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デジタルツインがもたらす自動運転の未来。慶応義塾大学SFCで行われる自動運転バスの実証実験とは

自動運転を通じて、システムと人が協働する社会の実現を。自動運転技術の進化を支えるデジタルツイン

慶應義塾大学SFC研究所(以下「SFC研究所」)とソフトバンク 先端技術研究所は、湘南藤沢キャンパス内を循環する自動運転バスの運行高度化に向けて、デジタルツインを活用した研究開発に共同で取り組んでいます。2025年度に自動運転レベル4(高度運転自動化)での運行を目指すこの自動運転バスの実証実験の様子を取材してきました。

目次

自動運転高度化への鍵は「デジタルツイン」

この実証実験を進めるにあたり鍵となるのが、2022年にSFC研究所とソフトバンクが慶応義塾大学・湘南藤沢キャンパス(以下「SFC」)に設立した「デジタルツイン・キャンパス ラボ」という存在。スタンドアローンで構成された5Gネットワークが構築されたキャンパスで、画像認識や空間センシングを活用して現実空間のあらゆる情報・出来事をデジタル化し、仮想空間で共有します。このようなデジタル空間上に現実空間と全く同じ世界を再現する「デジタルツイン」という技術を活用してさまざまな研究開発が進められており、自動運転バスの運行高度化の実証実験もそのうちの1つです。

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自動運転高度化への鍵は「デジタルツイン」

こちらが、「デジタルツイン・キャンパス ラボ」が開発したデジタルツインプラットフォームで再現したSFC構内の様子。

車載のカメラやセンサー、大学構内に設置されたセンサーで人や車両などを検知
車載のカメラやセンサー、大学構内に設置されたセンサーで人や車両などを検知

車載のカメラやセンサー、大学構内に設置されたセンサーで人や車両などを検知

車載のカメラやセンサーに加え、大学構内を取り囲むように設置された6つのセンサーや、大学周辺の信号機を映したカメラの情報なども取得できるようになりました。これらのデータをどう活用できるかをデジタルツインの中で検証しながら、実際の自動運転の高度化に反映していきます。

自動運転に求められる数々の制御。今回は2つの実証実験を実施

今回の実証実験では、「右折時の対向車検知」と「信号機の灯火予測」という2つの実験を実施しています。デジタルツインプラットフォームから送られるさまざまなデータによって、遠方から対向車が来ているかどうかや信号が変わるタイミングの情報をあらかじめ把握できたり、適切な右折判断や事前に減速の調節ができたりと、自動運転の安全な走行につながります。

(1)右折時の対向車検知
SFC構内には、カーブのある直進車線と右折車線が混在した走行ルートがあります。自動運転を高度化するためには周囲の状況などを把握しておく必要があり、例えば遠くから来る対向車の状況などは、車両に搭載したカメラだけでは検知できません。デジタルツインプラットフォームから情報をもらうことで、人がどのくらいいてどう動いているか、遠方から接近してくる車両はあるかなど、車載カメラやセンサー、目視では確認できない離れた場所の状況をあらかじめ認知できるため、危険を回避するなど自動運転をより高度化することができます。

従来は、運転手が目視で確認して手動で右折を行っていましたが、今回はデジタルツインプラットフォームで再現された他の走行車両や歩行者などの情報を取得し、車両のセンサーでは検知できない遠方からの対向車の有無把握することで、安全が確認できた場合のみ自動で右折する運転に切り替える実験が行われています。

自動運転バス車内のモニターで実際に表示される画面

自動運転バス車内のモニターで表示される画面

(2)信号機の灯火予測
自動運転において、信号機が赤や青に変わるタイミングが分かるのは非常に重要です。例えば、事前に信号が赤に変わることが予測できれば、減速のタイミングを自動で調整して急ブレーキを防ぐことにもつながります。さらに、過去の信号機データを分析して、信号が何秒後に変わるのかも予測ができるようになれば、交差点手前でブレーキを踏まないよう事前に速度調整をするなど、乗り心地の快適さと安全性に寄与することが可能です。

しかし、車両に設置したカメラでは、逆光などが原因でうまく信号機の灯火情報を検知できないこともあります。今回は、SFC周辺の信号機を映したカメラの映像などをもとにAI(人工知能)が信号機の灯火情報を推定し、その情報を自動運転バスに連携する実験を行っています。

SFCの建物にカメラを設置し、信号機の灯火情報を取得

SFCの建物にカメラを設置し、信号機の灯火情報を取得

実際に自動運転バスに乗せてもらいました

実際に自動運転バスに乗せてもらいました

看護医療学部と本館のキャンパス間を結ぶ循環ルートを走行する自動運転バスに実際に乗せてもらいました。走行時間はおよそ10分ほど。自動運転バス内にはモニターが設置されており、デジタルツインプラットフォームから送られてくるバス周辺の状況を確認することができます。

モニター上の歩道を歩く人や植え込みなどが表示される様子を眺めていると、ほどなくSFC構内の右折ポイントに差し掛かりました。「ピコッ」という音とともにモニターには「右折OK」の表示が。対向車を検知しなかったという結果が自動運転バスに送られてきました。このサインを確認した運転手がハンドルから手を離すと、自動的にハンドルが切られ、無事右折に成功しました。今後も精度を100%に高めていくためさらに実験が続けられていきます。

機械と人が協働することで、100歳になっても働ける世界を目指す

大前学(おおまえ・まなぶ)さん

慶應義塾大学 環境情報学部 教授
大前学(おおまえ・まなぶ)さん

ウェブサイト:大前研究室

今回のプロジェクトをソフトバンクと推進する大前学さんに、実証実験の狙いや将来目指す姿についてお話を聞きました。

今後、どのようなステップで実証実験を進めていく予定でしょうか?

「まずは、今回取得できるようになった信号機の情報を運行に生かす予定です。あらかじめ信号が赤になると分かれば、無駄に加速する必要はないですよね。信号の先読みをした上で、より賢く走るために何をやっていくのか考えています。

また、現在デジタルツインプラットフォームやバスに搭載したセンサーなどの情報を全てバスの車内でデータ処理していますが、この処理をオフロード(外部)化して車外で行うための実験も進めていきます。『バス停付近にいる人が、バスを待っているのか、ただ立っているのか』など、カメラで撮影して判断したいことや処理したいデータもたくさんあるので、このような取り組みが自動運転に有効なのか検証していくつもりです。他にも、遠隔監視システムとデジタルツインプラットフォームを組み合わせることでどんな活用方法があるのかも検討する予定です。このプロジェクトは非常に柔軟性が高いので、途中で面白そうなことがあれば随時取り入れて実験していきます」

機械と人が協働することで、100歳になっても働ける世界を目指す

今回の実証実験について、どのような成果が出れば成功だと思われますか?

「人間のやっていること、つまり今ドライバーさんにお願いしていることをデジタルツインプラットフォームに置き換えられるようになれば成功と言えると思います。例えば、車載のセンサーやカメラでまともに検知できるのは約50m、何か物体があるな… だと約100mなので、対向車が高速で突っ込んでこないという保証はなかなか難しく、右折する時の判断はドライバーさんに頼っています。そういうところをデジタルツインで補完して、できることをどんどん増やしていきたいですね」

このプロジェクトで最終的に目指すゴールや、地域や乗客が得られるメリットについて教えてください。

「『ドライバーさんが100歳になっても活躍できる世界』を目指しています。そのために、100%無人運転が可能なシステムを作り、ドライバーさんを助けられるようにしなければなりません。自動運転というと省力化や無人となりがちですが、地域のことを考えるとシステムが人を支え高齢になっても移動できる手段を確保することが重要で、自動運転技術の使いどころはそこにあるんじゃないかと考えています。

そうすることで、ドライバーさんも今まで以上にもっと長く働き続けられるし、地域の中で経済を循環できる。将来、路線が少なくなるなどの懸念も解消されていくのではないかと思います。自動運転の技術が未熟だから人の助けが必要、ではなく、技術を完璧にした上で人との協働が大事だと考えています。

機械と人が協働することで、100歳になっても働ける世界を目指す

今後は、デジタルツインが車と組み合わさることで、どんな機能や価値、利用者にとってのうれしいことが生まれるのか、想像もつかないようなことを発見したいですね。今はまだ、他でも取り組まれている路車協調システムやダイナミックマップの域を出ていないので…。今回のプロジェクトには自動運転以外の全く違う分野の教員や学生も参加していますので、斬新なアイデアが出ることに期待しています」

ありがとうございました! 今後の研究開発がますます楽しみです。

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ソフトバンク
先端技術研究所

(掲載日:2023年6月19日)
文:ソフトバンクニュース編集部