政府が「貯蓄から資産形成へ」を呼びかけている昨今、金融リテラシーの重要性が見直されています。金融リテラシーとは、金融や経済に関する知識やその善し悪しを自分で判断できる力のこと。とても大事なことなのに「家庭で詳しく話したり、学校で学ぶ機会がなかった」という大人も少なくないはずです。
そこで、ファイナンシャルプランナーの足立有希子さんに、今から学べる金融リテラシーの基礎知識や、まず始めに取りかかりたい手元の資金を確認する方法について教えていただきました。まずは広く自分のお金に目を向けてみましょう。
目次
- 将来への不安が高まっている今こそ「金融リテラシー」が必要
- まずはここから。給与から差し引かれている「控除」を知ろう
- 支払うだけじゃない!? 実はとても優秀な「社会保険」制度
- 手残りが少ないのはなぜ? 「何に使っているか分からないお金」を計算してみよう
教えてくれた人
ファイナンシャルプランナー 足立 有希子(あだち・ゆきこ)さん
ファイナンシャル・プランニング技能士1級。「有形の資産だけではなく、人とのつながりや信頼関係を大切に」という考え方のもと、子どもやその親に向けた金融教育に力を入れている。現在は、学校での金融授業や雑誌等での監修・執筆のほか、個人の家計相談など幅広く活動中。
将来への不安が高まっている今こそ必要な「金融リテラシー」
そもそもなぜ今、金融リテラシーが重要視されるのでしょうか。主に以下の2点の理由が挙げられます。
- 社会や経済の変化により、貯金だけで資産を守れる状況ではないこと
- 人口バランスの変化や長寿化により、老後資金へ備えが必要なこと
約30年前の1990年代にバブル期が終わるまでは、日本の定期預金の金利は5〜7%ほどあり、貯金をしているだけでもお金が増える状況でした。その後、日本は不況に対応するために低金利政策を取るようになり、定期預金や普通預金の金利が下落。ただ貯金しているだけでは、お金が増えないどころか、現金を引き出すのに1回でも手数料を支払ったら差し引きマイナスです。
「『72の法則』を知っていますか? これは、72を定期預金や普通預金の金利で割ると、お金が2倍になるまでにかかる年数が算出できます。現在の定期預金金利は年0.001%。ということは、72÷0.001%=72,000年。つまり定期預金に預けているだけでは、資産を2倍にするまでに72,000年もかかってしまうことになります」
また、現在の日本は高齢者が非常に多く、平均寿命も伸びてきています。「将来年金がもらえないのでは…」「老後資金はどのくらい蓄えておけば十分なのか…」という不安も感じやすいでしょう。
金融リテラシーがあれば、経済情勢や自身の収入状況が変わったとしても、自分のお金を守り増やしていくことができるようになります。
「お金は生活するために必ず必要なものです。近年は高校の授業に金融リテラシー教育が盛り込まれるようになりましたが、それほど金融リテラシーは大切なもの。さまざまな情報に惑わされず、自分で判断できるようになりましょう!」
まずはここから。給与から差し引かれている「控除」を知ろう
金融リテラシーを身に付けるための基本のキは、まず自分の身の回りのお金の流れを知ること。勤務先から給与を受け取る給与所得者が年に1回もらう「源泉徴収票」を使って、給与やボーナスの内訳を知ることから始めてみましょう。
源泉徴収票には、主に以下のような情報が記載されています。
- 額面収入
- 手取り収入
- 所得税
- 社会保険料など
赤枠の収入(額面収入)欄に目が行ってしまいがちですが、ここで注目したいのは青枠の「源泉徴収税額(所得税)」です。
私たちが支払う所得税は、勤務先からもらった金額である「収入(額面収入)」から、さまざまな控除を差し引いた「手取り収入(給与所得)」を元に算出されます。
つまり、控除という仕組みを上手に活用すれば、課税対象の給与所得を減らせるので、最終的に支払う所得税を減らすことができるんです。つまり手元に残るお金を増やせる可能性が高いのです。
「控除とは、給与などの収入からさまざまな金額を『差し引く』仕組みのことです。年末調整だけではなく、確定申告を行うことで控除されるものもあります」
会社員が利用しやすい控除
給与収入から差し引ける控除のうち、会社員が利用しやすいものは以下の通りです。
年末調整で受けられる控除 | 自分で確定申告をすれば受けられる控除 |
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- ※
旧制度と新制度がある場合、新制度のみ記載しています。
このうち、配偶者控除や扶養控除、生命保険料控除などは、皆さんもすでに使っているかもしれません。新しく利用するなら、iDeCoやふるさと納税がおススメです。
iDeCoは端的にいうと「自分で作る年金」。毎月自分で決めた掛金を積み立てておき、60歳以上の好きなタイミングで一時金もしくは年金として受け取れるという制度です。もしiDeCoの掛金として年間24万円を支払っていたら、その24万円がすべて給与所得から控除でき、節税ができます。詳しくはこちらの記事でも解説しています。
また、ふるさと納税は収入額によって控除できる金額が決まっていますが、例えば5万分寄附をしたら、そのうち4万8,000円分が所得税や住民税から控除可能です。そして納税した地方自治体からお礼の品までもらえるという、二度おいしい制度なのです。
「控除が増えると課税所得が減る分、そこから計算される所得税・住民税の金額が減ります。会社員でも使える控除はしっかりと確定申告をして、賢く節税をしましょう!」
確定申告の期間は、毎年2月16日~3月15日までの1カ月間が原則となっていますが、 払いすぎた税金の還付を受けるための「還付申告」は課税年度の翌年から5年間、通年でいつでも申請ができるため、まだの方もきちんと済ませておきましょう。
支払うだけじゃない!? 実はとても優秀な「社会保険」制度
源泉徴収票を見ると、「税金よりも高い金額の社会保険料を払っていたの!?」と驚く方も多いはず。社会保険料として会社員が支払っているのは、厚生年金保険料や健康保険料、40歳以上を対象とした介護保険料です。
しかし、日本の社会保険制度は非常に優秀だと知っていますか? 意外と知られていないのですが、以下のような手当が受けられます。
健康保険組合から受け取れるもの
高額療養費 | 高額な医療費を払ったとき、一定を超えた金額が戻ってくる |
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傷病手当金 | 病気やけがにより、連続する3日を含む4日以上会社を休んだとき、給与の約3分の2が受け取れる |
出産手当一時金 | 健康保険料を支払っている本人や家族が妊娠4カ月以上で出産したとき、子1人につき42万円が受け取れる |
病気やけがをした場合や万一自分が亡くなった後に備えて、民間の医療保険や生命保険などに加入している人も多いでしょう。しかし社会保険制度もかなり充実しています。十分に活用すれば、医療保険料や生命保険料を減らせるかもしれません。社会保険の制度を知ったうえで、加入している保険を見直してみるとよいでしょう。
年金として受け取れるもの
老齢年金 | 原則65歳以上から受け取れる年金 |
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障害年金 | 病気やけがによって生活や仕事が制限される状況の場合に受け取れる年金 |
遺族年金 | 年金保険料を支払っていた本人が亡くなった場合、残された子や配偶者が受け取れる年金 |
手残りが少ないのはなぜ? 「何に使っているか分からないお金」を計算してみよう
「給与から引かれるお金の内訳と役割を理解したら、次にやってほしいのは、ご自身の家計を把握することです」
現金の他にクレジットカードや電子マネーなどさまざまな支払い手段が増えた今、カードローン、サブスクリプション型のサービスなど、自分が毎月どれだけ支払っているのか管理しにくくなってきています。気付かないうちに支出してしまっている「見えないお金」、皆さんはちゃんと把握できていますか?
下記の表を見ながら、3つのステップで確認してみましょう。
ステップ①年間の手取り収入と貯蓄額を書き出す
- まずは年間の源泉徴収票を元に、年間の収入と所得税・社会保険料・住民税といった支出を書き出す。
- 「年間収入合計(A)」が分かる。
- 通帳の残高などを足し合わせて、昨年の年始と年末の通帳残高などの合計(B・C)をそれぞれ明確にする。
ステップ②年間の支出額を書き出す
- 次に、年間の支出額も計算。家賃や光熱費、通信費などのほか、カードローンや契約中のサブスクリプションなども今一度確認。
- ステップ①で出した「年間収入合計(A)」と「昨年の年始の通帳残高などの合計(B)」を足した額から「年間支出合計(D)」を差し引く。
- 「昨年の年末に残っているはずの金額(E)」が算出。
ステップ③使途不明金を導き出す
- 「昨年の年末に残っているはずの金額(E)」から「昨年の年末の通帳残高などの合計(C)」を引くと、使途不明金が算出される。
金額に差がありませんか? それが、いわゆる「使途不明金」。何に使っているのか分からない金額です。
「この使途不明金はほとんどの人にあり、多い人だと100万円ほどあることも! このお金は無駄に使われている可能性が高いので、まずは3カ月でもいいので支出を記録し、実際に何にお金を使っているのか把握してみましょう。家計の無駄を見直すことにつながりますよ」
今回は、金融リテラシーの基礎を説明しました。ここで明らかにした現在の残高や使途不明金を活用して、お金を育てていく「投資」については、こちらの記事で解説していきます。
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(掲載日:2023年3月23日)
写真:大崎あゆみ
文:金指歩
編集:エクスライト