皆さんは仕事とプライベートの気持ちの切り替えがうまくできていますか?
本来ならくつろげる場所であるのはずの自宅で、仕事をしながら家事、育児に追われる日々は、自分で感じるよりも心身ともにストレスがたまっているのかもしれません。
そこで今回は、ストレスを上手に軽減し心の疲れを癒やしてくれる、香りの効果について、スペシャリストにインタビュー。おすすめの香りや楽しみ方など、アロマ初心者にも分かりやすく教えていただきました。
目次
香りの好みはウソをつかない。 専門家に香りのメカニズムについて聞いてみました
お話を伺ったのは……
オーガニックセレクトショップ「matsurica」オーナー/一般社団法人アロマリーディング協会代表理事
笹本英恵(ささもと・はなえ)さん
2008年、オーガニックセレクトショップ「matsurica」を開店。2013年には、十数年にわたって、アロマテラピーに関わってきた自らの経験をもとに生まれた「アロマリーディング」を広めるため、一般社団法人アロマリーディング協会を設立し、代表理事を務める。
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- ※取材はオンラインで行いました。
早速ですが、「アロマテラピー」とは、どんなものなのでしょうか?
簡単に言うと、植物の花や葉、樹皮、果実などから抽出した香り成分である”精油(エッセンシャルオイル)”を使い、心身のトラブルを解決することを目指す自然療法です。
「アロマ」は香り、「テラピー」は治療を意味します。古くから、植物を焼いた時に出る煙や、すりつぶしたペーストなどは医術に使われてきたんですよ。
香りは、どのようなメカニズムで心や体に働きかけるのですか?
人間の五感の中で、嗅覚が唯一、脳にダイレクトに伝わる感覚と言われているのをご存じですか?
例えば私たちはきれいなバラを見て、「バラだ」と認識してから「きれいだ」と感じますよね。でも、香りを感じるまでの時間は一瞬。嗅覚が先に「この香りが好きだ/嫌いだ」と感じてから、「バラの香りかな?」と考えているんです。つまり、“考える”より先に“感じる”ことができるのが嗅覚なのです。
香りの伝わり方は三通りあります。一つは鼻から脳へ届くルート。香りの分子を嗅覚がキャッチして匂いの情報が本能と情動をつかさどる脳の「大脳辺縁系」に届きます。さらに、自律神経やホルモン分泌に関わる「視床下部」に情報が伝わっていくのです。
二つ目は鼻や口といった呼吸器を通り、肺へ届くルート。そこから全身の血液に巡っていきます。
そして三つ目が、肌から浸透するルート。マッサージオイルなどに含まれた精油成分は肌から浸透し、血液やリンパ管に入って全身に働きかけていきます。
アロマテラピーはこの嗅覚の働きを使って、症状に応じた精油を選び、心身のトラブルを穏やかに回復していきます。
香りと自律神経の深~い関係
自律神経系には、心と体を活発にさせる「交感神経」と、休ませる「副交感神経」の2種類があります。このバランスが乱れてしまうと、夜眠れなくなったり、体のだるさを感じたり、頭痛や肩こりの原因にもなります。アロマには自律神経系のバランスを整え、心身の調子を整えてくれる働きがあると言われているのです。
アロマを通して、心と体の状態を見つめ直す
笹本さんが提唱されているアロマリーディングも、嗅覚がダイレクトに脳に伝わる仕組みを生かしたものだと聞きました。
そうですね。アロマリーディングは、「選ぶ香りに意味がある」ことに着目した、心ケアのツールです。自分の体調や気分、その時に置かれている環境など、さまざまな要素によって香りの好みも変化しますから、自分の好き/嫌いを知ることは、心と体の状態を見極めるきっかけになるんです。
香りの好みは、自分にウソをつけないんですね。
実際のカウンセリングでは、タイプの異なる8種類の香りを嗅いで、好みだと感じる順番に並べてもらいます。例えば、リラックス作用があると言われるラベンダーが一番好きだと感じた方は、少し心身がお疲れ気味かも? などといった感じですね。
なるほど。私はアロマ初心者なので、香りの好き嫌いがちゃんと判断できるか不安です(笑)
そのようにおっしゃる方はとても多いのですが、 頭で考えがちで“感じる”ことに慣れていないので、好き嫌いの順番をつけるのがなかなか難しいようですね。
でも、皆さん繰り返しトライする中で、香りを感じる精度が上がっている気がします。そうやって回数を重ねるごとに、自分自身の状態を客観的に見つめ直すことが上手になるんです。
ちなみに、どんな人・状況でも好ましく感じる香りはあるのでしょうか?
ラベンダーやベルガモット、ゼラニウムなどは人気があり、よく選ばれる傾向があります。初心者の方は名前を知っている香りを試してみて、「好き!」と感じたものから使い始めるのがいいですね。
それから、香りはなりたい自分を後押しするチカラもあります。例えば、「嫌なことがあったので、明るい気分を取り戻したい」「自信持って仕事をやり遂げたい」など、用途から選んでもOK!アロマショップや専門家にアドバイスを受けながら選ぶと良いでしょう。
家でのON/OFFも香りでコントロール。シチュエーション別・おすすめアロマ
最近は、家で過ごす時間も長くなりました。仕事や家事に追われて忙しい日々に、おすすめの香りはありますか?
では、1日の始まりから、シチュエーションごとにおすすめの香りをご紹介します。
- 午前:目覚めのハーブ、ローズマリーで1日をスタート
まずは朝(午前)、なかなかアクセルがかからないなぁ~なんていう時におすすめなのが、「ローズマリー」。
古くから“記憶をつかさどるハーブ”と言われ、脳を覚醒させたり記憶力を高めたりする目覚めのハーブです。
ユーカリやペパーミントなど、少し清涼感のある香りと混ぜて楽しむのもおすすめですよ。
- 午後:もうひと踏ん張り! 活力が欲しい時の、レモングラス/ホーリーバジル
お昼から午後、集中力をさらにアップしたい時間帯には、心身に粘り強さを与えてくれる「レモングラス」をチョイス。イメージとしては、マラソン終盤の「あともう少し!」といった踏ん張りを与えてくれるハーブです。
また、心と体に活力を与えてくれる、「ホーリーバジル」も試してほしいですね。ハーバル調でほんのり爽やかな甘みのある香りなので、ブレンドに加えるのがいいと思います。
- 夜:お疲れさまのリラックスタイムに、ラベンダー/イランイラン
仕事や家事でたまった疲れを取りたいなら、「ラベンダー」や「イランイラン」がおすすめ。ラベンダーにはリラックスだけでなく、鎮痛や細胞の再生をサポートする成分があるとされてきました。私はオールマイティーに働く万能薬的な存在だと思っています。
イランイランは、体を緩ませる働きがあると言われているので、日中の緊張度が高い人にこそ嗅いでもらいたい香りです。華やかで官能的な香りでもあるので、リラックスタイムに取り入れるといいでしょう。
香りに包まれる生活、イメージが湧いてきますね。
- 休日:自然に囲まれた香りでリフレッシュ! ゼラニウム/ヒバ/ヒノキ
休日を家で過ごすとしたら、女性におすすめなのは、「ゼラニウム」。少しハーブっぽさのあるフローラルな香りです。女性ホルモンのバランスを整え、不安を和らげる効用があるので、心身を穏やかにしてくれますよ。
また、アウトドア好きな方なら、「ヒバ」や「ヒノキ」など森林系の香りで、アウトドア気分を味わうのもいいですね。
こうやって香りで心身のスイッチを上手に切り替えられたら、疲れ知らずになれる気がします。
毎日がんばっている方にこそ、香りを生活に取り入れてほしいですね。緊張や疲れが取れないほどヘトヘトな日は、マジョラム(ハーブの一種)を試してみてください。昔から「なぐさめの香り」と言われていて、たくさんがんばった自分の背中を、そっとなでてくれるような香りです。
使い方は単品ではなく、イランイランやラベンダー、ゼラニウムなどを、少しブレンドすると心地よい香りになると思います。
アロマを使う時はこんなことにご用心!
アロマを安全に楽しむためには、精油を使用する時の健康や精神の状態、そもそもの体質などに気を配り、異変を感じた場合はすぐに使用を止めることが大切です。特に、既往歴がある方や薬を服用中の方、妊娠中の方は注意が必要。また、アロマは空気中に広がるので、お年寄りや小さい子ども、ペットがいる家庭での使用方法も、必ず事前に調べておきましょう。
精油があれば誰でもできる。「アロマな暮らし」を簡単に始めるには?
私も早速、アロマな生活を始めてみたくなりました。でも、自宅にはディフューザーやアロマポットがありません…。
アロマテラピーは精油さえあれば簡単に楽しめますよ。ただし、精油は使い方を間違えると危険もありますから、まずは、精油の基本的な使い方を覚えておきましょう。
- 精油の原液※は、絶対に直接肌につけない・飲まない
- 肌をマッサージする場合は、植物油に希釈してから使う
- 精油は水に溶けないが、植物油とエタノールには溶ける
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- ※特にかんきつ系の精油は刺激が強く、肌荒れにつながることもあります
精油は揮発性の芳香物質ですから、化粧用コットンに1~2滴垂らしてデスクや枕元に置いたり、シャワールームの床に1滴垂らしてシャワーを浴びると、下から立ち上ってくる香りを楽しむことができます。(使い終わったらすぐに洗い流して、シミにならないよう気を付けてください)
ほかに、20ml程度の植物油に4滴の精油を加えて腕や足をマッサージするのもおすすめ。血行が良くなって、お肌にうるおいを与えてくれます。
お風呂で使うなら、お湯を張った小皿に精油を垂らして浴槽の縁に置くと、お肌に付くのを気にせず入浴できますよ。
精油は量の割に高価なイメージがありますが、上手に使うコツを教えてください。
精油を使う時はだいたい1〜5滴なので、10ml入りの精油なら約200滴使える計算です。1本の精油で想像以上にたくさん使えるので、実際には高価なものでもないんですよ。
ちなみに、精油にも使用期限があります。容器のフタを開けた瞬間から酸化がはじまるので、種類にもよりますが半年〜1年が使用期限と覚えてください。精油は植物にとっては「生きるエネルギー」ですから、最後まで使い切りましょう!
精油の保管方法で気を付けることはありますか?
なるべく長く良い状態で楽しむために、直射日光と多湿を避けて、冷暗所に保管しましょう。使用後はボトルのキャップをしっかりとしめ、立てておくこと。フタ付きの木箱などにまとめて入れておくと収納も便利ですよ。
最後に、ECサイトなどで精油を購入するときに失敗しないコツを教えてください。
香り選びに失敗はありません。しかも香りの好みは自分の体調や環境などでどんどん変わっていきます。最初は「この香りは好きじゃない!」と思っても、時間をおいてまた嗅いでみてください。ある日ふと、「あれ? いい香りかも…」と感じるかもしれませんし、その瞬間がアロマのだいご味なんです。(笑)
また、自分のお気に入りの精油があれば、他の精油とのブレンドにチャレンジしてみるのもいいですよ。楽しみながら、香りに包まれたおうち時間を過ごしてくださいね。
早速トライしてみます。たくさん教えていただき、ありがとうございました!
笹本さんによるアロマ初心者へのレクチャーは、いかがでしたか? 筆者も早速ラベンダーの精油で実践してみたところ、香りを嗅いだ瞬間に心がフワッとほぐれるのを実感しました! 化粧用コットンだけで手軽にできるのもうれしいところ。デスクワークやリラックスタイムのお供にしたいと思います!
精油などのアロマグッズは、ECサイトからも購入できるので、気になる人はぜひチェックしてみてくださいね。
(掲載日:2020年6月1日)
文:秋葉成美
写真:忠地七緒
編集:エクスライト