つながることが当たり前のスマホですが、つながるために必要不可欠なのが「基地局」なんです。
その役割や通信技術の進化でどのように変化してきたのか、携帯電話ネットワークの要である基地局に携わるエンジニアの皆さんにインタビューしました。
テクノロジーユニット モバイルネットワーク本部
ネットワーク企画統括部 技術企画部 ネットワーク企画課
藤野 矩之
テクノロジーユニット エリアネットワーク本部
関東ネットワーク技術統括部 東京ネットワーク技術部 エリア技術1課
伊藤 賢太郎
テクノロジーユニット エリアネットワーク本部
関東ネットワーク技術統括 首都圏ネットワーク技術部 エリア技術1課
籠田 秀人
目次
直接つながっているように見えて、実はこんなに複雑!
そもそも携帯電話ってどんな仕組みでつながっているんでしょう?
海外など遠く離れた相手とも通話でき、スマホでメッセージや画像などのデータを誰かに送信すると、瞬時に相手のスマホに届く。一見自分のスマホと相手のスマホが直接つながってデータが届いているように見えますが、実はそうじゃないんですよ。電波に乗って空を飛んだり、ケーブルを伝わって地下に潜ったり。皆さんにとっては一瞬だけど、実は長い旅をしてつながっているんです。
皆さんがスマホを使ってデータを送受信する時、接続しているのは相手のスマホではなく、ビルの屋上や鉄塔などに設置されている基地局。基地局同士は、世界中に張り巡らされた光ケーブルなどの有線ネットワークでつながれていて、あらゆる場所から送られてくるデータを、交換局を介して中継しながら、送信元と受信先のスマホに近い基地局まで届けられています。
携帯電話からスマホへの進化でエリア構築にも変化が
スマホが普及することで基地局にも変化があったんでしょうか。
基地局と一口に言っても、大きいものから小さいものまであるのですが、最近ではサービスエリアの構築において効率の良い小さな基地局が増えています。これって携帯電話の在り方が大きく変化したからなんです。
2Gや3Gの頃は電波が届くことが重要で、なるべく少ない基地局で広いサービスエリアを作ろうとしてきました。その後、スマホの普及でネットやアプリがどんどん使われるようになると、「もっとたくさん通信したい」というデータ通信へのニーズが大きくなったんです。しかし、1つの基地局で対応できる通信量には限りがあり、「少ない基地局で広範囲をカバー」よりも、「たくさんの基地局」が必要になりました。
現在では、1つの基地局がカバーするエリアを、小さいながらも数多くのセル(升目)に分けることで、より多くの通信をさばいています。多くの通信ができるように電波(周波数)を増やすと同時に、基地局も増やしていきました。
従来:少ない数の大きな基地局で広範囲をカバー
現在:大きな基地局とたくさんの小さな基地局でカバー
基地局の設置はとても時間がかかる作業
いろんなところに基地局があるんですね。設置までの流れを教えてください。
大きく分けると4つのステップで進めています。
【Step.1 建設計画】 |
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【Step.2 調査・申請】 |
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【Step.3 オーナー交渉】 |
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【Step.4 工事・開局】 |
調査についてですが、日々集計している基地局のトラフィック量などのデータと、1年後、2年後のトレンド(傾向変動)を掛け合わせ、基地局のキャパシティー負荷の予測を立てます。それを基に計画を立て、基地局の新たな設置場所を見つけると、土地やビルの所有者の方との設置に向けた交渉に入っていきます。
次に基地局の設計ですが、前述した調査内容の通り、データのトラフィック量が重要になります。それによってソリューションが異なるため、トラフィックがひっ迫しているエリアに対しては処理能力を上げるための設計や対応できる周波数を増やすことなどを検討します。一方、トラフィックが少ないところは、面を広げるソリューションを実施する場合もあります。
基地局設置は、場所や基地局のタイプ、実装する設備によっても異なりますが、基本的に半年から1年の時間がかかるんですよ。
そんなに時間がかかるんですね。普段どのくらいの案件を抱えているのですか?
詳細な数は申し上げられないのですが、恐らく皆さんの想像以上に膨大な数を対応しています(笑)。それくらいスマホが重要になり、皆さんにご利用いただいているということです。
基地局は細かく分けるとさまざまなものがありますが、基本的には3つのタイプがあります。まず「鉄塔タイプ」ですが、高さが数十mもあって、これがまさに「少数で広いエリアを構築できる基地局」です。ただ、どこにでも建てられるわけではなく、東京都内だと山手線の内側には鉄塔タイプはほとんどないかもしれません。そこでもう少し小さい電柱にアンテナを設置する「コンクリート柱タイプ」や、ビルの屋上や壁面に設置する「ビル屋上タイプ」があります。
アンテナの高さと周囲のビルの高さなどによってカバー範囲は変わりますが、1つの基地局に対して、金属の筒状のアンテナを1本~8本程度立ててあります。
ビルやマンションなどの屋内や地下はどのように対策を行っているのですか?
電波は建物に当たると、はね返る「反射」という現象があり、屋内に届く電波が弱くなる場合があります。その対策として、実際に通信をする「無線局」を建物内のさまざまな場所に設置し、アンテナを天井裏などに置いていくのが一般的です。
また、屋外にある基地局の電波を増幅し、屋内へ伝える「リピーター」を設置することで、電波環境を改善しています。
基地局の4つのタイプ
基地局も適材適所! 得意なエリアが違うから、いろんなタイプの基地局があります。
5Gのエリア構築で変わることとは
もうすぐ5Gが始まりますね。これまでと何か違いはありますか?
これまでも通話からデータへと、携帯電話の世代が変わるごとに使われ方も変化していきました。5Gでも、やはり多くの人がいる地域を中心にエリアを整備していきますが、一方で産業面での活用も期待されています。機械を遠隔操縦するなど、工事現場や農業への活用などニーズがあれば、さまざまな地域で積極的に展開していきたいと思います。
技術的には「Massive MIMO(マッシブマイモ)」がどんどん広がっていくでしょう。これは、従来は別々になっていた無線機とアンテナを合体させて、大量のアンテナを同時に制御するものです。
また、5G用割当周波数はこれまでの携帯電話用よりも高い周波数で、直進性が高く、建物や樹木、人ごみの陰になることで電波が届きにくくなる特徴があります。つまり、一つの基地局でカバーできる範囲がちょっと狭くなるので、今まで以上に多くの基地局を展開する必要があるのが4Gサービスとの違いです。
ソフトバンクでは、2016年から4GでMassive MIMOを取り入れてますが、これは本来5Gのテクノロジーです。最も性能を発揮できるのは5Gですから、これから花を開かせていければいいなと思っています。
これまでの4G基地局と5G基地局の違いはありますか?
4Gではアンテナが円筒型のものが大多数を占めていました。5Gで本格導入するMassive MIMOは狙いたい方向に多くのアンテナを向ける必要がありますから、板状のアンテナが増えていくでしょう。それ以外で、見た目で分かる違いというのは意外に多くないです。
ただ、5Gで使われる高周波帯「ミリ波」は、従来の周波数に比べてちょっと届きにくい。そのミリ波と、比較的遠くへ届きやすい「Sub6(サブ6)」と呼ばれる電波を用いることで、Sub6で広いエリアを作り、ミリ波でスポット的にエリアを作っていく、そのような使い分けが基本です。
そのため、まるで狙い撃ちするような角度でアンテナを設置していくことになるでしょう。極端に言えば、ビルの屋上から板状のアンテナがせり出すような形でも設置したいのですが、安全性を考えるとそれは難しいので、低いビルに置くことが増えるかなと思います。
幅広く展開していく上では、ソフトバンクが持つ「23万カ所の基地局」とは大きな強みですか。
そうですね。電波が到達する距離が短い5Gはたくさんの基地局が必要です。産業用途では、工場など特定の場所を狙う必要があるので、設置できる場所が多ければ、それだけ場所の選択肢が多いということにもなります。
一方で、長野県や東京都などが先行例として報じられていますが、自治体の資産を活用して5Gを整備という話も、4Gより多いという印象です。
これまでも、そしてこれからもネットワークの重要性は変わりませんね。
これからはスマホ以外のお客さまも増えてきます。「ネットワークとは何なのか」を常に考えて、なるべく早く、より高品質なネットワークを提供していきたいですね。
ある日、アンテナピクトに「5G」って表示されたら皆さんワクワクするんじゃないか――そんな思いをモチベーションにネットワークを作っていきます。
屋内のネットワークはお客さまと密接なものです。ビル内などの不感対策後に「つながるようになった」と喜んでもらえるとうれしいですね。いかに早く、より良いエリアを提供できるかを考えながら頑張ります。
(掲載日:2020年3月12日)
文・写真:北川研斗(インプレス)
編集:関口聖(インプレス)、ソフトバンクニュース編集部
先端技術で日常生活が劇的に変わる時代へ
次世代通信技術「5G」によって、人と人だけでなく、あらゆるモノとモノがつながるIoT時代が本格的に到来します。
先端技術を用いた新たなサービス・ソリューションの実現に向け、さらなる技術開発に取り組んでいます。