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高校生が手話にかける青春。ダンスや演劇の表現力を競い合う手話パフォーマンス甲子園

高校生が手話にかける青春。ダンスや演劇の表現力を競い合う手話パフォーマンス甲子園

手話パフォーマンスを通じ、手話をもっと多くの人に分かってもらいたい。そんな思いを持ち、日々学校で練習に励む高校生が全国各地から鳥取県に集い、手話言語を使ったダンスや演劇、歌唱といったパフォーマンスの出来栄えや表現力を競い合う手話パフォーマンスの祭典「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」があるのをご存じですか?

手話言語の理解普及を目的にスタートした手話パフォーマンスの祭典は、毎年開催され、今年で9回目を迎えました。全国初となる手話言語条例を設立するなど、手話への積極的な取り組みを行う鳥取県で開催されています。

ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇

第9回全国高校生手話パフォーマンス甲子園の大会当日には、全国から参加した60チームのうち、予選審査を勝ち上がった12県の15チームが出場。開会式では秋篠宮家の次女・佳子さまが出席し、手話を使って挨拶をされました。

聴覚に障がいがある人たちにとって視覚的なコミュニケーションツールである手話を使って、ダンスや演劇、歌唱、コントなどパフォーマンスが行われ、童話劇「青い鳥」を基に平和や幸せを表現したダンスや、手話言語条例の設立を訴える劇など、さまざまなテーマを表現する姿が見られました。3年ぶりの現地開催ということもあり、参加した高校生は他のチームの演技を直接見て刺激を受けていたようです。

ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇
ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇
ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇

優勝した埼玉県立の坂戸ろう学園・大宮ろう学園の2校合同チームは、日本で手話が禁止されていた時代に、ろう者が苦難を乗り越えていく姿をテーマにした劇を表現。

ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇

優勝チームの生徒は、これまでの練習を振り返り、「チームメンバーで話し合いを重ね、意見をすり合わせてパフォーマンスを作り上げていくのは大変でしたが、メンバーとたくさん話したり練習をしたり楽しかった。強豪校を破り、目標としていた優勝を勝ち取ることができ、また来年も参加したい気持ちでいっぱいです」と、手話パフォーマンス甲子園に参加した感想を教えてくれました。

ダンス、演劇、コント。手話で表現する、手話の歴史や童話劇

全チームのパフォーマンスは、「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」のYouTubeからご覧いただけます。高校生による手話を使ったパフォーマンスをぜひ見てみてください!

「全国高校生
手話パフォーマンス甲子園」
をみる

地域にも広がる手話を通じたつながり。“手話の聖地” 鳥取県の担当者にインタビュー

高校生による手話パフォーマンスの祭典が開催されている鳥取県では、2013年に全国初となる手話言語条例を制定し、手話の聖地とも呼ばれています。手話パフォーマンス甲子園の運営に携わる、手話パフォーマンス甲子園実行委員会事務局の担当者に、手話普及に向けた取り組みについてお話を聞きました。

話を聞いた人

米澤 章(よねざわ・あきら)さん

手話パフォーマンス甲子園実行委員会事務局(鳥取県 福祉保健部 ささえあい福祉局 障がい福祉課 社会参加推進室情報アクセス担当)
米澤 章(よねざわ・あきら)さん

全国初となる「手話言語条例」の設立に至った背景を教えてください。

2008年に鳥取県の将来ビジョンを策定するにあたり、当事者の方に意見を聞いたときに「手話を言語として認めてほしい」という声が多く寄せられました。県知事が学生時代に手話を学んでいたため元々手話への理解があったこともありますが、障がい者を支援する取り組みを積極的に進めていたところだったので、手話を多くの人に理解してもらうことを目指して制定しました。制定1年を機に、若い世代への手話普及を目指して、手話パフォーマンス甲子園を開始しています。

手話でパフォーマンスするという発想がとても斬新で、学生たちも楽しめそうですね。

あくまでも手話はコミュニケーションの手段であり、パフォーマンスとして見せることはほとんどありませんでした。音楽のリズムに合わせただけの手話では、文字をただ表してるだけになってしまうので、手話パフォーマンス甲子園に参加する生徒たちは、例えば神様にお願いするといった演技も、手話表現だけでなく空を見上げるなど動きを付けたり、手話に強弱をつけるなど工夫することで、伝えたいメッセージや世界観を表現していますね。

継続的な開催を通して、地域ではどのような反響がありますか?

パフォーマンスを機に、地元のイベントで手話パフォーマンスを披露するなど地域でのつながりが生まれてきていると思います。今回3位に入賞したチームは愛媛県からの出場でしたが、愛媛県は手話言語条例がまだ制定されていない唯一の県であることから、制定への願いをテーマにした演技を行い、地元の聴覚障がい者団体などから感謝の声もあったようです。

手話普及に向けて、他にどんな取り組みをされているのですか?

小学校で簡単な手話をまとめた手話ハンドブックの配布や、学校などへ手話を教えに行く手話普及支援員の派遣、企業が開催する手話の学習会や地域のサークル活動、手話検定などの補助金支援、一般向けの手話講座の定期開催などを行っています。今年度からは、小学生を対象にしたクイズ形式の「手話チャレ」という児童用の手話検定をYouTubeで公開しています。

他にも、タブレット端末やスマートフォンを活用した遠隔手話サービスなども行い、窓口に手話通訳する方がいなくてもタブレットやスマートフォンを介してやりとりができるよう取り組んでいます。県庁以外に、出先機関や県立の施設などに配置して、遠隔手話のサポート体制を広げていく予定です。

さらなる理解普及へ。手話と音声でコミュニケーションをよりスムーズに

さらなる理解普及へ。手話と音声でコミュニケーションをよりスムーズに

鳥取県では、手話と音声をリアルタイムでテキストに変換し、画面を通して会話ができる「SureTalk」の実証実験をソフトバンクと連携して行っており、手話パフォーマンス甲子園でも展示されました。

「SureTalk」にはどんな特長があるのでしょうか。

話し言葉の音声データを読み取り、テキスト化するサービスは以前からありますが、タブレットを介して手話をそのまま文字化できるというのは新しい仕組みだと思います。手話を言語化するサービスの実用化や普及に協力したいという思いで、「SureTalk」の実証実験に協力しています。なかなかこういう仕組みはないので、手話パフォーマンス甲子園の会場でも、通りかかった人たちが関心を持っている様子がうかがえました。

実際に使ってみた生徒たちは、どんな様子でしたか?

友達と一緒に挑戦したこともあり、かなり盛り上がっていました。「自分の手話がうまく読み取られてうれしかった」「手話を読み取る仕組みはまだないので、早く実用化してほしい」という声もありました。

今後実用化されれば、市町村の窓口といった場所などで利用できるほか、聴覚障がいの方を採用するときに、働く場面などのコミュニケーションの不安解消など、さまざまなシーンで活用ができるのではないかと思います。

さらなる理解普及へ。手話と音声でコミュニケーションをよりスムーズに
さらなる理解普及へ。手話と音声でコミュニケーションをよりスムーズに

SureTalk

AIに手話を学習させることで、手話と音声の双方でコミュニケーションが取れるウェブツール

最後に、手話のさらなる理解普及に向けて、メッセージをお願いします。

手話パフォーマンス甲子園では、パフォーマンスだけでなく手話自体を認識して関心を持っていただくきっかけになっていると感じています。この大会に出場するために進学する学校を選ぶなど、手話や手話パフォーマンスに本気で取り組む高校生たちも増えてきています。高校生の皆さんの思いに応え、手話をさらに多くの人に理解してもらうためにも、手話言語条例を全国で初めて制定した県として積極的に手話の普及に取り組んでいきたいと思っています。

(掲載日:2022年10月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部