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AIにより実現したい刺激的な未来を描くー Findability Sciences株式会社 小齊平康子CEOインタビュー

AIにより実現したい刺激的な未来を描くー Findability Sciences株式会社 小齊平康子CEOインタビュー

ビッグデータ、コグニティブ・コンピューティング、AIによる予測分析サービスを提供する米国のFindability Sciences Inc.(ファインダビリティ・サイエンシス・インク)とソフトバンクが、日本での事業を展開するため2017年に設立した合弁会社であるFindability Sciences株式会社。2023年4月、新CEOに小齊平康子(こさいひら・やすこ)が就任しました。組織トップの視点からの会社や、思い描くビジョンについてインタビューしました。

バックオフィス領域での業務経験を経て、好奇心の塊のようなAIエンジニア集団を率いる立場へ

これまでの経歴を教えてください。

新卒で国内系のコンサルティング会社に入り3年ほどしてからトーマツコンサルティング社(入社当時)に移り、M&Aや企業再建などを担当していました。次第に具体的なプロダクトを持つ事業会社で働きたいと考えるようになり、ファーストリテイリング社へ転職し、内部監査部門でIT監査や海外子会社の業務監査などに従事します。その後、当時RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に力を入れ始めていたソフトバンクに入社し、法人部門へ配属されました。さまざまな業務に関わる中で投資・アライアンスを統括する部門へ異動し、最近ではWeWork Japanの運営にも携わっていました。

監査業務からRPAなどを経て現職ではAI事業と、領域がかなり変化していますね。

もともとRPAやAIの領域に詳しかったわけではないのですが、監査業務をしていた時期からずっと興味を持っていました。大変な作業を簡単にやってくれるものがあるらしい、と。監査では膨大なデータを扱い、当時は手作業で照合・チェックするものが多くありました。ただ監査で行われる形式的なチェック方法では、課題の抽出にも限界があります。せっかく蓄積しているデータを生かし、インサイト(=気づき)を得るには、AIを使うのが最善の方法なのではないかと常々考えていました。

ソフトバンクのRPA部門での事例では、当時企業での導入が盛んだったPepperに、ある企業の店舗の在庫管理情報をRPAで簡易に流し込む仕組みを作って実証実験をしたがことがありました。広い店舗内のどこにお客さまが欲しい商品があるのか、店舗スタッフでも探すのは一苦労です。そこでPepperの頭のカメラで情報を読み込んで、Pepperの胸の画面に在庫有無を示すことで購入につながり、また在庫がない場合はQRコードを表示しEC店に誘導することができました。他の課題もありサービス化には至りませんでしたが、とても楽しい経験でしたね。

WeWork Japanにも関わっていたということですが。

はい、同社では業務プロセスの整理などを担当しました。前職までの経験を生かし法務・経理・財務・人事・営業分野の業務把握と整理の後、国内に約40ある拠点運営のトップを任せてもらうようになりました。顧客対応にあたるフロントエンドの部門をまとめるのは初めてのことでした。100人規模のメンバーを率いて、日々発生するオペレーションの課題に対応したり、中間管理職の方々のありがたみを感じたりと、多くの経験から新しい価値観や視点を学ばせてもらったと思っています。

AIにより実現したい刺激的な未来を描くー Findability Sciences株式会社 小齊平康子CEOインタビュー

いきなり100人規模とは… 。そのような経験があったということは、それほど悩むことなくCEOを引き受けることができたのでしょうか?

実は当初、CEOなのかどうかよく分からなかったんです。WeWork Japanでフロントエンドの仕事の面白さを知ってしまったので、営業部門の責任者を任せてもらえたらありがたいなとは考えていました。それから2023年1月にサンフランシスコに出張する機会があり、Findability Sciences Inc.の創業者 兼 CEOのAnand Mahurkarと面会して、事業の展望などを議論していたところ、突然「じゃあ、いつ(日本法人の)CEO就任のプレスリリースを出そうか?」と言われました。「え、私がCEO!?」 と驚きましたが、そこからとんとん拍子に話が進んでいきました。

CEOになっても、会社に向き合うスタンスはあまり変わらないと感じています。コンサルタント時代から、自身が関与した会社は自分の会社だと思って向き合っており、まずは全般的にチェックをして、それから改善につなげていくというアプローチをしてきました。今回はそのポジションや意思決定のレイヤーが、少し上がっただけと受け止めています。ただ実際にやってみると、権限の範囲が広範にわたることや、自身の決断の重さを改めて認識しました。

CEOの視点から、会社についてどんな印象を持ちましたか?

ソフトバンクが本格的にAI事業に乗り出したのが2016年頃からで、Findability Sciences株式会社はその時期にジョイントベンチャーとして設立されました。ただ当時は、皆さんが期待しているAIへのイメージと、実際にできることの間にギャップがある時期でした。「思ったより、魔法のツールではないんだな」という幻滅期を経て、コロナ禍で仕事の仕方を変えなければならないという共通認識ができたところにAIが合致して、使い方の合意形成ができてきたのがこの2年ほどです。その意味でFindability Sciences株式会社は、市場の期待と技術の乖離に苦労した数年間を経て、今は、まさにこれから、というタイミングだと捉えています。

メンバーは非常に優秀なエンジニア集団で、機械学習だけでなく画像認識も深層探索もツール化できてしまう、開発への好奇心とパッションにあふれている会社です。とても面白いのですが、何でもゼロから作れてしまうが故に、毎回異なる市場やテーマでのプロジェクトに取り組みがちな側面もあります。せっかくの人材を有効に活用するためには自社の強みを理解した戦略や効率性が不可欠ですので、そういった領域に経験がある私から提案をしています。お互いの領域を尊重しつつ補い合うことができ、ちょうどいい関係性なのかなと感じています。

AIにより実現したい刺激的な未来を描くー Findability Sciences株式会社 小齊平康子CEOインタビュー

インド支社を訪問してエンジニアと交流した際の様子
(左から3番目)

SF作家・星新一さんが描くような世界を夢見る。AIという武器を得た戦略家としての挑戦

海外企業とのジョイントベンチャー組織を運営する際、どのようなところに気を配っていますか?

就任前の2月に、インドにある2つの開発拠点を訪問してきました。メンバーはインドがルーツの人がほとんどで、私だけが日本人という顔ぶれです。一口にインドと言っても、宗教も言語もバラバラなので、コミュニケーションは基本的に英語。まさしくダイバーシティの見本のような環境です。会食の場でも「私はいま断食期間なのでこれとこれしか食べられません」というような会話が自然に交わされていました。40人くらいの仲間それぞれがどういうポリシーなのか整理しようと試みたのですが、把握するのが難しく、途中からは「いろいろあって全部いい」というマインドに変わりました。

SF作家・星新一さんが描くような世界を夢見る。AIという武器を得た戦略家としての挑戦

年2回インドで行われる幹部ミーティングにて
(前列左から2番目)

本社のあるボストン、ロサンゼルス、他にインド、ドバイ、日本と、メンバーの活動場所が分散しているため時差はリアルな問題です。コロナ禍前からそういう状況だったので、メンバーはビデオ会議で働くことにとても慣れており、どこか1拠点が打ち合わせに出られなくても、「後で動画を見ればいいよね」という、気楽な感じです。どこで働いてもいいし、カメラがオンでもオフでも全然構わない。それぞれのポリシーややり方に対して、「なんでそうしているの?」などとあえて聞くこともしない。それはもう「スーパーダイバーシティ」ですよね。

また、エンジニアには女性が半数近くと多く、存在感も大きいです。男性・女性に関係なくとても良いコラボレーションでプロジェクトが進んでいます。インドは現在の人口が約14億人といわれており、今後の世界経済をけん引する存在ですが、これから新しい価値観が定義づけられていく中で、日本も学ぶところが多いと思っています。

2023年3月、小齊平氏がソフトバンクを代表して「国連グローバルコンパクト ジェンダー平等 実務者円卓会議」に参加。北南米やヨーロッパからの参加者とともに女性活躍推進について議論し、男性・女性双方がお互いの立場やジェンダー的背景へ理解を深めることの重要性などについて意見を交換しました。

2023年3月、小齊平氏がソフトバンクを代表して「国連グローバルコンパクト ジェンダー平等 実務者円卓会議」に参加

CEOとして新たに決意したことはありますか?

就任を機に自身の適性を見直したところ、自分は戦略型のタイプだと再認識しました。戦略型なのであれば、刺激的な面白い地図を描ける人間になりたいと思い、取り組んでいるところです。お客さまに対しても社員に対しても、長期戦略を示すことで、「なんかその方向性って面白いね」と感じてもらえるとうれしいです。

これまではAIについてもショートスパンでの成果を求められることが多かったと感じます。例えば、喪失の危機にある職人さんの熟練技能をAIで再現しようとしたときに、現時点で職人さんを越えられないから使い物にならないと評価してしまったら、AIへのリプレイスは永遠に実現しません。ですので長期的に、課題に対してどうAIを活用するか、職人技がAIの中できちんと息づくようにするにはどうアップデートすべきか、といったことを考え、また同時に、次々に登場する新しいAI技術を使いこなしていく必要があります。今は世の中の意識が車やインターネットが登場した頃のような、大きな転換期にいると思うので、ビジョンを提示してそこに向かっていきたいと考えています。まさに今がスタート地点ですね。

AI活用に対する強い思いを感じますが、その背景はなんでしょうか?

日々の業務や日常の中で、面倒だなと感じることは多々あると思います。多くの人がそれを正面から乗り越えようとする傍ら、私は「どうにか簡単にできる方法はないのか」と考えてきました。コンサルタントをしていた時期の話になりますが、繁忙期は夜中までデータ分析をすることがあり、頭の回転も少しずつ落ちてくるのを感じましたし、さらにそれを続けたら体調を崩してしまいました。やはり人間が根性や努力でどうにかできることには限界がありますので、可能な部分はAIに任せるべきです。もちろん、決められたことを確実にオペレーションしてくれる人は必要です。ただ、私のように「こうしたら楽になるんじゃない?」と声を上げる存在も一定数必要で、そこから世界が変わっていくのかもしれないと考えています。

また、私は作家の星新一さんの作品が好きで、自分が未来を思い描く際にも影響を受けているような気がしています。彼の描くシニカルでありつつディストピアなイメージの世界観を想像しながら、「この情報とあの技術をクロスしたらこんなことができるのでは」、「今は存在しない技術でも、こういうことができたら面白いだろうな」と、これまで人の手では実現できなかった世界を積極的に言語化していく所存です。

SF作家・星新一さんが描くような世界を夢見る。AIという武器を得た戦略家としての挑戦

これから日本での躍進が楽しみですね。

戦略的に大きな変化が期待されるインダストリーを狙っていくという点では、ライフサイエンスに注目しています。製薬や医療の業界では、例えば病症疾病名や薬剤の名前ひとつをとっても、日本の熟語と英単語での命名ルールには大きな違いがあり、また各国独自のレギュレーションなどから、海外企業が日本に参入するには相応のハードルがあるのです。Findability Sciences株式会社は2017年から日本で自然言語処理に取り組んできた実績があり、日本特有の事情に対応可能なベースがあるため、この強みを生かすべく、現在はそこにフォーカスしているところです。

ソフトバンクとの協力では、選択と集中のカルチャーや営業力に期待しています。法人営業が持つ何千社ものネットワークを生かし、各社へご提案できるのは大きな強みです。固定通信の商材を扱っていた頃から、RPAやセキュリティ商材なども手がけるようになり、お客さまとの付き合い方が変わってきました。そこにAIが加わることで、お客さまのビジネスプロセスをどう変えるかという長期的なアプローチにも力を入れていきたいと考えています。

AIは、人間が根性で繰り返している単純な作業を減らすことができるだけでなく、膨大なデータの中からインサイトを見いだせるのが大きなポテンシャルだと思っています。さらにその先に生成系のAIチャットのように文章の生成や要約してくれるものが出てくるのですが、それらをどう日々の業務や改善につなげていけるか。星新一さんみたいに夢見るスキルを持ちつつ、業務プロセスの再設計のような私の得意領域にも広げていきたいです。

ありがとうございました。

関連情報

Findability Sciences株式会社の新CEOに小齊平康子氏が就任(2023年3月22日 Findability Sciences株式会社)

(掲載日:2023年6月16日)
文:ソフトバンクニュース編集部