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孫正義を30年以上取材した作家・井上篤夫氏が伝えたい、現代のビジネスパーソンに必要なマインド

孫正義を30年以上取材した作家・井上篤夫氏が伝えたい、現代のビジネスパーソンに必要なマインド

混迷する世界情勢、低迷を続ける日本経済において、今一度活気を取り戻すために私たちに求められていることは何なのか。「志高く 孫正義正伝」や「孫正義 事業家の精神」などの著者として、30年以上にわたりソフトバンクグループ代表 孫正義を取材し続けてきた作家・井上篤夫氏に話を聞きました。

目次

井上篤夫(いのうえ・あつお)氏

作家。大学在学中に雑誌記者として活動を開始。以来、ビートルズのジョージ・ハリスン氏、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏、CNNのテッド・ターナー氏など、著名人へのインタビューを数多く行う。著書に「フルベッキ伝」(国書刊行会)や「追憶 マリリン・モンロー」(集英社文庫)、「ポリティカル・セックスアピール 米大統領とハリウッド」(新潮新書)、訳書に「今日という日は贈りもの」(角川文庫)など多数。ソフトバンクグループに関連する著書には、「志高く 孫正義正伝 決定版」や「孫正義 世界一をめざせ!」、「事を成す 孫正義の新30年ビジョン」(以上、実業之日本社)、「孫正義 事業家の精神」(日経BP)、「とことん 孫正義物語」(フレーベル館)など。

30年以上の取材を経て記録した、孫正義の流儀とは

長年、孫代表を取材されてきた井上さんからみた孫正義とはどんな人物でしょうか。

ここでは、孫代表を「孫さん」と呼ばせていただきますが、私が初めて孫さんを取材したのは1987年のこと。今年で取材をし続けてきて36年になりますが、出会った時から孫さんが言っていることは何も変わっていないと思います。孫さんは、「とにかく一番になる」と言い続けてきました。いつの時代も、世の中がどんなに不況に陥ろうと、一番は必ず残る。だからこそ一番を目指すことに意味があるのだと。最初は大型コンピューターだったものが、パソコンに移り変わり、インターネット時代が到来し、これからは情報産業が主流になると確信してから今に至るまで、「情報革命で人々を幸せに」することを志に掲げる孫さんの軸は全くブレていません。

孫代表が大切にしていることは何だと思いますか。

「新しいことに挑戦して進化する」という信念ではないでしょうか。
孫さんは、新しいことを猛スピードで学び、それを吸収する能力が誰よりも優れていると思います。進化し続けるテクノロジーに、自分たちも常にキャッチアップしていかなければいけない状況でも、孫さんは一夜にして新しいことを学んでしまう。もしかしたらこれは、学生時代に必死で勉強してきた人の特徴なのかもしれないですね。そして、それを自分の言葉で伝えないと説得力をもたないと考えている人なので、今まで本人が表に出てプレゼンテーションをし続けてきたのだと思っています。

30年以上の取材を経て学んだ、孫正義の流儀とは

孫代表はこれまでどのように逆境を乗り越えてきたと思いますか。

孫さんの座右の銘で「我に艱難辛苦(かんなんしんく)を与え賜え」(戦国武将・山中鹿之助の言葉)というのがあります。大きなことを成し遂げるためには、つらく苦しいことにも望んで立ち向かっていくべきという意味なのですが、この言葉の通り、孫さんはリスクや苦難を逆に楽しんでしまう人だと思います。そして、「負けん気」。孫さんは「父の方がすごい」と言っていましたが(笑)、何か困難があったときの方が燃えるんだと思いますね。

拙者「志高く」でも触れているのですが、孫さんは事業について「ゼロからの出発」(「マイナスからの出発」とも)と言っています。「登る山」は決めたものの、創業当時は苦難の連続でした。その頃と比べれば、今、困難を抱えていたとしても「大した事ない」と言えるところが孫さんの根底にはあると思いますし、今まさに闘志を燃やして突き進んでいるのではないかと想像しています。

孫代表の思考や信念などたくさんお話を聞いてきましたが、私たちが実践できそうなことはありますか。

謙虚さを持つことですね。孫さんは一緒にいて「心地の良い人」なんですよね。それはなぜかというと、分からないことがあると「教えてください」と、素直に相手に聞いてしまうから。相手の懐に入って、お互いが心地良くいるためには、謙虚さが大切だと思っています。
それともう一つは、当たり前ですけど嘘(うそ)をつかないこと。嘘をついてもその時は得しても、結局損をしてしまう。孫さんは「正義(せいぎ)」と言ったりしますけど、決して嘘をつかない人ですね。

そして、孫さんの話し方は分かりやすく説得力がありますよね。私が記憶に残っているのは、2008年7月に日本で初めてiPhoneが発売されたときに、孫さんは私にiPhoneの使い方をすごく丁寧に教えてくれました。指先で画面を拡大したり、操作方法を教えてくれたんです。誰にでも分かりやすく、丁寧に説明をすることは基本的なこととして大事だと思います。

30年以上の取材を経て学んだ、孫正義の流儀とは

30年以上にわたって孫正義とソフトバンクグループの密着取材を続けてきた作家・井上篤夫氏の書籍はこちら

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

激動の幕末から明治期に、日本の近代化に大きな役割を果たしたと言われる人がいます。その名は「ギドー・フルベッキ」。歴史上に名を残す多くの人物たちと交流を重ね、フルベッキなくして日本の近代化はあり得なかったとも言われる人物の生涯を、緻密な取材を経て書籍化した井上さんの最新作「フルベッキ伝」から、彼の人生や功績から今私たちが学べることはあるのでしょうか。

どのような経緯や着眼点からフルベッキを題材に取り上げられたのですか。

「フルベッキ写真」と呼ばれる、本書の主人公でもあるオランダ出身のフルベッキという宣教師を、幕末維新期に活躍した志士たちが囲んで撮影された群像写真があります。その中に、坂本龍馬や西郷隆盛、大隈重信、伊藤博文など名だたる志士たちが勢ぞろいして写っているとされていたのですが、実は長崎にあった洋学校「致遠館」でフルベッキと致遠館の教師と生徒が、国内留学できた岩倉具視の2人の息子を迎え入れた際に撮られた写真であることが明らかになりました。写っているほとんどは名も知れていない人々で、この写真は幕末維新の「志士群像写真」ではないということが分かったのです。

ですが私が思ったのは、「この写真の中央に写っているフルベッキは一体どんな人物だったのだろう」と。彼が重要人物であることは確かだと思いました。
それと同時に、「宣教師として来た人が、なぜ多くの日本人の心を引きつけたのか」、「在日40年、日本で生涯を閉じた彼がなぜ日本のためにそこまで尽くせたのか」というところにもすごく関心を持ちました。取材を進めれば進めるほど、フルベッキという人物の魅力や面白さに引き込まれ、本書が完成するまでに10年以上も歳月がかかってしまいました。

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

緻密な調査によって完成した一冊なのですね。

私の作家としての信条は、誰かのことを書こうと思ったときに、まずその人に会って取材しなくても書けてしまうくらい、徹底的に調べることです。そして大事なのが、「自らの力で何かを成そうとする人」。そこまで調べ尽くした上で私が共感できる人なのか、その人を好きかどうかで書くかを決めています。

フルベッキがどういう人物なのか教えてください。

1859年にキリスト教を布教するために日本にやってきた宣教師で、その当時は布教活動が禁止されていたため英語教師として務め、後に大学南校(現在の東京大学)の教頭や、岩倉使節団への適切な助言、それらの功績によって明治天皇や明治政府に厚遇された近代日本建設の最重要人物とも言える「哲人」です。

調べてみると、幕末から明治時代にかけて彼のもとで学んだ名だたる志士がたくさんいて、例えば、早稲田大学の創設者で総理大臣も務めた大隈重信に、英語と西洋の政治や歴史を教え、三菱グループの創業者である岩崎弥太郎にはビジネスのアドバイスをしたり、総理大臣・高橋是清については、フルベッキのことを「師」と仰ぎ、彼から贈られた「聖書」を終生大切にしていたそうです。

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

フルベッキは、なぜそれほどの功績を残せたのでしょうか。彼の優れた能力はどこにあるとお考えですか。

フルベッキの優れた能力として、コミュニケーション能力と高い語学力があるかと思います。彼の流ちょうな日本語力の背景には、徹底的に日本語を勉強して語学を学んだ努力があります。周囲から日本語を学び、彼を訪ねてくる人には英語と聖書を教える。彼は長崎に住んでいたので、長崎弁などが混じった日本語を話していたことも分かっていて、方言を交えながらユーモアのある説教を行っていたのではないでしょうか。これを彼がすべてを英語で行っていたら全く違っていたでしょう。

ギドー・フリドリン・フルベッキ(1830〜1989)(明治学院歴史資料館所蔵) 「フルベッキ伝」より転載

ギドー・フリドリン・フルベッキ(1830〜1898)
(明治学院歴史資料館所蔵)
「フルベッキ伝」より転載

私はこれまでにさまざまな人をインタビューしてきましたが、「語学力」は非常に大切だと感じています。その人が話す言語を自分できちんと理解するということが大事で、あらゆる場面で通じる語学力の必要さは身を持って感じたことです。

そして、「コミュニケーション能力」というのは話すだけでなく「訊く力」も必要です。先ほどの孫さんの話のように、これを知りたいから相手に訊くというのは大切だと思いますし、その代わりに私はこれを教えてあげられますという武器を持つことも大事で、お互いに「ギブ・アンド・テイク」の関係性を築けるのが理想なのではないかと思います。

井上さんはフルベッキが孫正義と重なるところがあるとおっしゃっていますが、それはどのようなところとお考えですか?

フルベッキも孫さんも日本という国をより良いものに変えていきたいという高い熱量を持っている人。そして、いばらの道を歩んできた人なんですよね。フルベッキは、オランダからアメリカに渡り、コレラに罹り生死を彷徨ったときに宣教師になると誓い、日本にやって来たあとも最初はうまくいかなかった。破格の給料で大学南校の教頭として雇われた時期もありましたが、一度アメリカに戻るも生活苦で日本に戻り、最後はやりたかった宣教師として生涯を終えている。そういう人生のアップダウンにもめげずに志を貫き通すという点は、孫さんにも共通点を感じるものがあります。

人生において、「共感力」と「想像力」を持つことが必要だと思います。明日自分がどうなっているかは誰にも分からないし、いきなりどん底に突き落とされてしまうかもしれない。それでもそこからはい上がって生きていくんだという、精神力が必要だと思っています。原点に戻って考えることが必要で、ハングリー精神を持ち続けるためには「共感力」と「想像力」を持ち合わせることが大事なのではないかと思います。

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

孫代表がその時代にいたら、フルベッキと打ち解けていそうですね(笑)。
最後に、フルベッキや孫正義の伝記を書いてきた井上さんが、今の日本の現状を変えていくために、若者やビジネスパーソンに伝えたいメッセージはありますか。

何かに夢中になってとにかく熱くなる。このようなマインドを持つことは段々と難しくなってきているかもしれませんが、何かにクレイジーになるということはとても大事なことです。小さなことでも、「これ言っても大丈夫かな?」と気にせずに、堂々と手を挙げて発言してもらいたいです。

私は、生きている以上何かを伝えなきゃいけないと思っています。それは自身の存在感ではなく、自分の役割を果たして精いっぱい生きること。それが足跡(そくせき)となって、後世の人が見たときに、この人はこういう生き方をしていたんだっていうことを分かってもらえます。人間それぞれに役割があるわけですから、自分の役割を最大限に果たし、最大限に生きたということを、証しとして後世に伝えていってほしいと思います。

日本の近代化を支えた男・フルベッキから学ぶ「志」

ありがとうございました。

井上篤夫氏の最新作「フルベッキ伝」

井上篤夫氏の最新作「フルベッキ伝」

坂本龍馬や西郷隆盛、高杉晋作をはじめ、明治維新の志士たちが一堂に会して写っているともいわれる「フルベッキ写真」で名高いギドー・フルベッキ。しかしながらフルベッキ本人が果たしてどのような人物であったのか、その詳しい生涯はいまだ謎に包まれたままである。オランダに生まれ、アメリカに渡ったのち、1859年(安政6年)に来日、激動の幕末から明治期に、歴史上に名を残す多くの人物たちと交流を重ね、維新後は岩倉使節団の立案にも携わり、日本の近代化に大きな役割を果たしたその知られざる生涯を、生地であるオランダも含めた、フルベッキゆかりの地での綿密な取材と、新発見・未公開の資料を縦横に駆使して描き出した画期的評伝。

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(掲載日:2023年5月25日)
文:ソフトバンクニュース編集部