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絵心ゼロでもうまくなる? 人気漫画家 慎本真さんに学ぶイラスト上達のコツ

絵心ゼロでもうまくなる? 人気漫画家 慎本真さんに学ぶ、イラスト上達のコツ

近年、スマホやタブレットで気軽にイラストを描けるようになったおかげで、SNSなどさまざまなところでデジタルイラストを見る機会が増えました。すてきな作品を見るにつけ、「こんな絵を描いてみたい!」とは思うものの、自分の絵心のなさに悩んでいる、という人は少なくないのでは? そこで今回は、人気漫画家、慎本真さんのご自宅兼仕事場にお邪魔して、絵心ゼロからでもイラストが描けるようになるコツをうかがってきました!

目次

お話を聞いた人

慎本 真(しんもと・しん)さん

慎本 真(しんもと・しん)さん

漫画家。YouTuber。東京工芸大学に在籍中の2009年、『ほほえんで、ミドリ君』が第51回LMGゴールドデビュー賞を受賞し、漫画家デビュー。現在、COMICポラリスにて『推しが我が家にやってきた!』『好きです、となりのお兄ちゃん。』を連載中。初心者向けにイラストの上達法を伝授するYouTubeチャンネルを2020年に開設。登録者数60万人(2023年2月時点)を超える人気を誇る。

人気漫画家に聞く! 絵が下手な人がやりがち “あるある” 3選

実は、慎本さんへの取材前に編集部内で何人かにタブレットで犬のイラストを描いてもらいました。すると、これこそまさに絵心はどこへ行ったのか… という作品が次々と…。

人気漫画家に聞く! 絵が下手な人がやりがち“あるある”3選

これは、犬…? 「とんでもないものを生み出してしまった…」「多分どんな動物を描いても同じになると思う」といった悲鳴が部員たちから聞こえてきます。

恐る恐る、慎本さんにこれらの絵をお見せしてみました。絵が下手な人ってどんな特徴があるんでしょうか?

①完成形をイメージせずに描いてしまう

「絵が苦手な人は、完成形が脳内でイメージできていないまま、絵を描き始めてしまう傾向があると思います。上手な人は、頭の中に “こういう絵を描こう” というイメージが明確に浮かんでいて、それを絵に落とし込んでいくんです」

このようにいきなり頭の輪郭を描き始めるのはNG

このようにいきなり頭の輪郭を描き始めるのはNG

おっしゃる通りです…。私も、ヤギのような犬を描いてしまった「絵心ない編集部員」の1人なのですが、見切り発車で描きながら次の工程を考えていました。上手な人は目指すべき完成形が頭の中にあるんですね。

慎本さん 「プロはたいてい、絵を描く前に資料集めをするのですが、その工程がとても大事です。初心者の方がいきなり写真を参考にするのは難しいので、描きたい雰囲気に近いイラストを資料にするといいですよ。それによって、完成形がよりイメージしやすくなります。もちろん他人のイラストを参考にする場合は、著作権に気をつけてくださいね」

①完成形をイメージせずに描いてしまう

②下描きなしで描いてしまう

慎本さん 「他にもやってしまいがちなのは、下描きなしでいきなり描いてしまうこと。アナログでもデジタルでも、本番を描く前に下描きをして、その上から清書という段取りを踏んでほしいですね」

なるほど。下描きなしでスラスラ描けるのがうまい人だと思っていました…。

慎本さん 「上手な人は、今までたくさん描いてきた経験値があるので、簡単なものや描き慣れているものなら、下描きなしで描けてしまいます。でもそうでないものを描く場合は、うまい人こそ、ぶっつけ本番ではなくて、何度か練習をして描いているものなんですよ」

③対象物を正面や真横から描く

慎本さん 「皆さんが描いてくださった犬もそうですが、モチーフを真正面や真横からの角度で描く人が多い気がします。ハードルが高いと感じるかもしれませんが、実は斜め横で描く方が奥行きが出て、簡単にそれっぽく見せることができるんです」

えっ、そうなんですか! てっきり斜めから描く方が難しいと思っていました。

慎本さん 「左右対称に描くのはかなり難しく、プロでも苦戦するんですよ。もう1つ、下手な人がやりがちなのは、線を全部つなげて描こうとすること。無理に1本の線で描こうとせず、線をいい感じに途切れさせながら描いた方が、上手に見えるんです。一方で、線を何重にも描いてしまう人もいますよね。これも、絵が汚く見えてしまうので、やめた方がいいと思います」

編集部員のイラスト(左)と慎本さんのイラスト(右)を見比べると、確かに編集部の方は、線が全てつながっていたり、重なっていたりする

編集部員のイラスト(左)と慎本さんのイラスト(右)を見比べると、確かに編集部の方は、線が全てつながっていたり、重なっていたりする

慎本さんが挙げる、絵が苦手な人の特徴がほぼ当てはまってしまい、ショックを受ける編集部員たち。こんなレベルの人間でも、うまくなるのでしょうか?

慎本さん 「私がコツを教えますから大丈夫ですよ! 描いてみましょう」

3ステップで誰でも犬が描けるように?! 人気漫画家が教える簡単イラストテクニック

それでは早速、慎本さんに絵がうまく描けるコツを教えていただきましょう。

慎本さん 「皆さんが描いてくださった犬をモチーフに教えていきますね。犬種によって毛並みや骨格が違いますが、今回はどんな犬にも当てはまりそうなポイントを説明したいと思います」

3ステップで誰でも犬が描けるように?! 人気漫画家が教える簡単イラストテクニック

STEP1 紙コップにニンジン? 犬のパーツを見慣れたカタチに落とし込む

慎本さん 「先ほど話したように、下描きもせず輪郭から描き始めるのはNGです。犬がいくつかの丸などの造形から構成されているとイメージして、アタリ(下描き)を描いていきましょう。完成形は、斜め横から見た犬です」

アタリという言葉を初めて聞きました。どのように描けばいいのでしょうか。

慎本さん 「絵描き歌の要領ですね。まずは顔から。1つ丸いボールを描いてみてください。次に、ボールに紙コップ形のものを付けてみましょう。これが顔のベースです。

STEP1 紙コップにニンジン? 犬のパーツを見慣れたカタチに落とし込む

そして、胴体。先がとがったゆで卵を横に寝かせて、ボールの下に置きます。次が足。足がきれいに描けると上手に見えます。前足は、ニンジンみたいな形を2つ描きましょう。後ろ足が一番のポイントですが、先が切れて少し太くなったようなブーメランを2本描きます」

STEP1 紙コップにニンジン? 犬のパーツを見慣れたカタチに落とし込む

おっしゃる通り、足を描くのに苦戦して…。後ろ足の筋肉が盛り上がっている感じがどうしても描けなかったんです。

慎本さん 「犬ってよく見るとものすごくつま先立ちをしているんです。特に踏ん張ったときに、足首兼かかとのような部分が顕著に出てきます。これを描けるか描けないかで、リアリティが違いますよ。そして、耳としっぽ。犬種によって大きく違いますが、例えばトイプードルのような犬種の場合は、唐辛子のような形をくっつけて、耳は反対にした三角形を描きます。これでアタリの完成です!」

慎本さんが用意してくださった、犬を描くためのアタリ図解。絵描き歌のように各パーツを描きやすい身近なものに例えるのがポイント

慎本さんが用意してくださった、犬を描くためのアタリ図解。絵描き歌のように各パーツを描きやすい身近なものに例えるのがポイント

STEP2 毛並みを意識して輪郭を描こう

慎本さん 「次はアタリをもとに、輪郭を描いていきましょう。アタリの線は、本番の線を描く前に薄い色に変えておくと描きやすいです」

この図形が組み合わさった状態から、どう犬に変化するのでしょうか…。

慎本さん 「トイプードルみたいなモコモコした犬にしたかったら、アタリを目安にして、毛並みを表現するためにモコモコの線で描き進めます。ソフトバンクのお父さんみたいな日本犬だったらまっすぐな線ですね。紙コップは突き出ている鼻なので、鼻をイメージして輪郭をとります」

STEP2 毛並みを意識して輪郭を描こう

慎本さんがスラスラとペンを動かすと、あっという間に、図形の組み合わせが犬に見えてきました! すごい!

慎本さん 「これは斜め横から見た絵ですが、もし正面からの絵を描きたくても要領は同じです。正面からの場合、座っているときは、奥の足はほぼ見えてないと思っていただくと、描きやすいと思います」

STEP2 毛並みを意識して輪郭を描こう

STEP2 毛並みを意識して輪郭を描こう

ちなみに犬ではなく猫を描きたい場合は、胴体の卵の部分を、鮭(サケ)の切り身のような形にして、尻尾を長くすると猫っぽくなるそうです。

慎本さん「どんな動物でもパーツの組み合わせはだいたい同じなので、大きさや形を変えれば描くことができます。どんなパーツが組み合わさっているのかを立体的にイメージしてみると、別のポージングも描きやすくなりますよ」

STEP3 影をつけるだけで一気にグレードアップ!

慎本さん 「最後は色塗りです。まずは1色で塗ってみましょう。その上に影をのせると一気に上手に見えるのでおススメです。難しそうに聞こえるかもしれませんが、後ろ足や耳の下など影が出る部分をワントーン暗い色にするだけ。あと足元に影を入れると、全体が引き締まって立体感が出ますよ」

本当ですね! 影をつけると、急に上級者感が増しました。

STEP3 影をつけるだけで一気にグレードアップ!

慎本さんが取材中にさらさらと描いてくださった犬のイラストがこちら。

STEP3 影をつけるだけで一気にグレードアップ!

アタリは同じでも毛並みや耳の形、色などを変えるだけで別の犬種に…!

プロ御用達! デジタルイラストに欠かせない3つのアイテムとは?

デジタルイラストを描く際に、用意した方がいい道具はありますか?

慎本さん 「タブレット、タッチペン、イラストアプリ。この3つは必須ですね。スマホでも描けないことはないのですが、なるべく画面が大きい方がいいので、iPad などのタブレットがおススメです。

また、指ではなくタッチペンで描くと線がガタガタしません。iPad だとApple Pencilが良いと思いますが、他にもいろんな種類があって、100円ショップなどでも購入できますよ。

慎本さん愛用の道具たち。手前にあるのが2本指グローブ

慎本さん愛用の道具たち。手前にあるのが2本指グローブ

イラストアプリは、iPad の場合なら、デフォルトで入っているメモ機能でもイラストが描けます。まずはそれで練習をしてもいいと思いますが、ちゃんと描きたいと思うのなら、お絵かき用のアプリを入れるのがおススメですね。選べるペンやブラシなどの種類がまったく違うので。無料で使えるものもあるので、いろいろ試してみてください」

他に次のようなアイテムもあると重宝するとのこと。

  • タブレットスタンド
  • ペーパーライクフィルム
  • 2本指グローブ

慎本さん 「タブレットはテーブルに直置きするのではなく、タブレットスタンドを使ってなるべく画面を自分の顔と同じ高さにして描きましょう。ペーパーライクフィルムは、タブレットの画面に貼ると、紙に近い質感になり、とても描きやすくなりますよ。

プロ御用達! デジタルイラストに欠かせない3つのアイテムとは?

2本指グローブは装着することで手と画面の摩擦を軽減してくれます。不用意な画面へのタッチによる誤反応も防げる優れもの。どれもオンラインショップなどで購入可能です」

イラストを描くのがもっと楽しくなるグッズ
デジタルイラストがもっと楽しくなるグッズ

タッチペンやタブレットスタンドなど、タブレットでのお絵かきがもっと楽しくなるグッズを、Yahoo!ショッピングでチェックしてみましょう!

ちゃんと上達できた? アドバイスをもとに編集部員がイラストに再挑戦

慎本さんがレクチャーしてくださったさまざまなコツを頭に入れて、絵心ない編集部員たちがあらためて、犬の絵を描いてみました。

左が慎本さんにテクニックを教わる前、右が教わった後のイラスト

左が慎本さんにテクニックを教わる前、右が教わった後のイラスト

左が慎本さんにテクニックを教わる前、右が教わった後のイラスト

まだまだ「上手!」とは言えないものの、最初に描いたものよりはだいぶ犬っぽい特徴が出た絵になったのではないでしょうか。慎本さんにお見せしたところ、立体感が出るようになったとお褒めの言葉をいただきました。

最後に、慎本さんに絵が描けることの魅力やメリットについてうかがってみました。

ちゃんと上達できた? アドバイスをもとに編集部員がイラストに再挑戦

慎本さん 「絵を描く作業って、ものすごく集中して没頭できるものなんです。普通に暮らしていたら、無心になる時間をつくることは難しいですが、絵と向き合っているときは自然と無心になっていて、すごくリフレッシュ効果がありますね」

確かに。描いているとあっという間に時間が過ぎていく感覚がありました。

慎本さん 「それに、年賀状や結婚式のペーパーアイテムなどに、自作の絵を添えてオリジナリティを出せるのも絵が描けるメリットです。私も結婚式のとき、席札にゲスト一人一人の似顔絵を描いたんですよ。とても喜んでもらえました」

慎本さんが直々に似顔絵を描いてくれるだなんて、ぜいたくですね! ちょっとしたメモの横にイラストを添えている人にも憧れます。なかなか言葉では伝わりづらいことを、絵で伝えることもできて、コミュニケーションも豊かになりそうです。

慎本さん 「最近、自分が描いたイラストを使ってスマホケースや、Tシャツ、マグカップなど、簡単にオリジナルグッズを作れるサービスがたくさんできていますよね。そういうものにチャレンジしても楽しいと思います」

絵が描けるようになると、自分の世界が広がりそうですね。

慎本さん 「私が漫画を描き始めた頃は、好きな漫画家さんの模写をひたすらしていました。最初はイマイチでも、描けば描くほど上達していきます。いびつにしか描けなかった丸が、きれいな丸になっていくものです。脳内にあるイメージを、手に伝えてうまく表現するには訓練が必要です。ぜひ、たくさん描いて、自分だけの創作の時間を楽しんでくださいね」

(掲載日:2023年3月2日)
文:佐藤葉月
写真:山﨑悠次
編集:エクスライト

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