電車に乗ったり街を歩いたりするとき、必ずと言っていいほど目にする看板や大型ビジョン、壁面いっぱいのポスター…。このような看板などは総称して「OOH(Out of Home)広告)」や屋外広告と呼ばれています。近年、 “最後のブルーオーシャン” とも呼ばれ注目されるOOHのプラットフォーム事業を手掛けるオーマッチ株式会社の杉山さんに話を聞きました。
目次
見ない日はない? あらゆる場所で目にする「OOH」とは一体どんなもの?
日々の通勤などで見かけるさまざまな広告。皆さんはどんなものを思い浮かべますか? 屋外に設置される広告は、OOH(屋外広告)と呼ばれます。一口に屋外広告と言っても、実はその歴史は古く、初めて歴史に登場したのは約1,300年前となる大宝元(701)年。江戸時代には現代のチラシである「引札(ひきふだ)」が生まれ、明治時代には鉄道広告も開始されました。
現在では、デジタルサイネージ(以下、サイネージ)と呼ばれるモニターが付いた電子看板が普及し、日本全国でさまざま内容の広告や映像コンテンツが放映されるようになりました。このようにいろいろな種類の媒体が登場し、目的に沿うものを選べるようになった反面、設置場所や価格、仕様などの情報が増え複雑化するという課題も。これに着目し、新規事業提案制度「ソフトバンクイノベンチャー」で広告事業「オーマッチ」が生まれました。
不透明なOOHの市場をオープンにしたい。屋外広告のプラットフォーム「オーマッチ」
オーマッチは、約18万件にも及ぶOOHの広告枠や媒体資料をデータベース化したプラットフォーム事業と、広告代理業を行うプランニング事業の2つを展開しています。日本でも数少ないOOHの横断的な検索サービスはどのように生まれたのでしょうか。
お話を聞いた人
オーマッチ株式会社 代表取締役CEO
杉山 憲史(すぎやま・けんじ)さん
2015年ソフトバンク株式会社に新卒入社。家電量販店などでの営業や海外でのフィンテック事業開発を経て、ソフトバンクイノベンチャーを通じ「オーマッチ」を立ち上げ。
なぜ屋外広告という事業領域での起業を決めたのでしょうか?
「理由は大きく2つあります。1つは、OOHの市場がとても不透明であることです。OOHはロングテールで非常にさまざまな種類があるにもかかわらず、価格が不明であったりどの会社が取り扱っているか分からないなど課題も多く、ここの透明化を進めていきたいと考えたからです。
もう1つは、個人情報保護に関する規制が強まり、インターネット広告を取り巻く環境が変化してきたという点です。実際にお客さまからも『インターネット広告の効果が落ちてきたので、別のプロモーションをやりたい』というお話をいただくことが増えているんですよ。まだ競合の少ない今、OOHで事業を仕掛けていきたいというところですね。OOHは市場規模が大きいのにレガシーな業界構造となっているので、ビジネスチャンスとしてはかなり魅力的だと捉えています」
この数年で屋外広告の市場規模は拡大傾向にありますが、なぜ今屋外広告に注目が集まっていると思いますか?
「まずは、DOOH(Digital Out of Home)と呼ばれるデジタルサイネージを活用した屋外広告の急拡大が大きなポイントだと思います。ネットワーク型のサイネージが増え、何万台ものモニターに一斉配信できるようになったことでタクシーやコンビニなどさまざまな場所にサイネージが設置されるようになったんです。あとはSNSとの相性がいいこともありますね。OOHとSNSを連動させたキャンペーンや、スタートアップ企業などではOOHの効果や分析を経営層が自らSNSで語るなど、単に広告を打つだけではなく二次拡散ともいえる現象が起きていることも要因の1つではないでしょうか」
確かにデジタルサイネージはよく見かけるようになりました。では、屋外広告ならではのメリットや良さはどのような点だとお考えですか?
「施設内に設置するサイネージなどでは、ピンポイントにターゲットに訴求できる点が1番のメリットだと思います。例えばショッピングモールの授乳室やスポーツジムなど、特定の属性の人が集まる場所での需要は強くなっていますね。また、スーパーやドラッグストアなどでは、『まとめ買い』や『ついで買い』を狙って店頭サイネージを設置することもあります。お客さんはもともと買い物をしにお店に来ているので、効率がよく効果も高いというわけです」
技術力でOOH業界を変える。業界未経験のメンバーが集まったからこその挑戦
2020年7月、1回目の緊急事態宣言後というコロナ禍のさなかにサービスを開始したオーマッチ。どのように事業を前進させてきたのか、今後の取り組みも合わせてお話しいただきました。
杉山さんはじめ、創業メンバーの皆さんはもともと広告の仕事に携わっていたのでしょうか?
「いえ、全く別ですね。僕は新卒でソフトバンクに入社後、家電量販店で携帯電話を販売していました。そこから新規事業開発を行う部署に異動して、ソフトバンクイノベンチャーでこの事業を始めたという経緯です。あと2人メンバーがいますが、1人はエンジニアで人流データを使った事業開発などに取り組んでいました。もう1人はデザイナーで基地局建設に伴う調査や分析ののち、別の部署で新サービスのUI/UXデザインをしていました」
皆さん全く違う分野からの参画なのですね。オーマッチは広告関係のサービスとしては後発となりますが、他社との差別化ポイントや優位性はどのような点になりますか?
「広告代理業としては後発ですが、OOHを横断的に扱うサービスは今までなかったので、その点では競合がほぼないサービスだと思っています。OOHは、例えば価格表一つ取っても、放映秒数や放映期間、放映回数だけでなく期間割引や追加オプションなどいろんな情報があります。他にも『この場所を通るとGPSで検知して広告が表示される』といった仕様など、媒体ごとに特性がありまとめるのが難しいんです。オーマッチは初期の頃から、媒体の種類を増やしたり人流データなどさまざまなデータと連携することを念頭に置いているので、それに耐えうる拡張性のあるデータベースの設計になっています。これは自分たちで作っているからこそです」
非常に多くの媒体を扱うからこそ、技術力も必要というわけですね。では、杉山さんが現在注目している屋外広告があれば教えてください。
「リテールサイネージですね。コンビニや家電量販店、ドラッグストアなどの領域は非常にホットだと思います。あとはオフィス関係でしょうか。コピー機などの上にサイネージを設置して広告を流すとか、エレベーターなんかでも『IT系のオフィスが入居しているビルだけにこれを流す』といったサービスが出てきています」
今後、広告業界はどのようなトレンドになっていくと思われますか?
「OOHとしては、インターネット広告の高単価化などを背景にいわゆるオフラインの広告が今後スポットライトを浴び、伸びてくると思います。また海外では、決済アプリと連動してサイネージで顔認識したユーザーに広告を配信させるなどの事例もあります。位置情報などのビッグデータや画像認識、AIなどの技術がOOHにどんどん付加価値を与えるといったことが進んでいき、オフラインの広告がオンラインの技術と統合していく流れになるのではないかと考えています。今後、さらにいろいろな媒体が出てくると思いますが、そのときにオーマッチが広告探しの入り口となるようにサービスを成長させていきたいですね」
デジタルと融合して新たな広告が生まれていくということですね。最後に、今後取り組みたいことを教えてください。
「まずは全国に拡大していくことです。現在は1都3県を中心とした展開なのですが、サービスの価値検証ができたので全国の主要都市に拡げていきます。まずは関西エリアから着手していく予定です。もう一つはソフトバンクの事業との連携です。グループ企業各社のリソースを活用して、人流データとの連携や効果の可視化などに取り組んでいきたいと考えています」
ありがとうございました。
広告主とメディアをつなぐOOHのプラットフォーム
オーマッチは、「街と人をつなげる。想いをとどける。」をビジョンに掲げたソフトバンクイノベンチャー発の企業です。テクノロジーとクリエイティブの力で屋外広告をより便利に、そして魅力的に、広告を通じて日本を元気にすることを目指しています。
(掲載日:2024年1月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部