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イチゴやマダイを本気で科学したら・・・? 大橋未歩が迫る、農業&漁業DXの最前線

イチゴやマダイを本気で科学したら・・・? 大橋未歩が迫る、農業&漁業DXの最前線 イチゴやマダイを本気で科学したら・・・? 大橋未歩が迫る、農業&漁業DXの最前線

世界的な人口増加や温暖化による生物資源の枯渇。
また日本では農業従事者の高齢化など、農業や漁業をはじめとする「食」を支える産業は、さまざまな社会課題を抱えています。
ニューヨークに拠点を移し、日本と違う「食文化」を感じている大橋未歩さんが、ソフトバンクが行っている取り組みに迫ります。

PROFILE

  • 大橋 未歩
    OHASHI MIHO

    フリーアナウンサー

    1978年兵庫県生まれ。上智大学卒業後、2002年にテレビ東京に入社し、多くのレギュラー番組で活躍。2013年に脳梗塞を発症後、約8カ月の療養を経て復帰。15年間勤めたテレビ東京を退社し、2018年にフリーアナウンサーに転身。2023年アメリカ・ニューヨークに移住。日米を行き来しながら、テレビ、ラジオ、イベントなど幅広く活躍中。

アメリカ生活で感じる、日本食の可能性と課題

アメリカ生活で感じる、日本食の可能性と課題

現在、食をめぐるさまざまな課題があります。大橋さんが特に関心を持たれているトピックを教えてください。

大橋

世界的には人口増加や温暖化による食料資源の枯渇などもありますが、ちょうど今は、日本の農業従事者の高齢化や人手不足への関心があります。
というのも、2023年からニューヨークで生活を始め、改めて日本の食文化の価値を痛感する毎日だからです。

こちらでは日本食が「クール、ヘルシー、おいしい」と、とても人気があります。行列店をチェックしてみてみると、日本食店だったということもよくありますね。
食は直感的なものなので、自分たちが感じているおいしさが、他の国でも受け入れられているのはうれしいですね。

ですから、そんな日本の食を支える農業や漁業といった第一次産業に携わる方々は、日本の宝だと尊敬の念があります。
そんな貴重な財産を決して絶やしてはいけないし、より活発化させ、みんなで応援していく環境作りが、とても大事なのではないかと思います。

海外で生活されて、あらためて日本食の魅力を感じられたんですね。逆に、現地の食についてはどのような印象を持たれましたか?

大橋

スーパーには、ヴィーガン食品や牛乳の代替品などが数多く並んでいます。
植物性ミルクの中でも、オーツミルクやアーモンドミルクなど、豊富な選択肢がありますね。
食の多様性と同時に、サステナブルへの意識が浸透しているのも感じます。
例えば、レストランでも持ち帰り用のパックがあるのは当たり前。
食べ物を残すことに罪悪感があるので、日本でもぜひ取り入れたい習慣だと思いました。

テクノロジーの力で農業・漁業を変える

農業や漁業の従事者が減少する中、作業における省力・軽労化・効率化が不可避な重要課題であり、新規就業者の確保や技術力の継承への期待が高まっています。
ソフトバンクでは、AIやデータなどの最新テクノロジーを活用して、スマート農業、スマート漁業(養殖)の取り組みを推進しています。

これらの取り組みについて、ソフトバンクの担当社員も交えて、深掘りしていきます。

スマート農業 「e-kakashi」を担当

ソフトバンク株式会社 プロダクト技術本部 事業企画推進部 担当部長 兼 e-kakashi事業責任者

戸上 崇(とがみ たかし)

スマート漁業(養殖)の研究開発を担当

ソフトバンク株式会社 IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 室長

須田 和人(すだ かずと)

大橋

通信インフラを支えるソフトバンクが、農業や漁業のDX化に取り組んでいるのが何より驚きでした。
なぜ、このような取り組みが推進されることになったのでしょうか?

戸上

e-kakashiは、2009年ごろに着想されたのですが、当時は農業現場で利用できるIT機器がほぼなかったと思います。
そのため、ソフトバンクが培ってきた知見・テクノロジーを活用し、作物や現場のデータを収集して分析する機能が提供できれば、農業界に貢献できるのではないかと。
その思いから新規事業提案制度に応募、採択されたことがきっかけとなっています。

e-kakashi(イーカカシ)

IoTセンサーを活用して田畑やビニールハウスなど屋内外の農地から収集した環境データを、植物科学の知見を取り入れたAI(人工知能)で分析することで最適な栽培方法を提案し、農業従事者を支援するサービス。

大橋

そのような経緯があったんですね。
確かに、これまでテクノロジーがあまり導入されていなかった業界だからこそ、いろいろな可能性がありそうですね。

須田

スマート漁業(養殖)の取り組みも、漁業においてAIやデジタル化が進んでいないという課題感のもと、北海道大学から共同研究の要請を受けてプロジェクトが始まりました。
要因を探ると、デバイスへの防水や塩害の問題など、海ならではの障壁がありました。
だからこそ、AIやIoTに強い私たちが参画する意義を感じました。

大橋

なるほど。
スマート農業・スマート漁業(養殖)のどちらも、ソフトバンクが元々持っている強みや財産を生かしたプロジェクトが始まったんですね。

チョウザメ養殖のための産学官連携

テクノロジー活用によって、養殖方法が難しいとされるチョウザメの、より高品質な養殖方法を確立することを目的として、北海道大学、北海道・美深町、ソフトバンクが2023年に締結した産学官連携協定。キャビアを生産する美深町、チョウザメのバイオロジー研究を推進する北海道大学と最新技術を保有するソフトバンクの三者で、水産分野における新たなテクノロジーの確立を目指す。

スマート真鯛養殖

愛媛県からの要請を受け、真鯛などの養殖を手がける赤坂水産有限会社、フードテック活用やDXを推進するEFI(えひめ フード イノベーション )コンソーシアム、ソフトバンクが進めるスマート養殖プロジェクト。コスト削減など生産効率の向上や、⽔揚げのギャップ軽減による経営リスク改善を実現するため、愛媛県西予市に設置した共同実験用の生け簀でAIを活用した実証実験を行う。

大橋

それぞれ、深掘りしていきたいのですが、まずe-kakashiの最大の強みはどこにあるのでしょうか?

戸上

作物や現場のデータの “見える化” だけではなく、植物科学を活用してデータを分析することで、「ちょっと先の未来」が予測可能になります。
この強みによって、農家さんの栽培や収穫の判断をアシストできます。
特に「収穫適期」と呼ばれる、最も売り物に適したタイミングが分かることで、人員などの効率的なリソース配備にも役立ちます。

これらのデータの活用によって作物の増収、品質の向上、若手の育成など、実績を伴った成果を出しています。
例えば、露地の馬鈴薯(ばれいしょ)で収穫量が最大1.6倍になったり、施設のイチゴ栽培で一反あたりの収穫量が平均80万円向上したり、北海道の個人農家で初年度から100万円以上の増収を達成したりしているんですよ。

e-kakashiのテクノロジーにより「ちょっと先の未来」を予測

(e-kakashiのテクノロジーにより「ちょっと先の未来」を予測 ※画像はイメージです)

大橋

ソフトバンクが、スマート農業を支える屋台骨になろうとしているんですね。

一方、スマート漁業(養殖)のプロジェクトは実証実験中の段階ということですが、現時点での手応えやご苦労されている点を教えていただけますか?

須田

私たちが研究開発した、魚を検出するAIによって、撮影画像から魚の尾数カウントができるようになりました。
漁獲高の予測の確度を高めるためには、生け簀の中に何匹の魚がいるのかを把握することが重要になりますが、従来は生け簀から網で魚を引き上げ、人間が目視で確認していました。
今回の技術によって、生産効率の改善がされるほか、餌の量の最適化を図れることで、コストの7割を占めると言われる餌代のコストダウンもかないます。

チョウザメのデータトラッキングの様子

(チョウザメのデータトラッキングの様子)

須田

苦労している点は、魚の育成期間が1年〜数年と長く、データ収集に時間がかかることです。
また、漁具開発やデバイス開発など、自然を相手に新たなトライを行っているため、予測不能な事象が度々発生して、予定通りに進まないことが多々あります。

大橋

魚という生き物を扱うため、スマート化のハードルが高いんですね。
でもだからこそ、サービス化されたときの業界へ与えるポジティブな影響も大きいと期待しています。

食を変えることは、社会の未来を変えること

大橋

農業や漁業のスマート化には、多くの意義があることを理解しました。
一方で、一次産業は、従事者によって培われた勘や経験が重視されてきた業界とも思います。
AIなどのテクノロジーが参入することに対し、抵抗を訴える声はなかったのでしょうか?

戸上

農業研究者や指導者層においては、データを活用することに対する抵抗感はなく、むしろ歓迎されていると感じました。栽培現場においては、まさにデータ活用が始まったばかりであるため、市場を育てつつ、サービスの普及を図っているところです。

私たちのツールで解析すると、スキルを持つベテラン農家さんほど、植物科学に裏打ちされた農業をされているのが分かります。
その分析結果をお伝えすると、ご自身が長年やってきたことに自信を持たれて、科学をより意識的に使うモチベーションを感じてくださる方もいます。

大橋

「農業従事者の勘や経験が、植物科学に裏打ちされている」という視点はとても興味深いです。
長年、農業などの従事者の方々というのは勘の世界だと思っていました。
ただ、その長年の経験に裏打ちされた勘というのは科学であるということがとても学びになりました。

須田

漁業では、特に養殖に従事している若手生産者から「生産効率の改善」や「生産量の拡大」に対する課題を聞きます。
それらをテクノロジーの力で解決すること自体は前向きに受け止められていると思います。

ただ、本質的な課題解決を実現するためには、水産業界における生産領域だけではなく、流通、加工など、幅広い工程についての知見が求められると感じており、さまざまな専門企業と連携して進める必要もあります。
積極的にイベントなどで、スマート漁業(養殖)の活動をPRすることで、ビジョンに共感してくれる仲間を増やすことが重要ですね。

ソフトバンクの実験生簀を開設して、自ら実践

(ソフトバンクの実験生簀を開設して、自ら実践)

大橋

なるほど。
漁業についても、農業同様にデータで “見える化” することで、さまざまなプレーヤーをつなぐ共通言語ができて、一次産業のためにみんなで協力し合える未来像を感じます。
最後に、今後のプロジェクトの展望を教えていただけますか?

戸上

e-kakashiのデータ活用によって、増収、品質向上など実績が出せているため、さらに啓もう活動を続け、e-kakashiを広く普及させることで農業界における課題解決に寄与していきたいと考えています。

また、それらに加えて「教育」にも注力していきたいです。
先日も福岡県久山町の小学校で出前授業をしてきたのですが、小さな子どもの頃から「農業って実は科学なんだよ」ということを伝え、興味を持つきっかけをつくれれば良いと思っています。

大橋

私も学校で田植えの授業を受けたことがありますが、「農家の皆さんのお仕事って大変だったのか」「だから感謝して食べよう」というところで終わっていたことを思い出しました。
もちろんそれ自体は良いことだと思いますが、科学のところまで教育で周知していくことの重要性も感じました。

漁業のほうは、いかがでしょうか。

須田

第一に、スマート漁業(養殖)で、効率良く品質の高い魚を生産すること。
第二に、生産した魚の鮮度を落とさず流通させる仕組みを作ること。
第三に、日本で生産したジャパンクオリティの海産物を世界に幅広く提供し、日本の成長に貢献したいと思っています。

大橋

ニューヨークでも、ジャパンクオリティの魚や農作物が手に入るようになったらうれしいですね!
おいしいうえに、それがサステナブルな方法で生産されたものであるなら最高です。本日はワクワクするお話をありがとうございました。