Perfumeの映像演出などを手掛け、国際的に高い評価を受けているアーティストの真鍋大度(まなべ・だいと)さん。社会で広く普及していない最先端技術の可能性を見いだし、既成概念にとらわれないアート作品を世に出し続けてきた日本を代表するアーティストが、ソフトバンクの最先端技術とコラボした真鍋大度個展「EXPERIMENT」が期間限定で開催されています。
最先端のアートとテクノロジーの実験場となったのは、廃校になった小学校の跡地にある山梨県の芸術文化の複合施設「清春(きよはる)芸術村」。アートと技術、2つがかけ合わさることでどのような可能性が広がるのか… 未来をのぞいてきました!
真鍋大度個展「EXPERIMENT」
最先端のアートとテクノロジーの実験場。超高速通信技術と生命知能の概念を探求する実験、実装を行い、一連の過程をリアルタイムで公開していきます。
会期:2023年4月1日~5月10日
会場:清春芸術村「安藤忠雄 光の美術館」
“空間”に問いかける。デジタルアートで真鍋大度さんが表現するのは…
開催前日の3月最終日、澄み渡る青空にぽかぽか陽気。メディア向けに一足早くお披露目会が開催されたこの日は桜も満開で、清春芸術村にはお花見をしに来ている子ども連れの家族も。
古くから人々に親しまれ、現代社会や未来を生きる人々に問いを提供してきたアートですが、真鍋さんは、日常のささいな現象を注意深く観察し、新しい発見を得られる現象に注目した作品をこれまでも世に打ち出してきました。
冒頭で真鍋さんは、「今回は、自分の興味を作品として発表しました。かなり実験的なことをしていて、作品なのか実験なのか評価ができないようなことにチャレンジしています。
今話題のChatGPTといったAIも、10年、20年前から僕らデジタルアーティストは作品として使ってきました。いずれ今回の作品が『あのとき真鍋大度がやろうとしていたことはこういうことだったんだ』と分かる未来が来ると思う。そんな少し先の未来を想像するような体験になればうれしいです」とコメント。
ソフトバンクの先端技術研究所 所長の湧川隆次は「われわれは通信や最先端技術の研究・開発を日々行っていますが、社会で技術をどう活用していくかが一番の課題と感じています。そこで今回、アーティストである真鍋さんの発想や表現に技術を活用していただきました。真鍋さんの作品創作に協力できたことはとても光栄です」とあいさつしました。
作品の展示が行われているのは、建築家の安藤忠雄氏が設計した自然光のみを利用した「光の美術館」。人工照明は一切なし、差し込む日の光は天気や時間帯によって異なります。
無機質なコンクリートにどこか自然の温かみが感じられるような…、美しい建物ですね。
作品に活用されているソフトバンクの先端技術は「高速通信技術」。少し難しそうなので、ソフトバンクの先端技術研究所に所属する技術担当者に、作品の仕組みを説明してもらいながらアート鑑賞をすることにします。
- 杉村 聡太(すぎむら・そうた)
- 石田 圭利(いしだ・よしかず)
- 今村 俊雄(いまむら・としお)
粘菌が動き出す…!? 来場者と作り上げるインタラクティブアート
真鍋さんが表現するデジタルアート1作目は、来場客の動きに合わせて映像と音がリアルタイムで生成されるインタラクティブな作品です。
モニターに映るのは、コンピューター上で粘菌の動きを模倣したシミュレーション。粘菌は植物でも動物でも菌類でもない独立した生き物とされ、アメーバの仲間とされています。独特な世界観には、周りの環境の違いによって独特な振る舞いをする粘菌の性質が利用されているそうです。
「来場者の動きを感知するセンサーによって取得された情報は、展示会場からソフトバンクのデータセンターのサーバに送られ、レンダリング処理、つまりこのアートが描画されます。数百km離れているデータセンターで生成された映像が展示会場内のスクリーンに投影されています。
サーバ側の処理と大容量の映像データの伝送が超高速で行われるため、まるで会場内全ての処理が行われていると勘違いしてしまうほど滑らかに表現されているんです」
まるで合わせ鏡のよう。遠く離れた空間がつながるフィードバックアート
70インチのモニターとそれに向けられたカメラ、マイクとスピーカーで構成された本作。こちらの作品は、離れた場所同士を光無線技術という超低遅延の通信技術でつなぎ、そこに音と映像のフィードバックを生成することで、これまで不可能だった時間と空間の表現を生み出す実験です。
ディスプレイ上の映像は、前に立っている人の手が映し出されているように見えますが、よく見ると、ディスプレイの右側には人が立っていません。なんだか不思議な空間ですね…。
常に光環境が大きく変化する光の美術館とつながるのは、同じ機材が設置された光環境の変化が少ない長坂コミュニティ・ステーション。2拠点をつなぐ作品の裏側ではソフトバンクの光無線技術が使われていますが、アート作品に活用するのは今回が初めてです。
「2拠点で8K映像の伝送をしているのですが、通常だと膨大なデータの圧縮や送受信に時間がかかるところを、光無線技術を使うことで超低遅延でのフィードバックを可能にしています。また、各拠点に設置されたマイクとスピーカーにより、2つの空間で音が循環していることを体感できます。超低遅延で音を循環させることでそれぞれの空間の音の反響も表現されている、そんな作品になります」
光の美術館のカメラが捉えた映像やマイクで集音した音が、長坂コミュニティ・ステーションのモニターやスピーカーに出力され、その様子を収めたカメラ映像、集音した音声が光の美術館に出力される… という繰り返しのループが、合わせ鏡、音の循環のような不思議な状態を作り出しています。2つの空間が1つの空間で表現されている… なんだか不思議ですね。
「真鍋さんは技術の特性を理解した上で、アートという形で新しい表現をしてくださいました。既成概念を打ち破り続けるアーティストの方とコラボすることで、高速通信技術の新しい可能性を示すことができたと思うので、ぜひ多くの人に体験していただきたいです」
他には現代の常識に訴えかけるようなメッセージ性がある他の作品も。皆さんが個展に訪れたときのお楽しみ… ということで、作品の紹介はここまでにしておきますね。
アートの実験場で、少し先の未来を体験してみませんか?
真鍋大度個展「EXPERIMENT」は、会期中もアップデートが繰り返され、さまざまな実験プロセスが見られるようになるそうです。
本個展は5月10日まで開催中です。アートによって広がる最先端技術の可能性を、ぜひ会場で感じてみてくださいね。
(掲載日:2023年4月21日)
文:ソフトバンクニュース編集部