街を歩いているとほぼ必ずといっていいほど目にする矢印の道路標識(=矢印標識)。
正式名称は「指定方向外進入禁止標識」といって、表示板の矢印が示す方向以外の車両と軽車両の進入を禁止するために設けられているものです。矢印が1方向か2方向に分かれているものが一般的ですが、中には道路の形状などによって多方向に分岐したものもあります。
例えばこのような矢印標識。
矢印標識は道路の形状や地理的要因に応じたものが設けられますが、そうした標識はどれもやや独特な形をしています。
現在大学3年生の人見知りんさんはこれらの矢印標識を「異形矢印」と呼び愛好するマニア。全国を回って現在3,000枚以上の異形矢印の写真を集めているのだそう。
目次
今回の案内人
人見知りん@異形矢印の人
静岡県で育つ。道路標識の不思議な魅力に興味を惹かれ、SNS等で道路標識の魅力を発信している。ちょっと変わった指定方向外進行禁止標識の写真を集めたインターネットサイト『道路標識めぐりの旅』を運営している。
今までに地元で撮影した異形矢印たち。今後の静岡市探索でもっと増える予定…。 pic.twitter.com/b4QDi6kMDg
— 人見知りん@異形矢印の人 (@unusuarrows) October 2, 2018
異形矢印とは?
人見知りん「異形矢印とは、いわゆる『指定方向外進行禁止標識』の変種のこと。左の7種類の標識は一般的によく目にする形ですが、私はそれ以外の形をした矢印標識を『異形矢印』と名付けて区別しています。一般的な標識と比べて異形矢印は矢印の数が多かったり、斜め方向にも矢印が伸びたりしているのが特徴です。
今回は、人見知りんさんの案内のもと、「Google マップ(グーグル マップ)」を活用して、都内のユニークな異形矢印を探しに出かけます。ですがその前に何年もかけて集め続けた人見知りんさんの珠玉のコレクションを見てみましょう(異形矢印ランキングより引用、ソフトバンクニュース編集部で一部表記調整)。
一体、どんな意味が…!? 珠玉の異形矢印コレクション4選!
奇形部門第1位「矢印の本数を問わず、より奇怪な形をした異形矢印」
人見知りん「大回転しながら下に2本も生える異形、堂々の第1位です! 右折禁止という単純な事項を伝えたいだけなのに、特殊な道路構造のせいでここまで難解な標識になってしまうとは…(2019年4月 千葉県 市原市)」
シンメトリー部門第1位「左右対称であることを条件に、より美しい異形矢印」
人見知りん「非の打ち所がない三方開花! これぞ美しい道路標識といった感じです。私の異形矢印探索歴の中ではかなり初期に撮影したものですが、美しさでこの標識を超えるものはなかなか見つかりません(2018年10月 静岡県 静岡市)」
急角度部門第1位「とにかく鋭角に曲がる異形矢印」
人見知りん「バイパスの高架下の側道にあります。道路構造上、この「Uターン」みたいな標識が一帯に大量設置されていますが、ここまで急角度な標識は少ないです。軽自動車でないと曲がるのはかなり厳しそうですね。(2019年11月 静岡県 静岡市)」
補助標識部門第1位「異形矢印に付加された補助標識にフィーチャー」
人見知りん「『大型等終日大型等以外の車両二輪・小特・軽車両を除く土曜・日曜・休日を除く7-9 14-17』なんと44文字の圧倒的文量!! 自動車は時速約30kmで通過する道ですから、こんなの判別できるはずがありません。(2019年12月 神奈川県 横浜市)」
ここまで異形矢印のバリエーションがあるとは…。どういう点が異形矢印の魅力だと思いますか?
人見知りん「単純に芸術的ですごくかっこいいな、と。それに異形矢印はどれも個性あふれる形をしています」
人見知りん「例えば、左斜め向きに曲がる矢印ひとつとっても、角度や大きさがそれぞれ違うんです。矢印たちの細かい個性や道幅や交差点の形状に合わせたデザインの妙など語り尽くせない魅力がたくさんあります。道路標識を管轄する地域によってもデザインが異なることがあるなど、“沼”になるポイントがたっぷりです(笑)。私はそんな異形矢印に魅せられて全国を回り、高校1年生から収集を開始して現在では3,000枚以上の写真を撮影しました」
日本でそんなに異形矢印があるんですね!
人見知りん「これは集めた中でも特にお気に入りの撮影写真を印刷したアルバムです。多方向に分かれていて不気味なものや、若葉みたいでかわいいもの、それぞれ変わった特徴があるので見ていて飽きないですね。私は左右対称のものが無駄のないデザインでかっこよくて好みです」
今回は人見知りんさんと東京都内で異形矢印探訪をしますが、普段どのように異形矢印を探しているんですか?
人見知りん「異形矢印は五叉路(ごさろ)や六叉路(ろくさろ)といった複雑な交差点で多く見られる傾向にあります。ですのでまずは『Google マップ』を使って入り組んだ交差点を探し、『Google ストリートビュー』で矢印を確認して現地に向かいます。もちろん歩いていて偶然見つけることもあるのですが、基本的にリサーチをしてから向かいます。東京は入り組んだ道が多いので異形矢印も見つけやすいと思います」
ちなみに都内の異形矢印にはどういう特徴があるのでしょうか?
人見知りん「設置される矢印は現場の道路状況によってそれぞれ異なるため、都内は〇〇の形が多いと一概に言うことは難しいです」
人見知りん「強いて言えば入り組んだ交差点が多いので、上の写真のように多方向に分岐した異形矢印が多く見られるかもしれません。東京は道路工事が多い印象があるため、交差点形状の変化によってその場にある異形矢印も変わってしまう恐れがあります。前にあった矢印が1年後に同じ形で残っているとは限りません。今回はしっかり1枚1枚を目に焼き付けて回りたいですね」
ということで、人見知りんさんから異形矢印の魅力をレクチャーいただきました。それでは「Google マップ」の機能を使いつつ、都内の異形矢印を探しに出かけます。
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Google マップ(グーグル マップ)とは
Google が提供する地図アプリケーション。衛星写真、航空写真、ストリートマップなどを用いて、リアルタイムの交通状況や交通ルート(徒歩、車、公共交通機関など)を確認できる便利なサービスである。
回る場所は東京のシンボルともいえる渋谷、東京屈指の歓楽街である六本木、東京タワーを臨む赤羽橋、品川駅と隣駅の大井町の4つ。初心者でも回りやすい場所を選んでいただきました。
擬態型から双子型まで、東京のシンボル(?)ともいえる渋谷・六本木の異形矢印たち
①(渋谷)にょきっとキノコのように横から生えてる…? 渋谷のチュートリアル的“擬態型”異形矢印
今回の異形矢印探訪は渋谷からスタートします。東京のシンボルともいえる渋谷で有名なのはスクランブル交差点。渋谷は細かく道が枝分かれしているところが多いので異形矢印もたくさんありそうです。
事前に人見知りんさんにリサーチいただき、「Google マップ」にピン留めをしてもらいました。
好きな場所にピン留めして、そこを目的地にできるのが「Google マップ」の便利な点なのだそう。原宿方面に向かう青山通りを目指します。
「これから見る矢印は、初心者が異形矢印に気づくためのチュートリアル的な標識といえるでしょう」と語る人見知りんさん。歩道橋の上から見ることができるのは果たしてどんな異形矢印なのでしょうか…。
一見よく見かける矢印標識のよう。
よく見ると根元からにょきっと棒が生えてきています! これにはどんな魅力が…?
人見知りん「この異形矢印は一見普通に見えますが、よく観察すると標準の矢印標識の根元から副矢印が生えてきています。いわゆる“擬態型”ですね。こうした違いに気づくようになると、異形矢印を見つけるセンスが磨かれていきます」
人見知りん「道路の形を見ると、矢印の示す意味も理解しやすくなります。矢印が示すのは車両と軽車両が進む方向と進入禁止の方向。にょきっと出ている副矢印はクルマが入ってはいけないということを表しているんですね」
人見知りん「その他に付け加えるとすると、車線の右側に設置された同じ異形矢印もユニークです。3車線の道路なので、右車線のクルマも確認できるよう設置しているのだと思われます」
一見普通に見えるものの、よく見ると異形矢印だった渋谷の矢印標識。観察力を磨き、標識が示す意味を理解する上で入門編だといえるでしょう。
Google ライブビュー
標識を探しながらの街歩きには、「Google マップ」から起動できるARナビ機能「Google ライブビュー」が便利。実際の風景を見ながら目的地を見つけ、最適な経路を確認できます。目指す方向や周囲の建築物をARで表示し、進行方向を直感的に示してくれるので、今いる場所が分からなくなったり、「近くまで来たけどどう向かうんだろう?」と悩んだときはぜひ使ってみてくださいね。
②(六本木)六本木交差点はユニークな矢印の宝庫! 世にも珍しい双子のように寄り添う矢印も
次に訪れたのは六本木。駅を降りてすぐ近くの「ROPPONGI」ロゴがある交差点は異形矢印の宝庫なのだそう。人見知りんさんいわく、この交差点だけで11個もの異形矢印があるとのこと。
反対側にもたくさん!
人見知りん「六本木は高架下で道がいくつかに枝分かれしているので、かなり複雑な交差点になっています。そのため異形矢印の数も多くなっているんです。私はクルマにはあまり乗りませんが、初めてこの交差点に来たらどこに進んだらいいか分からなくなると思います」
人見知りん「他にも、この六本木交差点には手で届く高さに異形矢印があります。視認性を高めるために低い位置に設置しているのでしょうか。基本的にクルマ用なので歩行者には関係ないのですが、こうして間近で見るとあらためてほれ直しますね」
たしかにここまで低い位置のものは見たことがないかも…。人見知りんさんはもう1つ紹介したい異形矢印があるとのことで六本木一丁目方面に向かいます。
高架下で異形矢印を3つ見つけました。形はもちろん、なんでもこの設置の仕方がユニークなのだそう。
人見知りん「異形矢印はだいたい同型のものが並ぶことが多いのですが、ここに設置されたものは左右で違う矢印なのがユニークです。左と右に車線があるのでそれぞれに対応させたのだと思われます。団子型に連なるのはよく見かけますが、“ネズミ型”にくっついているのは今まで巡った中でもかなり珍しいです。他にも手前と奥で矢印の角度が異なるのがいいですね。
設置の仕方に注目するとより異形矢印を楽しめそう。高架下を通ることがあれば、どこかに変わった形の矢印がないか探してみるといいかもしれません。
ちなみに3つ並んだ異形矢印の近くにあった別の異形矢印。私には何かのロールプレイングゲームの武器に見えました。
それではいったんお昼休憩タイム。「Google マップ」は経路検索や道案内だけでなく、食べたいメニューを入力するだけでお店を探してくれます。ちょうどハンバーガーが食べたい気分だったので近くのお店を探してみることに。
無事ハンバーガーにありつくことができました。ちなみに人見知りんさんは「こんなにおいしいハンバーガーは初めて食べました」と感動していました。これも「Google マップ」のおかげかも?
お昼休憩を終えて異形矢印探訪は残り2カ所。赤羽橋と大井町を目指します。
後半戦! 1つ見つけたら異形矢印が芋づる式に見つかる赤羽橋と大井町
③(赤羽橋)1個ずつ表情が違う!? 東京タワーを臨む大交差点で異形矢印に囲まれた!
いよいよ後半戦に差し掛かりました。やってきたのは赤羽橋。東京タワーのほど近くです。ここには全方位に異形矢印が設置されていて、全部で9個存在するのだとか。
赤羽橋交差点は4車線に分かれ、分岐する道も多数あるために異形矢印が多く設置されているそう。
例えば、こちらは3方向には行けますが、右には行けないことを示しています。
こちらは別角度から。道路の形状に合わせて矢印の向きや太さが異なっています。
首都高速道路に入る手前に設置された異形矢印。前のものに比べると線が細くなっていますね。方向によってそれぞれ異なる形の標識が設置されているので、微妙な差異を見比べるのが楽しくなります。
人見知りん「異形矢印は1つ見つけると、その場所には複数似通った標識が点在することが多いです。いろんな角度から漏らさず写真に収めるのですが、撮り漏らしがないか、もぐらたたきのように確認するのが大変だけど楽しいです。それぞれの差異に注目し、移動するクルマを見ると異形矢印の役割が分かりやすいと思います。愛知県など大きな交差点が多いエリアだとその分異形矢印を目にする機会が増えるかもしれません」
何度も周囲を確認していた人見知りんさん。顔にも疲れが見えはじめました。それでは最後の異形矢印スポット、大井町へと向かいます!
④(大井町)夜に瞬くロマンティックな“内照型”異形矢印
最後にやってきたのは大井町。昔ながらの商店街や家電量販店、スーパーマーケットがそろった住みやすい街として知られています。
大井町は駅前にバスロータリーがあり、細い道が分岐しています。お目当ての矢印は駅からほど近く。その前に、バスロータリー付近の異形矢印を確認します。
バスロータリーには下に出っ張りがある異形矢印がありました。下の標識でも同じ形状で進入禁止と通行止めが示されています。手を広げて通せんぼしているようでかわいく見えてきますね。
人見知りんさんが最後にオススメする異形矢印スポットへ向かいます。
同じ形の異形矢印が3つ! と思いきやよく見ると少しずつ形が異なっています。
人見知りん「ここには上、左、奥とほぼ同型の異形矢印が3つあります。よく観察すると形が少しずつ違うのですが、微妙な差異にこだわりを感じて好きですね。どれも右には行けないことを示していて、矢印から『絶対に右に行かせないぞ』という強い意志を感じます。右側はバスロータリーなので侵入を防いでいるんですね。強調するためか1つの場所に複数の異形矢印が置いてあることは多くあり、みんなで守っている見た目がかわいいなと」
人見知りん「また、ここは今までに見てきた異形矢印と違う仕掛けがあるんです。異形矢印探訪を締めくくるにふさわしいと思うのですがもうそろそろ見られるかな…?」
だんだん日が傾いて外が暗くなってきました。
あっ! 光った!
人見知りん「大井町にある異形矢印は“内照型”といって、暗くなると内蔵の電灯が光って夜間の視認性を高めます。同様の標識は大井町限定ではなくいろんなところで見ることはできるのですが、ほとんど交通量の多い道路に設置される傾向にあります。大井町の内照型異形矢印は駅からほど近くで確認できるので初心者でも見に来やすい場所です。独特の光り方で色もきれいですし、中に照明があるため標識に厚みがあって迫力があるので好きですね」
夜になると光るなんてロマンティック! 美しいフィナーレを迎えました。
異形矢印に興味を持つと街歩きがもっと楽しくなる
これにて4カ所の異形矢印探訪は終了。
どの異形矢印もそれぞれ個性あふれる姿をしていて、普段何気なく眺めている矢印にもそれぞれ差異があるのだなと気づきました。最後に人見知りんさんから振り返りのコメントをいただきました。
人見知りん「東京都内にはまだまだ異形矢印スポットがありますが、今回は異形矢印を知らない人でも楽しめる4スポットをご紹介しました。今まで見てきたように、矢印ひとつとってもその形は千差万別。もしかしたら今まで普通に通り過ぎていた場所にある矢印標識もよく観察すると異形矢印かもしれません。身近なものを観察して興味を持てると街歩きはもっと楽しくなります。道の数だけ異形矢印はあるので、皆さんもぜひお気に入りのものを見つけてみてほしいです」
「Google マップ」には、その日の行動履歴を地図に示してくれる「タイムライン機能」もあります。終わって家に帰ったあと、自分のタイムラインを見て思い出にひたるのもまた一興ですね。
撮影した異形矢印は「Google Photos(Google フォト)」で保存・共有
Googleが提供する、写真・動画用のクラウドストレージサービス。写真を自動的にバックアップしてくれるのでデータ消失の心配はナシ! その他、撮影した写真を共有アルバムに入れることで、スマホやPCから友人などとすぐに共有ができます。フォルダ別に管理でき、キーワードや被写体で検索できる検索機能も充実。写真の整理も簡単ですよ。
恐らく、ここまで記事を読んだ方は異形矢印に興味を持ったはず。
旅行や街歩きをする際は、ぜひ「Google マップ」を駆使して異形矢印を見つけてみてくださいね!
(掲載日:2022年11月22日)
取材協力・写真提供:人見知りん(異形矢印収集家)
文:神田匠
編集:ヤスダツバサ(Number X)