日本調剤株式会社(以下、日本調剤)は、全国に調剤薬局を761店舗(2025年7月1日時点)展開し、医療と地域をつなぐヘルスケアサービスを提供しています。創業以来IT化を強みとして事業を展開し続けていた同社では、さらなる業務効率化とサービス向上を目指し、Google Workspace (以下、GWS)を導入。従来、用途に応じてバラバラに利用していたツールを統合することで、スケジュール調整や社内コミュニケーションが効率化され、店舗スタッフとの情報連携も大幅に改善されました。
「バラバラだったツール環境を統合し、IT基盤を抜本的に見直すことで、業務効率化と全社横断の情報連携を実現しました」
日本調剤株式会社
システム第1部長 高田 真 氏
全国に調剤薬局をチェーン展開する日本調剤。リクルーティング部の安永氏は、同社の特徴についてこのように語ります。
「社員数約5,500名のうち、9割が現場で働くという特徴を持つ弊社は、創業以来IT化を会社の強みとして推進してきました。医療業界はIT化が遅れていると言われる中で、調剤システムや電子お薬手帳『お薬手帳プラス』の自社開発、業界に先駆けたオンライン服薬指導などを展開し、常に先進的な取り組みを進めています」(安永氏)
薬局業界のDX化や人手不足が課題である昨今、御社の注力している取り組みについてお聞かせください。
「近年ではAIの活用にも注力しており、特に薬剤師の業務効率化に大きな成果を上げています。例えば、薬剤師が服薬指導後に手入力で行っていた記録作業を、AIが自動で要約し薬歴に記録する環境を整えました。これにより記録にかかる時間が大幅に短縮され、薬剤師がより患者さまとの対話や専門業務に集中できる環境を目指しています」(安永氏)
今回、GWSの導入を決定したシステム第1部長の高田氏は、調剤薬局業界全体の動向や変化を踏まえ、課題として認識されていた事を次のように語ります。
「調剤薬局の店舗形式は、大病院の門前薬局から町の小さな個人薬局まで、多岐にわたる店舗展開、経営形態が存在します。それ故に業態の統一性が図れずIT化の遅れが目立ち、足並みが揃っていないという課題が存在しています。今調剤薬局業界は、国が推進する医療DXや在宅医療へのシフトなど、大きな変革期にあります。このような状況から、コミュニケーションの統一化、活性化を図ることは、さらなる調剤薬局事業のIT化促進、業務効率化、そしてセキュリティの向上につながるものと考えました」(高田氏)
以前は、バラバラのシステムを使い分けていたという同社。GWSの導入・運用を担当するシステム第1部 主任の岸氏は、こう続けます。
「導入前は、メール、スケジューラ、Web会議ツール、設備予約などが全てバラバラのシステムで個別に運用していました。ツール間の連携が取れていなかったため、各工程で非常に煩雑な手間が発生していました。情報も各ツールに散在しがちで、必要な情報を探すのにも時間がかかっていました」(岸氏)
従業員の9割が現場で働く店舗スタッフである同社。現場の従業員は一部を除きメールアドレスを持っておらず、本社からの情報伝達には長年の課題があったことを、人事部に所属していた頃の経験を基に、安永氏はこう話します。
「店舗の一部の従業員しかメールアドレスを所持していなく、一斉周知は社内回覧で対応しており、例えば健康診断の案内など個人情報を含む内容は人事担当から各個人へ電話での対応を行っていました。この状況は全社的な情報共有の遅れに加え、特定の部門で業務負荷が集中するという長年の課題がありました」(安永氏)
GWSを検討したきっかけはどんなことだったのでしょうか。
「これまで使っていたWindows 10 のサポート終了が近づいていたこともあり、このタイミングで長年の課題であったバラバラなIT環境を統一し、業務効率化を図れるツールの検討をはじめました。その際に重要視していたのは、セキュリティ面と費用対効果という部分です」(高田氏)
「以前から業務効率化とコミュニケーション円滑化のために、シームレスに連携できるグループウェアの導入を検討していました。その中で、GWS とMicrosoft 365 が有力な候補として挙がり、それぞれのトライアルを検討しはじめました」(岸氏)
「まずは情報システム部門が中心となり、両サービスの機能やコスト、セキュリティ面について詳細な情報収集と比較検討を行いました。その後、一部の部署でトライアル導入を行い、現場の意見をヒアリングしながら、全社導入に向けた議論を進めていきました」(高田氏)
長年利用していたWindows製品との比較検討を進める中で、決め手となった部分について詳しくうかがいました。
「コスト面で条件に合ったことと、導入のしやすさ、動作の軽さが決め手です。全社規模での導入となるため、コスト面は重要な選定ポイントでした。また、GWSはブラウザーベースで軽快に動作するため、PCのスペックに依存しにくい点が魅力でした。全社員がストレスなく使えることは、生産性向上に直結すると考えていたので、経営層に対しては、コスト面のメリットとDX推進による将来的な生産性向上を提示しました」(高田氏)
使い慣れたOutlookを離れ、全社Gmailに切り替えるという大きな意思決定に至った際には、どんな社内の意見がありましたか?
「現場からは、新しいツールの習得や慣れ親しんだ環境からの移行に対する不安も見られましたが、スケジュール調整の煩雑さなど、日々の非効率な業務が改善されることへの期待の声も多く挙がっていました。特に現場で働く従業員は、比較的若い世代が多いこともあり、大きな反対意見はありませんでした。利便性を丁寧に説明し、詳細なマニュアルを準備していきました」(岸氏)
大規模な切り替えを行いましたが、その際に工夫した点があれば教えてください。
「PCでのデスクワークが中心の本部・管理部門の社員には全機能が使える『Enterpriseライセンス』を、店舗での患者さま対応が主で、利用機能が比較的限定される薬剤師や医療事務スタッフには『Frontlineライセンス』を導入し、コストの最適化を図りました。業務内容に応じてライセンスを設計することで、無駄なく必要な機能を全社員に提供できています」(高田氏)
社内浸透に向けて、どのような取り組みを進められたのでしょうか?
「ソフトバンク様に提供いただいたGWS汎用マニュアルのほか、約150ページに及ぶ全社共有の独自のマニュアルを用意し、不明点をすぐに解決できる環境を整えました」(岸氏)
「岸が発起人となり、私が参加しているGWSのコミュニティーがあります。Google Chat のスペースで、さまざまな活用方法が横展開されたり、疑問点を解決できる場になっており、全社のGWS活性化に貢献できていると感じています」(安永氏)
「問い合わせに対応するのがシステム部門だけに偏らないことで、参加者間でのノウハウ共有にも役立っていると感じています」(岸氏)
GWSを導入して、業務面、情報共有などに大きな変化と効果があったようです。
「特に効果を実感しているのが、打ち合わせ設定時の効率化です。これまでのオンプレミス上で自社開発運用していたスケジューラーだと、関係者のスケジュールをメールで確認し、候補日を何度もやりとりした上で、ようやく決まった予定を各自でスケジューラに登録し、Web会議の場合は別途URLを発行して共有する、という複数の手間がかかっていました」(高田氏)
「今ではGoogleカレンダーを開けば、参加者の空き時間が一目で分かり、空いている時間を選んでメンバーを招待するだけで、参加者全員のカレンダーへの自動登録、Google MeetのURL自動発行、会議室の予約、開催前のリマインダー通知、これら全てが一連の流れで完了します。これまでは打ち合わせ1件ごとにかかっていた調整の手間と時間がほぼなくなったことが、従業員が最も導入効果を実感しているポイントだと思います」(岸氏)
コミュニケーション面でも効果が出ていると語ります。
「チャットが使えるようになり、他部署とのコミュニケーションのハードルが下がった印象を持っています。またメールでの連絡も、相手のアイコンで人となりが伝わるのか、格式ばった感じが薄れた印象があります」(安永氏)
部門ごとの使い方の特徴があれば教えてください。
「経理部が活用に積極的な印象です。AppSheet で複数の業務アプリケーションを作成・運用しており、いち早く社内に活用事例を共有してくれたのも経理部でした」(岸氏)
「私が所属するリクルーティング部門でも、GWSやGemini の活用が進んでいます。採用イベントは複数人で運営することが多く、全員で同じファイルを共同編集できるGWSの機能はとても便利です。また、以前は有料のアンケートツールを使っていましたが、今はGoogle フォームに切り替えたことでコスト削減にもつながっています。アイデア出しや会議の要点整理にはGemini を活用しているほか、最近人事部では、NotebookLM※のポッドキャスト機能を使って、社内説明会を自動化できないかと色々試しているそうです」(安永氏)
※Googleが提供するノートブック形式のAIツール
ソフトバンクのフォロー体制についてはいかがでしょうか?
「GWSとMicrosoft 365 の両方を取り扱っているという点で、中立的な立場でエンジニアの知見を説明いただけたことが大変助かりました。また豊富なサービスラインナップも魅力的で、アカウントを自動管理するためのアドオン製品も紹介くださいました。情報提供や打ち合わせの場も定期的に持っていただき、大変助かりました」(高田氏)
「迅速に動いてくださる営業の方もそうですし、専門知識豊富なエンジニアの方の存在も助かりました。導入決定から社内展開に至るまでスケジュールを組んでいただき、技術的な知見を持つ方に一貫してサポートしていただけたので、安心してプロジェクトを進めてこれたかなと思います」(岸氏)
最後に今後の取り組みや、AI時代を見据えた展望をお聞かせください。
「Ofiice製品に依存していた社内の文書作成文化を変革し、GWSの活用を通じてどこからでも情報にアクセスできる環境を整えたいと考えています。より一層Googleのテクノロジーを駆使して全社的な業務効率化を加速させ、社内のあらゆる情報を横断的に検索可能に、活用していくことが目標です」(高田氏)
「GWSの導入に伴い、マニュアル整備や社内への定着活動にも力を入れてきました。医療という専門性の高い分野でAIやクラウドサービスを安全に活用していくためには、セキュリティ面のルール整備が不可欠です。全社的に安心して使える環境をつくることで、より高度な活用につなげていきたいです」(岸氏)
「GWSは単なる効率化だけでなく、業務の質を高めるツールとしても有効だと感じています。採用の現場でも、学生のAIへの関心は高く、“AIを活用している会社”という点は企業の魅力として伝わっている実感があります。来たるAI時代を見据え、私たち自身が積極的に活用していく姿勢がより重要になっていくと思います」(安永氏)
GWSを基盤に薬局業界のDXを加速させる同社の取り組みは、全社的な業務効率化に留まらず、AI活用へと広がりを見せています。単なるツール導入にとどまらず、組織全体を動かす変革の起点となっている今、さらなる展開に今後も期待が高まります。
お話を伺った方
日本調剤株式会社
システム第1部長 高田 真 氏
日本調剤株式会社
システム第1部 主任 岸 郁実 氏
日本調剤株式会社
リクルーティング部 主事 安永 槻子 氏
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