世界トップクラスの治安を誇る日本。それでも警察庁のデータによると、2022年には空き巣などの「侵入窃盗」が年間約37,000件も発生しており、決して安心できる状況ではありません。最近は凶悪な強盗事件が報じられることも増え、「わが家も、もっと防犯対策が必要かも」と感じている人もいるのではないでしょうか。
テクノロジーの進化により防犯対策も進化し、今はIoT技術を活用した「スマート防犯グッズ」も次々と登場しています。そこで今回は、自宅を空き巣から守るための基礎知識とスマート防犯グッズの活用法について、セキュリティの専門家である京師美佳さんにお話を伺いました。
目次
京師美佳(きょうし・みか)さん
百貨店のエレベーターガール、商社の営業職、セキュリティ企業をへて、防犯ガラスメーカーでセキュリティ事業部長、防犯アドバイザーとして活動。2005年に独立、京師美佳セキュア・アーキテクトを設立し、テレビ・新聞・雑誌など多方面で防犯情報を発信中。
- Webサイト:京師美佳セキュア・アーキテクト
- ブログ:美人防犯アドバイザー京師美佳のちょっと役立つ防犯日記♪
- Twitter:@kyoshimika
なくならない空き巣被害。狙われやすいのはどんな家?
まずは「侵入窃盗」の現状について、京師さんに聞いてみました。
「侵入窃盗とは、住居や事務所などの建物に侵入し、金品を盗む犯罪のことです。警察庁が公開している『犯罪統計資料』によると、その認知件数は2003年から20年連続で減少していますが、そのうち住宅をターゲットとした侵入窃盗は、今も年間約16,000件、1日あたり40件以上も発生しています」
「また、侵入窃盗の被害場所は戸建て住宅が全体の3割と最も多く、マンションやアパートを合わせると一般住宅が全体の約4割を占めており、住宅狙いの侵入窃盗が多いことが分かります。侵入手口にはさまざまなものがあり、最も多いのは、住人の留守に侵入する『空き巣』。他にも就寝中を狙う『忍び込み』、住人が居るときに入りこむ『居空き』などがあります。
要注意なのは、在宅中の住人を凶器などで脅して金品を奪う『住宅侵入強盗』が増加していること。もともと振り込め詐欺などの特殊詐欺をはたらいていた犯行グループが凶悪化し、強盗へと手口を変えてきているためです。また、コロナ禍が収束して外出が増えるにつれ、空き巣も増えていくと予想されます。今後はいっそう警戒を強める必要があるでしょう」
狙われやすい家の特徴は?
住宅の空き巣被害は決して他人事ではないということが分かりましたが、中でも「狙われやすい家がある」と京師さん。その特徴を解説していただきました。
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在宅の気配がない
「夜も洗濯物が干しっぱなし、電気が消えたまま。ポストに配達物が貯まっている。このような状況は一目で留守と分かり、通報されるリスクが低いため狙われやすくなります」
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鍵を閉めていない、鍵の故障を放置している
「田舎で鍵を閉める習慣がない地域や、マンションでもオートロックだからと自室の鍵を閉めずに外出し、空き巣被害に遭うケースが多く発生しています」
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住宅の周辺環境の管理がずさん
「ゴミ出しのマナーが悪くゴミが散乱しているマンションやアパート、戸建てでも雑草が伸び放題で庭が散らかっているなど管理されていない家は、空き巣から身の回りに無頓着で、防犯意識も低いとみなされてしまいます」
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住宅が侵入しやすい構造になっている
「建物近くの塀やエアコンの室外機、駐輪場の屋根などは、空き巣が家に入る際の足場となるんです。マンションでは、ベランダの避難幕を通じて横並びの部屋が被害に遭うケースもあります」
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騒音の大きいエリアにある
「幹線道路や線路沿いなど騒音の大きいエリアは、侵入時にガラスを割っても音がかき消されて気づかれないため、狙われやすい傾向にあります」
「空き巣に狙われるのは、実は富裕層宅ばかりではありません。ファミリー宅は貴金属、女性単身マンションは高級ブランド品、男性一人暮らしの部屋でもパソコンやゲーム機器、パスポートなどが窃盗の対象になります。そのため、どんな家も狙わる可能性があると思って対策することが大切です」
空き巣はどこから入ってくる? 侵入させない防犯対策
空き巣被害を防ぐには、空き巣の手口と傾向を知ることが大切です。続いて、空き巣の侵入方法を京師さんに聞きました。
侵入抑止の分かれ目は5分の壁。防犯グッズを活用して守りを強化
「空き巣は窓・玄関などの出入り口から侵入します。そして戸建てでもマンションでも、実は最も多いのが鍵を閉めていない出入り口からの侵入。空き巣にとっては、鍵を壊したり、ガラスを割ったりする手間がないので見つかるリスクも少なく、こんなに好都合なことはありません。
続いて多いのが、窓ガラスを割って侵入する『ガラス破り』。鍵を壊すより、ガラスを割って入るほうが簡単だからです。ガラス破りにもいくつかの手口があります。ドライバーやバールなどでガラスを叩き割る『打ち破り』、鍵周りを小さく破り鍵を外から開ける『こじ破り』、バーナーなどでガラスを熱した後に急冷させヒビを入れる『焼き破り』の3つがあります。中でも、こじ破り、焼き破りは大きな音を立てずに短時間で侵入できるため、空き巣がよく使う手口です」
さらに、空き巣の傾向として押さえておきたいのが、「空き巣は侵入に5分かかると7割があきらめ、10分かかるとほとんどがとあきらめる」というデータです。
「空き巣にとっては時間がかかるほど見つかるリスクが高まり、捕まらないためのタイムリミットが侵入に5分、物色5分の合計10分なのです。つまり、空き巣の侵入に5分耐える防犯対策をすれば、侵入を防ぐ可能性がぐんと高くなります」
窓・玄関からの侵入を防ぐ防犯対策
では具体的に、空き巣の侵入を防ぐにはどんな対策をすればいいでしょうか?
「空き巣の侵入経路は、窓・玄関などの出入り口です。ということは、窓・玄関の防犯を強化すれば侵入されるリスクは低くなります。まずは、誰でもできる基本の防犯対策を徹底することから始めましょう」
窓の防犯ポイント
- 短時間の外出でも鍵を閉める
- 夜は室内の明かりを点ける
- 窓そのものを強化する
「空き巣の多くは戸締りをしていない窓から侵入します。外出時はトイレや浴室などの小さな窓も必ず鍵を閉め、締まりが甘くなった鍵や壊れた鍵は、放置せずに修理しましょう。
夜間も明かりが点いていない家は一目で不在と分かり、狙われやすくなります。設定時刻に点灯・消灯できるタイマー式の照明で上手に在宅を装いましょう。
また、手口で多いのはガラス破り。ポイントは、侵入に時間がかかるようにすることなので、窓にガラスの強度をあげる防犯フィルム、補助錠、防犯ブザーの3点セットを設置し、空き巣をあきらめさせましょう」
「窓(玄関)センサー」で侵入を即座に検知
「不審者が窓や玄関ドアが開けると、即座にスマホにアラート通知してくれるシステム。自宅の異変にいち早く気づくことができます。窓やドアにシールで貼るだけと、取り付けも簡単です。最近は、初期費用がなく気軽に導入できるサブスク型のホームセキュリティサービスもあります。自宅の環境を確認のうえ、お試ししてみるのもよいでしょう」
おすすめの防犯グッズ
玄関の防犯ポイント
- 短時間の外出でも鍵を閉める
- カメラ付きインターホンを設置する
- ワンドア・ツーロックにする
- 鍵をポストなど玄関の周辺に置かない
- 合鍵作成は最低限の本数にする
「『オートロックだから』、『ちょっとの外出だから大丈夫』などの油断は禁物です。オートロックマンションを専門に狙う窃盗団もあれば、実は同じフロアの住人が侵入犯で、ゴミ出しなどちょっと家を空けた隙に被害に遭うケースもあります。わずかな時間の外出でも必ず鍵をかける習慣をつけましょう。
水道や消防の点検、配達員を装う押入り強盗も発生しているため、ドアを開けなくても対応できるよう、インターホンは『カメラ付き』がおすすめです。
玄関ドアに、メインの鍵の他に補助錠をつけるのは防犯対策の基本です。ツーロックにすることで侵入にかかる時間が長くなり、空き巣があきらめやすくなります。
鍵をポストや植木鉢に隠したり、家の中でも玄関に置いたりすると、盗まれるだけでなく、鍵の形状や鍵番号を見られて複製される危険もあります。鍵はキーケースに入れるなどして人目につかない場所に保管し、合鍵の本数が多いほど紛失や複製のリスクが高まるため、むやみに増やさないようにしましょう」
スマホで開け閉めできる「スマートロック」
「スマホアプリなどを使い、遠隔操作でドアの施錠管理ができるシステム。オートロック機能で戸締り忘れを防ぎ、外出先でも鍵の開閉ができるので『鍵閉めたっけ?』というときも安心。ワンタイムパスワードを設定し、一時的に友人などに入室権限を与えることもできます。鍵穴がなく、鍵を持ち歩くこともないので、不正解錠や盗難、複製リスクの低減にも」
おすすめの防犯グッズ
Qrio Lock
「取り付けは両面テープで貼り付けるだけ。賃貸住宅でも使えます。合鍵もスマホアプリで簡単に作成・変更でき、開閉履歴の閲覧も可能。電池残量のお知らせ機能もあり『電池切れで入れない!』ということもありません。ハンズフリー解錠も可能です」
SADIOT LOCK2
「日本三大・鍵メーカー、ユーシン・ショウワとの共同開発品。スマートロックの基本機能を備え、Apple Watchでも解錠・施錠可能。合鍵も20個まで作成できます」
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ドアタイプによっては取り付けできません
SNSの近況報告にもご用心!
楽しい旅行中や近所の行きつけのお店から、SNSに投稿することはありませんか? 実はそんなSNSの投稿も、空き巣はチェックしています。SNSで留守とわかれば、空き巣は安心して入りこむことができるからです。
SNSの写真に写り込んでいる景色や行きつけの店の背景などから、家の住所や最寄り駅を特定することも。防犯のためには、SNSにリアルタイムで投稿しない、生活圏内の写真もできるだけ投稿しないほうが安全です。
威嚇効果のある防犯グッズで下見対策
防犯の基礎知識や防犯グッズを紹介してきましたが、そもそも空き巣に狙われないようにする方法はあるのでしょうか? 京師さんに聞きました。
「空き巣は常に、どうすれば捕まらないかを考えています。そのため『下見』をしてから犯行に及ぶことが少なくありません。事前に周辺を歩き回り、どの家が入りやすいか、どこから入るかを確認するのです。当日に行うこともあれば、2週間前から時間をかけて行うことも。最近は現場に行かず、Google ストリートビューで下見をする例もあります」
どんなところを下見してる?
空き巣が下見の際にどんなところをチェックしているのか、京師さんに解説していただきます。
- 庭木など死角になるものはあるか
「空き巣は死角が多く人目につかない家を好みます。茂った庭木やブロック塀があると周囲の人から気づかれにくく、すぐに隠れられるので空き巣には好都合です」
- 逃げやすいか
「駅やコンビニ・スーパー、公園が近いなど、利便性の高い人気物件は空き巣にも人気なんです。駅に近ければすぐ遠くへ逃げられ、駅周辺の繁華街は人混みにまぎれて下見もしやすいためです」
- 人目が少ないか
「人通りがある、ご近所の人が立ち話をしているなど、目撃されやすい環境を空き巣は嫌います」
実は被害の前兆!? こんなサインに要注意!
- 表札や玄関まわりのマーキング
「ポストや表札、メーターボックスまわりに、文字や付箋、シールなどを見つけたら要注意。空き巣は下見で目をつけた家に、家族構成や留守の時間帯などの情報を記号化したメモを残すことがあります。自分の記録用もしくは犯行仲間と共有するためです。自宅にマーキングがないか定期的にチェックし、もし見つけたら、すぐに消しましょう」
- インターホンや電話をかけてくる
「空き巣は留守を確かめるため、インターホンを鳴らしたり、電話をかけてきたりします。宅配業者や水道、消防の点検を装うこともあります」
- 見た目は普通の格好だが、何度も見かける
「窃盗団や強盗団は黒服など目立つ服装ではなく、スーツや作業着、ごく普通の大学生風など周囲に馴染む格好でうろつきながら、侵入できそうな家を探したり、侵入の隙をうかがったりしています」
侵入者が嫌がる光や音、人目を駆使
「下見対策には“威嚇”も有効です。たとえば、下見の段階で防犯カメラやカメラ付きインターホンがあると分かれば、空き巣は『この家はやめておこう』となります。夜間の侵入者をライトで照らすセンサーライト、窓や玄関からの侵入にブザーで警告する防犯ブザーなども効果的。さらにスマート防犯グッズにも威嚇効果の高いものがあり、組み合わせて使うのもおすすめです。空き巣が嫌がる光や音、人目を駆使して空き巣を追い払いましょう!」
外出先からでも照明を点けられる「スマートライト」
「スマホで操作できる電球、照明です。ON・OFFや明るさ調整を外出先から遠隔操作できます。タイマー機能を使えば設定時刻に点灯・消灯し、留守中でも在宅しているかのように見せることができます。LEDなので省エネなところも嬉しいですね」
おすすめの防犯グッズ
Sengled BluetoothLED電球
「Amazon Alexaなどのアプリから照明を操作できます。スケジュール機能(タイマー設定)により、自動で目覚まし前に点灯したり、就寝後に消灯したりと、在宅中も便利。数々の国際大賞を受賞し、北米やヨーロッパなど世界中で広く利用されています」
アイリスオーヤマ LEDシーリングライト(〜12畳)
「スマートスピーカーやアプリを使い、声やスマホで明かりを操作できる照明です。省エネ大賞を受賞しています」
監視ができて証拠確保にも役立つ「防犯カメラ」
「空き巣が嫌う『人の目』の役割を果たすのが防犯カメラ。空き巣に『見られている』、『撮られている』と分からせるだけでも威嚇効果大なんです。録画機能により証拠確保にも有効ですよ。窓センサーなど他の防犯対策との連携により、防犯効果をより高めることができます」
おすすめの防犯グッズ
グランシールド(Glanshield) Dive-y BOT-AI GS-DVYPTZ-101
「水平355°、垂直回転-80°のパン・チルト機構を搭載し、広い範囲を監視してくれます。AIによる自動追尾ロボを搭載し、動くものを検知すると自動的に追尾して撮影するんです。不審者を検知すると警報音とライト照射で威嚇、スマホに通知します。スマホから『何をしている!』などの声かけ威嚇も可能です」
屋外バッテリーカメラKX-HC300S-H(カメラ単品)
「パナソニック製の防犯カメラ。故障時も対応してもらえます。電池式なのでコンセントのない場所や配線が届かない場所にも設置可能です。不審者を検知するとスマホに通知し、10秒間の録画も開始します。カメラに映った人に向けて、スマホから声かけもできます」
侵入されても被害を最小限に抑える室内用の防犯グッズ
防犯対策をしっかりしていても、侵入を100%防ぐことはできません。万が一、侵入されたときの対策もしておきましょう。おすすめは、スマホで室内の様子を確認できる屋内カメラ。侵入者を検知してスマホに通知するアラート機能や、スマホから不審者に声かけ威嚇できるスピーカー付きのカメラもあります。置くだけ、貼るだけで設置できるものや、価格もリーズナブルなものが多く、取り入れやすいのもうれしいポイントです。
スマホと連携して使えるスマート機能付きの防犯グッズ。最近は、ダウンライトとして使える監視カメラ付きスマートライトやカメラ付き掃除ロボットなど、家電としても使えるスマート防犯グッズも増え、ますます便利になってきています。
「もちろん、便利になるのはとても良いことなのですが、便利=安全ではありません。どんなに利便性やセキュリティ性能に優れたスマート防犯グッズでも、ハッキングや電池切れなど、何かしらのリスクがあることも忘れずに。便利なものを積極的に取り入れながら、それに頼り過ぎることなく、少しでも安全に近づくための防犯意識を持ち続けましょう!」
(掲載日:2023年7月7日)
文:勝部美和子
編集:エクスライト
自宅のセキュリティをレベルアップ!スマート機能付きの防犯グッズをチェックしよう
自宅の防犯対策、日頃から気になっているけど、賃貸だと機器が設置しづらかったり何を選べば良いか分からず導入できずにいる、という方。今回ご紹介した防犯対策やグッズを参考にして、ご自宅に合ったスマート防犯グッズをチェックしてみてくださいね。