健康寿命の鍵として、昨今注目されているフレイル。対策には「運動」「栄養」に加え、「社会参加」が有効とされています。シニアの社会参加の機会を、学生による多世代交流型スマホ教室という新しいカタチで生み出した、埼玉県ふじみ野市と文京学院大学、ソフトバンクの産学官連携の取り組みを紹介します。
ウォーキングに加え多世代交流の機会創出でフレイル対策へつなげたい
加齢により心身が老い衰えた状態であるフレイルは、ウォーキングなど運動の習慣化で対策や改善が期待できるとされています。ソフトバンクは、このフレイル対策に向けた取り組みとして、ウォーキングの習慣化を応援するスマホ向けのアプリ「うごくま」を活用した実証実験を、2022年から埼玉県のふじみ野市などと連携して行っています。実証実験では、フレイル対策「うごくま」の使い方やスマホの基本的な操作を学べるスマホ教室やウォーキングイベントを開催するなど、安心して「うごくま」をご利用いただけるようにサポートしてきました。
フレイル対策に重要な要素には、「運動」のほかに「栄養」や「社会参加」が挙げられます。そこでソフトバンクとふじみ野市は2023年度、新しい取り組みとして文京学院大学とも連携し、シニアと学生がふれあう多世代交流型のスマホ教室を複数回実施しました。
シニアのスマホにまつわる困りごと解決を文京学院大学の学生がサポート
今回のスマホ教室は、文京学院大学 人間学部・保健医療技術学部で福祉を学ぶ学生が講師になって、シニアのお困りごとを解決しようというもの。以下が、スマホに関する操作や言葉でシニアがとまどうことが多いことです。
スマホに関する操作や言葉でシニアがとまどうことが多いこと
- 通知の概念
- 通知そのものが分からない
- たまってしまったときの削除方法が分からない
- スマホの調子が悪いときの再起動
- 購入してから電源を消したことがない (スリープ = 電源オフの認識)
- 再起動をするだけで直る可能性があることを知らないので、「壊れた」または「挙動がおかしい」と思ってしまう
このお困りごとに対し、シニアへいかに分かりやすく説明して解決してもらえるか、学生たちが授業で検討しながら手作りした資料を使って説明しました。
例えば、通知とは何なのかや、確認や削除の方法、さらには通知を来ないようにする操作方法などを、イラストを使って丁寧に説明。シニアがあまり意識したことがないとされるスマホの再起動についても、どのようなときに再起動するのかや、やり方を紹介。参加者は実際に自分のスマホを使いながら理解していきました。
通常のスマホ教室では講師1名が講義形式で説明をしますが、今回の教室では参加者20名を4人ずつの5グループに分け、それぞれのグループに学生2名がサポートに入ります。分からないことが出てきた参加者は、その場ですぐに隣にいる学生に質問しながら受講を進めていました。


「うごくま」体験では、フレイルについて学んだ後、実際にインストールして操作を体験。
「うごくま」アプリを監修した筑波大学の山田実教授からの動画メッセージでは、健康長寿のためには「運動」「栄養」「社会参加」の3つの要素が極めて重要であり、アプリを通じて健康長寿を目指してくださいとのエールが送られ、参加者は真剣に聞き入っていました。
参加者からは、スマホ教室全体を通して学生が親切に教えてくれたと感謝のコメントが多く寄せられました。
産学官がタッグを組み、シニアの健康長寿の一助へ
スマホの基本操作を学べるというスマホ教室の基本機能に、若者とのコミュニティ形成の機会が加わった今回の多世代交流型のスマホ教室。ふじみ野市や文京学院大学と連携した今回の取り組みを推進した担当者に、取り組みの背景などを聞きました。
ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 プロダクト本部 UX企画統括部 UX企画1部 企画2課
治田 侑大(はった・ゆうだい)
「うごくま」の自治体連携企画の推進、コメント/生活チェックの機能検討を担当
どのような経緯で文京学院大学と連携できることになったのでしょうか?
多世代交流の形としてボランティアとの協業施策をふじみ野市に提案した際、同時期にボランティアの施策を検討されていた文京学院大学 人間学部 人間福祉学科の梶原隆之教授をご紹介いただき、産学官で連携する運びになりました。梶原教授は専門分野がボランティアで、福祉とビジネスをつなげる場を追求されています。福祉系の勉強をしている学生たちが、ソフトバンク側から提供された「シニアがスマホでとまどいがちなお困りごと」を講座の課題として、授業で説明内容を検討・作成し、シニアに直接伝えるという形で社会貢献学習を実践する場となりました。
文京学院大学、ふじみ野市、ソフトバンクの3者が連携した今回の取り組みは、3者それぞれの目的がうまくかみ合ったものだったのですね。
はい。フレイル対策の啓発に取り組むふじみ野市がベースとなり、大学側は福祉とビジネスをつなげる場と生徒には実践の場に、ソフトバンクとしては、既存のスマホ教室だけでなく、新しい形での持続的な高齢者支援の創出を目的にしています。3者がwin-win-winの関係性を構築することで、社会課題の解決にもつながるものと考えています。
スマホ教室を開催してみて、学生の皆さんの感想はいかがでしたか?
お礼を直接学生に伝える参加者も多く「皆さんが喜んでいる姿がうれしかった」という感想がとても多かったです。座学で得られる学び以上のものが生み出せたのではないかと思っています。説明の難しさも痛感されていて、「インストール」や「アップデート」などのカタカナや英語は伝わりにくいので、分かりやすく言い換える作業に苦戦しながら挑戦している姿も印象的でした。
梶原教授は今回の取り組みをどのように振り返っていますか?
学生によるスマホ教室は2023年度、ブラッシュアップしながら2回開催できました。学生たちがシニア世代と触れ合う機会が減少している中、座学で学んだ内容を実践できる貴重な機会になったとおっしゃっていました。今後へ向けては、福祉をビジネスで生かす学修の場として定着させていきたいということと、シニアのフレイル対策のために、社会参加の面でも研究を進めていきたいとコメントをいただきましたので、3者で引き続き連携していきたいと思っています。
取り組みを振り返って、今の思いを聞かせてください。
最初に連携を始めたふじみ野市からも、スマホ教室はシニアからのニーズや関心が非常に高いことに加え、地域の学生との交流ができたという点で喜ばれています。最初はわれわれが講師をしている様子を文京学院大学の学生に見学してもらうところから始め、その後は学生主体をテーマに梶原教授のカリキュラムに組み込んでいただき、学生が検討を重ねて講座内容を形作っていきました。講座内容は回を重ねるごとに進化していき、参加者からの満足度も高いスマホ教室になったと実感しています。
今後について具体的な予定はまだありませんが、展望としては、一時的なものではなく長期的な取り組みとして、学生の研究、うごくまの効果検証などもあわせて実施できるような仕組みを構築できればと考えています。最終的には、ウォーキングと多世代交流という面から健康寿命の延伸という社会課題の解決に貢献していきたいです。
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した取り組みは、SDGsの目標「1、3、4、8、9、10、11」に対し、「人・情報をつなぎ新しい感動を創出」することで、SDGsの達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。
(掲載日:2024年1月25日)
文:ソフトバンクニュース編集部