数ありますが、機能的な優位性としては、特定のアプリケーションが不要でブラウザから使える『導入のしやすさ』、端末の性能に依存しにくい『動作の軽さ』、Google ならではの強力な『検索性』、そしてOSを選ばない『マルチデバイス対応』といった点を評価しました。さらに、今の若い世代がGIGAスクール構想で使い慣れているツールであるという『将来性』も大きな魅力でした」(佐藤氏)
こうした機能面に加え、より本質的な理由もあったと続けます。
「検討した中には、今までの業務フローをほぼ変えずにそのまま移行できるコラボレーションツールもありました。しかしそれゆえに、あまり業務フローの見直しが働かず、非効率なものを水平移行してしまう懸念がありました。その観点で『Google Workspace 』は、共同編集機能などを通じて、より良い働き方への『行動変容』を促すような設計になっていると感じました」(佐藤氏)
単なるツール移行ではなく、「働き方そのものを変革する」という強い意志が、この選択を後押ししました。
導入までの最大の壁は、庁内の合意形成でした。導入に先駆けて実施した全庁への説明会では、職員からさまざまな不安の声が寄せられたと髙橋氏は振り返ります。
「『自分たちが取り扱う情報をGoogle ドライブに格納して大丈夫なのか』という懸念の声が多く寄せられました。特に個人情報を頻繁に取り扱う部門は、クラウドに情報を置くことへの懸念が相当数ありました。そこで、寄せられた質問に対して一問一答形式で回答を用意したり、業務との親和性の高い部門と協力し、インフルエンサーになってもらうことで、さまざまな部門の方が導入前に少しでも不安を解消できるよう努めました」(髙橋氏)
こうしたセキュリティへの懸念に対し、技術的にどのように対策したのかを伊藤氏が具体的に語ります。
「国が示す『α’モデル』を採用し、LGWAN接続系の端末からクラウドサービスへアクセスする際のセキュリティ対策を徹底しました。具体的には『Chrome Enterprise Premium』を導入し、DLP機能やマルウェアスキャンといった対策を施しています。さらに、職員個人の端末からのアクセスも許可するにあたり、『Google Workspace 』の『コンテキストアウェアアクセス』を活用して、アクセス元の場所や端末に応じたきめ細かな制御を実現しました。これらの対策に加え、『Google Workspace 』自体が政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に認定されたサービスであることも大きな拠り所となり、ガイドラインに準拠した対策で安全性を担保できることを明確に伝えていきました」(伊藤氏)
技術的な対策と並行して、ソフト面でのケアにも注力したと佐藤氏は続けます。
「新しいツールの習熟度への不安や、『深夜にチャットが来るのではないか』『誤って情報を流出させてしまうのではないか』といった、マナーや運用面での不安の声も寄せられていました。そこで我々は、これらの不安を解消するために、オンラインでのユーザートレーニングの実施や統一的な運用を図るための『働き方ルール』の整備を導入と並行して行っていきました。分厚いマニュアルをただ展開するのではなく、スライド形式の『使い方ガイド』を定期配信するなど、丁寧なコミュニケーションを重ねることで、少しずつ理解してもらいながら導入に進むことができました」(佐藤氏)
この技術的な対策と丁寧なコミュニケーションという両輪のプロセスを経て、2025年4月に約5,000IDという大規模導入を成功させることができました。
導入後、庁内の働き方には着実な変化が生まれています。具体的な効果について次のように語ります。
「『Google Workspace 』ならではという点で、特に効果が大きいと感じる点が3つあります。
まず一つ目は、共同編集機能による作業の圧縮です。行政組織で多い業務の代表例として、資料作成や議事録があります。これまで会議が終わった後にそれぞれが独自に議事録を起こしていたものを、Google Meet のWeb会議をしながら Google ドキュメントで同時にみんなで作業するということも可能になりました。これにより、30分以上かかっていた会議録作成が5分以下になったのは、非常に分かりやすい例です。
二つ目は、Web会議による移動時間の大幅な削減です。秋田県は面積が広いので、市町村へのヒアリングに片道平均1時間、往復で2時間かかっていました。ヒアリング自体に1時間かかるとトータル1団体3時間かかります。それがオンラインで済むことで、移動時間がゼロになり、次のヒアリングを前倒しで進めたり、政策議論の時間を増やすことができるようになりました。この効果は絶大で、私自身が身をもって感じている大きなメリットです。
そして三つ目は、定性的な効果になりますが、部署連携の活性化です。物理的な距離に関係なくコミュニケーションが取れるようになったことで、部署間の垣根を越えた連携が活発化してきました。その象徴的な成果が、先ほどお話しした『働き方ルール』の策定です。人事部門、行革部門、我々デジタル部門などが持つ専門知識を結集し、全庁にとって最適な働き方のモデルケースをボトムアップで作り上げることができました。これは、ツールがもたらした単なる業務効率化に留まらない、組織文化の変革だと感じています」(佐藤氏)
こうした一連の取り組みを振り返り、伊藤氏はプロジェクトを円滑に進める上で、ソフトバンクやGoogle 社の支援が大きな助けになったと語ります。
「契約から全庁導入までわずか3カ月という非常に短い期間でしたが、手厚い協力のおかげで、予定通りに完遂できました。導入後のサポート体制についても、ベンダーの豊富な知見に基づくご支援は、安定的な運用を図る上で大きな安心材料です。『Google Workspace 』は日々進化していくので、今後も新たな機能を全職員で効果的に活用できるよう、引き続きの情報提供や活用支援を期待しています」(伊藤氏)
「これまで往復2時間以上かかっていた市町村へのヒアリングが、オンラインで完結し移動時間がゼロに。この効果は『絶大』で、身をもって感じている大きなメリットです」
秋田県企画振興部 デジタル政策推進課 調整・DX推進チーム 主査 佐藤 大輔 氏
コミュニケーションの活性化は、部署間の連携だけでなく、トップと職員の間にも大きな変化をもたらしました。
「『Google Workspace 』を導入したことで、庁内のDX推進の機運が非常に高まっています。その象徴的な事例が、先日行われた知事から職員への動画メッセージ配信です。これまでトップのメッセージは朝礼での発言や紙での回覧の形が多く、伝言リレーのような状況になってしまい、その想いが伝わりにくかったのです。そうしたコミュニケーションの在り方そのものが変わり、知事が話す言葉の『温度感』まで含めて、動画で全職員に直接届けられるようになりました。『秋田県版DXアワード』などもやりましょうと、トップからDXを推進していこうという強い意志が感じられ、組織全体が動いている実感があります」(伊藤氏)
こうした機運を活かし、秋田県は次なるステージを見据えています。今後の展望について、佐藤氏は次のように語ります。
「まずは、時間外勤務を一人あたり年17時間削減するという目標達成に向けて、多様な働き方に対応した、快適で生産性の高い職場環境の実現を目指していきます。
その先には、大きく3つの展望を描いています。まずAIの活用です。各種規定やマニュアルを学習したAIで職員の生産性を一層高めること。また、現在は庁内に限定しているGoogle チャットやGoogle ドライブでの連携を外部パートナーにも広げ、多様な主体との協働を強化していくこと。
さらに将来的には、さまざまなGoogle のアプリケーションを通じて収集される県民の皆さまや職員の声を広く集め、それをAIで分析する『ブロードリスニング※2』の実現も視野に入れていくことです」(佐藤氏)
※2 ブロードリスニング:AIの力を活用して、さまざまなチャネルから寄せられる人々の「声」を幅広く収集・分析する手法。潜在的なニーズを捉え、より質の高いサービス提供や意思決定に役立てることを目的とする。
「刷新」を掲げ、大きな一歩を踏み出した秋田県。職員一人一人の働き方を変えるこの取り組みは、組織全体の生産性を高め、質の高い県民サービスを実現するための、確かな礎となっていくことでしょう。
お話を伺った方
秋田県企画振興部 デジタル政策推進課 調整・DX推進チーム 主査
佐藤 大輔 氏
秋田県企画振興部 デジタル政策推進課 情報基盤・システム管理チーム 主査
伊藤 隼人 氏
秋田県企画振興部 デジタル政策推進課 情報基盤・システム管理チーム 主事
髙橋 柊太 氏
あらゆる業務に合わせて、全てのビジネス機能をそろえた統合ワークスペースです。お客さまのご利用に合わせたサポートとオプションをご用意しています。あらゆる働き方に対応する業務効率化を実現します。
本事例のサービスに関する導入へのご相談やお見積りなどについては、下記よりお気軽にお問い合わせください。
条件に該当するページがございません