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丸、三角、四角、ハート… 造形心理学の専門家が語る図形と心の関係性

丸、三角、四角、ハート… 造形心理学の専門家が語る図形と心の関係性

◯や△、□、☆、♡…
私たちの身の回りに存在するいろいろな図形。私たちは無意識の内に、それらを見て、感じて、さまざまな情報を受け取っています。

そうした図形を形づくる造形や、造形活動に関わる心の動きを研究しているのが、造形心理学という学問。そこで今回は造形心理学に詳しい専門家に、私たちの日常で当たり前のように起こっている心の動きについてお話を伺いました。

話を聞いた人

武蔵野美術大学造形構想学部教授

荒川 歩(あらかわ・あゆむ)さん

著書に、『造形心理学』(新曜社, 2021)、『<よそおい>の心理学:サバイバル技法としての身体装飾』(北大路書房, 2023)、翻訳に、『アートベース・リサーチ・ハンドブック』(福村出版, 2024)ほか。

雑誌やWebメディアの恋愛コラムで見かける心理テストって本当?

雑誌やWebメディアの恋愛コラムで見かける心理テストって本当?

コンビニや本屋などにあるライフスタイル系雑誌や、ウェブメディアの恋愛・おまけコーナーでたまに見かける「心理テスト」。

  • ◯(丸型)を選んだ人は協調性のあるバランスタイプ
  • □(正方形)を選んだ人は努力家タイプ
  • △(三角形)を選んだ人はリーダーシップを持ったパワフルタイプ

といったように、いかにもそれっぽい回答結果が書かれていますが、その真偽はいかなるものでしょうか。

このような「図形をフックにした心理テスト」をよく見かけるのですが、これは正しいものなのでしょうか?

荒川さん たしかに、その人の持つ認知的な構え(ある特定の事象に対する鋭敏さや鈍感さ)や好みを通して人の感覚は影響を受けます。例えば穏やかな人は□より〇が好きといったような、その人の性格や信念が、形の好みにも影響を与える気がするというのも理解はできます。しかしどのような図形が好きかとパーソナリティの関係はなさそうです。イタリアの心理学者Manippa & Tommasiによる調査(2023)では、〇、△、□のどれが一番自分(別の条件では、親友、他人)のイメージと一致するかを尋ね、それと性格に対する調査との関係を検討しています。すると、自分のイメージとして〇を選ぶ人が多いのですが、例えば、△や□を選んだ人の性格が、〇を選んだ人の性格と違いはありませんでした。

形の象徴性に関する1998年の実験(Oyama,T.,Yamada,H.,&Iwasawa,H. (1998).Symbolic meanings of computer-generated abstract forms. 日本大学心理学研究,19, 4-9.)

形の象徴性に関する1998年の実験(Oyama,T.,Yamada,H.,&Iwasawa,H. (1998).Symbolic meanings of computer-generated abstract forms. 日本大学心理学研究,19, 4-9.)

一方で、それぞれの形について人々の間である程度共通のイメージを持っていることは知られています。古い研究ですが、上記の絵の中で「幸福のイメージ」があるものを実験参加者に選ばせると、日本人107人中、約半数の51人が「a」を選んだという結果が出ています。「不安のイメージ」についてだと、同じく約半数が「g」を選びました。

このように、造形のイメージについてはある程度普遍性があるといえます。文化差の面では国によっても解釈の違いがあり、セルビアだと「a」を幸福とする人は100人中24人しかいませんでした。

このように文化差もありますし、たとえ「直感で選ぶ」といっても、現在の自分が客観的にその図形にふさわしいから選ぶとは限りません。自分にはない憧れで図形を選ぶ人もいれば、もし自分がこういうイメージだったらと不安から選ぶ人や、自分はこういうイメージでなければならないと思っているから選ぶ人もいるでしょう。選ぶ基準にもばらつきもあるので、その辺を全部まとめて「直感で」といっても、あたりはずれがますます大きくなるのだと思います。

なぜ、造形ごとに人は感じ方が変わるのか?

荒川さんがおっしゃるように感覚では理解できましたが、なぜそう感じるのかの言語化が難しいですね。このイメージはどこから来るものなのでしょうか…。

荒川さん これには諸説あります。自然の中でどれくらいその造形が存在していて、それぞれどういう意味を持っているかのイメージが作用しているのではという説があります。つまりそれまでの経験の中でその図形についてのイメージが形成されて、抽象的な意味付けがされるわけですね。

太古、人は自然の中で暮らしていたので、本能的に危機を感じる造形のものには恐怖したり、安全で快い場所の造形には安堵(あんど)したりするのではという「サバンナ仮説」もあります。これは物語としては分かりやすいですが、さまざまな研究において、適用範囲が広くないと考えられています。もしそうなら文化差もそれほどないはずですし…。

たしかにDNAに刻まれているのだという話は理解しやすいですが、それだけで説明するのは難しそうですよね。個人差もあるわけですし。

荒川さん そうですね。そのような個人差が生まれる原因としては、それまで触れてきたモノの印象の積み重ねがあるかもしれません。例えば、ある人が赤色に対して持つ印象は、赤いモノについての感情の積み重ねであり、トマトが好きだからちょっとプラスで、血は怖いから大きくマイナスで… という積み重ねででき上がるというものです。形についてもある程度そういう影響があるかもしれません。

そうした知覚学習の話で言うと、人はある方向についてより強い刺激を求めるという言説があります。例えば情報量の多い絵画や銅像でも顔や胸部など人間の目を引く部分を強調することで、対象から美しさや快さを感じやすいという話があります。その際、どれくらい対象になじみがあるかで、評価が変わります。例えば、目を大きく描くイラストに慣れている人は、そうでない人に比べて、もうちょっと大きくないと美しいと感じにくいかもしれません。そういう鋭敏さの個人差も形の評価に影響しているかもしれません。

人間自体がモノを見て知覚するときに、カメラのように写し取るわけではなく自分の都合のいい見方をしているということですかね。

荒川さん ざっくりそう言えると思います。似顔絵でもその人の特徴をより強調することで、よりその人らしく見えるということがありますよね。芸術面でいうと、写真のように描くのではなく、特定の細部を強調することで作り手が思っている印象をより強く受け手に伝えやすいことがあります。そうした知覚の特徴は造形とイメージを考えるうえで知っておくといいでしょう。

なぜ、造形ごとに人は感じ方が変わるのか?

シュブルール錯視の例(編集部にて作成)

荒川さん 例えば、その最たるものが、輪郭です。この図は、べた塗りの長方形を5枚くっつけたものですが、それぞれの長方形がグラデーションになっているように見えるのではないでしょうか。

たしかにそう見えます…!

荒川さん 例えば「2つの↑の部分」を比べてみると、明るさが違って見えませんか? これは、人の目には、初期の情報処理の段階で、輪郭を強調する仕組みがあるからです。これは脳が全体のバランスを判断して知覚処理をしているためで、そうした脳の各機能が相互作用することで見え方が変わることがあります。

なるほど…。だから、実際には世の中のほとんどのものに輪郭がないのに、イラストのように輪郭だけで表現できたりするんですね。造形心理といえども、脳の情報処理や状況による見え方などで感じ方も変わってくるとは。

荒川さん 知覚には個人差もあるのでそれゆえ難しいですね。また、造形心理学が対象とする造形活動は身の回りのさまざまなモノ全般です。普段の生活でメモをとることも、単なる子どもの落書きも造形活動ですし、見た造形の色や形などを知覚して解釈しようとするのも造形活動の一部です。デザインとアートとの定義も特に明確ではなく、言葉の通りあらゆるものが造形活動なので、厳密ではないぼんやりとした定義ではあります。造形心理学はそうした造形活動を理解しようというところに重きを置いています。

トイレやテーブル… 造形心理学が暮らしに生かされている身近な例は?

日本に限ってみると何か造形に対する価値観の傾向はあるのでしょうか。

荒川さん 日本で独自というわけではないですが、他の国に比べて広く受け入れられているという意味でよく言われるのは、やはり「かわいい」ですね。もともとは、子どもであるが故の未成熟さを連想させるものに対して関与を引き出す感情ですが、その対象が子どもであるかどうかに限らず、さまざまなものに対して感じることが知られています。

これも一般的な認識の話ですが、トイレの表示で、青色が男性、赤色が女性という構造的なステレオタイプ認識がありますね。いつからなのかは明確ではないですが、私たちもなんとなくそういうものと捉えてしまっています。そうした過去にあるイメージを引きずってしまうので、普段目にするデザインや広告表現から刷り込まれている側面はあると思います。

トイレやテーブル… 造形心理学が暮らしに生かされている身近な例は?

トイレの案内表示例

私が勤める大学の構内には、男性が赤色で女性が青色で逆になった表示がありますが、間違える人も時々いるようです。ジェンダーやデザインで必ず女性が赤、男性が青という決まりがあるわけではありませんが、そうした規範は根強くあると思いますね。

過去の規範や、日々接するモノでイメージが刷り込まれている、と。

荒川さん アメリカでいえば、アメリカ文化というものがひとつあるように思われがちですが、民族や宗教など細分化していろいろな文化があるからこそ、個人の個別の体験が共通因子になり得るんです。しかし日本だとある意味みんなが目にするものが規範になっているんだと思います。

なるほど。今は色についてお話をいただきましたが、何か造形面でそれらの印象を効果的に使っている例があれば伺いたいです。

荒川さん知能工学を研究する岡田美智男さんの著書『弱いロボット』のように、西洋のように自立した合理的個人やデザインばかりが重視されるのではなく、協力を引き出すデザインに日本に住む人が注目するのは一つの特徴かもしれません。ファミレスなどで商品を運ぶロボットなども機能面では人に劣りますが、未成熟さをデザインに埋め込むことで、周りの人々を寛容にし、援助を引き出しやすくしているように思います。

もうひとつ、国際会議の机のデザインは例として挙げることができるでしょう。

その会議を協調的な会にしたいとき、できるだけ円になるようにする。そうすると向かい合わず対立構造を作りにくくなるので円滑に進みやすいということがあるそうです。それと同じく、普段の生活だと、会社の面接で面接官と面接を受ける人は机と椅子で向かい合って構造を強調していますね。

トイレやテーブル… 造形心理学が暮らしに生かされている身近な例は?

その他、衣服やアクセサリーなど身につけるモノが心理に与える影響についてはいかがでしょう?

荒川さん 衣服でいえば「衣服化認知」という言葉があります。例えば、白衣を着るだけで着用者の判断がより客観的になるという研究があるんですね。これは、色やデザイン、白衣の社会的イメージなどに根ざしています。身につけることが個人に意味をもたらすことはあるんですが、自身の視点からではそのときどういう形のモノを身に着けているからどう作用したかを判断するのは難しいですよね。

トイレやテーブル… 造形心理学が暮らしに生かされている身近な例は?

とがったピアスを付けているから危なくて怖そうという他人の評価はあるかもしれませんが、自分の心理と他者の心理が一致するわけではありません。

人の心は簡単に図りきれるものではありませんし、それゆえ造形心理学は複数の因子が絡むので一概に言い切りが難しいのです。

生活のすぐそばにある造形を楽しむコツ。例えばスマホだとどう見る…?

造形という視点で心理を捉えたことがなかったので非常に興味深かったです。普段の生活で、造形を観察するコツがあれば教えてください。

荒川さん 身近なモノをまず観察することでしょうか。自分のお気に入りの道具だったり、今手元にあるスマホやイヤホンだったり。そのモノ自体が何のためにあるのか、何を可能にするものなのかを観察してみると、「この形からこういう影響を受けているんだ」と今まで見えなかった創意工夫に気づくことができるかもしれません。

「造形心理学」と「プロダクトデザイン」の2つの視点で言えば、私たちが普段使っているスマホを見てみてもおもしろいです。スマホは人々の動きや使い方を徹底的に研究して、どんな人がどんな持ち方をしても使いやすいように作り上げられたものだと思います。そこで「何か操作しにくい」というものには気づきやすいんですが、うまくいっているものには逆に気づきにくいんです。

生活のすぐそばにある造形を楽しむコツ。たとえばスマホだとどう見る…?

たしかにそうですね…。

荒川さん 上手な設計や、自然に心に入ってくるものに関しては私たちは当たり前に受け止めていますが、実はそれってすごいことです。「こんな設計だから使いやすいんだ」「こういう工夫があるからこう感じるんだ」など、細かなところに気づけるようになれば楽しくなりますよね。それと同時に、同じ設計のモノでも、国や人種、環境や生きてきた文脈の違いなどによって感じ方はさまざまです。だからこそ、自分が造形を見て感じていることが実は他人にとっては全く違うこともある。そうしたことを知っておくとより他者への理解も進むと思います。

人それぞれどのように知覚が異なるか、また認知するに至った背景もさまざまなので互いの歩み寄りが大切ですよね。

荒川さん そうですね。好むコンテンツのジャンルも異なりますし、マーケティングや広告文脈などそういった文化的土壌も見過ごせません。例えば♡(ハート)の形は今でこそ愛とか恋愛で解釈できますが、元々自然界にハートの形があってそう感じていたわけではないですよね。知覚には複数の因子が絡んでいるので明確な定義が難しいのです。

とてもよく理解できました。造形の工夫を見つける勘所が磨かれていけば、いろんなモノに触れる度に楽しい発見がどんどん生まれていきそうですね。

荒川さん 造形心理学は、身の回りのモノの解釈の幅を提供するというのがひとつの役割なのかなと考えています。造形心理学という名前からすると物理的なモノと思われがちですが、心理的な解釈を大切にすることで自分の感性と、造形による心の動きを相対化できます。そうすることでより思考の幅も広がっていきますので、日頃の生活でより新たな発見も生まれるはずです。

さて、発見といえば、最初、心理テストなどといった占いの話がきっかけでしたね。こういう占いで重要なのは、自分の普段意識していないさまざまな側面を発見することだと思います。「努力家タイプ」と言われ、普段意識していない自分の努力家としての可能性を考えることで、振る舞いが変わっていくかもしれません。使いようによっては自分を拡張できる楽しい機会として利用できる人も多いのだと思います。

そうした意味で、占いは非科学的だからダメというわけではなく、こういうものがなくなると失うものが大きい人もいる。人には多かれ少なかれ、どの側面もあるわけですから、その情報をうまく使いこなせるか次第かなと思います。ちなみに、私はうまく使いこなす能力がなくって、引きずってしまうので占いは見ません(笑)

以上、武蔵野美術大学の荒川歩さんに造形心理学についてお話を伺いました。いま皆さんの手元にあるスマホだけでなく、身の回りにあるモノをじっくり観察してみると何か発見が見つかるかもしれません!

(掲載日:2024年1月25日)
取材協力・写真提供:荒川歩
文:神田匠
編集:ヤスダツバサ(Number X)

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