最近、いろいろと反省することが多い。
保守的に、堅く、小さく、固まっていたのではないかと。
これほどのテクノロジーの進化、パラダイムシフトが起きているのに、目の前の日常業務に忙殺され、いたずらに年が過ぎていく。もっと積極的に、このテクノロジーの進化、業界の発展に対して、われわれはしっかりと取り組んでいかなければならないのではないか。事業家として、また、情報革命に取り組む人間の一人として、忙殺の中に過ぎ行く自身の姿を振り返り、猛反省し、いろいろと手を打っていかなければいけないのではないかと。
「ソフトバンク2.0」というのは、そういった思い。ソフトバンク自身はもっとグローバルで、もっと積極果敢に、テクノロジーの進化に負けないで、むしろそれをリードする立場にならなければいけないという思いである。その第一弾として打った手がARM。これからIoTへのパラダイムシフトがやってくるという認識の中で、10年間胸に秘めてきた思いをそこで打ち放った。
しかし、これだけでは足りない。
これから大きな成長を追い求めていく中で、われわれが気に掛けなければならないことは、負債の大きさである。もちろん今の負債を半分以下にするのは簡単で、持っているアリババ株を半分売れば、純有利子負債は一気に減るが、私は、アリババはまだまだ成長途上にあり、伸びると思っている。先週、アリババの決算発表があったが、その内容を見ても、アリババがまだ成長の真っ只中にいることが再確認できた。
持っている資産の切り売りではなく、まだまだ成長する資産をできるだけ売らずに、なおかつ攻めていくためにはどういう構えを作らなければいけないのかということで打ち出したのが、「SoftBank Vision Fund(仮称)」である。今日はそのことにも少し触れて、説明をしたい。
連結業績
連結の業績は、調整後EBITDA、営業利益、当期純利益、それぞれ伸びている。
スプリント事業における円高の影響で、円ベースの売上高総額は0.2%減となっているが、国内通信事業は売上も利益も全て伸びており、スプリント事業もドルベースの売上は伸びている。
スライド上の黄色い部分がスプリント事業。これまではソフトバンクグループ連結の利益の足を引っ張り重荷だった。しかし今後は、ソフトバンクグループの直接的な利益の成長エンジンになるのがスプリント事業であると自信を深めている。
営業利益の内訳を見ると、去年は、ヤフーがアスクルを子会社化したことで一時益が入ったが、そのことを除くと、国内通信事業も、ヤフー事業も、スプリント事業もそれぞれ順調に推移している。
一方、今回のARMの買収で、ソフトバンクグループの連結純有利子負債に対するEBITDA倍率は、4倍を超えるところまで膨れ上がった。しかし、これが近い将来、数年以内には3.5倍を切ると考えている。3.5倍を切れば、バランス上は健全な範囲ということになり、そのレベルまでは十分いけると確証を得たところである。
国内通信事業
国内通信事業は、順調に推移しており、営業利益は9%の伸び。
また、累計の主要回線数も堅調に推移し、解約率も携帯電話事業を始めて以来、最も低いレベルに改善。
顧客獲得のためのさまざまな施策のうち、特に「SoftBank 光」が、顧客獲得の成長ドライバーとして着実に機能し始めている結果である。
フリーキャッシュフローも大幅に伸びている。
会計上で用いられる数字はさまざまあるが、最終的に一番重要なのは、事業の成績を示すフリーキャッシュフローではないか。設備投資あるいは税金などを払って、最後に残るお金がフリーキャッシュフロー。これがついに収穫期に入り、年間に直すと6,000億円規模のレベルに達し、今後も安定的に現金収益を稼いでいくことができる。
スプリント事業
スプリント事業は、この3年間、われわれの連結業績の足を引っ張る、借金が増えた一番大きな要因であった。
苦しいながらも着実な努力の結果、ポストペイド携帯電話の顧客の純減が止まり、純増ペースに反転。着実に顧客の増加が始まった。
また、解約率もスプリント史上最も低いレベルまで改善することができた。
その結果、顧客が純増したことで、加速度的に下落していた売上高が、ついに底を打って反転し始めた。
経費を増やして売上を増やすのは簡単だが、固定費を減らしてなおかつ売上を反転させること、ユーザー数を増やすことは簡単ではない。
しかし、それらを同時並行で成し遂げた結果、スプリントの調整後EBITDA(償却前の利益)は、ほぼ倍増のところまで反転させることができた。
おそらく、今から何年か経てば、「スプリントは米国経済史上最も劇的で、大規模な業績反転であった」と、米国経済史の1ページに名を残すことができる事例となるのではないかと私は自信を深めつつある。
それらの結果、スプリントのフリーキャッシュフローも反転してきた。
これまでスプリントは、年間で数千億規模のフリーキャッシュフローの赤字が出ていたが、ついに反転してプラスになった。経費を減らし、固定費を減らし、設備投資費も数千億円規模で大幅に減らしたにも関わらず、ネットワークは、米国通信企業の中で、最も改善してきている。
ソフトバンクが培ったネットワーク設計技術が機能し始めたことで、スプリントのネットワークが着実に、今一番、改善率が良くなってきている。先述の通り、フリーキャッシュフローが改善し、ネットワークを改善しているからこそ、解約率がスプリント史上最も改善でき、最も良いレベルに到達できた。
つまり、これまで重荷で足かせであったスプリントに、ようやく反転の目処が見えてきた。ついに、もう一度攻めに転じることができるというステージが来たと言える。
ヤフー事業は増益を継続
米国ヤフーは大赤字で、大リストラで事業の売却まで行っているが、日本のヤフーは着実に伸びている。
これまで、広告がパソコンからスマホに移り、小さな画面の中では検索広告やディスプレイ広告の価値が減ると思われていたが、ヤフーはその危機を乗り越えることができた。
eコマースにおいても、今、日本国内で最も伸びているのが「Yahoo!ショッピング」だと思うが、着実に改善している。
アーム事業の開発ロードマップ
買収完了後、実際に経営に入り、ARMのCEOであるサイモンと一緒に主要な顧客を訪問し、直接先方の経営陣と会ってきたが、彼らは、「ARMは自分たちにとって必要不可欠な会社である」「今後10年分くらい契約したい」と言っている。
ARMは、これほど進化の激しい業界において、IT業界のエンジンに相当するマイクロプロセッサのコア設計部分で、これから先10年分の開発ロードマップがすでにできている。
世の中にはいろいろな会社があるが、現在から10年先までの、開発・技術のロードマップが明確にできているという会社はそうはない。
訪問した顧客企業からは非常に強い関心と、共同開発や、ぜひ一緒にプロジェクトをやりたいという話をたくさんいただいた。私はARMに対して非常に自信を深め、買って良かったとつくづく思っている。
テクノロジーの進化とシェアの拡大
最新技術はものすごい勢いで進化しており、さまざまな製品にARMの技術が入っていく。
これから20年で、あらゆるモノ、約1兆個のIoT製品にARMが入っていくだろう。
小さな製品だけではなく、ネットワークや通信機器のベースステーションにもARMのチップが入り、またインテリジェントアンテナにもARMが入っていくということが確認できた。
さらには、インフラを支えるサーバーや、クラウドにおけるブレードにもARMのコアが大量に入っていく。日本の国家プロジェクトであるスーパーコンピュータ「京」の次世代の「ポスト京」にも、ARMアーキテクチャーが採用されることが決定した。
ARMアーキテクチャーが採用されることで、より安く、より消費電力を減らしながら、性能を100倍レベル上げるということが決定され、スマホやIoTなどの小さな製品だけではなく、スーパーコンピュータの世界にまでARMが入っていくということが、大きな流れとして出てきた。
情報化社会におけるARMの需要
IoTの分野にもウイルスが侵入し、ハッカーがハッキングするという事件がつい最近報道されたが、これからはますますセキュリティが大切になるということが再確認された。
新車を買うとすると、今販売されている自動車1台には数百個のチップが入っているということを皆さんご存知だろうか。
1台につきARMだけではなくさまざまなチップが入っている中で、皆さんが現在乗っている車、現在買われている新車のチップは、ほぼ1個も暗号化がなされていない。つまり、セキュリティの面では全滅している。
今までは、車の中でチップとチップが通信をし合うことで、車の中だけで事が済んでいたため、暗号化されている必要が無かった。しかし、今や車がインターネットにつながる「コネクティッドカー」という言葉が日常的に使われる。車内の通信だけではなくて、車が車の外であるインターネットとつながるという時代が来た。つながった瞬間に、有益な情報だけでなく、同時にウイルス、ハッキングにもつながるということを意味している。
にもかかわらず、車の中の数百個のチップは一切暗号化がされていない。
そこにウイルスが侵入したときに何が起きるかというと、ある日突然、世界中の車が、まさにXデーを迎えるかもしれない。
一気にウイルスに侵食され、高速道路で同時多発的にブレーキが利かなくなり、暴走する車が発生する。そのような状態になると、高速道路のハイウェイシステムは、30年くらい、壊滅的な打撃を受けるだろう。多くの人々の命が奪われるというリスクが、今、目の前にやってきていると言える。これはもはや国家の安全保障、人々の命に関わる問題である。
2016年度の見通し
情報化社会がやってくるということは、便利になる一方、リスクもはらんでおり、セキュリティが最も重要な機能の一つになる。単に安い・早い・消費電力が小さいということではなく、安心・安全な、暗号化されたチップであるか、が大事な時代が来る。
そのような未来に向けて、ARMが今回発表した新製品Cortex-M33、そしてCortex-M23は、セキュリティを一気に強化したチップで、しかも小さい。Cortex-M33は今までよりも80%、Cortex-M23は95%小さい。
鉛筆の先端の芯ほどの大きさが、今までのCortex-A5。それに対してCortex-M33はこんなに小さく、Cortex-23はもっと小さい。より消費電力が少なく、性能が上がっているにも関わらず、セキュリティが強化されている。普通は、セキュリティが強化されるということは、暗号化すること。暗号化すると解読も必要となり、性能は下がる。いろいろな負荷がかかる。それにも関わらず性能を上げて、セキュリティを同時に強化するということができるようになった。よって、「ARM=安心」「ARMインサイド=安心」という時代、安心のARMということになるだろう。
そういう意味でも、ARMを買って良かった。
チップ出荷数は、これからますます2次曲線で伸びていくという確信を得ることができた。
アリババ株は1株も売りたくなかった
なぜSupercellの株を売却し、ガンホーの株も大半売却し、売りたくないアリババの株も一部売却したのか。なぜARMの投資を行ったかというと、これからやってくる重要なパラダイムシフトのため。この後説明するが、その前に、なぜアリババを売りたくなかったのか、をこのグラフで確認していただきたい。
時価総額は、日本で一番大きな会社、トヨタを抜いている。すでに時価総額20数兆円規模のアリババだが、この1年間で売上が55%伸びている。純利益も直近の3カ月で、日本円で2,000億円。しかも、前年対比で41%伸びている。
アリババはまだ収穫期に入っておらず、Ali CloudやAnt Financial、Alipayなど、いろいろなものにどんどん先行投資をしている。収穫期に入っていないにも関わらず、純利益の絶対額が3カ月で2,000億円のところまできていて、かつそれが前年対比で41%伸びている。
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資料 |
(掲載日:2016年11月16日)
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