あなたは、いま使っているスマホの色を、どういった基準で選びましたか? 過去に使っていたスマホの色を振り返ってみると、「白または黒ばかり選んできた」という人も多いのではないでしょうか。モノトーンは、スマホのベーシックカラーとして必ずラインアップされている色ですが、他の色もある中で、あえて白黒を選んでしまうのは何か理由がありそうです。
今回は、カラーキュレーター®︎として活躍されている七江亜紀さんに「なぜ人はモノトーンを選ぶのか?」を中心に、スマホだけじゃなくファッションやインテリアなど色にまつわるさまざまなお話をうかがいました。
話を聞いたのは、色のひと®︎/カラーキュレーター®︎ 七江 亜紀(ななえ・あき)さん
目次
日本と海外では、モノトーンが好まれる理由が異なる?
ファッションや家電、インテリアなどにモノトーンが多いのはなぜでしょうか?
ファッションに関しては、ひと昔前に比べて、モノトーンが少なくなってきたと感じています。海外のファストファッションブランドが入ってきたことで、これまで見つけづらかったグレイッシュな色が増えましたよね。反対に、高級ブランドでは、スタイリッシュなモノトーンが目立つようになりました。
家電はジューサーやホットプレートなど、調理家電などでカラフルなものが増えてきています。海外では、車や冷蔵庫なども、赤や黄色などカラフルなものが好まれますね。私も以前、赤や黄色の車に乗っていましたが、乗り換えるときに売れないんですよ(笑)。日本人は先々の乗り換えまで考えて車を購入するので、やっぱりモノトーンが一番売れるんです。そうすると、メーカーも新しい色に挑戦しづらくなりますね。
日本人がモノトーンを好むのは、文化や性質も関係しているのでしょうか? 欧米などでは、社交の場に黒を着て行くイメージがあります。
欧米では、フォーマルな場に黒を着て行くことが多いですし、自己主張するために黒を使います。レッドカーペットなどで、背中が大きく開いた黒いドレスを着る女優さんなども多いですよね。
一方で、日本人は「これさえ着ておけば大丈夫」といった考えで黒を着る人が多い。私のところに相談にいらっしゃる方を見ても、実は内面が繊細で、それを悟られないように黒を選ぶ方が多いですね。日本には古くから侘び寂びの文化がありますし、「静かで質素な雰囲気が上品」といった思想が根強いので、色で自己主張することへのハードルが高いんだと思います。
色の豆知識①:男女で実は違う? モノトーンを好む人の特徴
七江さんいわく、男性の場合は、意志が強く頑固で、他人に強く見られたい方が多いそうです。黒をまとい外見を強く見せることで、不安や繊細さなど、本音を悟られないようにする心理があるのだとか。一方、女性は仕事が忙しくて、服を考えるのが面倒という方が多いそうです。
モノトーン本来の使い方はあるのでしょうか?
はい。本来は、プロ意識や自信を見せたいときに身につける色。自分をワンランク上に見せたいときにオススメの色ですが、使い方が重要ですね。私も年に何回か黒を着ますが、あえて黒はお休みして、ある日突然着るんですよ。そうやって、身につける色から自信を得て、プレゼンを勝ち取るんです。いつも色や柄を着ている人が、突然黒を着ると印象にも残りますよね。
黒以外で、日本人が好みやすい色はありますか?
女性は、グレーを選ぶことが多いです。グレーはおしゃれな色ですが、中間色なので、あまり多用しすぎると、決断力が鈍ってしまいます。私はそれを逆手に取って、何も考えたくないときは、1週間グレーをずっと着続けますね(笑)。
また最近は、ベージュを選ぶ方も増えてきていますが、ちょっと間違えると部屋着のような印象になりやすい。たまに、赤や青が大好きという方がいらっしゃいますが、やはり日本人は淡い中間色を好む方が多いですね。
赤や青には、どのような心理効果があるのでしょうか?
赤はエネルギッシュで自己主張が強く、リーダーシップ性を表す色です。ただ、いつも身につけていると、人に八つ当たりしたり、感情的になりやすかったりする側面があります。やっかいなのは、身につけている本人だけでなく、その人と接する人も影響を受けるところ。
色の豆知識②:サッカーのユニホームカラーが試合にも影響する?
対戦相手が赤いユニフォームを着ているチームは、それを目にするだけで焦ってしまいがちです。反対に、相手チームが青いユニフォームだと、目にすることで冷静になってクールダウンできます。ビジネスシーンでも、相手にどう感じてもらいたいか考えて色を選ぶのは、非常に効果的ですね。
あなたはどれですか? 色別性格診断を試してみましょう
十人十色と言うように人それぞれ好みの色があり、その色の好みによって大まかな性格分類もあるようです。ここでは代表的な色とそれにひもづく性格を紹介。あなたの好きな色は、どのような性格を示しているでしょう?
モノトーンの魅力は「奥行き」。素材や質感によって表情が変化する
好みの色が性格を表す、ということで日本人がモノトーンを好きな理由も少しずつ見えてきました。ただ色は、単色ではなく素材や質感によって表情を変えるもの。次にモノトーンの本来の魅力や相性の良い色を教えていただきました。
モノトーンのファッションには、どのような効果がありますか?
ファッションの黒は、プロ意識を表現できると前段でもお話しました。ただ、相手に威圧感を与えてしまう色でもあるので、「話し掛けにくい」といった印象を持たれることも。話し掛けやすい雰囲気を演出するなら、差し色として、やわらかい色を少し取り入れたほうがいいですね。
白は、完璧主義できっちりした人という印象を与えたいときに役立ちますが、人に緊張感を与える色であることも覚えておきたいところです。
同様にモノトーンのインテリアは、どのような効果があるのでしょう?
インテリアの場合、黒は重厚感や高級感、洗練された雰囲気を演出するのに役立ちます。その一方で、圧迫感や閉塞感を覚えることもあるため、多用しないようにしたいですね。白いインテリアは、明るく清潔感があり、スタイリッシュな印象を与えます。ただし、やはり人に緊張感を与える色なので、真っ白なインテリアに囲まれた部屋にいると疲れやすくなります。私も白いインテリアが好きですが、所々アイボリーを取り入れるなど、トーンを変えるようにしていますね。
多くの人に好まれるモノトーンの魅力について、考えをお聞かせください。
奥行きがあり、素材や質感によって変化を楽しめるところが、モノトーンの魅力かなと思います。赤や黄色は、色そのものの主張が強くて、素材や質感には目がいきにくい。その点、黒や白は「マットで上品な質感だな」とか「ツヤツヤしていて格好いい」といったように、同じ形のものでも、素材や質感によって表情が変わります。一点注意したいのは、モノトーンはスタイルが良くなければ安っぽく見えてしまうこと。家具や家電といったプロダクトなどは特にそうですね。
モノトーンを格好良く着こなすには、スタイルも大事ということですね。モノトーンには、他の色を映えさせる効果もあると思います。差し色として選ぶといい色を教えてください。
白やグレーには、黄色が映えますね。インテリアに白やグレーを使う場合は、アクセントとして黄色の花を置いたり、黄色のクッションを置いたりするときれいです。黒の場合は、シャネルさんでよく見かけますが、薄いピンクなどが合います。
また、黒×オレンジは、男性が好む組み合わせです。オレンジは、庶民的で近寄りやすく、黒と正反対の性質を持つ色なんですよ。オールブラックコーデでも、小物などにオレンジを取り入れると、話し掛けにくいといった印象が緩和されます。
色域を鍛える、色のトレーニング
男性と女性では認識できる色の範囲「色域」が異なり、女性のほうが広いといわれています。七江さんによれば、色域は、トレーニングによって増やすことが可能だそう。
① 太陽光の下で色を見る
同じ色に見えても、青みがかっていたり、黄色が混ざっていたりするなど、トレーニングによって、ほんの少しの色の違いがわかるようになります。
② 食卓の色を注視する
「同じ赤い野菜でも、トマトとパプリカでは彩度が違う」といったことを考えながら食事をすることで、目がどんどん鍛えられていきます。器の色などにも目を向け、楽しみながら色域を増やすトレーニングをしましょう。
③ 色んなお店で白のTシャツを見比べる
白のTシャツは、素材の違いや厚みなどで微妙に違う色をしています。好きな白、好みとは違う白を見分けることから始めることで、色の違いを見分けられるようになります。脳のトレーニングにもなるようです。
相手のことを考えた色選びを。モノトーンの落とし穴と上手な付き合い方とは?
知れば知るほど奥の深い色の世界。最後にその上手な使い方と注意すべき点を教えていただきました。そのお話からは、色をうまく使うことが自身のマインドセットにもつながる、という色の大切な役割を垣間見ることができそうです。
モノトーンは主張が強いというお話が出てきましたが、主張できない人、主張しにくい人が意図的にモノトーンを使うコツはありですか?
はい、意見が言えない人、自己主張ができない人には、時々黒を使ってくださいと言います。ずっと黒を使うのではなく、黒の時計などなんでもいいので2週間くらい黒習慣をしっかり作ってもらうんです。そうすることで、少しずつ内面に強さが芽生えていく、ということもあります。ただ、モノトーンには落とし穴があるので注意して身につけてもらいますよ。
モノトーンの落とし穴とは?
モノトーンは、すごく洗練されていて合理的で機能的な色です。でも自分のことだけしか考えない色使いに陥ることもあります。パートナーや友人を置いてけぼりにするような。落とし穴と言ったのは、全部黒とか、真っ白にすることで相手に緊張感を持たせてしまうことです。もちろんうまく付き合えば、とても素敵な色ですよ。
今回はモノトーンのお話に終始しましたが、実際に七江さんが好きな色や、いま気になっている色がありましたら教えてください。
この仕事を始めるときに、「好きな色を作らない」という決まりを作ったんです。好きな色があると、お客さまに提案するときも、ついその色を優先してしまうかもしれません。ですから、プロとして好きな色は、一旦棚にしまっておきました。ただ、キャリアが20年を経過した頃から、「そろそろいいかな」と解禁しています。最近は、自分の好きな色を、ビジネスやプライベートに少しずつ取り入れるようにしていますね。
最近特に好きな色は、優しめの黄色です。バターや卵など、黄色いものは、人をすごく幸せな気持ちにすると思いませんか? 黄色はひらめきの色であり、モノトーンはもちろん、紺にも茶色にも合う、使いやすい色なんです。一方で、使い方を間違えると子どもっぽく見える色でもあるので、大事な会議のときなどは使わないようにしていますね。
色を効果的に使うために。まずは色の習慣化から始めよう
「日本人は、使う色を意識する必要があると思っています」と七江さん。色によって、ビジネスシーンやプライベートシーンで相手に与える印象が変わることも。色を効果的に使えるように、まずはたくさんの色に触れること、色を知りそして楽しむことが大切ということを今回の取材で教えていただきました。
(掲載日:2021年3月9日、更新日:2021年11月16日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト