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テレビ業界にもDXの波が到来。現場からリモートで番組制作・配信できる「次世代放送プラットフォーム」が注目される理由

テレビ業界にもDXの波が到来。現場からリモートで番組制作・配信できる「次世代放送プラットフォーム」が注目される理由

5Gが次世代の重要なインフラとなり、あらゆる産業でデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中、テレビ番組の制作現場でも、新しい取り組みが進んでいます。

沖縄にある琉球朝日放送(テレビ朝日系列)は、ソフトバンクが開発した次世代放送プラットフォーム「Broadcast as a Service(BaaS)」を利用することで、中継設備を介さずにリアルタイムな映像配信を実施。コロナ禍によって従来のテレビ番組制作プロセスの見直しが必須となる中、インターネットやクラウドなど、IT技術を駆使した新しい番組制作に取り組んでいます。

転換点を迎えているテレビの番組制作と次世代放送プラットフォームの実証実験の実態について、担当者に話を聞いてきました。

話を聞いた人たち

(写真上左から)琉球朝日放送株式会社 執行役員 東京・関西・福岡支社担当 東京支社長 小禄邦一郎(おろく・くにいちろう)さんと局のマスコット「Qごろ~」、ソフトバンク株式会社 技術戦略統括 先端技術開発本部 本部長 湧川 隆次(わきかわ・りゅうじ)(写真下左から)ソフトバンク株式会社 技術戦略統括 先端技術開発本部 先端技術推進部 先端技術開発課課長 堀場 勝広(ほりば・かつひろ)、先端技術事業課 課長 山田 大輔(やまだ・だいすけ)

(写真上左から)琉球朝日放送株式会社 執行役員 東京・関西・福岡支社担当 東京支社長 小禄邦一郎(おろく・くにいちろう)さんと局のマスコット「Qごろ~」、ソフトバンク株式会社 技術戦略統括 先端技術開発本部 本部長 湧川 隆次(わきかわ・りゅうじ)
(写真下左から)ソフトバンク株式会社 技術戦略統括 先端技術開発本部 先端技術推進部 先端技術開発課課長 堀場 勝広(ほりば・かつひろ)、先端技術事業課 課長 山田 大輔(やまだ・だいすけ)

コロナ禍で覆されたテレビ番組制作プロセスの常識。場所にとらわれない新たな制作環境づくりとは

コロナ禍で覆されたテレビ番組制作プロセスの常識。場所にとらわれない新たな制作環境づくりとは

昨今、テレワークの積極的な活用など、これまでの働き方が大きく変わりましたが、テレビの番組作りは、専用機器がある局内の編集室を使う従来の制作スタイルのまま。琉球朝日放送局内では、新型コロナウイルス発生後、急きょ制作スタイルの見直しが必要な事態となりました。

小禄さん

「テレビ局では報道、情報、バラエティーまで、さまざまな番組制作が並行して行われていますから、7ブースある編集室は24時間態勢で常に満室状態です。また、今回局内でコロナ感染者が出たことで、出社ができなくなり、これまでのプロセスが機能しなくなってしまったのです。制作現場など大きな痛手となりました。打開策として、『BaaS』を利用させていただく機会を作ってくださり、ネットワークシステムとクラウドを結んで番組の配信などを行いました、制作者にとっては大変ありがたいシステムです!」

次世代放送プラットフォーム「Broadcast as a Service(BaaS)」

ソフトバンクが開発した、リモートとクラウドの技術を使った映像配信プラットフォーム。現場に人が出向かなくても現地で撮影された映像データを専用クラウドにアップし、配信に必要な全てのオペレーションをクラウド上で行うことが可能です。密接を回避し、移動が制限される中で、日本全国どこからでも配信可能なため、コストを軽減し効率的な番組制作ができる新しい手段として注目されています。

なぜ今回、次世代放送プラットフォームを利用することになったのでしょうか?

小禄さん

「実はソフトバンクさまとは、昨年の3月に5Gを使った実証実験を行っていました。地元のサーフィン大会を取材して、ドローンを含む複数のカメラで捉えた動きのある映像を5Gでリアルタイムに配信するという試みですね。その実験結果が非常によく、社内での評価が高かったため、コロナ禍の中、リモートでの番組制作に活用できるのはないかと考えたわけです」

実証実験の様子

湧川さん

「実験にご協力いただき非常に助かりましたね。次世代放送プラットフォームの有効性には自信がありましたが、今回、このような状況下でのニーズが改めて分かりました。次世代放送プラットフォームの取り組み自体は2019年の11月から。現在は実験などを繰り返しながら放送のプロに使っていただける品質を担保し、改良を重ねる中でサービス化を目指している状況です」

サーフィンの様子を3台のカメラでライブ撮影し、5Gを活用して都内にあるソフトバンクのデータセンターまで伝送。全映像がデータセンターのサーバーにリアルタイムで保存され、テレビ朝日の本社から遠隔でスイッチング操作(全映像を遠隔視聴し必要な映像のみを切り換えて転送)できることを確認。さらにテレビ朝日の映像制作のエンジニアが遠隔から編集作業を実施

サーフィンの様子を3台のカメラでライブ撮影し、5Gを活用して都内にあるソフトバンクのデータセンターまで伝送。全映像がデータセンターのサーバーにリアルタイムで保存され、テレビ朝日の本社から遠隔でスイッチング操作(全映像を遠隔視聴し必要な映像のみを切り換えて転送)できることを確認。さらにテレビ朝日の映像制作のエンジニアが遠隔から編集作業を実施

実はアナログだらけ。改善の余地が大きい、番組制作の現状

番組制作の現場はまだまだアナログ的な要素が多く、中継現場の人員、中継車から複数の中継用コードを接続する作業など、時間や手間が非常にかかるのが現状です。もちろん、そういった方々の尽力で放送が成り立っているのも事実。

報道生番組などは当日の放送に間に合わせるために、従来、現場には録画データ運送用のバイク便を用意する必要がありましたが、『BaaS』経由なら、直接局まで電波を飛ばせるので、取材の効率もアップできるとのこと。

小禄さん

「それからもっとアナログなのは、CM素材や本編などの輸送なんです。系列局は特にそうですが、弊社も東京から沖縄まで飛行機で運んでいるんですよ、それも毎日。台風のときに沖縄便が欠航になると、ダメージが大きいので、PC1台で配信できるといいですね。経費の大幅な削減にもなります」

20~30本のHDCAMテープを専用ケースに入れて、毎日飛行機で運んでいる

20~30本のHDCAMテープを専用ケースに入れて、毎日飛行機で運んでいる

20~30本のHDCAMテープを専用ケースに入れて、毎日飛行機で運んでいる

テレビ業界に求められる「シンプル&スピーディー」をテクノロジーでどう実現していくのか

テレビ業界に求められる「シンプル&スピーディー」をテクノロジーでどう実現していくのか

今、テレビ業界は「シンプル&スピーディー」が求められているといわれています。「シンプル」は、制作現場に関与する人員や機材のほか、コストのスリム化など。「スピーディー」は、情報提供の早さのほかに、番組制作にかける時間の短縮も該当します。

次世代放送プラットフォームの活用で、どのように時間の短縮につながったか教えてください。

小禄さん

「新聞などのメディアと同様に、報道はニュースを他局よりもいかに先に出せるかが重要。ニュースは報道デスクがその日の項目を決定し、多くの素材・ネタに目を通します。デスクにニュースのネタをいち早く伝えることができれば、選択基準が早まり報道の質がより向上します」

堀場さん

「次世代放送プラットフォームはクラウドベースのサービスなので、取材現場で撮った情報はクラウドに上がった時点で関係者間に共有され、すぐに編集作業に取りかかれます。また、放送で流せるコンテンツは、倫理的なチェックなどの複数確認が必要ですが、これも多人数で一気に目を通すことができるので、番組制作にかかる時間が短縮できます」

小禄さん

「そこは、本当に助かりました。テレビはマスターという機能があって、それをベースに番組やCMが正しく放送されているか24時間監視・コントロールしているんです。マスターを自局で持つと、予算やランニングコスト的に厳しい。でも、クラウド管理だと機械への負担、または投資が抑えられるので大きなメリットになりますね」

山田さん

「そうですね。機材の新陳代謝が早くなってきている中、新しい機能がクラウド側に導入され、必要なものだけ使うことができれば、コスト面のメリットは大きいと思います」

小禄さん

「確かに。スポーツ中継では、試合会場にカメラマン、音声、スイッチャー、配信管理などのスタッフが集まって作業をする必要があります。クラウドを利用すれば、カメラで撮影したデータが直接送れるので、現地に持っていく機材が軽量化でき現地に赴くスタッフ数も削減でき、かなり効率的になりますね」

スポーツ中継で次世代放送プラットフォームを活用した実証実験を行ったそうですね。

小禄さん

「はい。野球の地方予選大会の中継で実証実験を行いました。ローカル局から東京にある機材(スイッチャー)をリモートシステムで使ってみたんですが、映像の画質を落とさずに中継ができたんです」

試合のライブ映像を、複数のカメラで撮影して、都内にあるソフトバンクのクラウドサーバーへ伝送し、テレビ朝日の本社から遠隔でスイッチング操作(全てのカメラ映像を遠隔視聴し、必要な映像のみを切り換えて伝送)できることを確認。通常は現地中継車内で行われる各種作業も遠隔操作で実施し、実用性の高い映像制作が可能であることを実証

試合のライブ映像を、複数のカメラで撮影して、都内にあるソフトバンクのクラウドサーバーへ伝送し、テレビ朝日の本社から遠隔でスイッチング操作(全てのカメラ映像を遠隔視聴し、必要な映像のみを切り換えて伝送)できることを確認。通常は現地中継車内で行われる各種作業も遠隔操作で実施し、実用性の高い映像制作が可能であることを実証

小禄さん

「また、スコアなどのテロップ編集も、従来はスコアボード専用カメラを通じて撮ったデータを担当者が映像に差し込んでいたのですが、今回は自動入力などスムーズに実行できました。画質と情報量はテレビの生命線。将来的にはこのシステムで生放送が実現できるといいですね」

堀場さん

「そうですね。次世代放送プラットフォームは、リモートプロダクションと呼ばれるサービスとは違い、通信キャリアとして、ネットワークまでの品質担保できるのが1番の強み。プロが必要なサービスを提供できると考えています」

5G×次世代放送プラットフォームで実現する未来。テレビ業界のDXは視聴体験をどう変えるのか

5G×次世代放送プラットフォームで実現する未来。テレビ業界のDXは視聴体験をどう変えるのか

次世代放送プラットフォームは、遠隔地からでもテレワークによる作業によって番組編集が可能のため、密閉・密集・密接の問題が回避できるほか、立ち入りが制限されている現場作業を減らすことができるなど、コロナ禍での番組制作に大いに貢献できることがわかりました。

テレビ業界でのDXにどんなことを期待しますか?

小禄さん

「沖縄は離島が多いので、ローカルの放送局の中でも特にカバーエリアが多い。現場で取材してクラウドにダイレクトアップし、本社で同時に編集できるという体制ができれば制作時間も圧縮できます。今後はよりコストを押さえて、いかにリモートシステムを駆使しながら、これまでどおりの映像クオリティーで発信していけるのかが課題です」

湧川さん

「品質担保という点では、ソフトバンクは放送向けの専用回線を全国で運用・提供している長い実績がありますので、今後はモバイルと有線のインフラを、さまざまなところで使えるように仕立ていきたいですね。

次世代放送プラットフォームは、専用回線に編集や素材の受け渡し、リアルタイム制御など、さまざまな機能をアドオンし、最終的にはライブ中継まで対応できるようなサービスとなるよう改善をしながら良いものにしていきたいと考えています」

「品質担保という点では、ソフトバンクは放送向けの専用回線を全国で運用・提供している長い実績がありますので、今後はモバイルと有線のインフラを、さまざまなところで使えるように仕立ていきたいですね。

次世代放送プラットフォームは、専用回線に編集や素材の受け渡し、リアルタイム制御など、さまざまな機能をアドオンし、最終的にはライブ中継まで対応できるようなサービスとなるよう改善をしながら良いものにしていきたいと考えています」

次世代放送プラットフォームの活用が、視聴体験をより豊かにする

小禄さん

「沖縄は世界遺産が多いのですが、例えば首里城の復元の様子を4Kの映像で残す、そういった重要なコンテンツを多言語化して海外にわかりやすく発信していくのは、テレビ局の使命だと思います。クラウドで海外の放送局とも連携しながら編集をやっていけるといいですね。

次世代放送プラットフォームの活用が、視聴体験をより豊かにする

次世代放送プラットフォームの活用が、視聴体験をより豊かにする

また、スポーツコンテンツは地域活性化の大きな起爆剤。沖縄はインターナショナルスポーツ大会も盛んで、各国から撮影クルーが来日しますが、コスト的にスタッフ数が限られます。海外の放送局との映像共有が必要に迫られた場合、その場で発信できる次世代放送プラットフォームシステムは、各放送局のハブとなる大きな役回りです。ゆくゆくは放送界でスタンダードになるといいですね。

制作マンはいつも『このネタも、あのネタも追っかけたい』と思っています。次世代放送プラットフォームでコスト削減、スピーディーな情報提供が可能になれば、最終的には制作側の効率化になり、視聴者が求める番組作りにこれまで以上に注力できると思っております」

「沖縄は世界遺産が多いのですが、例えば首里城の復元の様子を4Kの映像で残す、そういった重要なコンテンツを多言語化して海外にわかりやすく発信していくのは、テレビ局の使命だと思います。クラウドで海外の放送局とも連携しながら編集をやっていけるといいですね。

次世代放送プラットフォームの活用が、視聴体験をより豊かにする

次世代放送プラットフォームの活用が、視聴体験をより豊かにする

また、スポーツコンテンツは地域活性化の大きな起爆剤。沖縄はインターナショナルスポーツ大会も盛んで、各国から撮影クルーが来日しますが、コスト的にスタッフ数が限られます。海外の放送局との映像共有が必要に迫られた場合、その場で発信できる次世代放送プラットフォームシステムは、各放送局のハブとなる大きな役回りです。ゆくゆくは放送界でスタンダードになるといいですね。

制作マンはいつも『このネタも、あのネタも追っかけたい』と思っています。次世代放送プラットフォームでコスト削減、スピーディーな情報提供が可能になれば、最終的には制作側の効率化になり、視聴者が求める番組作りにこれまで以上に注力できると思っております」

関連情報

(掲載日:2021年3月9日)
文:ソフトバンクニュース編集部