「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」というコンセプトを掲げ、SDGsの実現に向けて取り組んでいるソフトバンク。「SoftBank SDGs Actions」では、いま実際に行われている取り組みを、担当者自らの言葉で紹介します。32回目は、小売り業や飲食業を中心に展開する、来店客数や売り上げを高精度に予測するAI需要予測サービス「サキミル」の取り組みです。
ソフトバンク株式会社 次世代戦略本部 第三戦略企画統括部 第1部 推進課
羽田 司(はた・つかさ)
2009年にソフトバンク入社。次世代戦略本部の第三戦略企画統括部の課長として「サキミル」のプロジェクトを主導する。
属人的な経験や勘に頼らない安定した需要予測が可能に
「サキミル」は、来店客数や売り上げを高精度に予測するAI需要予測サービスです。ソフトバンクの基地局データをもとにした「人流統計データ※」と、共創パートナーである日本気象協会様の「気象データ」、そして小売りや飲食店の「店舗データ」を組み合わせ、独自のアルゴリズムで処理することによって、来店客数などの需要予測を行っています。
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人流統計データは個人を特定されないよう匿名化および統計加工したのち、少人数のデータは秘匿処理を行った安全な統計データです。
安定した需要の予測によって、発注業務やシフト計画の効率化、食品ロス削減、人手不足の解消といった社会課題の解決に貢献することができています。
これまで多くの小売りや飲食店では、担当者の経験や勘に頼った、いわゆる属人的な需要予測が行われていました。スキルにばらつきがある分、どうしても予測の精度が安定せず、結果として廃棄や欠品が発生しやすい状況でした。
AIによる需要予測によって、感覚に頼っていた部分にきちんと根拠が示せるようになり、若手の育成や異動時の引き継ぎもスムーズに進められるようになりました。さらに、精度の高い予測ができることで、無駄な在庫や売れ残りが減り、値引き率の削減や総労働時間、残業時間の削減にもつながっています。
日本気象協会様とタッグを組み、詳細な気象データを活用していますが、来店客数や売り上げには気象が密接に影響しています。あるお客さまの一例ではありますが、郊外のロードサイド型の店舗では雨の日に来客数が減少する傾向がありました。一方で、駅近の都市型店舗では、逆に雨の日に来客数が増えるケースもあり、気象と売り上げの間には明確な関連が見られました。

気象は単に晴れ・雨といった情報だけでなく、気温や降水量なども関係しています。実際に、雨の日の予測精度が安定しなかったお客さまが「サキミル」の詳細な気象データを重ねて需要を算出したことで予測が安定し、降水量が予測に深く影響していることが分かりました。また、AIによる予測モデルの自動化機能を取り入れているため、効率化だけでなく低コストでの提供もできており、安定性と再現性に優れています。
サプライチェーン全体での食品ロス削減に貢献
来店需要予測からスタートしたサキミルは、お客さまのさらなる課題解決を目指し、食品・飲食業における他の業務フェーズにも取り組みを広げています。
今年の1月に「食品産業もったいない大賞」を受賞したバローホールディングス様と中部フーズ様との取り組みでは、スーパーマーケットの総菜部門の運営を担う中部フーズ様と連携し、惣菜の製造から販売まで一体となったサプライチェーン全体の最適化を通じて食品ロスの削減に貢献しました。
店舗と工場の間で発注を行う際は、在庫状況や天候などを踏まえて適正に発注するために、発注のリードタイムが短くなっていましたが、工場側では仕込みに日数を要する商品もあり、見込みでの生産を行わざるを得ない状況でした。そのため、実際の発注量と差分があった際には、仕掛かり中の原材料が余ってしまったり、急な追加生産によって、物流や人員に負担がかかるという課題が発生していました。
4社協力のもと、「サキミル」を活用したAI自動発注を用いてスーパーマーケットバローの31店舗で検証を行ったところ、食品廃棄ロス18%削減、欠品19%削減 、発注作業時間27%削減という成果に加え、売り上げ2.3%増加、利益4.9%増加などの効果を確認しました。
店舗では商品の発注量が適正化されたことで、欠品率の改善による売り上げ向上と廃棄削減による利益増加の両立を実現しました。さらに、事前に適正な発注量を把握することができるようになったことで、発注のリードタイムを延ばすことが可能となり、工場側では見込み生産や緊急対応が減少しました。それにより店舗と工場の双方にメリットのある、期待を上回る成果が得られました。
現場の声をサービスに反映し、お客さまと一緒に社会課題を解決
「サキミル」は現場の声を大切にしながら、日本気象協会様と連携して、実際に店舗に足を運び、ヒアリングやアンケートを重ねています。サービスをローンチした当初は、主に店舗向けに来店客数の予測を提供することが中心でした。ただ最近では、需要予測に加えて、発注業務やシフトの最適化といった、より実務に踏み込んだ活用をご要望いただくケースが増えてきたと感じています。
また、店舗だけにとどまらず、卸業者さまや製造業さまなど、サプライチェーン全体の最適化に向けて、需要予測のご相談をいただく機会も増えてきています。導入前からお客さまと一緒に「どの業務に組み込むか」「どう現場に浸透させるか」といった点まで丁寧に話し、導入後の活用イメージをしっかり持たせることができたことが、スムーズな活用につながっていると考えています。

最近では、14日間だった予測期間を60日間まで延長する「長期予測機能」をリリースしました。これは、お客さまから「販促活動やシフト計画に活用するには、14日では足りない」といった声をいただいたことがきっかけです。また、時間帯別予測機能のリリースも予定しています。特に飲食業などでは、ランチとディナーで来客数が変化することもあるため、時間帯ごとの予測ニーズにも対応していく予定です。
今後は、店舗のDXをさらに加速させるために、シフト管理や販促施策への展開に加え、他の店舗業務の最適化まで、提案の領域を広げていきたいと考えています。あわせて、今回の取り組みを通じて、製造業の皆さまをはじめとした他のプレイヤーともデータを連携し、サプライチェーン全体の最適化を目指していきます。これにより、CO₂排出量の削減や人手不足の解消といった、業界全体が抱える課題の解決にも貢献していきたいと考えています。
ソフトバンクのサステナビリティ
今回紹介した内容は、「DXによる社会・産業の構築」に貢献することで、SDGsの目標「1、2、3、8、9、11、17」の達成と社会課題解決を目指す取り組みの一つです。
(掲載日:2025年6月18日)
文:ソフトバンクニュース編集部
人流・気象データを活用したAI需要予測サービス「サキミル」

店舗データ・商圏の人流データ・気象データを活用し、来店客数をAIで予測。小売り店や飲食店などの在庫最適化を支援し、食品ロスや機会損失の削減に貢献します。